雨の日にだけ、思い出す人がいる。
言えなかった言葉と、忘れられない一言の話。
雨だ…
予報通りだ。
よりによって、本降り。
それも、予報通り。
夜勤を終えた僕は、
折り畳み傘を差して、駅前通りを歩く。
昨日の出勤前に、
スマホで天気をチェックした。
気が滅入る。
降りませんように…
……
…………
神様はあまのじゃくだ。
朝から景気よく、ザーザーと。
家路に向かう僕を尻目に、
駅へ向かう、傘、傘、傘…
「仕事なのに」
「外回りなのに」
「久しぶりの休みなのに…」
色とりどりの傘の花に書いてある。
僕だけが、一日を終えた顔で歩いている。
だけど、
その疲れを下ろす場所は、まだ開いていない。
目が霞む…
商店街。
まだ朝だけど、僕にとっては一日の終わりだ。
なのに、時間になっても、
ほとんどのシャッターは開かない。
小学校の時から、ここを通っていた。
日に日に、シャッターの数が増えた。
開いているのは、コンビニと、
処方箋の薬局だけだ。
思い出が、一つ二つと塗りつぶされていく…
あの店が見えた。
思い出す…あの日。

15歳の夏。
学校帰りの夕立。
シャッターの降りた商店街で雨宿り。
偶然、あの子と一緒になった。
好きだった…
「どうしたら…」と、いつも考えてた。
だけど…
いざとなると、何も言えず、
ぎこちなさの雨に煙る、ポニーテールの横顔を、
見つめるだけだった。
カバンのマスコットが、
泣いたように濡れている。
雨音がどんどん強くなる…
「いつ止むのかな…」
あの子が先に口を開いた。
うつむくポニーテール。
マスコットが、ウインクをした…ように見えた。
偶然を信じた。
「好きです…」
雷が落ちた。
かき消されてしまった…
言葉も、偶然も。
一度しか言えなかった。
もしも、魔法が使えたら…
空を飛べなくても、
幸せな結末じゃなくてもいい。
もう一度、気持ちを伝えたい。
それは、魔法ではないかもしれないけど…
後悔したくなかった。
そうすれば、この雨を
恨むことはなかったのかな…
………
もう、いいだろう…
雨の匂いが変わった。
冷たい風が不器用に頬を撫でる。
空が暗くなり、
ぽつ、ぽつと、水滴が落ちる。
「雨か?」
その瞬間、滝のように…
「おいおい、傘持ってないよ!」
慌てて、近くの商店街へ。
一番近いお店に駆け込む。
しばらく、雨宿りだ…
忘れずに持ってきたハンカチで、髪を拭く。
……?
シャッターが閉まってる。
この店って…
洋品店。
昔、何度か母親と一緒に来たことがある。
「閉店のお知らせ」の張り紙。
………
この間も、おじいさんが一人でやってた
電器屋が閉店になった。
背中がひんやりとした。
その時、
ザーッという雨音の中から、パタッ、パタッ、
「ハア、ハア…」
あの子だ…
心臓がバクバクしている。
小学校の時から、
好きだったあの子…
目があった。
ハッとした表情にも見えた。
あの子は、僕の隣にいる。
何か言いたかったけど、
代わりにくしゃみが出た。
「大丈夫?」
あの子が先に声をかける。
僕は、
鼻を押さえたままうなずいた。
かっこつかないなあ…
雨音が響く。
あの子は、僕の隣にいる。
何とかしたい…
だけど、いざとなると、
どうすればいいのか分からない…
あの子もハンカチで髪を拭き始めた。
水滴を垂らしたポニーテールの下に、
カバンのマスコットが見えた。
雨音がどんどん強くなる…
僕のバクバクも強くなる。
「いつ止むのかな…」
また、あの子が先に口を開く。
今だ…
心の中で深呼吸…
「あ、あのさ…」
バリ、バリッ!
近くで雷が落ちた。
「キャッ!」
あの子が頭を抱えた。
こんな時に変だけど、
僕は、ちょっと嬉しくなった。
深呼吸…
「そのマスコット、うさぎ?」
「えっ?」

「早く帰らないと、うさぎも風邪ひいちゃうね」
「フフッ」
あの子が笑った。
「サトシ君って、面白いね」
笑ってくれた…僕の言葉に。
空が少しだけ明るくなった。
マスコットが、ウインクをした…ように見えた。
………
「何だったんだ?…今の」
夢を見ていたような…変な感じ。
結局、
好きだとは言えなかった…
「面白いね…か」
さあ、行こう…
「ママー、どうしたの?」
「うん…ちょっとね」
「ここが…
ママがいってた、おもいでのばしょ?」
僕は足を止めた。
「マイちゃん、シーッ」
「あっ、ごめんなさい…」
振り返ると、
あの店の前で親子連れが話していた。
あれは…?
女の子の小さなポシェットに、
うさぎのマスコット。
少し、くすんでいるように見える。
「昔ね、ここで雨宿りしたの」
「うさぎさんの?」
「そう。この子を見て、
風邪ひいちゃうねって言った男の子がいたの」
「それって、ママのはつこい?」
「……」
「ママ…?」
「ううん、忘れられない思い出」
「………」

「マイもそんな思い出ができるといいわね」
「うん!」
雨は小降りになっていた。
僕は傘を畳んだ。
パーカーに雨が染み込んでゆく。
なぜか、心地よかった。
しょっぱい…
雨の味ではなかった。
たぶん、
雨の魔法だった。
目が霞む…その先に、
見慣れたアパートの屋根が見えた。
僕も誰かに、
思い出を話す日が来るのだろうか?
( `・ω・´)ノ ヨンデクレテアリガトウ🍀

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