問題提起で終わらせないために——博物館を外側から支える仕事を作りたい
昨日、学芸員の採用難についての記事を2本書きました。
ひとつは、地方学芸員の採用難について。
もうひとつは、学芸員になりたい人が、学芸員になることをためらっている、という話について。
どちらも、たくさん読んでいただいて、反応もいただきました。
とてもありがたい限りです。ありがとうありがとう。
同時に、書きながらずっと思っていたことがあります。
問題提起だけで終わらせちゃあかんな、と。
「人が来ない」
「なりたい人がためらっている」
それはそう。
じゃあ、その先どうすんの?ってとこです。
先の記事でも書きましたが、私ひとりで制度を変えられるわけがない。
でも、何もできないってひっくり返ってるのも嫌。
なんかできることあるでしょ。
っていう話を締めに置いときたいと思います。
制度を変える話と、仕事を作る話
学芸員の待遇や採用設計を変えるには、制度の話が避けられません。
任用、給与表、正規採用枠、指定管理、非正規雇用、研究時間、知識継承。ここは本当に大事な部分です。
というか、ここを避けて「やりがいがありますよね」だけで済ませるのは、もう無理だと思ってます。
ただね、私が今日いきなり自治体の給与表を変えられるわけではないんですよ。
私じゃなくたって無理ですよ。
長年行政で働いてたのでそのあたりは多少知ってるつもりです。
じゃー、なにができるか。
正規採用枠を増やしてください、と言うことはできます。
自治体の長に歎願したり、草の根運動したり。そういうことはできます。
言うことは大事。
でも、それだけで明日から現場が変わるわけじゃない。
うーん。じゃああとは?
制度を変える話と並行して、仕事を作る話が必要なんじゃないかなって思うんです。
博物館や美術館、資料館の中だけでは抱えきれない仕事。
でも、誰かが担わないと、文化と人との接点が細っていく仕事。
そこを、外側から支える仕組みにしたい。
あと、入口の情報設計もけっこう大きいと思っています。
入口って、仕事の入り口じゃなくて「就職」という意味での入り口ね。
学芸員や文化財担当職員の募集って、一般的な民間就活のスケジュールとずれて出てくることが多いんですよ。
それ専用の掲示板とかサイトをこまめにチェックしてればある程度は網羅できるんですが、それだって網羅しきれてない。
あとは口コミや人づて。
学生側から見ると、周りが内定を取り始めたあとに、ようやく自治体や館の募集が見えてくる。
そこで初めて「応募したい」と思っても、もう一般企業の選考は進んでいる。
修士に行くのか、就職するのか、非正規でも現場に入るのか。
その判断をするには、情報が見える時期が遅い。
もちろん自治体側にも、年度や予算や人事の都合、いろんな事情があることは知ってます。
でも、学生の進路選択の時間軸と、自治体の募集の時間軸がずれていることは、もっと共有されてもいいんじゃないでしょうか。
募集を出す側は「来てほしい」と思っている。
学生側にも「行きたい」気持ちはある。
なのに、情報が見えるタイミングがずれていて、互いに出会いそこねている。
それもまた、設計の問題だと思います。
学生じゃなくてうちの自治体は経験者を募集してるから。という話もありますが…。
経験者で転職したい人って、大体非正規ですよね(それくらい正規職員のほうが待遇的に恵まれてるというのはあるので)。
だと、3月末4月はじまりなんですよ。
たとえば5月に募集をかけて、7月から働いてください!という場合…
採用されたとして、4月に再契約した職場を3ヶ月で退職することになるんですが、それってかなりハードル高くありませんか?
そこらの事もちょいと考えてほしいなと思います。
学芸員募集の掲示板数々…(これらを見ずに学芸員にはなれないという噂も…)
「手伝い」ではなく、仕事として切り出す
文化施設の周辺には、まだ名前がついていない仕事がたくさんあります。
展示の前後にある調査。
地域の人への聞き書き。
小さな資料の整理。
イベントの記録。
WebサイトやNotion、デジタルアーカイブの設計。
来館者に届く言葉へ翻訳すること。
ミュージアムまで行けない人に、別の入口を作ること。
もちろん、こういう仕事がまったく存在しないわけではありません。
たとえば、博物館の収蔵品管理システムやデジタルアーカイブを長く支えてきた専門会社があります。
ああいう会社は、ちゃんと専門性を仕事にしている。
すごく大事な存在です。
そこを否定したいわけではまったくありませんが、そこに入れる人は限られます。(小規模ゆえに、縁故採用のみだったりね)
博物館の外側にある専門的な仕事は、すでにある。
けれど、それが一部の専門会社や、限られた経験を持つ人の中に閉じていて、学芸員資格を持つ人や、文化の仕事をしたい人にとって、広く見える入口にはなっていない。
ここに、まだ余地があるんじゃないかなって思ってます。
こういう仕事って、すぐに「お手伝い」や「ボランティア」や「勉強になる経験」に寄せられがちじゃないですか。
出たよ、やりがい搾取。ってなりがちなんです。
もちろん、学びの場は大事です。学芸員になりたいわけじゃないけれど、学芸員のお仕事を知りたいとか、ミュージアムの裏側を知りたいとか。そういう人に向けた学びの場はもっと増やしたいと考えています。
でも、そこで学ぶ人をインターンとして無償で使う仕組みを作ると、また誰かの善意と持ち出しに寄りかかることになる。
好きなんだからやってくれるでしょ。
文化が好きなんだから、多少無理してもやれるでしょ。
……いや、それ、前の記事で書いた問題と同じじゃないですか。
だから私は、できるだけ仕事として切り出したい。
小さくても、対価をつける。
必要なら、スポンサーを探す。スポンサー、大募集してます。
自治体や文化施設には、「ここには専門性が必要です」と説明する。
文化の仕事をしたい人には、「博物館の中だけではなく、こういう関わり方もあります」と示す。
そのあいだをつなぐ役割を作りたいんです。
私は、点と点を繋いで線を作り、その線の上を自在に動く点Pになりたい。
動く点P。みんなが知ってるアレ。アレになりたいんです。
学芸員的な専門性は、館の外でも必要になる
外側から支える仕事、と言うと、単なる広報やイベント運営の話に見えるかもしれません。
それもあるけど、それだけじゃない。
地域の資料をどう扱うか。
何を見せ、何を見せないか。
どこまで物語化してよくて、どこからは資料への敬意を損なうのか。
「わかりやすくする」ことと、「雑に消費する」ことの線引きをどこに置くのか。
ここには、学芸員的な判断が必要です。
学芸員資格を持っている人。
博物館実習を経験した人。
文化財や地域資料を扱う訓練を受けた人。
館には就職しなかったとしても、その視点が活きる場所は必ずあります。
むしろ、これからは館の外側にこそ必要になる場面が増えるんじゃないかと思っています。
デジタルアーカイブ、地域プロジェクト、展示制作、教育普及、記事執筆、ゲーム、動画、音声、ワークショップ。リサーチその他もろもろ。
文化に触れる入口が増えるほど、「どう扱うか」の判断が必要になります。
その判断を、専門性のある人と一緒にできる仕組みがほしい。
sirotabiは、実験場でもある
昨日の記事で、sirotabiのことにも少し触れました。
ここで同じ説明を繰り返しても面白くないので、今日は別の角度から。
私にとって、というか。Culture+Commonsにとってsirotabiは、「博物館を外側から支える仕事」を試すための実験場でもあります。
ゲームを作る、というだけなら、ゲーム制作の話です。
でも、そこに実在のミュージアムや地域文化が関わるなら、話は変わります。
収蔵品や資料をどう扱うか。
どんな言葉で紹介するか。
館の人にどこまで確認してもらうか。
現地に行った人と、行けない人の体験をどう分けるか。
文化財を「遊び」に開くとき、どこに敬意と責任の線を引くか。
ここ、かなり大事なんですよ。
おもしろければ何をしてもいいわけじゃない。
真面目に扱うなら遊びにしてはいけない、っていうわけでもない。
その間にある判断を、ちゃんとやりたいんです。
sirotabiはゲームであると同時に、学芸員的な専門性を外側の仕事に翻訳する試作でもあります。
ここで必要になる仕事を、ひとつずつ分解していきたいんです。
調査する人。
文章を書く人。
館との確認をする人。
記録を整理する人。
デジタル体験に落とし込む人。
そういう役割を見える形にして、「これは仕事です」と言えるようにしたい。
……と言いつつ、正直なところ、まだWEBアプリもリリースしていない構想段階なので、今すぐ安定したお給料を払える段階じゃありません…。
エンジニア募集!とか、ライター募集!とか。そういうザ・求人です! みたいな顔はできない。申し訳ないけれど。
できないんだけど…。
もし、アプリ開発に興味があって、学芸員資格も持っていて(持ってなくてもいいです、ある程度担保された専門性があるなら)、文化施設や地域資料の扱いにも関心がある、という人がいたら。
ちょっと相談に乗ってほしい。
ゲームとして何を作るかだけではなく、資料や文化をどう扱うか。
館の外側から、どんな仕事を切り出せるのか。
どうすれば将来的に、それをちゃんと対価のある仕事にできるのか。
そういう話を、一緒に考えられる人がいたらありがたい。
まだ仕事として出せる段階ではないけれど、近いうちにちゃんと仕事にしていきたい。
その途中にいる、ということは正直に書いておきます。
sirotabiってなんやなんや、って思ってる人も…。ちゃんと守秘義務契約結んでくれるなら…ご相談したい。ご連絡お待ちしております。
Culture+Commonsを、受け皿にしていく
私はCulture+Commonsを、Culture周辺にある問題を指摘するだけの場所にしたくない。
できれば、博物館や地域文化を外側から支えるための受け皿にしていきたい。
文化施設の人が、「ここを誰かに相談したい」と言える場所。
資格や経験を持つ人が、「こういう関わり方ならできるかもしれない」と思える場所。
地域の人が、「うちの資料や記憶をどう残せばいいんだろう」と話せる場所。
そういう小さな接点を、少しずつ作っていきたい。
特に、就職氷河期世代の方々。私も就職氷河期世代の人間です。だから、置いていきたくないし、置いて行かれたくない。
あの時代に、資格を取った。
勉強もした。
現場に入りたかった。
でも、採用の入口がなかった。
非正規で経験を積んでも、次の正規採用では十分に評価されなかった。
別の仕事に就くしかなかった。
それを、単に「タイミングが悪かった」とか「時代のせい」で片づけたくないんです。
もちろん、過去をそのままやり直すことはできません。
でも、その人たちが持っている知識や関心や現場感を、もう一度どこかで活かせる入口は作れるかもしれない。
ミュージアムの中に戻る道だけではなく、外側から支える道として。
そういう受け皿を、少しでも作りたい。
もちろん、まだ全部できているわけではありません。むしろ、これからです。
でも、だからこそ言葉にしておきたい。
私は、ミュージアムの外側に、文化の仕事を作りたい。
学芸員になれなかった人、司書になれなかった人の経験を、終わった話にしたくない。(司書についてはまた別の記事で書きますね。アレはアレで問題が深すぎる…)
学芸員になりたい人が、館に入るか別業種へ行くかの二択だけで悩まなくていいようにしたい。
文化施設の中にいる人が、全部を抱え込まなくていいようにしたい。
そして、ミュージアムまで行けない人にも、文化に触れる入口を作りたい。
これは、すぐに大きくできる話ではありません。
でも、小さく始めることはできる。
調査を仕事にする。
記録を仕事にする。
文章を書く。
デジタルで整える。
ゲームで入口を作る。
文化施設と、専門性を持つ人と、地域の人をつなぐ。
そこから始めていきます。
できるところから、形にする
「人が来ない」
「なりたい人がためらっている」
その手前には、設計されていない仕事や、見えない負担や、使われないまま残っている専門性があります。
だったら、それを少しずつ見える形にしていきたい。
きちんと観測して、言葉にして、伝えていきたい。
問題提起で終わらせないために。できるところから、形にしていきます。
Culture+Commonsでは、文化施設や地域文化を外側から支える仕組みづくりを進めています。
学芸員資格を持っているけれど活かし方に迷っている方、文化施設や地域資料の発信・整理・デジタル活用について相談したい方は、公式LINEからご連絡ください。
このテーマの裏側にある調査メモや、sirotabiを含むCulture+Commonsの実験記録は、noteメンバーシップでも共有していく予定です。
