ガムでは届かない“歯周病”の話|歯の構造から考える|(第3回)デンタルケア
「歯のつくり」から分かる、“歯みがきが重要”な理由
「歯みがきが大事なのは分かってる。でも、ガムもあげてるし、そこまで神経質にならなくても…」
そう思っている飼い主さんにこそ、今回の内容は一度しっかり読んでほしいところです。
犬猫の歯の構造と、そこから見えてくる**“本当に守るべき場所”**の話をしていきます。
歯は「硬いから大丈夫」ではない
まずはざっくり歯の構造から。

一番外側:エナメル質(硬い鎧)
その内側:象牙質(ぞうげしつ)(少し柔らかく、刺激を感じやすい層)
真ん中:歯髄(しずい)(神経と血管が通う“生きている部分”)
この中で、外側のエナメル質が歯を守る鎧の役割をしています。
ただし、ここが重要ポイントで、
犬や猫のエナメル質は、人より薄い
と言われています。
見た目は立派で強そうでも、
一度ダメージが入ると中の象牙質(ぞうげしつ)や歯髄(しずい)に届きやすい構造なんです。
ハサミで切れないような硬いガムなどはエナメル質を傷つけたり、歯が割れたりする可能性があるためNGとされています。
本当の弱点は「歯」そのものではなく、“歯の根元まわり”
実は、歯そのもの以上に守らないといけないのが、
歯と歯ぐきの境目
歯を支えている周りの組織
です。
この歯と歯ぐきの境目には
「歯周ポケット」と呼ばれる細い溝があります。
大事なのは、この「歯周ポケット」
ここに
食べかす
よだれ
細菌
が混ざった**やわらかい汚れ=歯垢(プラーク)**が、ベッタリ溜まりやすいんです。
しかもワンちゃん、ネコちゃんの場合、
歯垢はあっという間に歯石に変わる(2〜3日)
というのが厄介なところ。
歯垢:やわらかい汚れ → 歯ブラシで落とせる
歯石:カチカチの石のような汚れ → 歯ブラシでは落とせない(病院で除去)
「歯垢が歯石になる前に落とす」
そのために必要なのが歯みがきです。
そしてもう一つ大事な事実。
歯周ポケットには、「ガムでは届かない」
よく聞く言葉がこれです。
「うちは歯みがきガムあげてるから、歯みがきはできてるはず」
残念ながら、それは**“半分当たりで半分ハズレ”**です。
ガムやデンタルトイで主にこすれているのは
歯の“出ている部分”の
食べ物が当たりやすい“表面”
です。
一方で、本当に守りたいのは、
歯と歯ぐきの境目
歯周ポケットの中
奥歯の外側の、見えにくい側面
などの、**「狙ってこすらないと届かない細かい部分」**です。
ここは、
細い歯ブラシの毛先を
角度をつけて、ピンポイントで入れてこする
この動きが必要になります。
つまり、
歯周ポケットのケアは、ガムでは難しい。歯ブラシの仕事です。
ガムやおやつはあくまで補助。
主役はどうしても歯ブラシから動きません。
放置するとどうなる?重度の歯周病のリアル

「ちょっと歯ぐきが赤いけど、まあ様子見で…」
この“様子見”が長く続いた結果、
かなり重い歯周病になってから病院に来るケースも少なくありません。
重度の歯周病になると、こんなことが起こることがあります。
歯を支えている骨が溶けていく
歯の根元に膿がたまり、
頬に穴が空いて膿が外に出てくる上の奥歯では、骨が溶けて
鼻の空間(鼻腔)と口の中がつながってしまうくしゃみ
鼻から膿や血が出る
食べ物や水が鼻に抜けるような症状
下あごの骨がもろくなり、
ちょっとした力で下顎骨折を起こす
どれも、想像したくないレベルですよね。
でも現場では、**「そこまで放っておいてしまった歯周病」**と実際に向き合うことがあります。
重度の歯周病の治療は、“身体にも心にも”負担が大きい
重度の歯周病になってしまった場合、
治療はどうしても大がかりになります。
全身麻酔が必要
悪くなった歯は抜歯が必要になることが多い
抜いた後の歯ぐきを縫い合わせる
抜く歯が多いと、麻酔時間も長くなる
術後は、当然痛みや違和感もある
(痛み止めは使いますが、ゼロにはできません)
飼い主さんにとっても、
高齢での麻酔の不安
術後のケアの不安
「もっと早くケアしておけば…」という後悔
いろんな負担がのしかかります。
ただし、ここも大事な点です。
だからと言って、重度の歯周病を放置していいわけではありません。
歯周病が進行すると、
痛みでご飯が食べられない
体重が落ちる
細菌や炎症が血流に乗り、
全身の病気(心臓・腎臓など)のリスクになると考えられています
「手術はかわいそうだから…」と先延ばしにすることが
結果的に、もっとつらい状態を長引かせてしまうこともあります。
だからこそ、
そもそも重度になる前に止めるのが一番いい。
その鍵を握っているのが、毎日の歯みがきです。
「歯石になってから」じゃ遅い理由
ここまでを整理すると、こうなります。
歯周病のスタート地点は、歯周ポケットにたまる歯垢
歯垢は、放置すると2〜3日という短期間で歯石に変わる
歯石は歯ブラシでは取れない
病院でのスケーリング(専用の器具で除去)が必要
歯石の下では、静かに炎症と骨の破壊が進んでいく
つまり、
「歯石がついてきたら取ればいいや」
ではなく
「歯石になる前の歯垢を、毎日歯ブラシで落としておく」
ここが決定的に大事です。
歯垢の段階なら、
家庭のケア(歯ブラシ)で十分に戦える相手です。
歯ブラシの役割を、もう一度はっきりさせると…
歯の表面だけでなく、
歯ぐきのきわや歯周ポケット入口の歯垢を落とすガムやおもちゃでは届かない、
「狙ってこすらないとダメな場所」を掃除できる結果として、
歯周病が「重症化する前」で止まりやすくなる将来の
抜歯
大がかりな処置
高齢期の麻酔
こういったリスクを減らすための投資
これが、歯ブラシの本当の役割です。
今日の1〜2分が、“シニア期の健康”を左右する
重度の歯周病になってからの治療は、
ワンちゃん・ネコちゃんの身体への負担
飼い主さんの精神的・経済的負担
どちらも決して軽くありません。
一方で、
若い頃からの習慣づけ
歯垢のうちに落とす、こまめな歯ブラシ
歯周ポケットを意識したケア
これらの積み重ねは、
「シニア期のごはんの楽しさ」と「全身の健康」を守る力になります。
無理しすぎず、歯みがきの時間もコミュニケーションの一環として素敵な時間になったらいいなと思います。
1.この記事の要点
• 歯周ポケットまでケアするには、ガムより歯ブラシが重要。
2.今日やること(1つだけ)
上唇をめくって歯茎に1秒タッチ(口周りを嫌がらず触らせてくれる子)
3.質問(番号で答えてください)
いま一番困ってるのはどれ?
①口周りを触られるのが苦手
②歯ブラシを見ただけで逃げる
③やらせてくれるけど続かない
※「うちの子に合うやり方」を一緒に考えるので、番号をコメントで教えてください。
