【エピローグ】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025
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エピローグ|桜咲く丘の上で

風がやわらかく、空がやけに高く見るある日。
「ママ、あれ見て! 桜のトンネル!」
ハルトが先を走っては振り返るうしろを、ミオが必死に追いかけてる。私はそのあとを、のんびり歩きながらついてゆく。
「あわてなくても、桜は逃げないよ〜」
ーー昨年は、お花見には来られなかった。
熱にうなされながら、「来年こそ」と約束したあの日。体調が回復してすぐに、お花見できる花はないか調べた。すると、こちらにも日本の桜によく似た「光花」という花があるというではないか。
今がちょうど見頃なのだと教えてもらい、お弁当片手に穴場スポットにやってきた、というわけだ。
「ママー、お弁当もう食べていい?」
「まだレジャーシート敷いてないよ!」
2人がわちゃわちゃと騒ぎながら、桜の下に集まる。ピンク色の花びらが、ふわりと舞い落ちた。
「すごくきれい!」
ハルトは興奮して走り回る。ミオも小さな手を伸ばして、風に舞う花びらを追いかけようとする。
「シートを敷くのはここが良さそうだね。木陰もあるし、風も穏やかで気持ちがいい」
光花の木の下に、協力してシートを広げる。
「お弁当、楽しみだなぁ!」
今朝、ハルトとミオと一緒に作ったお弁当。おにぎりに卵焼き、唐揚げ、そしてサラダ。
「ハルトとミオが手伝ってくれたから、とってもおいしくできたよ〜!」
「ぼく、おにぎり握ったもん!」
「ミオもまぜまぜしたよ」
2人の誇らしげな顔に、思わず笑みがこぼれる。
***
お弁当を食べ終えてのんびりしていると、ハルトが花びらで作った首飾りを持って駆け寄ってきた。ミオの頭に、小さな花の冠がちょこんと乗る。
「ハルトは本当に器用になったね」
「学校で習ったんだ! 今度の授業でママが来るんでしょ?」
「うん。『言葉の魔法』っていう特別授業をしに行くから、よろしくね」
最近始めた「親子で学ぶ言葉の教室」は想像以上の反響を呼んでいた。その噂を聞きつけた街の学校から声がかかり、時々直接授業を担当することになったのだ。
子どもたちに言葉の楽しさを伝える時間は、私自身も心から楽しみにしている。
「ママ先生だね」
ミオもノリノリだ。
「そうだね、実はママは先生でもあるのだ」
そう答えながら、不思議な感慨に浸る。
異世界に来て一年と少し。まさかこんな風に、充実した日々を送れるなんて、当初は想像もしなかった。
「ママ、ここって日本とどっちがいい?」
ミオの突然の質問に、一瞬言葉に詰まる。
「うーん、難しい質問ね」
でも、正直に伝えたい。
「どっちも好きよ。日本には大切な思い出があるし、セーヴェリオには今の生活がある。でも、ママにとって一番大事なのは『場所』じゃないのかもなって最近思う」
「どういうこと?」
「大事なのは、『人』なのかなって。ハルトとミオ、そしてレオニスやドラグノス卿、ギルドのみんながいる場所が、とても大切だなって思うんだ」
ハルトは嬉しそうに笑った。
ミオも、大きな声で答えてくれた。
「ミオも、みんながいれば大丈夫!」
その無垢な言葉に、思わず笑みがこぼれた。
ここにあとは、夫がいてくれたらどんなに心強いか……。不意に、気持ちが重くなる。今頃いったいどんなふうに過ごしているのだろう。少しでも、コンタクトが取れたらいいのだけれど……。帰ったらレオニスに相談してみようかな。
ーー日が傾き始め、光桜の花びらが小さく瞬き出す。まるで星のかけらが舞っているかのようだ。
「ぼく、光花のお話を作りたい!」
満開の花の美しさに心打たれたのか、ハルトがそう宣言する。
「聞かせて!」
ハルトは花びらを一枚手に取り、語り始めた。
「むかしむかし、この丘には一本の小さな桜の木がありました。その桜は、とても特別な力を持っていて…」
***
帰り道。
丘の上を振り返ると、光桜が柔らかく夜の訪れを照らしていた。
「ママ、また来ようね!」
「うん、また来よう!」
「明日はなにをしよっかなぁ」
ーー2人との会話を楽しみながら、心の中で思う。
異世界に来て、育児をしながら筆導士になって……確かに大変なこともたくさんある。けれど、こうして家族と過ごす何気ない時間こそが、私の一番の宝物だ。
言葉の力を信じて、子どもたちを愛して、自分らしく生きていく。
それが私の選んだ道であり、これからも歩み続ける道。
家に着き、寝る支度を整えてから子どもたちをベッドに連れて行く。窓から見える二つの月が、優しく私たちを見守っていた。
「おやすみ、ハルト、ミオ」
子どもたちの頭をゆっくりと撫でる。
さあ、今日も今の思いを書き留めておこうかな。誰かの心に届くことを、ささやかに願いながら。
私はさっそく、魔導板を開いた。

ーーガタン!!!
突然、外から大きな物音がした。
「なんの音…?」
恐る恐る窓から外を見ると、夜の闇の中にレオニスの姿があった。なぜか笑顔で手を振っている。
「ちょりーっす!まだ起きてるぅ???
ごめんだけど、ちょっちこっちに来てくんない?」
その声に、子どもたちは目を覚ましたようで寝室から出てきた。慌てて外套を羽織り、3人で外に出る。
……ハルトもミオも、目をランランと輝かせている。
「レオニスにーちゃんだ~!」
「にーちゃん、こんな夜中になにしてるの?」
「かわいいねぇハルトン、ミオミオ。ふっ、まだまだ夜はこれからだよ」
ヘトヘトで帰ってきて、寝かしつけがやっと終わったのに。これで下手な用事だったら絶対に許さない。そうだ、あの髪の毛を抜いてカツラを作ろう。美しい金髪、さぞ高く売れるだろう。
「ふふ……お揃いですねみなさん!
実は俺っち、ずっと考えてたことがあったんだよね~」
「あなたの金髪でカツラを作ったら高く売れるって話?」
「なんすかその話、マジでやめて怖い!!!
あのね、俺っちなりにずっと気にしてたわけ。筆導士の『書く力』を強めているのは『絆』だって説明は前にしたじゃん??? なのに俺っちったら、まさかキミら家族がそんなにオットちゃんのこと大事にしてるなんて思わなくてさ〜〜〜!それに、フツーに魔力も足りなくてこっちの世界にキミと2人の子どもたちしか呼べないしさ~〜〜!いや~まじ俺っちったら無力~~~」
「……どういうこと?」
「いやだから。家族みんなそろってるのが一番いいよなって」
レオニスは横を向き、闇の中に手招きした。
「さあ、どうぞ〜」
闇から現れたのは――
「パパ!?」
ハルトとミオの叫び声が夜空に響いた。間違いなく、夫だった。
「やっと会えた……!」
夫は涙を流しながら、子どもたちに駆け寄った。
「どうして……!」
言葉にならない驚きに、私は立ち尽くす。
レオニスが得意げに言った。
「いやー、やっと溜まったからさ!魔力ッ!
キミら家族の絆が想像以上に強かったし、それならこちらに来てもらったほうがてっとり早いなと!俺っちえらい?ほめてくれてオッケーだよ!」
どこまでも勝手〜!!!
向こうの世界に戻してくれても良かったんだけど、それはまだできない、わからない、言えない、のだろうか……。
夫が私の方を向いた。
「事情はなんとなくそのちゃらい人から聞いた。子どもたちを育てながら、ここで1人で頑張ってたんだね」
返事をするよりも先に、涙があふれた。
そして、4人で抱き合う。
「また会えてよかった……!」
レオニスはその光景を見て、満足げにうなずいていた。
「家族そろって、新しい冒険が始まるってわけっすね!!!よーし、みなさん!どうかみなさんの力でこの世界を救ってくださいねっ。
じゃ!俺っちは成人男性の召喚で疲れたのでとりあえず一旦帰るわ~!詳しくは、明日おしゃべりしよーね!おやすみ子猫ちゃんたち☆」
「えっ」と、振り返ったときには、もうレオニスは闇に消えていた。
「もう!いったいどういうこと!」
私は笑いながら涙を拭った。
――つづく!?
召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

お読みいただきありがとうございました!
ここで今回のお話はおしまいです。
続きは、また機会があれば。
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