【第2章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025
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第2章|初めての仕事は広報記事!?

その日から、私の“ライター兼ママ in 異世界”ワンオペ生活が始まった。
「どうやって生きていこう」と途方に暮れかけていたところ、住居、衣服、食料、当面の生活費も、レオニスから支給してもらえた。勝手に召喚したのだから当然といえば当然、ともいえるけれど。
子ども連れで異世界にいきなり放り出されるのはさすがにハードモードなので、助かった。
こうなってはしかたない。いったんレオニスを1/3くらい許すことにする。
ーー不意に、元の世界に残してき(てしまっ)たと思われる人たち……夫、生徒たち、同僚のみんな、友人たち……の顔が、頭によぎる。
向こうで私たちの扱いが一体どうなっているのか想像もできない。いきなり私だけがすっぽりといなくなっているのだとしたら、とんでもない騒ぎになっていることだろう。
レオニスに聞いても「俺っちの口からはいえねぇんだよね、ごめぴ」の一点張り。
「でもま、心配いらねーって!まずはこっちに慣れることファーストで考えてくれたらいーからさ。俺っちにできることならなんでもするし!
なるはやでセーヴェリオのカリスマ筆導士になって、俺っちたちを救ってくれよな⭐︎」
……勝手に召喚しておいて、毎度よくそんなことが言えたものだ。
でも確かに、あれこれ気を揉んでいる暇はない。私1人ならともかく、子どもたちも一緒なのだ。とにかく目の前のことをどんどんこなしていかなくては!
***
筆導士として初めての仕事は、「町の酒場の新メニュー紹介記事」だった。
800字以内、語尾は敬体、挿絵用のキャッチコピーは目を引くように――現代日本のグルメ記事のイメージでいいのかな。
違うのは、紹介するメニューが「火竜の舌のロースト」なことくらいだろうか。

「……美味しくなさそうなんだけど」
資料として添付されていたイラストを見てつぶやいた私に、レオニスは即座に切り返してくる。
「いやいや〜!これがまーじでうまいのよ!明日にでも俺っちと食べ行く?取材っつーことで、経費で落としとくし!」
……経費で落としてもらえるなら、いいか。
学校の先生にはなかなかない「経費で落とす」という響きがとても甘美に感じられたけど、よく考えたら異世界にはやや不似合いだな。
店に子どもたちを同行する許可をもらい、レオニスと別れた。
帰宅すると、支給された“魔導板”をさっそくテーブルに広げてみることにした。

“魔導板”とは、見た目は羊皮紙、中身はPC。「文筆士にぴったり!魔力で動く、書きに特化したデバイス」だそうだ。
魔導板の使い方を試すついでに、ラフ原稿を作っておくことにする。
“外はカリッと、中はトロッと。火竜の旨味が噛むほどに……。”
お。なんだかいけそうだぞ。
と、集中モードに入って、粗下書きができあがりそう!と思われた、そのとき。
「火竜の舌のローストってなに!!!!」
膝の上に飛び乗ってきたのは、好奇心旺盛なハルトだ。
「ママ!ハルトがおもちゃとった!!!」
ミオもあとを追うようにやってくる。やれやれ。
「ママ、いまお仕事してるからちょっと待ってて。飲み物でも入れようか……」などと言って、目を離したのがいけなかった。
「わぁ、ママ、これなに?」
ミオが言うのと、魔導板の(いわゆる)「バックスペース」が長押しされるのは同時だった。
「あああああああ~~~!!!!!!」
さきほどまでに私が書いた文章は、すべて白紙に戻った。
―—あはれ、ワンオペワーママの日常――
って、異世界でもやること変わらないじゃないかーい!!!
異世界って、悪役令嬢になってイケメンと恋に落ちたり、とんでもスキルでチート無双できたり、するもんじゃないのぉ?
下書きとはいえ、がっくりと、肩を落とさずにはいられなかった。

翌日酒場へ向かう道中、レオニスは言った。
「キミの記事がいい感じに書けたら、このあとの冒険者たちの消費行動、めっちゃ変わることになっから!楽しみにしてて!」
「そんなに影響力があるものなの?」
「そそ〜!君はそもそものスキルも高いから、ちゃんと実績積めばこの世界の“インク・マスター”になれること間違いなっしっし!」
なんだそれ。また知らない単語。
スキルがあるのはありがたいけど、それだけではだめで、コツコツ実績を積まないといけないのかぁ。
「筆導士の仕事って、たとえば他にどんな仕事があるの?」
興味が湧いたので聞いてみると、その内容は思っていたより雑多だった。
グルメ紹介、広告コピー、伝説の記録整理、果ては呪い解除のための“正しい文章校正”まで。まずは文筆ギルドにクライアントからの依頼が集まり、そこから受注するシステムらしい。
でも……ちょっとワクワクしている私も確かにいた。戸惑ってはいたものの、私は気づいていたんだ。
――意外と、嫌いじゃない。
子どもたちが寝静まった夜。静かな室内で、魔導板に文章を綴っていく時間。久しぶりに、「私自身の時間」に没頭している感覚だった。
そしてこのあと、私は知ることになる。この世界では、“言葉”が魔力を持つということを――。
***
「さてさて~!初納品おめでと~~~!」
声をかけてきたのは、レオニスだった。
「さっそくだけど~、店の様子を見に行ってみない?」
金髪に包まれた笑みに、どこかいたずらっぽさが混じっている。
「えっ、もう反応が?」
「ふふふ、この世界の“言葉”ってーのは、キミらがいた世界より、ずっと速く、深く届くんすよ」
彼にうながされ、私はレオニスと並んで石畳を歩いた。夕暮れの街路を抜けて酒場に近づくと、思った以上の喧騒が聞こえてくる。
「……こんなに人が集まるなんて」
扉をそっと開けると、冒険者や商人たちであふれた店内。厨房では火竜の舌のローストが次々と運ばれ、誰もが笑顔で料理を囲んでいた。前回取材のためにレオニスと訪れたときは、もっと閑散としていたのに。
「“一皿で火竜に勝った気分になれる”――おいおい、このコピー書いた筆導士、なかなかやるな!」
「読んでたら食べたくなって、つい来ちまったってやつ、多いんじゃね?」
壁には、見覚えのあるキャッチコピーとともに「筆導士推薦」の印が貼られていた。
まさか、あの文章ひとつで――
「……これが、私の言葉の力?」
レオニスがにっこりと頷く。
「言葉は、人の心を揺らし、街を動かす。……どう?筆導士ってすげーっしょ!」
心臓が高鳴る。
たったひとつの言葉が、こんなにも誰かを笑顔にできるなんて。こんなにも、誰かの背中を押せるなんて。
「レオニス、私、もっと誰かの役に立ちたい。誰かを励ましたり、支えたりできる言葉を――もっと書けるようになりたい!」
それを聞いたレオニスの瞳が、ほんの少しだけ、柔らかくなった。
「ーーその気持ちさえあれば、すぐに一流になれるよ。筆導士ちゃん」
次回:第2.5章|絆が紡ぐ言葉の力——レオニスの真実
お楽しみに!
召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

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