劇場版ヴァサラ戦記 FILM:GOLD 我欲渦巻く賭博都市【劇場版第五弾】

提供:Void様
ロゴデザイン:スレッジ稚内様
チャプター0:プロローグ
「…時は満ちた」
ギラギラと弾けるように輝くミラーボール、時代に不釣り合いなけたたましいスロットの音。
男に降り注ぐ金の雨。
ここは賭博都市ルピナス。『総支配人:ファブナー』と書かれた椅子に足を組んで座るオールバックに豪華な指輪とファーコートの男、ファブナーは、ギラギラと輝く賭場を眺めてつぶやく。
「ヴァサラ軍は先の『時代の入り混じった日』で疲弊している。カムイ軍とも戦争中だ。ここで討つ。島に入ってくるヴァサラ軍はいるか?ココ。」
ココと呼ばれた深紅のドレスに長髪を靡かせ、ファブナーの指輪と揃えた型のペンダントを着けた女性はゆっくりと目を閉じ、祈るようなポーズを取る。
彼女の瞼の一部には微かな火傷痕が痛々しく残っていた。
「ヴァサラ軍はおそらく上陸するのは数日後…ですが、問題は…数年もの間勢力を伸ばしてきた『救済の教会』かと」
「ネルンのところか…兵力を増加させといてよかったな…」
「そうだろう?ヴァルツ」と隣に座る顔に傷のある軍服の男に話しかけた。
「そうだな…あの日、私の軍に来た時は驚いたが、協力に感謝する。」
ファブナー自身あの『時が戻った日』に何もしなかったわけではない。
時代も次元も混ざったあの日、誰にも悟られずヴァルツと交渉し、裏で暗躍していたのだ。
多数の世界を知ったファブナーは、自身が金で雇ったテロリスト達を『冥界』の扉を経由してあらゆる世界に派遣した。
「世界は…俺が思うよりもはるかに広く、多い。充分に手筈は整えたと思ったが、どうやら見誤ったらしい。だが、こういうのがスリルというやつだな…」
テーブルの上に置かれた地球儀を象ったケーキを切り、口に運ぶ。
血の色のようなドロリとしたラズベリーソースが中からあふれ出る。まるで世界が血塗られるかのように。
「カイナ」
「はい。ファブナー様」
折り目正しくスーツを着た銀髪の男、カイナは背後に部下を従え、ファブナーに一礼して前に立つ。
「六賽を集めろ。世界を獲るぞ。」
「ただちに。」
『六賽全員か…かなり大きな任務になりそうだな。』
カイナはファブナーと揃いの装飾品に触れ、大きく深呼吸をすると、部下に指示を飛ばして幹部の元へ歩を進める。
ーー満身創痍のヴァサラ軍に賭博都市の魔の手が迫る。これは、『我欲の帝王』から二つの世界を守り抜く話ーー
〜劇場版ヴァサラ戦記 FILM:GOLD 我欲渦巻く賭博都市〜
チャプター1:ヴァサラ軍出動
「伝令です!」
各隊の隊舎にまるで示し合わせたかのように伝令が何かを告げに来る。
「只今、各地でテロが起こっている模様!方角から察するにファブナーの傭兵と思われます!」
「チッ…計ったようなタイミングだ…」
「ラショウ、ちょっと待って。」
ラショウと呼ばれた金髪の長髪にマスクをした男は、くわえタバコの白衣の女性の声に足を止める。
彼女に案内された先にあるのは数隻の船。
「テロをいくら鎮圧しても大元を叩かなきゃ意味がない…今回は二手に分かれるわ。」
「テロ鎮圧組と賭博都市組か?今のヴァサラ軍に分散できるほどの戦力が残っているとは思えないが…」
「珍しく弱気ね」
「人員そのものの話だ。物理的に手が届く範囲が限られるだろう?」
「心配には及ばんぞ!」
「ぐえっ!」
まるまると太ったダウンジャケットに小さなサングラスをした男が船着き場のビットにもたれかかり、眠っている帽子の男の上に『どこからか』着地する。
「いったぁ〜何…?」
「あら、いい目覚めじゃない。イブキ。」
のしかかられた帽子の男、イブキは痛む腹をさすりながら帽子をかぶり直し船をちらりと見ると、いよいよ賭博都市に乗り込むかと抜けきった表情を真剣なものに変える。
「そんなことより、どこから来た。デブ。侵入者なら…」
ラショウが刀に手を添えると、太った男は両手を前に慌て始める。
「わあ!斬らないで!暴力反対!!ワシは…「テメー!俺のラーメン返せ!!」
「俺のカレーも!!」
「ボクの唐揚げも!!」
太った男の自己紹介を少年とアフロの男と中性的な少女が取り押さえて、リンチのような形で止める。
食堂担当の女性曰く、男はどうやら食堂でこの三人と何かを食べていたらしく、席を立った瞬間に盗み食いをされたことに腹を立て、ここまで追ってきたらしい。
『乗船前に何してんのよ…』
思わず頭を抱えるハズキに、男はどうにか立ち上がり、息切れしながら自己紹介を再開させる。
「はぁ…はぁ…いきなり襲いかかるなんて酷いではないか!!ワシは閻魔王!この間は冥界を助けてくれてありがとう!今回は『とある目的』のため、屈強な助っ人を用意したぞ!ワシはお前らの味方じゃ!」
閻魔王と名乗った太った男は『それなのに…』と三人を睨む。
「あんたが何をしたいかは知らないけど、ありがとう。助かるわ…」
「ふむ、ハズキとやら。実はな、『あまり呼びたくない四人』も今回来ることになってしまってな、お前が調べている『救済の教会』を狙うつもりらしい。」
「そう…それが味方だといいんだけど…」
「本当に味方になってくれそうな男達は、次が決勝戦でな…こればかりは…」
頭を抱える閻魔王に、ハズキは『それは仕方ないわ』と苦笑する。
閻魔王は言い訳をするように、『誰かを呼んだ』旨を話したが、どうにも慌てているらしく、ハズキはあまり期待していないかのようにその話を流した。
冥界
閻魔王からお預けを食らった少年達は、一連の会話を冥界で聞き、不満そうに声を上げる。
「なんだよ、せっかくまた第1世界に行けると思ったのに!!!」
「ブラザー、今回は諦めよう。無傷…いや、怪我が少ないのは俺達は二人だけだし…」
「そうだな…」
「いや、仮に四人が無傷だとしても、前回の劇場版で大活躍してしまった我々が出演することはないだろう。」
「げ、劇場版!?」
「それ言っていいのかよ?」
銀髪の少年と相棒らしき少年は黒い長髪の男に思わずツッコミを入れた。
第1世界、船着き場
「な〜に待たせてくれちゃってんの?ジンちゃ〜ん?」
「パ、パンテラ隊長!?」
パンテラと呼ばれた豹柄の派手な服装をした男は、血まみれの剣をブラブラさせ、今にも閻魔王に飛びかからんとしていた少年、ジンを引きずってボロボロの船に投げ込んだ。
と、同時に咥えタバコの長髪の男が、敵のテロリストらしい男を海に投げ捨てる。
「ボクちゃんたちは手に入れた船で行くから☆先行ってるよ〜☆」
べーっと舌を出し、船を出港させる。
「ホッホッホ…善は急げじゃな…ハズキくん。先遣隊はもうそろそろ着く頃じゃろ?閻魔王とやら、仲間の特徴を教えてくれれば、儂が船で拾おうじゃないか…」
「ヒジリ!?聖神のヒジリではないか!ワシはよ〜く知っているぞ!魔女姫討伐のときは世話になったな!」
腰の曲がった老人、ヒジリは穏やかな笑みを浮かべ、コツコツと一段一段確かめるように船の階段を上がっていく。
「ホッホッホ…何のことかのう。魔女姫?儂は体調が悪くて寝込んでいただけじゃが…」
「行くぞ。ルト。お前も遅れるなよ」
閻魔王と食べ物の事で言い争っていた帽子の少年、ルトは自身が乗り込む予定の船に慌てて乗り込むと、隊長が欠けてしまった隊の隊員を数人船に乗るように促す。
十二神将と呼ばれるように十二人いた隊長達は闇の帝王カムイとの戦により既に半分になってしまったのが今回出す船の数で改めて分かる。
さらに今回は別働隊や別任務の部隊で隊員の数も限られており、ラショウの言う通り『物理的に人が足りない』のだ。
この絶望的な状況。
閻魔王が言った『魔女姫』との戦、疲弊しきった隊員達、各地にヴァサラ軍の助っ人がいるとはいえさすがにジリ貧だろう。
その不安をかき消すようにハズキは自身の乗る医療船に足を乗せ、叫ぶ。
「みんな、よく聞きなさい!別々の船で先遣隊にシンラと…「伝令です!!」
ハズキは頭を抱える。本来行くはずだった隊員はカムイ軍の残党に襲われ、交戦中なのだと。
そして、変わりに行かせた男がとんでもなく曲者であるということに。
「はぁ…気を取り直して…1、3、10番隊は『賭博都市』の中枢に、2、6、11番隊は『救済の教会』に、どちらも国を脅かす大敵よ、いいわね!絶対に生きて帰りなさい!」
「ハズキ、『他の世界』のことはワシに任せろ!」
いまいち頼りないなと思いながら、ハズキは苦笑し、船に乗り込み、出港の合図を出した。
全員が船に乗り込んだはずだったが…
「よーし、今から野菜と魚を各地に運ぶぞ〜」
「ん?」
「まずは…西の方から…」
「んん?」
アフロの男はキョロキョロと周りを見回す。
ヴァサラ軍とは程遠い市民の格好をした者たちが輸入品片手に盛り上がっているのだ。
「の、乗る船間違えた〜!!」
男の絶叫が虚しく甲板にこだまする。
チャプター2:教会サイド
賭博都市外れ、救済の教会周辺地域
冥界の扉から現れた四人の男達は本部を見据え、ニヤリと笑う。
まるで普通の地面にいるかのように佇んでいるその足元に転がるのは、教会の信者らしき服を着た者達。
「自身を神などと呼ぶ、不届きな人間がいたものですねぇ…」
「俺達悪魔にはその呼び名だけで充分不快なんだよ。教会もろとも俺達『四凶』でやっちまおう。」
「饕餮さんのおかげで傷も治りましたしねぇ…」
信者の遺体の上で爪を噛みながら笑う男は、武装した信者を釘のようなもので壁に磔にする。
「ねぇ、こいつ殺しいていい?」
「お前はさっきも暴れただろ檮杌…次は「饕餮さんに食べさせてあげましょう」
無邪気に笑う黄髪の少年、檮杌を制する仮面の男は、鎖で繋がれた猛獣、饕餮の手綱から手を離した。
饕餮は一直線に繋がれた信者の元へ走り出し、生きたままの彼らを意地汚くガブガブと喰らう。
「オイシイ!モット食ベタアイ!!」
ビチャビチャと飛び散る血液に一羽のセアカフウキンチョウが降り、喉が渇いていたのかその血を一滴飲むと、どこかへ飛び去っていく。
「いや〜、相変わらず凄まじい殺し方だなぁ、四凶。」
「おや?貴方は最近冥界に来た…」
「石花、石花祐太朗だ。」
石花と名乗る男は陰気な顔に似合わぬほどの大きな眼鏡と、折り目正しいスーツを靡かせ、四凶の中心に立つ。
「俺は今、賭博都市のスパイとして教会に潜入してる…あんたらもこいつらが気に入らない。俺は任務。利害は一致だろ?」
「待て…石花…お前はネルン様に忠誠を誓ったはずじゃ…」
辛うじて生きていた血だらけの信者が石花の真意を確かめるかのようにその綺麗なスーツに縋り付く。
石花はそれが気に入らなかったのか、ギリッと四凶にも聞こえるほどの歯軋りをし、その信者の頭を思い切り踏みつけた。
「気安く触ってんじゃねえぞこの野郎!テメェらみてえな狂信者とハナから仲良くするつもりなんかねえんだよ!」
信者を事切れるまで何度も蹴りつけると、ズボンについた血をハンカチで拭き取り、何事もなかったかのように四凶と話を再開する。
「クククッ…意外と武闘派だなぁ…お前」
「しかし困りましたねぇ…私達はあなたを連れ帰るよう言われていまして…」
「この仕事が終われば帰ってやるよ。どうするんだ?利害一致だろう?」
「面白いおじさんだね。いいよ、一緒に殺そう」
檮杌の少年らしい無邪気な決断で四凶と石花は一時的に手を組んだ。
『バカ共が…お前らも賭博都市も教会も俺の思うツボなんだよ…』
石花は不敵に笑う。
救済の教会本部
「ネ、ネ、ネ、ネルン様!!」
息を必死で切らしながら信者の男はシスターのような衣装に似合わない戦斧を担いだ女性、ネルンの前に跪く。
ネルンはその純白の服が汚れるのも厭わず信者と同じ目線になるようにしゃがみ、にこりと微笑むと、『知っていますよ』と安心させるような声色で言う。
「石花さんから情報は聞いています。冥界の悪魔『四凶』。混沌、窮奇、檮杌、饕餮…そして…」
信者の前に写真を出すネルンは、仮面の男に混沌、死体の上に乗っていた男に窮奇と名札を貼り付けていく。
そして、檮杌と饕餮の写真を重ね合わせ、その上に色鮮やかなモヒカンの男の写真を置き、蚩尤と書かれた札を置く。
「この二人は融合のようなものをすると聞いています。なかなか手強い…いや、不届き者ですね…『地神五代(ちじんごだい)』を呼んでください。全員です。」
「ち、地神五代ですか!?」
地神五代とはネルンの下につく五人の強き信者の事で、よほどの敵と戦う時のみ動くと言われている。
それを全員集合させるのは今回の戦いが激しくなると暗に言っている事と同じなのだ。
ヴァサラ軍が賭博都市に来るという噂、勢力拡大をいよいよ差し止めに来た賭博都市勢との大戦争が始まるのかと不安になる。
「共に行きましょう。ホタル」
「はい、ネルン様」
「ネルン様、大司祭様…」
信者はネルンの傍らにずっと立っていた大司祭と慕う派手な羽織の中性的な男性にも不安げな表情を見せ、呟く。
「どうかご無事で…」
「他の地神五代は?」
「異教徒を粛清に…」
「そうですか…時期集まりますね…」
チャプター3:地神五代
逃げ惑う異教徒を追う五人の信者達。
派手なピンク髪をツインテールにした女性は二本の鎌を振り回し、まるで畑を耕すように異教徒達の頭を潰していくのだ。
彼女の顔はまるで、正しいことをしているかのように澄んでいる。
「異端者は全て地獄行きだ!彼等の命はネルン様の名の元に粛清される!!」
地神五代α:アマニタ
眼鏡に銀髪のパーマ。音楽家を思わせる優男は、指揮棒を振ることで次々と命を奪っていく。
いや、彼がどうやら命を奪っているわけではない。
そこにある『何か』が彼の旋律に合わせて動いているのだ。
「良い音ですね…ネルン様に捧げる異教徒達の鎮魂歌はこうでなければならない…」
地神五代β:チェスナ
雨が降っていないにも関わらず、傘を差し、片眼鏡を着けた銀髪の男は、背後から異教徒を刺し貫いた。
異教徒の人間はどこか上の空のまま息絶える。
「おやおや、俺はこっちだが…?夢の続きはゆっくり見るといいよ、冥界でね」
地神五代γ:モルペウス
年齢不相応に若く、無邪気な笑みを浮かべる聖書を片手で持つ青髪のふわりとした少女は、手に隠し持っていた寸鉄を倒れた異教徒に向ける。
その異教徒には大きな古傷があり、彼女はまるでそれを知っているかのようにその部分を抉り取る。
「あの人…ネルンちゃんは私のものですから…不純物は取り除かないと…」
地神五代δ:シェーヴァ
少年は何かとブツブツと話し、異教徒が反撃しようとしていることにまるで気づいていない様子だ。
不意に一筋の投げナイフが、赤い火の玉のようなものに包まれ、異教徒の頭を射抜く。
「ネルン様は素晴らしいよ、そうだね、その素晴らしさに気づかない人は、ここで消えてもらおうかな」
地神五代ε:クルス
ーーそして、地神五代を統べ、常にネルンの傍らにいることが許された男。信者達は彼を、『神の使い』と崇めるーー
救済の教会『大司祭』ホタル
チャプター4:賭博都市サイド
「お前の言った通りだな、ココ。」
賭博都市に戻った石花は、四凶が現れたことと、地神五代が動き出したことをファブナーに告げる。
「四凶か…あいつらならジャノメ一人で充分だろう。」
「いや、さすがにあの下請けヤローじゃ四対一はきついでしょう」
「まぁ確実に死にかけるとは思うが、あいつなら行けなくはないハズ…いや、そうだな、万が一を考えて一対一で戦えるようにしておこう。この都市のルールは俺が決める、ココ、ジャノメはどこにいる?」
「あ、まだ出勤してませんね。」
「・・・・・・」
ジャノメという男は切り札として使っているため、自由出勤にしたのが仇になったかとファブナーは思わず頭を抱える。
「そうか、それならばヤツのことは一旦置いておいて…ヴァサラ軍はどうだ?」
「おそらく数時間後に入港…ですが、一台の貨物船とバッティングする未来が見えます。貨物船にヴァサラ軍が擬態する可能性も…さもありなんという感じでしょうか…」
「そうか…」
さもありなんというのはココの未来がぼやけているときの口癖だ。
不確定すぎる未来はどうやら彼女にはぼやけて見えるらしい。
「分からねえんなら口に出してんじゃねぇよこの野郎!能力があるだけの無能なメス…「石花」
ファブナーの射殺すような眼光に石花は口を噤む。
「ココは俺自身がスカウトした二人目の逸材であり俺の『眼』だ。いくらお前でもそれ以上言えば黙ってられなくなる…わかるな?」
「はい…」
「取り込み中のところ済まない。私は一度第8世界に戻らせてもらう。なに、兵器はそのままにしておく。君とはこれからも親密な関係を築いておきたいからな。」
第8世界といえばヴァルツのいる元の世界だ。
そちらにもファブナーお抱えのテロリストは渡したはずだ。何か不都合があったのだろうか。
「いや、タイムリーパーというか…世界を渡れるネズミが一匹紛れ込んだようでね…私の世界を壊されるわけにはいかないんだ。」
塚原 竜子と書かれた金髪のヤンキーらしき女性が写る学生証のコピーのようなものをヴァルツは銃で撃ち抜き、『得体の知れない箱の欠片』に触れることで、元の世界へ転移した。
チャプター5:映画サイド
第8世界
息が苦しい。もうどれだけ走っただろう。
海外の街を学生服で漫画を片手に走る女性一人、はたから見れば不審者だ。
「なんで…なんでこの世界にもファブナーのテロが!」
『そんな展開』はないと、半ばパニックになりながら、学生証の女性、ツカハラは第8世界を走り回る。
各地で起こるテロ。未曾有のパニック。
さらにとあるピエロから『まだ帰れてない人いるんで探してくださいね〜』と任務を追加されてしまった。一人の女子高生に背負えるものではない。
「君、何か知ってるの?」
「え〜っと…どこかで見た…ってエリック!?」
「どこかで会ったっけ?」
「言葉通じてるし!とにかくこのテロを止めないと…」
「君、何か知ってるの?」
年端もいかぬBMWと書かれた変わったTシャツを着ている少年、エリックは、ツカハラが何かを知っていると思い、『ザ・ロイヤル』と書かれたバーの扉を開ける。
「久しぶりだな、ミス、ツカハラ。鎧事件の時は世話になった」
「ハリソンさん。お久しぶりです…」
「あの時の話はハートランドから大体聞いている。今回はそれを好機と見たテロだ。おそらくヴァルツが絡んでいる…だが、テロの元にとある殺し屋を向かわせた。情報が漏れるのも時間の問題だろう。」
白髪に聡明そうなメガネをかけた、ザ・ロイヤルの司令官、ハリソンは、エリックとツカハラに紅茶を淹れ、二人を落ち着かせる。
「ヴァルツ…アイツが絡んでいるなんて…」
「待つしかないね…まだテロのことも分かってない…」
テロリストの基地は各地に点在していた。
その中でも特に警備が薄い下っ端が大量に住まわされている拠点に現れたのは二人の男。
長髪をちょんまげのようにした男とアフロの男は広々とした部屋で待機するテロリスト達を次々と射殺し、拠点のボスらしき男の前に立ちはだかった。
「おい、見ろよヴァレンタイン!クリスピードーナツだぜ!お前食ったことあるか?」
「チャールズ、今日はこれであがりだぜ?早く終わらせちまおう。」
アフロの男、チャールズが嬉しそうにドーナツを持つのをちょんまげを結わえた男、ヴァレンタインが嗜める。
「とりあえず、俺は食ったことないんで、一つもらうぜ。」
チャールズは拠点のボスの返答を待つことなくドーナツを口に運ぶ。
「…俺はミスド派かもしれねえな。お前はどうだ?」
「俺はクリスピードーナツ派だ。」
「だってよ、ドーナツ一つでも好みは分かれるもんだな。」
「ああ、そうだ。お前ら部屋に何人もいたら狭いだろ?片付けてやったよ。」
「良かったなあ、広々使えて快適だ。」
「ところで…テロの戦い方を知りたいんだが、何か知っているか?」
「し、知らない…」
ボスの男は後退りしながらゆっくりと椅子から立ち上がろうとする。
「まぁ待て。話はまだ終わっちゃいない。こんな言葉があるのを知ってるか?ヴァレンタインから勧められた日本のゲームなんだが…て、ティザー…」
「テイルズオブファンタジアだ。」
「そう!それだ!おっと。」
「うわああああ!脚!俺の脚があああ!」
足早にドアを開けようとしたボスの足を撃ち抜き、盛大に転倒させる。
ボスは激痛にのたうち回るが、チャールズは構わずに質問を続ける。
「いいか、そのゲームにはこんな台詞がある。『この世に悪があるとすれば、それは人の心だ』お前さんはその悪意をもって、テロリストを各地に派遣したんだ!」
「お、俺は派遣してない…ヴァルツ長官が…」
「うるせぇなファック野郎!俺の質問にだけ答えろ。新しいテロリストはどうやって戦うんだ?あぁ?」
「チャールズ。あと一分で定時だぞ」
「なに?サービス残業になっちまうじゃねえか!よーし、分かった。3秒以内に答えろ」
ヴァレンタインからの定時報告にチャールズはいよいよボスの男の頭に銃を突きつけた。
「3…」
「し、知らない!」
「2…」
「ほ、ホントに…」
「1…!」
「き、極み…極みって言ってた。なんか特殊な波動というか…超能力のような…く、詳しいことは知らねえ!本当だ!」
「超能力ぅ?」
二人は顔を見合わせて数秒の間を置き、まるで壊れたかのようにケラケラと笑い出す。
「HAHAHAHAHA!聞いたかヴァレンタイン」
「HAHAHAHAHA!傑作だな」
「じゃあ何か?新しいお仲間はもはや人間じゃないってか?HAHAHAHAHA!」
ひとしきり笑い転げた二人は、スッと真顔に戻り、ボスの男に銃を乱射し、あっという間に射殺した。
その返り血はヴァレンタインのピシッと着込んだスーツに跳ねる。
「っ!ああ!また俺のヴァレンチノのスーツに血が!」
「今日は定時退社なんだ、このままクリーニング屋に寄っていこう。」
ヴァレンタインは苛立ち紛れに髪を掻くと、早く洗濯がしたいとばかりに早歩きでドアに向かっていく。
「おい、ヴァレンタイン。クリスピードーナツ食わねえのか?」
「いらねぇよ」
車に乗り込んだ二人は、ザ・ロイヤルにテロリストの情報を流しながら、スピード違反になるのではないかというほどの速さでクリーニング屋へと走り出した。
拠点からの通信が途絶え、こちらの世界にも邪魔が入った事を察したヴァルツは、ファブナーがよこした兵隊に指令を与える。
「『Skull Gear』と『天下布武』に告ぐ。テロ組織の一角が落ちた。君たちも動き出してくれ。狙いは、ツカハラタツコとザ・ロイヤルだ。」
「こちら『天下布武』頭領、ノヴナガ。ヴァルツ、連絡が遅いのぅ。お主が言った通り、スペインはわしが壊させてもらうとしよう…」
サラシを巻いたこの世界に似合わぬ甲冑を着た女性、ノヴナガは、ガシャガシャとうるさい音を鳴らす部下を連れ、スペインのバレンシアにある港に上陸し、もう一人のテロにつなぐ。
「こちらも受信した。『Skull Gear』の総帥、チャリオットだ。手始めに日本でいいんだな?」
軍服越しにモーニングスターを背負った巨体の男、チャリオットは、ヴァルツが支給したヘリからまるで訓練を受けているかのようにするするときれいに着地してみせた。
「壊せ!!」
「「「ウオオオオ!!」」」
「総帥万歳!!」
「『Skull Gear』万歳!!」
チャリオットの号令はテロを沸き立たせ、空港警備員を次々と殴り倒していった。
「ハリソン長官!日本とスペインで大規模なテロが発生!スペインの国境は壊滅状態とのこと。」
「世界が終わっちゃう!行かないと!」
「落ち着け、ミス、ツカハラ。これを…」
ハリソンが渡したのはヴァルツが持つものと同様の『何かの欠片』。
「これは…?」
「それはお前を救う。持っていけ」
「僕も行くよ、ツカハラさん!役立たずかもしれないけど…ごめんね…こんなとき、父さんがいてくれたら…」
「いや、エリック、君がすごいってことは映画で重じ…なんでもない。」
「?」
「い、いや…そ、その心意気、買った!行こう、一緒に!」
「うん!」
『ツカハラさん…なんか色々知ってるみたいだけど…彼女は何者なんだろう…?』
「待て。お前らには絶対に死んでもらうわけにはいかない…これに座っていけ。」
まるで戦闘でもするかのような大仰なヘッドギアに、死刑囚が座らされるかのような簡素な椅子。
エリックは自分の体を改造されるのではと、引き攣った顔でハリソンを見る。
「い、インストールマシン…!本当にあるんだ…」
「やはり知っていましたか、ミス・ツカハラ。」
「エリック、まぁ…なんというか…これはかなり必要だから…うん、座っておいたほうがいいよ…うん…」
ツカハラがヘッドギアを被ると、機械からブオオオンという重低音が響き、脳波計が揺れる。
「だ、大丈夫なのかな…」
「あと、二人にはこちらの服を…」
「こ、これは父さんのエプロンと同じ…!」
恐る恐るインストールマシンに座ったエリックに、『特殊素材』の服を、ツカハラにも同様に『特殊素材』の学生服を手渡し、ハリソンはボソボソとどこかに通信を始める。
「そうか…わかった。こちらも全力でいく…『欠片の件』は『彼ら』にも言ってある。我々はザ・ロイヤルだ。この世界を思い通りにはさせない。」
「何から何までありがとう…ハリソン司令官…行こう!エリック!世界を守りに!」
「うん!」
「外に『とある世界』の味方がいる。彼女があれほど操縦が上手いとはな…あ、あと一つ!」
ハリソンは二人に背を向け、見えるように人差し指を立てる。
「機内食はプリセットのみだ。君らはまだまだ若い。好き嫌いはダメだ。」
「それに…」
ハリソンは間髪入れずに続ける。
「これが最後の晩餐じゃ無い。好物は無事に帰って地元で食べるのが一番だ。…そうだろう?」
二人の返事も聞かぬまま、ハリソンは奥の部屋に入り、誰かに電話をかけた。
「御老公、ご協力をお願いしたい…」
「ハリソン、久しぶりじゃな。ワシも話は聞いておる。だが…今は夢の格闘大会の真っ最中でな…」
高価な袴を着た男性は一度断るような素振りを見せ、外の扉にゾンビのように湧く『Skull Gear』の雑兵達を見つめてため息をつく。
「それに…向こう側から仕掛けに来ておるからのう…やれやれ、一難去ってまた一難か…」
『Skull Gear』の猛々しい声を聞き、天空闘技場のオブジェの陰で『欠片』を不思議そうに眺めていた、暑苦しくマフラーを巻いた黒髪短髪の少女は眠そうに欠伸をし、立ち上がる。
「なんなんだろう。この『欠片』…ハズキにでも渡そうと思ってたのに。変な世界に飛ばされて…」
警備と勘違いされたらしい少女は雑兵に乱暴に胸倉を掴まれるが、女性とは思えぬ力でその腕を掴んで投げ飛ばす。
『ほぉ…なかなか強そうな女がいるじゃねえか…』
目深にフードをかぶった男は、近付いてきた雑兵首をねじ折り、少女に近付いていく。
大量の兵の人混みに埋もれて男の接近に気づいていない少女は、何かを思い出しながら拳を握る。
『刀も無いし、極み使うのも勿体ない…劉掌拳は確か…こう…』
少女は以前ヴァサラ軍で学んだらしい拳法の構えをうろ覚えで取るが、一人の雑兵を殴り倒した際の威力不足により、何かが違うと感づく。
『それなら…殴りやすい構えで…』
ーー本能。それは人間全てが持ち得るものであり、『最強』の護身ともいえるもの。格闘経験やいくつもの修羅場を経験しているらしいこの少女の脳は、この状況で『格闘術』の本能をプッシュした!ーー
「垓崙、あの構えを見てみろ」
「なんだジジイ、暴れ足りねぇんだ。口出すんじゃねぇ」
フードの男、垓崙は、親らしき男の声に耳を傾けず、雑兵達を次々と葬っていたが、少女の構えを見てその手を止める。
「ほぅ…楽しませてくれそうだなぁ…」
ーー本能に従い、彼女が取った構えは、ティーの構え!!!ーー
ーーティー、ティとも表現されるその武術は、琉球空手。通称、御殿手の先駆けともいえる格闘術。脱力と瞬間の力みによる正拳突きは、相手に死すら悟らせない。『高速の暗殺拳』!!ーー
『無駄が多い動きだ…おそらく鍛錬由来ではないだろう…だが…』
老人は高速の打突により、次々と少女が雑兵をなぎ倒して行く姿を見ながら何かを考える。
「このクソ女ぁ!!」
背後から振り上げられた斧をまるでいなすように掴み、合気道のような動きでいなす。
『柔掌拳…でもないか…』
ーーティーの攻撃は何も打突だけではない。琉球王国を守るために生まれたそれは、敵の武にも対応していた!敵が行ったのは至って単純かつ、殺傷力抜群の袈裟斬り。少女はその腕を取り、まるで自分の武器になるかのように、男を空中に投げたのだ!ーー
「ほう、まだまだ猛者は世界中にいるようじゃな、これならザ・ロイヤルに加勢もできるじゃろう。豊臣財閥の兵をありったけ世界中に送り込め」
「はっ!」
袴の男はタブレット端末に何かを打ち込むと、ザ・ロイヤルのマークが画面に現れ、世界中のスパイにテロの情報が拡散された。
「ふぅ…寝るの邪魔しないで。」
打ちのめした雑兵達を乱暴にどかし、少女はふたたびオブジェのところへ歩き出すが、垓崙に腕を捕まれ、振り返る。
「なかなかやるじゃねぇか…女…」
「何?離して」
ぐ…と力を込める少女の腕はどれだけ振り払ってもびくともしないことに腹を立て、垓崙の顔を思い切り殴りつける。
「クククッ…楽しませてくれるなあ!」
「!!」
人間とは思えないほど力が増した垓崙に危険を感じ、腹を蹴り上げ、距離をとる。
「クククッ、これから死ぬんだ…名前ぐらい聞いといてやるよ。」
「私はミズキ、別に覚えなくていい。あんたには今日で二度と会わないから。」
「ククッ…そうだな…そうかもなぁ!!」
『さらに速さが増した!?』
マフラーを巻いた短髪の少女、ミズキは垓崙の攻撃を間一髪躱し、両腕を胸の前でクロスする。
「鉄の極み…」
「あァ?」
自身の体と同じように、いや、まるで金属のように『硬化』したミズキの皮膚に自身の手刀は数ミリ以下の擦過傷しか残らなかった。
「こっからが少し本気だ。」
ーーミズキの踏み込みと、打突の動きはティーの渾身の正拳突きの構えになった。さらに力を増幅させた垓崙のパンチと彼女の正拳突きが交錯するーー
ーーダウンしたのは垓崙!しかし、ミズキ、流血!!ーー
『俺がこんな女にダウンさせられただと…!?』
『鉄の極み越しに血!?歯が折れてる…人の筋力じゃない…』
互いに追撃を喰らえば不利になる状況、先に動いたのはダウンしていないミズキだった。
彼女が考えうる限りの一発。
「シャッ!!」
極みの力と、桁外れの筋力を込めて打ち込む一撃に垓崙はカッと目を見開き、手刀を浴びせる。
ミズキの腕から微かに血が流れ、少し距離を取る。
「素人だなぁ…お前。締め技に行けば少しはダメージを負わせられたものを…」
「そうだね。もう少し本気でやってあげる…」
地面に折れた歯を吐き出し、呼吸を整える。
「花の極み…」
不意にポケットから落ちた『欠片』を拾い上げるとそれが輝き、ミズキの体は垓崙の前から消える。
「あァ?」
「垓崙、遊び過ぎだ…今日はもう寝ろ」
「俺に指図するんじゃねぇ…」
彼の兄弟らしい男を睨みつけ、ミズキに殴られた顎の痛みに耐えながら、『興が冷めた』と一言呟き、自室へ戻っていった。
「あれ…?ここ…」
ミズキが戻ってきたのは六番隊舎。彼女は『欠片』を見つめて垓崙との一戦を思い出す。
『あの時、これが光り輝いて…戻って来た。なんなんだ…これ…』
ハズキが帰ってきたら聞いてみるかとその欠片を、金庫にしまい、鉄の味がする口内を水でゆすぐと、患者用の簡易ベッドで眠りについた。
チャプター6:漫画サイド・上陸
第1世界
数時間前
「まるでこっちの偵察がバレちゃってる感じじゃんよ。てか、賭博都市?俺行かせていいん?この史上最高のギャンブラー七福を!そう!嫁の関係者がなんか来れんくなったらしいんよな。あっ!隊員来れなくなっちゃっちゃ〜♪…どうこれ?ってなわけで、遊太郎改めてよろしくなんよ。」
うるさいくらいの水色の髪を派手に跳ねさせ、左目に大きな刀傷がある男、七福は変な歌を歌いながら赤と金の独特な髪をした男、遊太郎に手を差し出す。
「ああ、俺はデュエリスト。弟子を助ける目的だったが、ゲームで人を殺める都市はゆるせねぇ。全力でサポートするZE!」
ガッチリと握手した二人だったが、七福は遊太郎に武器がないことを少し怪訝に思う。
彼にあるのは首から下げた派手…どころか明らかに戦闘の邪魔であろう首飾りと、腕についた珍妙な『何か』のみ。
これで賭博都市に乗り込むつもりだろうかと不安になる。
彼らは得体の知れない力で、こちらの先を読んでいるのだから。
「一応確認なんけど、その武器は新手のブーメランか何かなん?」
「これは『デュエルディスク』さ!デュエリストの必需品だZE!」
「お前が強いんはただのカードゲームじゃんよ。殴り合いになるんよ?勝てるん?」
「これは…」
遊太郎が口を開くと同時に、船が大きく揺れる。
真横の岸壁は『海の中』から抉り取られ、焼け焦げた嫌な臭いが立ち込める。
「海の底…?新手の武器…?」
『いい趣味してんじゃんよ』と七福は嫌味のように呟く。今まさに殺されそうとしている自分たちを眺める賭博都市の債務者達は、「沈没に1000万!」「生存に500万!」など札を投げて叫んでいる。
「こんなんじゃ沈まんて…ったく、どっかの街の次に下劣じゃんよ」
『てか動き読まれてね…?な〜んか航路が塞がれてるんよなあ…』
見たことがない下方からの攻撃、水の中ではさすがに自由に動けないと踏んだ七福は逆側に梶を切ろうと、手を伸ばす。
「大丈夫だZE!七福!」
遊太郎の首飾りが光ると同時に、デュエルディスクにカードを置く。
「俺は、『ケツアゴ・リヴァイアサン』を攻撃表示で召喚!!」
「ピギャアアアアア!!!」
海底に顎が割れた巨大なヘビの海竜が現れ、耳をつんざく雄叫びをあげ、鋼鉄の潜水艦を砕く。
「ええええええええええええええええ!?」
「く、潜水艦部隊が…相手は一隻の小舟だ!砲撃!」
「甘いZE!魔法カード、『後光の封滅剣』!このカードでお前らの攻撃は三回無効になるZE!」
「お前なんなん!?県立召喚魔法大臣か!県立召喚魔法大臣…?その機械で怪物ってことなんかな?」
七福は船を駆け上がり、大砲の脆い部分を狙撃して撃ち落とすと、いつの間にか横付けされていた賭博都市の軍勢と対峙する。
「七福、一人じゃ危険だZE!俺のカードは…「あー!大丈夫大丈夫!」
グンッ!と船底の木で反動につけ飛び上がった七福は、虚を突くように真横の敵を殴打し武器を奪い取ると、そのまま低い姿勢で体を反転させ、肘打ち…ではなく転んだ拍子に偶然相手の額を割る。
「あと二人」
「二人…まだまだ人数はいる。お前は数も数えられねぇのか?」
「マヌケに指摘をされちゃっちゃ〜♪こんな船じゃ取り囲めてせいぜい四人…オマケに。」
帆を張るためのロープを正面の敵にくくりつけ吊り上げると、相手の刀を素手で白刃取りのように受け止める。
「うちの嫁に稽古のたびにボッコボッコにされてるんよな。お前ら剣やるんなら習えばいいんに…こんなに足場が悪くちゃマトモに動けるのは二人まで。二対一なんよな。分が悪いのはどっちなんかな〜?」
自身の船から敵を排除すると、そのまま舵を賭博都市に進め、距離を取る。
「オロロロロロ!し、七福殿!船を!船をあまり揺らさないでほしいでおじゃる…麻呂は船が苦手オロロロ!」
青ざめた顔で甲板に現れた白塗りの平安貴族のような男は、海に向けて吐瀉物を大量に吐き出す。
もらいゲロをしてしまいそうなほどに吐き出されたそれを見て、『なんで連れてきたのだろう』と七福は疑問に感じる。
「ストクだっけ?Mr.ホワイトネス。賭博都市探して遭難してたから乗せたんけど…そんなに船がダメなら元々一人は厳しかったんじゃね?」
ストクと呼ばれた白塗りの男は、その重たい着物に吐瀉物がつかないようにふらふらと歩き、七福が手渡した水を飲み干す。
「これ!七福とやら!梅干しなど効かぬではないか!おえええ〜」
「ププッ。騙されてら」
飲み干した水をそのまま海中に吐き出し、接岸された港にぐったりと倒れ込むストクだったが、自身の身体を照らす太陽が何かに遮られたのを見て顔を上げる。
「我々は賭博都市警備隊『BLACK JUNKET』だ。入港許可証は?…ん?」
『げ!俺は情報屋だから面が割れてるんに!』
七福の顔を覗き込む黒ずくめの警備隊と小さく舌打ちをした彼の様子で全てを察したストクは『船の借りは返す』とばかりに手に持っている鈴付きの笏を鳴らす。
「麻呂に任せるでおじゃる。」
「なんだお前、許可証は?」
「『魂解』」
「なんだ?魂…?」
ストクは極みとはまた違った『何か』を発動する。
「夜叉天狗魔境」
ストクは幻術のようなものをかけ、賭博都市の警備隊を『どこか』の精神世界へ連れて行く。
「恨みはないでおじゃる。だからこそ幸せな幻覚を…」
警備隊がついた精神世界は…まるで現代日本にあるような、大きなドーム状のライブ会場。
「な、なんだぁ…?この甘ったるい曲は?」
「あい…どる?」
「きらめき…なんだ、こりゃ。」
敵と戦っていた事すらうっすらとしか覚えていない警備隊は、湧き立つ会場と登場したアイドル達に目を奪われる。
「アイドル?何言ってるん?」
ストクが幻術のようなものをかけた警備隊達は『何もない空間』に『アイドルの名前』を呼びながら手を振り歓声を上げている。
「随分と…恐ろしい技を持ってるんな…」
「幻覚系のカードか?」
「絶対カードじゃないんに」
「マーロマロマロ。麻呂の『夜叉天狗魔境』は幻覚の世界へ誘うもの。お主らの『極み』と似たような異能と思えば分かり易いでおじゃる。もっとも…『その幻影が実在する』可能性もあるでおじゃる」
奇妙な笑い声で高らかに笑うストクの近くに接岸する穴だらけの船。
髭を蓄えた男を護衛するように降りてきたのは丸眼鏡の胡散臭い男と、少女のようにも見える桜模様のスカートを履いた女性、そして、顔に大きな傷のある全盲の武士らしき男。
「ま、マサカド!探したでおじゃるよ!」
「…その声はストクか…船が苦手なのに苦労をかけたな…」
マサカドと呼ばれた全盲の男はくぐもった声でストクに返答し、手探りで彼の豪華な服に触れる。
「では…冥界に帰るとする…「これ!人探しの依頼じゃろう?」
恒例のやりとりなのだろうか、わざとらしくゆっくりと船に足をかけたマサカドの頭を、笏でピシャリと叩く。
「おい、エセ軍師。護衛ってのはこの三人のことだったん?うえー…あんま会いたくないんが二人…」
「いえ、本来はコチラのメイネ隊ち…「昔の話や」
「失礼しました。メイネさんとコヒナ隊員が護衛の予定でしたが、成り行きでマサカドさんも同席いただきまして…」
無精髭の男、シンラは丸眼鏡の胡散臭い男をメイネ、少女のような女性の方がコヒナであると七福に紹介し、ことのあらましを逐一説明した。
七福は二人の事を知っていると伝え、けらけらとからかい出す。
「だから!刀に意思なんかないんて!!バカなん?うちの嫁もんなこと言うし…ま、エセ軍師を無事に届けたことは褒めてやっか」
「はーっ。相変わらずだね。七福くん。喋ってる暇ないんじゃない?ほら、また来た。」
バリバリとけたたましいヘリの音が全員の耳に鳴り響き、全員が空を見上げ、戦闘態勢をとる。
「別世界の人間と共謀してるって情報は本当なんな。あんなの見たことない。…んあ?」
幻覚を見続けている警備隊を巻き込みたくないのか、ヘリはタラップを降ろし、次々に援軍を降下させていく。
「私がやる。閃花一刀流…」
「んあ?その構え…」
「抵抗するな!女!」
「バーカ」
「うわっ…とっとっ!」
コヒナは何が来るのかと銃を構えた兵のみぞおちあたりを軽く蹴飛ばし、海に落とす。
「そんな構えないと思ったんよな。ズルい女よな。もう35のババアだもんな。」
「ハァ!?年齢関係ないし!仕方ないじゃん。私、ずっと正直でいるほど、いい子じゃないもん。」
「黙っとけ。子どもちゃうやろ。もう35や。しかし卑怯やなぁ…すっかり『擦れた女』や」
「む!」
からかうようなメイネの返しに拗ねたように頬を膨らませつつも、自分らに銃口を向ける援軍に気を配る。
先ほどの攻撃でどうやらこちらを撃つ気満々になったらしいのは顔を見れば明らかだ。
「撃…ん?カード?」
降ろされた撃鉄に挟まる一枚のカード。レッド・マジシャンと書かれたそれはまるで遊太郎を護るかのようにひとりでに撃鉄に挟まったのだ。
「レッド・マジシャン!?貴様のせいで俺のカードに傷がついたZE!」
「カード?くだらねえ。ただ一度の偶然で訓練された軍人に勝てると…「何勘違いしてるんだ。まだ俺の攻撃は終わっちゃいないZE!」
「俺は攻撃力1200のモノクロプスを召喚!さらに、速攻魔法『狂戦士の叫び』!!このカードは攻撃力1500以下のモンスターをデッキから魔法カードが出るまで追加攻撃させる事ができる!一枚目、ドロー、モンスターカード!二枚目、モンスターカード!」
遊太郎がカードを引くたび、単眼のモンスターは次々に援軍を攻撃していく。
「そっちの心配は無さそうなんな」
「共に行こう…貴殿は相当の使い手と見受ける…」
「んあ?なんか俺の強さ変に盛られて考えられてる?」
「マサカド、あとは頼むでおじゃる。麻呂はまた船酔いの名残りが…ゔっ…」
「ゲロおしろい」
ひどいあだ名をつけながらストクの身体をわざとブンブンと揺らし、吐き気をさらに増幅させるような悪戯をすると、マサカドと共に敵に向き合う。
「コヒナ、足引っ張らんといてな」
「このくらい一人でも余裕だし。」
「そんな言い争いしてる場合ですか!」
「敵は強いぞ、隊列を乱すな!」
七人をまるで逃げ場なく囲い、軍隊らしく胸の紋章が違う男の合図とともに放たれた銃撃は、マサカドの描いた円に触れるとともに虚しく地面に落ちる。
「『魂解』:玉散氷刃」
居合だろうか、こちら側まで寒くなってしまうような斬撃は兵をまるで練習用の藁が如く棒立ちのまま一瞬で斬り裂いた。
七福は悪戯っぽく笑い、拾い上げた血のついた鞘のない刀の刀身をゆっくりなぞる。
「『魂解』:佰脚牙刃」
言葉が終わるか終わらないかの間に、七福は思い切りその刀を振り抜く。
刀の刀身はまるで蛇や百足のように伸び、次々と兵を斬っていく。
「こ、こいつもその力を!」
「俺の魂解はただ剣が伸びるだけなんに」
「蛇腹刀か…」
周囲の攻撃が落ち着き、話す余裕ができたタイミングでマサカドは七福の刀に触れ、仕組みを一瞬で看破する。
「あ!バレた!俺の相棒が魂解?とかやってるんから。船の上で拾ったこの武器使ってやってみたんに…ま、上手いこと騙せたんじゃん?」
「たいした男だ…」
元の持ち主が大切に扱っていなかったのか、伸びる仕組みの部分がブチッと音を立てて千切れ、すっかり使い物にならなくなってしまった。
同時に遠方から来る船、とりあえずヴァサラ軍の上陸は成功だろう。
「あとは…任せていい?」
「当たり前や。本気でやるで…コヒナが」
「なんで私だけ!?調子狂うなあ…桜の極み『真桜』:旋桜!」
波動とともに振り抜いた刀は桜を散らせた巨大な竜巻を起こし、地面を抉りながら兵の方へと向かっていく。
「た、退避だ!総員退避!!」
「ま、間に合いません!凄まじい速さで!うわあああああ!」
「逃げろ!これは戦略的…ぐわっ!」
吹き荒んだ桜の暴風は兵を乱暴に吹き飛ばし、ついに敵を殲滅した。
「なかなかやるようになったな…それより、私と同じ母親から産まれた嫌な臭いがするわ。そこからな。魅の極み『赫』:射血!」
岸壁の影に自身の血を矢のように発射したメイネの攻撃を、姿を現したファブナーが片手で止める。
彼の手からは黒紫の濁った靄のようなものがこぼれ落ち、再び元に戻った。
しかし、メイネが見据えているのは柄部分が心臓の形をした奇妙な刀を持つ青髪の返り血にまみれた男。
「吸血白百合!その刀は危険だ!我々ヴァサラ軍が返してもらう!」
意外にも口火を切ったのはシンラだった。男の持つ奇妙な刀を『吸血白百合』と呼び、今にもその刀を奪わんという目をしている。
その男とシンラの間に割って入るように、ファブナーが前に立つと、ぐっと脚に力と先ほどの靄のようなものを纏い、反応できないほどのスピードでメイネに刀を振り、再び距離を取る。
「流石は過去の実力者…メイネ。よく避けたものだ。」
「アホか、直撃したわ…」
太腿の肉の一部がズルリと垂れ、脚に力が入らなくなったのと同時に、まるで避けきれなかったことに冷や汗をかく。
「お前はコイツと同じ種族、ルケミア人だろう?その傷なら数分で治るはずだ…悪いがこの男も仕事があるんでな。今はお前の相手をさせていられない。ここは賭博都市ルピナス。まぁ楽しんでいけ。これは歓迎だ。『ようこそ、いらっしゃいませ』というやつだな…そして、大歓迎だ。『六賽』が全力で相手をしよう。」
ファブナーは数枚の写真を全員がいる場所にばら撒き、軽く手を振るとカイナが作ったらしい債務者リストに目を通す。
「この写真に『六賽』って書いてあるな」
「ご丁寧に秘書と参謀まで…勝てる気満々。って感じ?」
「とんでもない強さなのはわかるわ。」
「む…」
写真を眺める中で、マサカドの腕がかすかに震える。
「何故だ…この眼に写真が視えるなど…」
マサカドは盲目だ。それは光の一筋すら通さぬ闇。
当然ながらここにいる味方の顔はまるで見えない。それでもこの写真だけは鮮明に見えるのだ。
『あの男の力…もしや…ともすれば』
何かに気づきゴクリと生唾を飲み込んだ…
「おい、ストクはどこに行った?」
そういえばそのあたりで吐いていたストクの姿が見当たらない。
七福はキョロキョロと周囲を見渡しストクを探し始めた。
チャプター7:六賽
賭博都市に鳥の鳴き声に似た鐘が鳴る。
どうやらイカサマとディーラーへの暴行を働く悪辣な観光客らしい。
ファブナーの言う『仕事』とはこのことだったのだ。
ファブナーは石花に合図をし、彼は偉そうに机を蹴飛ばす。
「おい、六賽共。どういうセキュリティしてたらこんな腑抜けた事態になるんだこの野郎!」
「石花さん、その処理は我々がいたしますので…」
「だったら作戦通りにしろ、カイナァ…テメェはいつもトロいんだよ!」
威圧するようにカイナの眼前に自身の顔を近づけ、その仰々しいサングラスから怒りに満ちた顔を覗かせる。
「申し訳ありません、早急に。」
「ケッ。」
使えない連中だとぼやきながら、石花はファブナーに渡された紅茶を飲み干した。
賭博都市:『特別参謀兼統括長』石花祐太郎
「BLACK JUNKET、これより客の取り締まりに入る。くれぐれも他のお客様に迷惑はかけぬように!」
賭場に着いたカイナは、BLACK JUNKETの面々に指示を出し、刃物を持って飛びかからんとする男達に向けて刀を抜く。
「俺達は数十人で来てんだぜ?お前一人で全員倒すってか?言っとくがな、俺達はそんじょそこらの雑魚とは違うぜ?」
「一人?違うな。お前達の行動は目に余る。六賽全員で迎え撃つ。覚悟しておけ」
カイナと対峙する男達は、まるで極上のギャグでも聞いたかのように盛大に吹き出して笑い転げる。
「オイオイ、なんて面白いガキだ!ギャハハハ!たった六人で俺達の相手をしてくれるんだとよ!ギャハハハ!!なんて手薄なセキュリティだ!ガキ、とりあえずお前さんから死ねや!」
「たった六人…?」
刀に纏われた靄は、巨大な断頭台のようにカイナの一閃に合わせて男達を一撃で切り倒した。
「覚えておくといい。その六人が出るということは『生きては帰れない』と…」
カイナはヴァルツが渡したらしい小型の無線機のスイッチを入れ、次なる幹部へ通信した。
「アンジー、私だ。こちらから連絡する意味はわかるな?『副業』を頼む。」
六賽№Ⅰ:『六賽筆頭兼BLACK JUNKET隊長』カイナ
無線機の声とともに、設えていた新しいファブナーの礼服を作る手を止め、煩わしそうに舌打ちしながらお気に入りゴスロリブーツを履き、派手な化粧を施すと武器である鋏を持ち、人間とは思えないほど軽々しく敵の頭上を飛び越えた。
「ちっ、空気読めよブ男共…」
「なんだぁ?礼儀を教えてやろうか?ゴスロリの姉ちゃん?」
「べぇ~、アンタに教わる礼儀なんて無いし。てか喋ってていいわけ?もう逃げられないけどぉ?」
「!?」
男達はどうにも立てない自らの足を見る。
歩きすぎなどで足が疲れていることを『足が棒になる』とも言うが、今の自分らの足だった部分にくっついているのは文字通りの木の棒だ。
その棒が体重を支えられるわけもなく、虚しくバキリと折れると共に、ゴスロリ女性の鋏で滅多刺しにされた。
「ったく…面倒な任務になっちゃったっていうか…ハーツぅ。あと頼むね、この服の納期明日のつもりだから」
カイナと同様に無線機で誰かを呼び、横たわる遺体をまるではじめから賭博都市にあった奇天烈な飾りのように賭場に縫い合わせると、再びファブナーの服の仕立てを再開した。
六賽№Ⅱ:『ファブナー専用仕立屋』アンジー
「わかってる。連絡しなくてももう動いてる…」
低い一般的に『良い声』と言われるような音で返事をした男は、中距離戦に特化しているらしい射程の短い銃で敵の一人を撃ち抜くと、銃を投擲武器のように投げつけ、その隆起した筋肉で恐れて逃げ出す男の頭をトマトのように握り潰す。
「上から下か…ずいぶんと荒らしてくれたようだな。見ろ、俺が連れてきた債務者共がすっかりビビっちまった。責任は取ってもらうぞ」
握り潰した男の死体を乱暴に投げ、無線機をつけると、いつの間にか他の場所に移動し、ファブナーの特注品だろうか、透明に輝くライフルのようなもので敵の頭を撃ち抜いた。
六賽№Ⅲ:『債務者情報収集長』ハーツ
「教会で大量殺人事件!石花さんの言っていた四凶と思われます!」
四凶の血溜まりにいたセアカフウキンチョウは鳥の羽のようなもので作られた服に身を包む大柄な男のコートの中に入り、手品のように消える。
「ああ。そうだな。わかってる。って言うかそういうのは本来俺が伝達する役だ。」
穴だらけになった敵を一瞥し、腕時計に目を移すと、すっかり冷めてしまったチキンにかぶりつく。
「こりゃ腹ごしらえも必要そうだな…いつも俺から連絡するカイナから逆に伝達が来てる…さて…ヴァサラ軍は…」
忙しなく腕時計を見返し、無線を飛ばすと同時に逆の手で船の移動速度を乱暴に書き出し、何かを計算し始めた。
「なるほど…ヴァサラ軍上陸まで10分ってとこか…教会側は行かなくてもいいだろう…」
六賽№Ⅳ:『賭博都市監視役』:タカナシ
「さて…」
血が滴る鍔が心臓の形をしたノコギリ状の刃を持つ刀を拘束した敵に向ける青髪と顔に特徴的な金属をはめ込んだ男は、すでに事切れた敵の一人の血を小瓶に器用に溜め込む。
「な、なぁ…見逃してくれよ…助けてくれ…」
「ダメだ。お前らの血は母に捧げる。この刀は『吸血白百合』という最も人を殺めた妖刀でな…五大妖刀…知っているか?俺の体内にもそれが入っているが…」
敵の首を跳ね、滝のように流れる血を箱の中に入っていた誰かの子宮に注ぐ。
「魔女姫よ…母よ蘇れ…我らの力を…ルケミア再興の時!」
子宮はまるで行きているかのように蠢き、血を飲み込むと、卵巣から女性の産声が響き渡る。
おそらく無線越しに聞こえただろうそれを気にすることなく、次の六賽に何かを伝える。
しかし、無線機に相手の返答は来ない。
「聞いてるのか、蛇野郎!」
しばらく返事を待ち、やや遠くから『あーはいはい』という声が響き、同時に鈍い音が鳴り響く。
六賽№Ⅴ:『処刑人』罰夢
無線機から流れる血の音を聞き、深緑の髪を刈り上げ、仰々しい蛇のタトゥーを入れた蛇のような瞳孔をした男は『またやってるよ』とため息をつきながら、誰にも悟られることなく連れ去ったストクを刀で思い切り斬りつける。
「物理攻撃は苦手だね〜?このままじゃやられちゃうよ?」
「くっ。一撃が重いでおじゃる…じゃが…」
チリンと鳴る鈴。
ストクの魂解が仰々しい蛇のタトゥーの男に発動される。
「魂解『夜叉天狗魔境』」
「ここは…?」
幻覚を見させられてしまったらしい男はキョロキョロと虚ろな目で周囲を見回す。
ストクの笏から鋭い針が出現し、仰々しい蛇のタトゥーの男に深々と突き刺した。
タトゥーの男は、幻覚から逃れるため悪あがきのように小石を投げつけ、ストク頬に数センチの傷をつけるが、焼け石に水だ。
ゴロリと倒れるすっかり物言わぬ男を見つめると同時に、まるで『全てが逆転し、命令された』かのように自身の身体から血が吹き出し、倒れ込む。
「ひー!怖っ!めっちゃ幻覚じゃ~ん。俺がくたばった幻覚でも見てる感じ?つっても四凶ってのもこんなもん?拍子抜けだって…」
「ま、麻呂は何を…」
「悪いけど寝ててくんない?」
『寝ててくんない?』の言葉に従うように、大量の出血で冷たくなる身体は床にへばりつけられたかのように起こすことができない。
ストクは男の能力を見極めようとするが、力いっぱい引き上げた顔面を思い切り踏みつけられ、頭蓋骨にヒビが入ったことで意識を失った。
「聞いているのか、蛇野郎!」
「あー、はいはい!終わったよ!四凶一人倒した。連れてくからそんな怒んないでよ〜。」
罰夢が相当苛立っているのか無線機越しに聞こえた怒号に慌てて返答し、ズルズルとストクを引きずっていく。
「ジャノメ。コイツは四凶じゃない。」
「げ!やべ!?マジかよ、カイナちゃん。」
「タカナシから渡された写真を見てないのか?」
「なんとな〜く、流し見…的な…?」
バツが悪そうに奇抜なスプリットタンを出し、ジャノメはカイナにペコペコと頭を下げる。
彼が出した写真はどれも見当違いのものだった。
「タカナシの写真は?」
「無くしたか忘れたか…?ごめんて。カイナちゃん、改めて説明してよ。これって降格処分もん…?」
「降格…?今はそういう話ではない」
「ん。いやいや教えてよ。なぁ…下請けで頑張ってここまで来たんだからさ。なぁ、降格処分?クビ?勘弁してくれよ〜」
責任の話ではなくとにかく立場の話しかしないジャノメに少し苛立ちながら、ファブナーに報告しないでおく道を模索する。
「ジャノメ…それならそいつは治しておけ。お前についてきた女がいただろう?」
「あ!その手があった!マジ優秀〜。耐えた〜!!」
空に向かって大きく安堵した声を出すと、どうやら同じ『下請け』だったらしい医者の女を呼び出し、治療を促す。
六賽№Ⅵ『最終兵器』:ジャノメ
「ずいぶんと手薄なセキュリティだな!」
「よくここまで…予言より一分早い…大したものですね。」
敵の親玉らしい男は賭博都市の中央にあるファブナーの部屋に入り込み、舞い散る札束に目の色を変えてよだれを垂らす。
「女…この金全部俺によこせや!」
「ッ…!く!」
鉄鋼鉤のような武器を付けたココは男と数度打ち合うが、戦闘経験の差なのかどんどんと相手に気圧されていく。
「うちの優秀な秘書に手を出さなければここにある程度の金は渡したのにな。お前は最後の最後に間違えた…」
債務者から没収したのか酷く錆びた刀を拾い上げ、親玉の男と鍔迫り合うと同時に、何かがドクドクとファブナーに流れていく。
増幅した力とともに親玉の男はすべての骨が折れ、落とされた首は床にめり込んだ無残な姿で絶命した。
「う…」
ココは絶命した遺体から目を背けつつも、ファブナーから貰った指輪を通したペンダントを握りしめ、彼にとある賭場を開くように箴言する。
「先遣隊の男…七福…私と同郷だからよく知っています。彼は『とある能力』がある。非常に危険だ。ここは賭博都市…彼は私が食い止めます。賭博都市のルールで…」
「そうか。そっちはお前に任せる」
賭博都市秘書『帝王の眼』:ココ
チャプター8:漫画サイド・ヴァサラ軍上陸
「伝令です!先遣隊は上陸とともに船着き場の敵兵を全員倒した模様!」
「どう?優秀でしょ?…コヒナは」
「ホッホッホ…若様が信頼し、育てた若き芽は勇ましく、強く育っておる…」
「若き芽だけじゃないねぇ…僕たちの世代も頑張ってるみたいだよぉ…だよね?ハズキちゃん。」
「メイネと…アイツのことは褒めたくないわ…てかメイネ呼んだのはあたしじゃなくてシンラよ。礼なら彼に言いなさい」
先遣隊が倒した敵の残骸を避けなければならないというちょっとした舵取りの苦労はあったものの、拍子抜けするほどにあっさりと上陸することが出来た賭博都市のセキュリティに『こんなものか』と安堵しながらハズキ達三人は港で信頼できる味方についての話に花を咲かせていた。
それとは逆にラショウは彼の口が隠れたマスク越しでもわかるほど明らかに不機嫌そうだ。
「チッ…バカが一人乗船ミス…そしてもう一人のバカは…」
船に乗る前の作戦はどこへやら、賭博都市の警備隊をわざわざ見つけてはザクザクと斬り裂いていくやりたい放題なパンテラを見て苛立ちが止まらないのだ。
「あいつが勝手な行動をするのは計算尽くよ。他の隊は作戦通りに…「ようこそ、ヴァサラ軍」
いったいどれほどの金をかけたのだろうと思う豪勢な設備からファブナーの声が反響する。
これほどの音響機器はこの時代に存在しない。いや、存在するのは『とある都市』くらいだろうとハズキは思う。
同時に、別世界の協力者がいるだろうところまで彼女は脳内で思考を巡らせた。
「そう深刻な顔をするな、『才神』ハズキ。お前はここから教会に行くらしいじゃないか?何か懺悔でもあるのか?」
そこまで勘繰られているのかとハズキはさらに眉間にしわを寄せる。
「ここは賭博都市。入る前からそんな顔をする人間はお前くらいだ。誰も彼もが泡銭の狂気に溺れた顔をする。お前もそうしたらいいだろう?ここでは俺が支配人。賭博都市のルールに従ってもらう。」
降り落ちる紙幣に書かれているのは賭博都市の地図。

イラスト:Void様
「お前らがいるのはルーレットの外。低レートの賭場だ。俺は中央にいる。そこに来るまでギャンブルに六賽の襲撃…果たして死なずにいられるかな?」
響き渡る笑い声と共にファブナーの通信が切れ、彼の部下らしい男がハズキ以外の隊長達をどこかへと連れて行く。
「あたしは別に好きに教会でも行けってこと?ナメられたものね…」
彼女は一人ルーレットの外にある教会へ歩を進めた。
そして、その会話を聞いていたのは四凶もだった。
「石花さんの言う通り、続々と集まってきていますねぇ…」
「クククッ…そのギャンブル…俺達が壊しちまおう…」
「ねえ、あの『人間ばんえい』ってギャンブル、僕がやっていい?」
檮杌はニコニコと無邪気に笑い、人の叫び声と血飛沫が舞うギャンブルを指差す。
「お前は今回目立ち過ぎ…と、言いてぇが、ありゃお前にうってつけすぎるなぁ…それに俺も興味があるギャンブルを見つけちまったよ…」
「おやおや、二人共、抜け駆けはいけませんねえ…ですが、モチベーションがあるのは良いことです。」
何を感じとったのか分からないが、人間ばんえいを実況する女を見てどこか嬉しそうな窮奇とはしゃぐ檮杌に釘を差しつつ、まだ見ぬ楽しみに混沌の表情も仮面越しにほころんだように見えた。
チャプター9:映画サイド・スペインへ
「ハリソン司令から話は聞いてるわ」
「ラ、ラヴィーン!?元四番隊副隊長の!?」
「さすが、よく知ってるわね、何番隊だっけ?」
「えっ…あ〜」
「ちょっと待って!?話が見えないんだけど?ツカハラさんはスパイなの?何番隊って?」
「スパイ?この世界に来たのは私だけよ。昔の隊長に会いに来たらこの欠片が輝いてね…彼女はヴァサラ…「いえ。彼女はタイムリーパーだ。集まったみたいだな…」
ラヴィーンと呼ばれた真っ赤なドレスを来て、眼鏡をかけた妖艶な女性はツカハラの素性について話していくが、どうもエリックと噛み合わない。
光景を見かねたのかハリソンはまるで親戚の子どもが就職したかのように軽く、かつあっさりと彼女の素性を漏らしてしまった。
聞いたところによると彼女はある日『ヴァサラ』の世界に行き、そして日を増すごとに?、死ぬごとに?、本人にもトリガーは分からないが『エリック達』の世界をも往復するようになったらしい。
「ヴァサラ軍…そういえばすごい強そうなおじいさんがそんな名前だったような気がする。何かの夢だったかな?僕はその人に会ったことあるよ!」
エリックの中にはおぼろげな記憶があった。
愛する父親とどこかの世界で戦った銀髪の凄まじいオーラの男。
その男は自身を覇王ヴァサラと名乗っていたこと。
「そんなことがあったのね…フフ、あの人ならやりかねないかも。さ、行きましょ、ヘリは私が操縦するわ」
「で、できるの?」
「心配はいらない、その人はどういうわけかヘリの操縦がうますぎる。やったことがないのが信じられないくらいにな。それにそのヘリにはザ・ロイヤル製の安全装置がある。絶対に墜落しないやつだ。」
「ヘリの中に医療キットもあります。私が作った自信作ですので。あ、申し訳ありません、私はエデン。エージェント:エデンと申します。エデンというカクテルは…ご存じないですかね?」
仰々しいガスマスクをつけた白衣の男はザ・ロイヤルのエージェントよろしくエデンというカクテルの名前で自己紹介をし、何も隠していない目でにこりと笑う。
「エデンは新入りの医療班だが、腕は確かだ。本来なら武器商人に君等専用の武器を渡してほしかったところだが…彼女は別任務でな。」
「そこは大丈夫よ。私がいるんだから」
「心強いな。まずはスペインに飛んでくれ。『天下布武』と名乗る組織が街に火を放っていると聞いた。」
ヘリのコックピットにプロジェクターが作動し、ザ・ロイヤルのスペイン支部だろうか、ハリソンと似た服装の人々がノヴナガ達の攻撃を必死で防いでいるのが分かる。
このままでは全滅も時間の問題だろう。
「そして、君らに渡した『欠片』だが、それはつい数ヶ月前に飛来した隕石の欠片だ。それは一度だけ別の世界に転移できるものらしい。本当にピンチの時に使ってくれ。」
エデンが研究したらしいことをハリソンは付け足し、通信を切るとラヴィーンがヘリのエンジンを始動させた。
「あ、そうそう。私が上手いのはあくまで敵襲がない時の操縦だから」
大きくヘリが地面から離れてから後付けのように言うラヴィーンに二人の背筋が凍る。
「早く言ってよ!」
「大丈夫よ、うまいらしいから。」
「いや、見た目はすんごいスパイだけど!!敵襲来るに決まってるから!」
「大丈夫、地上で逃げるためのマシンも積んでるから。ホラ。バイク乗れるでしょ?」
ツカハラ専用と書かれた布を取ると、そこにはSF映画のような形状をした青いバイクが置かれていた。
「うわっ!AKIRAみたいなバイク!かっこい…じゃなくて!!絶対降りたほうが良いって〜!!」
ヘリはスペインへ向けて飛んでいく。
チャプター10:映画サイド・もう一つの物語
ここはアメリカ、カリフォルニア州。
現代社会とも違うこの世界にはとんでもない大企業が存在する。
バスター・エンタープライズと書かれた巨大なビルがそびえ立つオフィス街。
そこで迷子になっている二人の影。
赤髪の少女はその青い綺麗な瞳をキョロキョロと左右に動かし、見慣れないビル群の中で唯一開けた場所にあるバス停のベンチに腰を下ろすと大きなため息をつく。
「ユオったらどこに行っちゃったのかしら?せっかくピクニックに行こうって言ったのに見慣れないとこに出ちゃうなんて…」
「待ち合わせかい?」
少女に話しかけるのはとてつもなく大柄な男性。その大きさはまるで山のようでもあり、どこか優しい雰囲気を漂わせていた。
「いや、ちょっと友達とはぐれちゃって。私はイネス。この辺では見ないんだけど…なんというか…狼の耳のようなものをつけた少年を見なかったかしら?」
イネスと名乗った赤髪の少女は、頭に両手を立てて置き、獣耳のポーズをしてみせる。
大柄の男は申し訳なさそうに首を横に振ると、ツカハラ達が渡されたのと似たような形状の『欠片』をイネスに二つほど手渡す。
その二つはまるでパズルのピースのようにピッタリとくっつき、割れていたとは思えないほど美しく修復される。
「どうしてかな…君とその子はまるでその欠片のようにきれいにくっつくような気がするんだ…なんというか…すぐに見つかる気がする。僕にもそんな友人がいたんだ。ポッポって言うんだけどね。」
「なんだか素敵な話ね、もっと聞いてたいけど、ごめんなさい…ユオを探しに行かないと。」
「ああ、そうするといい。僕はダンプ。ビッグダンプって呼ばれているよ。」
ビッグダンプと名乗った男性は停車したバスに乗り込み、イネスに優しく手を振った。
「なんだかまた会いたくなるような人ね…ビッグダンプ…」
『ともかく』とイネスはバス停から腰を上げ、再びユオを探し始めた。
「ねぇ、本当にこっちであってる?ねぇってば!」
「…ナガーン!」
もじゃもじゃ頭のどこか抜けたような男のサムズアップに不安を覚えながら、イネスが言っていた特徴的な狼の耳の少年、ユオは彼の案内についていく。
「ナガーン!」
「露店?ここにイネスがいるの?」
「ナガーン!」
ナガーンはニコニコと笑いながら露店を回り、手当たり次第に美味しそうなものを食べていく。
「…!!」
「あっ!」
案内するんじゃないのかと怒鳴り散らしたくなる様子すら吹き飛ぶほどの勢いでナガーンは露店からそそくさと逃げていく。
「コイツ…」
ユオの体が狼のように変貌し、もじゃもじゃの男に一瞬で追いつくと彼の特徴的なコートに噛みつく。
「ナガーン!?」
彼がポイ捨てしたらしいバナナの皮を踏みつけ、互いに大転倒すると、ナガーンは再び競歩のようなスピードでササッと逃げ出していく。
「待て!」
「ああ、店がめちゃくちゃだ…二人とも落ち着いて!ここは僕が払うから!」
肥満体の男は目くじらを立てる露店の店員達に『バスター・バーンズ』と書いた領収書とともに多額の金を渡していく。
「僕は…ホーガン。ホーガンって呼んで。イネスちゃんだっけ?さっき僕よりも大柄な人とバス停で話してたよ。一緒に行こう。」
「ホント!?ピクニックに来たら変なとこに迷い込んじゃって困ってたんだよ。ああ、心配だなあ…」
「一緒に行こう。迷い込んだ理由も何となく分かるし…それに…」
肥満体の男、ホーガンはポケットから『欠片』を取り出し、何かを考えるように黙り込んだ。
「…?」
「ご、ごめん!とにかく行こう!」
ユオとホーガンの姿、バス停からポツポツと歩き出すイネスの姿を捉える小型ドローンはヴァルツにリアルタイムでその情報を送る。
「ほう…別の世界からここにも転移者が。面白い。それにあの『欠片』…ちょうどいい。『ナノ粒子』の実験といこうじゃないか。」
ヴァルツは机の上に置かれたボタンを押し、無人の戦闘機をカリフォルニアに飛ばした。
チャプター11:漫画サイド・もう一つの船
これから始まる悲劇について
あるいは、この覚束ない航路から逸脱した過失について
この海洋にとってのウィルス
あるいはバグか初期不良によって
良心の不履行に陥った
私たちの結末
僕は大嫌い 僕は大嫌い
君のベストライフ
僕は大嫌い 僕は大嫌い
僕は大嫌い 僕は大嫌い
君のベストライフ
僕は大嫌い 僕は大嫌い
誰も信じない 神様もいない 夢もクソもない
君のベストライフ 君のベストライフ
ならば何を信じたい 何を愛したい 常々足りない
君のベストライフ 君のベストライフ
欠けたものを探した 当たり前を探した
ついて回るやましさ どうせ皆加害者
分からないよ生き方 だから決めた死に方
それが君のベストライフ 君のベストライフ
全部大嫌い
(amazarashi:君のベストライフ)
「…ん?」
聞き覚えのある声が脳に響いたなと思い、居眠りをしてしまったアフロの男は目を覚ます。
同時に船内は米やら魚やらを慌ただしく運ぶ船員によりドタバタと音が鳴っていることに気づく。
「こら!ゆっくり運ぶんだべ!せっかくのお米を床に落としたら台無しだべ!」
農作業着を着た特徴的なしゃべり方をした少女は米俵を運びながら船員に指示を飛ばす。
「オイオイ、あんな若いのに働きもんだぜ…」
「おい、アフロ小僧、お前も働くんだよ!!俺達がやってんだろお!歳下が動かねえで何突っ立ってんだよ!」
歯に大量の矯正器具を着けた男はどこかガサついた声でアフロの男に発破をかけ、大量の野菜を無理矢理持たせる。
「ったく、もう賭博都市に着くんですからね…勘弁してくださいよ。」
ほっかむりを被った少年はあきれたように男に運搬用の箱を差し出し、そこに野菜を入れるように促す。
「賭博…え!?ええええ〜!!!」
ラッキーなのかアンラッキーなのか偶然にも賭博都市にたどり着いた男は、どうにかここを抜け出せないかと挙動不審気味に周囲を見渡す。
「先にあそこの港につけてください。あそこなら診療所が構えられそ…「え〜っ!!あ、アン!?なんでここに!?」
「ひ、ヒルヒルくん!?ラショウ隊長と行ったんじゃないの!?」
「お前もなんでこんなとこに!?六番隊は!?」
アンと呼ばれた綺麗な黄髪の看護師の様な服を着た女性はアフロの男、ヒルヒルと目を合わせ驚いた声を上げる。
「ってよく見たらヨモギにミミズに…こ、コバンザメ先輩いいいい!?なんで!?」
特徴的的な喋り方の少女をヨモギ、ほっかむりの少年をミミズ、矯正器具を着けた男をコバンザメと呼び、それぞれを指差し目を見開く。
「いつの間にかやめちまったのか!?俺達はヴァサラ…むぐむぐ」
「黙れ!しゃべんなアホ!」
「台無しだべ!」
ヒルヒルの甲高い声を抑えるようにコバンザメとヨモギが彼の口を塞ぐ。
アンはまあまあと苦笑いしながら二人にヒルヒルを離すように声を掛けると、『とある作戦』のための偽造船であることを明かす。
「偽造船って…よりによってなんでこんな俺より弱いのばっかり…」
「な!?失礼だべ!あたしもそれなりに任務はこなしてるべ!」
「俺様はラショ兄の一番弟子だ!」
「波動のコントロールは同じくらいだべ!」
「落ちついてくださいよ…」
「お前もだ、ミミズ!戦ってるとこ見たことねえぞ!どうすんだよ!?この中で最強は俺!?いやいやいやいや」
「アホ!一番強いのはこの俺だ!!」
「「「えっ」」」
わあわあと騒いでいた二人は思わず声を止め、コバンザメの言葉に一呼吸置いてゲラゲラと笑い出す。
「それはねえよ!コバンザメ先輩が戦ってるとこ見たことねえ!」
「いつもイブキ隊長の陰に隠れて一目散に逃げてるの知ってるべ!」
「な!?俺は旧隊長時代から無敗なんだ!お前らとは年季が違うわ!」
「あ…あははは。伝え方は悪いけど。コバンザメ先輩は頼りになるよ。この作戦にはピッタリ。でも、一番強いのはミミズくんかもね。」
コバンザメのフォローをしつつアンは自分なりの意見を述べる。
「ぼ、僕!?」
「私は医療班だからね、隠しててもわかる。君、波動のコントロール本当にうまいでしょ?そうだな…わかりやすく言うと…ガリュウくんが壊れた水道ならミミズくんは調整の幅が大きい水道…みたいな?その理論からいくと…「危ねえ!!」
コバンザメは咄嗟に乗組員が出してきたハルパーをアンをかばうようにして避ける。
「ネルン様がこの食料船を見張るように言っていたが…当たりだな。」
男の『顔だった皮膚』が特殊メイクのようにズルリと落ち、ゾンビのような見た目の猫背の男が姿を現す。
「俺の名はシフロン。ネルン様に救われた者…あの人に救済を受けた代償がこの顔だ…あの人に仇なす者は全て切り刻んできた。それが俺の信仰だ…」
シフロンと名乗るゾンビのような男は、大きくジャンプするとカモフラージュで紛れさせていた隊員ではない船員に斬りかかった。
「っ!みんな逃げるんだべ!ここはあたしが…っ!」
焦ってしまったのかヨモギが出そうとした極みは不発に終わり、鍔迫り合う体はゆっくりと力負けしていく。
ハルパーの形状の特性か、大きく湾曲した刀の切っ先はヨモギの肩にズブズブと刺さる。
「ぐっ…」
「ヨモギ!くっ…土の…「『神罰狩り』」
人間の関節とは思えぬ曲がり方をしたシフロンはギョロリとヒルヒルの方を向き、ハルパーを持ち替えて思い切り横薙ぎの一撃を与える。
ヒルヒルはどうにか刀でそれを受け止め、再び攻撃の態勢に入るが、シフロンの狙いはアンへと変わる。
「柔掌拳…「構えがなっていないな。」
「ぶっ!」
聞き慣れぬ男の声と共にシフロンの体が中を舞う。
銀髪にスーツを着た男は拳法のような構えを取り、シフロンと対峙する。
「ぐぐ…この威力…まさか『拳神』ファンファンか?」
「けんじん?何なのだそいつは?拳の神を名乗るには俺はまだ弱すぎる」
「顔は似てるけど…この人はファンファン隊長じゃない…誰?」
「そんな格好誰もしてないですしね。」
「フッ。俺は『木ノ葉隠れの里』のダンテ・李だ」
「…」
「…」
「…」
「「「「…ん?」」」」
ダンテ・李と名乗ったスーツの男は、四人のリアクションを見て逆に首をかしげる。
「夢なのにリアクションはくれないのか…悲しいな」
気を取り直してとつぶやき、眼前に迫っていたシフロンのハルパーを軽々と避けると、喉に強烈なパンチを放つ。
「ガッッ!!」
シフロンは大量の血を吐き出し、その場に膝から崩れ落ちる。
そして、自身の身体の異変に気づいた。
ーー甲状腺。人体の喉の下部にあるその器官は体温の調節や疲労の分散などの役割をしている。作者も、去年の後半に甲状腺を悪くしてしまったが、かなり生活がしづらくなったと感じている。ーー
ーー否、シフロンが食らったのはその程度の疾病とは比べ物にならない威力!彼の甲状腺はぐしゃぐしゃに潰れ、湧き出る大量の汗とかすれた声、自分の体とは思えぬほどの疲労感に支配されていた!ーー
「ハァ…ハァ…たったの一撃で…」
「たった?耐えられる予定はなかったがな。それにお前、何かを恐れて戦っているな?お前の『教祖』とやらか?」
「な、なにを…」
明らかに動揺しているシフロンの懐に飛び込んだダンテは肘を顎に向けてかち上げるような体勢をとる。
シフロンは刀の柄でそれを受け止めるが、あまりの威力に腕が痺れてしまい、刀を落とす。
そして、辛うじて目で追えたのは胸元に迫る拳。
「グアっ…!!」
拳がめり込む感覚とともに登ってくる激痛。肋骨が肺に刺さったのだろう、シフロンは意識をブラックアウトさせ、海へと沈んでいった。
「恐怖に縛られていては俺に勝つことはできん。だが…決勝前のいい準備運動になった。次は幻術だけでなく体術も鍛えるんだな。」
「あ、ありがとうございま…あれ?」
お礼を言おうと駆け寄ったアンの前にすでにダンテの姿はなかった。
そこにいる誰もがはっきりとわかるほど、ダンテの体は一瞬でどこかへと消えたのだ。
第8世界
「…ん?」
「寝てたんじゃないの?急にどっか行くなんて。夢遊病?」
DJ風の男がもぬけの殻になったダンテのベッドを指差し、尋ねる。
「いや…無限月読だ」
「無限月読?漫画の見過ぎだよ。決勝前なんだからきちんと体を休めないと」
「フッ…そうだな。」
大好きな日本の漫画の世界に入り、拳の神と呼ばれるいい夢だったなと思い、ダンテは軽い仮眠を取り始める。
「ん?」
ポケットに入れていた『欠片』を落としてしまった事を少し気にしながら…
第1世界
「消えた…?ん?何だこの欠片…?」
ヒルヒルが拾い上げ、何となく嫌な予感がしたそれを小さな箱の中にしまい、ポケットに入れると、作戦について改めて尋ねる。
船員の一人がフードを取り顔が隠れるバケットハットを被ると、ヒルヒルは絶叫する。
先程の歌は幻聴などではなく、実際に聞こえたのだ。
そしてそれは国一番の歌人、サイカのものだった。
「さ、サイカあああ!?」
「静かにしてくださいって!」
「な、なんで…?」
サイカはその少し嗄れたような、語るような声でゆっくりと話し出す。
「カムイ軍…今やあちこちを支配している奴らが俺の歌を危険視して狙っている…」
「もはやどこにいても狙われてるんだ、だからこうして逃亡…と思ったんだが、コイツの歌は人の感情を揺さぶる。絶望している全ての人間の心に共鳴し、涙を流させる…そりゃ狙われるぜ。ま、俺は売れる前からコイツはすげーって思ってたけどな!」
コバンザメの見栄を張った自慢に小さく苦笑すると、「それでも」とサイカはギターを手に取る。
「世界がどうなっても届けなきゃならない歌がある。治安の悪い賭博都市ならカムイの足もつかないだろう。」
サイカは賭博都市の港を見つめ、ゆっくりと歌い出した。
上手くいかねぇや っていつもの事だろ
不出来な人間なのは痛いほど分かってる
さっき飲み込んだあの言葉は
日の目を見る事も きっとないんだろうな
そうやって積もった部屋の埃みたいな
感情が僕等を息苦しくさせてるんなら
自分を守りたくて閉め切ったドアも窓も
無理してでも開けなきゃ窒息しちゃうよ
悩みはどうせ消えない 振り回されてばかりの世界の中で
溺れそうに もがきながら それでも悪くないなって思えるものが
どれだけあったら失敗じゃない? 僕らの人生は
完璧な人になりそこねたよ 何もねぇ人生
(amazarashi:パーフェクトライフ)
チャプター12:救済の教会
賭博都市の奥に水に浮かぶように作られた教会。
『奇跡の教会』と仰々しく書かれ、信者が涙を流しながら祈るそこを見てハズキは「くだらない」と毒づく。
潮の満ち引きでそのように見せているだけの場所を奇跡とはうまく言ったものだ。
信者に必要なのは神ではなく教師ではないかとすら思う。
「入信希望の方かな?」
不気味に傘をさし、帯刀しているハズキをまるで警戒していないかのように笑顔で近付くモルペウスはカメラに彼女を納めるかのように指で映像を撮るようなポーズをしてみせた。
「何の真似?あたしは入信希望の…「嘘はいいよ。こっちはこっちで調べはついてる。ヴァサラ軍六番隊隊長『才神』のハズキさん。」
「言ってみたけど…さすがに調べてるわよね」
ハズキはライフル銃のような武器をモルペウスに向けて放つと、地面に閃光弾を投げ、視界を奪う。
「毒の極み『女王蜂』:女王の診療所」
攻撃が来ないことを疑問視したモルペウスが咄嗟に斬撃を加えようと動くが、ハズキの攻撃はモルペウスの片目をかすめ、耳を貫いた。
「やっぱり…弱点を見抜く技か…やられたよ。『よく見てる』いや、『よく診てる』が正しいかな?」
モルペウスは刀を捨て、またしてもカメラのようなポーズを取る。
「まったく…嫌なことを思い出させてくれますねえ…モルペウスさんは西の悪魔。それも『A級以上』のね。」
何かを知っているらしい混沌は、仮面の奥に潜む古傷のようなものに触れ、苛立ち紛れにつぶやき、銃撃を生身で受けるモルペウスに対し「始まりましたねぇ」と呟いた。
「魂解:『餞』」
ビチャッと勢いよく爛れた臓器や、毒に侵され脆くなった骨が口から吐き出される。
「ずいぶんグロテスクな技ね。治癒能力?」
「一日三回までの陳腐な魂解さ。『A級悪魔』や『七大悪魔』なら無制限で使えるんだろうけど、所詮俺は『B級』だからね」
「な!?馬鹿な!?あの能力で『B級』!?西の悪魔達は口々にモルペウスは『A級以上』と言っていた…私も確かに…」
珍しく慟哭する混沌の声に気づいたのか、彼にも言い聞かせるように少し大きめの声で話し出す。
「俺の魂解ってのは厄介でね…使う人によってはD級以下、使う人によってはA級以上。そして…」
明らかにスピードが上がり、ハズキの攻撃をかわしながら指で作ったフレームに彼女を入れ続ける。
「一つ目の制約は創造力。君に伝えるだけの大きな大きな創造力。」
「二つ目は詠唱。ま、これはあの回復さえあれば余裕だけどね。」
モルペウスは何かを詠唱し始める。
「精巧たる絵画の海、眼球持たぬ昇り龍、産まれ堕ちる愚図の虚像、悲哀と絶望と御苦しみに満ちた実像、逆様の現し世、虚無を映す水鏡。魂解『現身』!」
ハズキの体に『何かを読み取られたような感覚』が走り、そして目を見開いて驚愕する。
「ヒマワリ…」
二人は死んだはずだと首を大きく横に振る。そしてこれがモルペウスの能力かと奥歯をギリリと鳴らす。
自分のトラウマ、救えなかった、今は敵にいる妹を出すとは許しておけない。
「随分たちの悪い能力ね。でも所詮は幻覚…っ」
心臓に感じる鋭い痛み、彼女が振り返った先に見えたのはかつての憧れた隊長。
「アサヒ…隊長」
「なんだ?斬られないと思ったのか?お前が俺を殺したようなもんだろ?」
「あたしも捨てたしね。どんな気持ち?お姉ちゃん」
言動は二人に、いや、アサヒ隊長やヒマワリに似ても似つかないが、それでもこの目が、耳が彼らを否定できないでいる。
戸惑うハズキの体にヒマワリの凶刃も突き刺さり、絶望の中彼女は意識を手放した。
「さて、とどめ…「いや〜、さすがモルペウス!このゴミクズの処理は俺に任せな。そういう仕事にゃ慣れてるからよ。」
どうやら一部始終を見ていたらしい石花は、台車のようなものでハズキをどこかに運んでいく。
『じ、冗談じゃねえ!十二神将ってのは最強なんじゃねえのか!やられやがった!くっ…作戦変更だ!』
石花は息を切らしながら向かったのはシェーヴァが管轄する教会の部屋。
「あ!石花さん!モルペウスくんが異教徒を倒したみたいですね!その処理は石花さんがされるとか?関心です!ネルンちゃんにそんな血が付いちゃいけない。」
早口で話すシェーヴァに多少の苦手意識を抱きつつ、石花は恐怖に慄いたような演技をする。
「も、もうこんなことは嫌だ…いつ死ぬかもわからないじゃないか…異教徒がたくさん狙ってくる…」
「死ぬじゃなくて救われるですよ?変な石花さんです。」
「そういうのがもう嫌なんだ!教会になんて入らなければよかった!!」
「入らなければ…?ネルンちゃんの言葉が響いていない…?」
「あ、いや…嘘!やる、ちゃんとやるから!」
シェーヴァの服に取り付けられていた銀の糸が石花に向けて放たれる。
それはまるで薄い斬撃武器のように目の前の柱を切り落とし、死角から石花に飛んでいく。
「ピギー!!!」
『計画通り…このバカ女はネルンに対し少しでも苦言を呈すればこうなるに決まってる…』
おそらくタカナシのであろうピハが大きく鳴くとともに、その攻撃はファブナーによって止められる。
「石花、お前は引け。そして…」
「よくやった」と小さく耳打ちすると、身体をシェーヴァに向ける。
「うちの社員に手を出したのがそちらの幹部からとはな。お前らがルピナスにケンカを売った。それでいいな。欲の極み『堕神礼賛』:苦役の念」
極みの靄はシェーヴァを囲むように現れ、周囲の建造物を無理矢理引きちぎったかのように破壊していく。
『ま、まずい…こんなの食らったら奥のネルンちゃんが…』
自身の心配ではなくどこかネルンを気にしているような様子のシェーヴァは、ファブナーの攻撃を紙一重で避けていく。
「ほう…」
「視の極み『執神歓視』:奪溌視」
ファブナーは自身の腕の動きに合わせて避ける彼女の動きと、極みの口上から自身の視界をジャックされていると勘付くと、動きと極みの発動タイミングをずらし、シェーヴァの脇腹に攻撃をかすめる。
「っ…!」
ただ靄が数ミリ当たっただけだ。それでも深々と切られたような痛みが走る。
ファブナーの攻撃は再度シェーヴァに向かっていたが、彼女は何かに気づいたようにくるりと背を向け、無抵抗のようにだらりと腕を下に垂らす。
「『蠱欲』!」
教会全体にビキビキとヒビが入り、全てを押し潰さんとするファブナーの極みが、彼に跳ね返る。
「λの極み『夢病』:贖!」
ホタルはまるで天女の布のような波動の道を作り、ファブナーに弾き返す。
反射攻撃はファブナーの欲の膜を破り、顔面に直撃し、かすかに唇が切れる。
『ダメージが少ない!?あれは大技じゃない!?』
「よく返したもんだ…今日のところは…引くとするか!」
地神五代やホタルすら見えない速度で急襲するネルンの頭を掴み、ネルンの肖像が描かれたステンドグラスに思い切り叩き込む。
「不届き…貴方も神に背いた…いいですね?私に手を出した時点で貴方方が先に手を出した…立派な冒涜です。」
「仕掛けたのはテメーの教育不足な信者だ。責任は取るんだよな?」
頬に突き刺さったステンドグラスを引き抜き、まるで飛び道具でも放つようにホタルに渡し、去りゆくファブナーに放つ。
「これは肯定と取っていいな?」
「ええ、貴方にも神罰を」
「ふっ…せっかくだから。お前らもゲームに来い。俺を殺したいのならな」
「どこまでもネルン様を愚弄する男だ…」
「ね、ネルンちゃん…ごめんなさい…」
「いいのです。いずれあの男にも神罰を与えなければと思っていましたから…地神五代全てで賭博都市の中央を目指しましょう。六賽も私達が消す…いいですね?」
「となると…?」
「挑発に乗ろうじゃないですか、ほら、あのゲームなんか私達に向いていますよ。行きましょう」
まるで磁石のように引かれ合った地神五代が一箇所に集まり、とあるゲームへと歩いていく。
チャプター13:四凶乱舞
「さぁ!!今夜は最高に盛り上がっていくぜ!このアタシ、アンティも参加するゲーム、『欠損ジジ抜き』にまさかまさかの挑戦者だ!!そして!『人間ばんえい』に志願者だ!!」
嬉しそうに騒ぐ実況者の女は机を乱暴に蹴飛ばして座る窮奇ににこやかにトランプを配りつつ、重りの括られた債務者達をゆっくり眺めてマイクを握る。
「さぁ、向こうも準備が出来たみたいだ!賭けた賭けた!人間ばんえい…「おい、実況者の女…」
下衆な笑い声を上げてマイクを奪い取った窮奇は賭場に向かう男の方を指差し、『喰え』と言う。
「コイツラ、栄養スクナイ!モット食べタァイ!!」
ぐちゃぐちゃに食い荒らされた債務者の肉片をアンティに蹴り飛ばし、渡された札束を破り捨てる。
「金なんかいらねぇんだよ…ルールを変えようぜ!クククッ…俺が勝ったら賭場の連中皆殺しだ!」
「へぇ〜、面白そうだな。アタシは飲んでもいいぜ。」
アンティは妖刀を握り、どちらでも良さげな罰夢を一瞥すると、両腕で大きく◯を作る。
「その代わり、血は俺によこせ。」
「罰夢、お前まだあの趣味の悪い…」
「よこせ。良いのか悪いのかどっちだ。」
「いいんじゃない?血くらい分けてあげようよ、早く始めてほしいなあ…僕は待ち遠しいよ…」
足をトントンと地面に着けながら待ちくたびれたように檮杌が不貞腐れたようにそっぽを向く。
「へっ。むちゃくちゃな連中だ…アタシはうれしいぜ!んじゃ、人間ばんえい、スタート!!」
オオオオオ!!という歓声とともにヴァサラ軍は人間競馬のようなゲームが始まったことを大型ビジョンで知る。
「ヴ、ヴァサラ軍の皆さん…助けてください…」
ハズキを抱えた石花がヴァサラ軍に声をかけ、意識のない彼女をゆっくり降ろす。
「ハズキちゃん!」
「地神五代にやられたようです…彼らは強い…それに…賭博都市側には六賽もいる…お願いですヴァサラ軍の皆さん!ファブナーの野望を止めてください!」
石花はラショウの前に土下座し、絞り出すように震えた声で言うと、地神五代と六賽は抗争中であることを語りだした。
「そのナリ…お前も賭博都市側だろ?」
「もうあんな恐ろしい人にはついていけない!ムシがいいのはわかってます!それでも…」
「顔を上げてよ、大丈夫!元々ファブナーの野望は止めるつもりだったんだ!ボク達に任せて!」
「おい!」
ルトは石花に顔を上げるように告げ、彼が安心するようににこりと笑いかける。
「ありがとう…任せましたよ…」
『世の中知らねえクソガキが…こいつらをぶつければ俺が最後に全てを奪うことも余裕なんだよ…』
嫌な笑顔をバレないように作り、七福達先遣隊に合流するよう促そうとラショウにかけた声は歓声にかき消された。
人間ばんえいの仕掛け…触れれば一瞬でミンチになるような巨大な刃の歯車が一人目の脱落者を飲み込んだのだ。
檮杌の魂解はスピードタイプだ。それで我先に仕掛けを踏み、人々が潰れるのを早めたのだろう。
「なんか同じ絵で飽きたな〜」
檮杌は本来降りることが出来ないステージから身軽に飛び降り、賭けていた観客を次々と人間ばんえいの中に投げ込み、虐殺していく。
「ほらほら、投げられた人も頑張らないと!重りもないんだから〜。僕達で盛り上げようよ!」
「ふざけんな!俺達は飛び入り参加なんかしねえ!首の回らねえ債務者なんかと一緒にすんな!俺は降り…あら?」
自分の身体と腕がバラバラになるのに気づいた数秒後、男は絶命する。
降りようともがく観客を混沌がバラバラに斬り裂いていくのだ。
「いけませんねぇ、参加したのなら最後まで盛り上げるのがお役目のはず…」
「面白くなってきたね!よ~し僕も負けないぞ!」
「警告!警告!イカサマを検知!警告!」
ぐっ。と足に力を入れたが、小さなオウムの声で出鼻をくじかれる。
鳥のようにふわりと飛び、人間ばんえいのステージに入るタカナシの肩にインコが止まる。
「他の客を入れるのはルール違反だ」
ズルリと影の中からハーツが現れ、二人の手が檮杌を掴む。
「何?おじさん達?」
「おやおや、どちらかと言えば我々はこちらのほうが得意ですがねぇ…」
「だってさ、この変なお面野郎どうする?」
「さっきのチャラにしてくれるなら俺がやっちゃうよ?昇格?昇格?」
「ジャノメ、その話はするな。何が昇格だ。こちらからファブナー様に伝えると言ったはずだ。」
混沌はビジネス的な話をしながらジリジリと寄る三人に戦闘の構えを取る。
「カイナさん、ここはアンジーに任せて。ちゃちゃっとやっちゃうから」
「いや、お前らは休め。」
混沌や檮杌の大暴れにより血塗れになってしまった現金の雨に現れたのはファブナー。
カイナに下がるよう伝えると、ネルンの気配を感じ、そちらに行くよう指示を出す。
「ご指名は俺だろ?」
「おやおや、こんなところで大将のご登場とは。社員思いの素晴らしい方ですねえ。」
「ま、俺や六賽の面子もある。火を消すのが上の仕事だ。大人しくご退店願おう」
「力づくは嫌いじゃないでしょう?」
二人は向き合って戦闘態勢をとった。
人間ばんえい場で囲まれた檮杌を助けるかのように饕餮が横に並ぶ。
タカナシのものらしい小鳥をよそに、ぐちゃぐちゃになった人間の死体にかぶりつく。
「悪食な野郎だな。小鳥ってのもうまいんだぜ」
「お前が言えた義理か。普通小鳥は食わねえよ」
「ハーツ、前食うように勧めただろ?」
「断ったよな、俺。それに肉は牛肉派だ」
「まだそれ言うか」
「当然だ。嗜好なんてもんはそう変わらねえよ」
「ケッ。この言い争いはあとだ。」
「だな」
「「連携で奴らを叩く」」
「タッグマッチ?いいね、やろうよおじさん達」
「アイツラ食べタァイ!」
檮杌の足に力が入ったことを確認すると、二人はゆっくり刀を抜いた。
「ギャンブルはそこそこに暴れやがって…おい、女、俺は優しいだろ?お前のギャンブルに付き合ってやってる…クククッ。ジジを余らせたのはお前だなぁ…?」
トランプに描かれた身体のパーツ。余った札。
そして『ルールはルール』と、アンティの右足に白百合の刃を当てる罰夢。
「加減すんなよ?」
「当然だ」
罰夢は吸血白百合を思い切り振り下ろし、アンティの右足を斬り落とす。
普通の刀で斬られるよりも数倍の激痛。絶叫したくなるほどのそれを堪え、窮奇に笑いかける。
「こっからイカサマは見逃さねぇ」
「イカサマぁ?くだらねえ言いがかりつけてんじゃねえぞ!」
罰夢が配るカードにアンティ血が飛び散るのを見て窮奇は彼女の首を掴む。
「この付着した血はイカサマじゃねぇってのか?」
「カードを引け」
「ちょっと挑発しただけだろうがよぉ。また揃いだ。おいおい、ちょっとは楽しませてくれよ…」
アンティが札を取り、再び窮奇が一枚取ろうとした瞬間、罰夢の刀が指に振り下ろされる。
「っと!何の真似だ…?」
「こっからイカサマは見逃さねぇって言ったろ?アタシがイカサマを見つけて罰夢に指示をしただけだ。」
「アンタ、五感を奪えるみたいだな…順番に一つづつってところか?斬り落とされた脚の感覚が無くなって気付いたよ。視覚を奪ってカードをすり替えた。そうだろ?」
「気付いたから何だってんだよ?二人で俺を殺すか?」
「いや、俺はあくまで罰を与えるだけだ。イカサマを見破って指示を出すかどうかはアンティ次第。それが出来なきゃ斬り落とす。どちらの味方でもない…だが…」
白百合を窮奇に向けてその刃をなぞりながら恍惚とした表情を浮かべる。
「お前の血のほうが母は好きそうだ…願わくばお前に死んでもらいたい」
「母親だぁ?何言ってんだお前」
「いつまで喋ってんだよ。アタシの番だ、ようやく対等。こっからだろ?」
アンティは窮奇にカードを引かせるように促し、長年の経験からどの札がジジかを計算していく。
「おい、窮奇とか言うの、首のカードはあるか?せっかくだから先にこいつだけ揃えちまおう。すぐ死んだらつまらねえだろ?」
アンティは『引いてくれ』とばかりにカードを一枚飛び出させる。
先程相手のカードを全て盗み見た彼はカードの順番もジジも持ち札も分かっていた。しかし、それでもアンティの行動は読めない。
意味のわからないことを言う罰夢との会話中に札をすり替えた可能性すらあると考えれば考えるほど引くことをためらうのだ。
ジジは『左腕』そのこともわかっているのにどこか疑心暗鬼になってしまう。
「どうしたよ?悪魔なんだろ?ビビってんのか」
「人間ごときがくだらねえこと言ってんじゃねぇぞ?引いてやるよ!」
挑発に乗るように窮奇は出されたカードを引く。
引いたカードは左腕。
くだらない挑発に乗ってしまった事に思わず表情を歪める。
「アンタ、ギャンブル向いてないよ。アタシより数倍強いのは言動や能力でわかる。ただそれは戦いの話さ。」
窮奇から引いたカードは綺麗に揃い、捨て札になるが、『首じゃなかったか』と残念そうに呟く。
「ここから先は、死ぬつもりでかかってきな。いや、アンタすでに死んでんだっけ?」
再度挑発を繰り返すアンティに怒りがこみ上げてくるのをどうにか抑え、冷静にカードに手をかける。
「命を弄ぶ遊戯、悪魔、どちらも神に背く行為です。」
刹那、聞こえた声とともに巨大な斧の持ち手部分殴られ、でアンティが意識を奪われる。
重力がないかのようにふわりと着地したネルンは、窮奇に狙いを定め、攻撃態勢を取った。
「今は賭けの途中…邪魔を「動かないでね」
「貴方には事前に死んでもらいます」
「母親の復活など、ネルン様に祈れば簡単なのに…分からないからこうなるんだ」
「!!」
クルスが大量に投げたナイフが、チェスナの操る死霊が、アマニタの焼けた大鎌が、それぞれ罰夢の身体に致命傷を負わせる。
いや、普通の人間ならば確実に致命傷なのだ。
罰夢はゆっくりと体から刃物を引き抜き、何事もなかったかのように傷が治る。
「俺の体は偉大なる魔女姫・罪姫の子宮と妖刀・初代村正が結合して出来たものだ…その程度の攻撃で傷の一つでもつくと思ったのか?そして…」
肉弾戦派ではないと一瞬で見抜いたらしいチェスナに接近し、白百合を振り上げる。
「地神五代、好都合だ!!俺の目的は母親の復活!お前らの血は「『斬血』!」
「!!」
皮膚が剥がれるような痛みと共に罰夢から血が噴き出す。
見覚え、いや、母親の記憶の中に覚えがある技だ。
その攻撃ですぐにメイネだとわかる。
「野暮ったい弟やな。母親そっくりや。」
「メイネ…」
「貴様。賭博都市に背いた罰…とくとその身に刻んでもらうぞ…」
乱入したメイネの刃を受け止め、素早く蹴り上げると、追撃の準備をしていたコヒナの刀を弾き飛ばす。
「すでにヴァサラ軍は上陸してるの。私達はただの先遣隊、どう転んでもあんたの負け」
「忠告はありがたく受け取っておこう。だが、それよりも先にファブナー様の邪魔をしたお前らを討つ。その後のことはこちらで考えるさ。」
「ねぇ、そしたらカイナ先輩。コイツはアンジーがやっていい?」
アンジーの前には「ネルン様…」とブツブツ呟く拘束具に全身を包み、鎖で繋がれたナイフを振り回す少女が行く手を阻んでいた。
「ちょっ。これは俺の番でしょ!?ほら、挽回のチャンス!!」
「はぁ?バカじゃないの?アンジーの出番だしぃ」
「何?やる気?」
「ベぇ〜、彫りもののセンスがない小汚い入墨野郎は引っ込んでな。」
「待て。」
混沌の斬撃をかわしながら今に戦いが始まる面々を見てファブナーが釘を刺す。
「ここは俺の都市だと言ったはずだ…目下殺さなければならないのは賭場荒らしのこいつらだ…」
「うふふ。なら私はここにいてもいいのですか?」
斧を構えたネルンが笑う。
「ああ、構わねえ…だが…それ以外の連中は…欲の極み『堕神礼讃』:死前の欲!」
ファブナーが溜め込んだ欲の塊は三手に分かれ、四凶と戦う者たちとその他の者達を分断するように地面を砕いて吹き飛ばす。
「へぇ~、あの人、すごい能力なんだね。僕もこっちは終わらせてさっさとあの人と戦おうっと」
「たいそうな自信家だな。おい、タカナシ」
「ああ、お前の言いたいことはわかる。つーか見れば分かるな。とっとと終わらせて、さっさと仕事に戻るとしよう。今日の捨て札ポーカーの担当は俺だからな。」
「…そうだったか?」
「今年カイナが侵入者で一日振り替えたのが俺だから…シフトがズレたはずなんだよ…」
タカナシはカイナの字で書かれた達筆な勤務表を指でなぞりながら今日の日付と照らし合わせ、ハーツに書いてみせる。
「あ。気づかないもんだな」
「よそ見してていいの?おじさん。」
檮杌はタカナシとの間合いを一瞬で詰め、襲いかかるが、虫でも払うかのよう軽く受け流し、羽が生えた体で飛び上がると、鳩尾を思い切り蹴り上げた。
『手応えがねえ…?』
「どこ狙ってるの?おじさん」
タカナシが狙った場所は檮杌の残像のみを残し、空を切る。
「オマエ、オイシソウ、食べタァイ!」
「おっと。」
獣のように飛びかかる饕餮のタックルをかわし、軽いジャブを放つが、ボヨヨンという心地良い効果音が聞こえるほどの反動で攻撃が跳ね返された。
「…?」
「タカナシ」
「わかってる」
二人の全身から極みのオーラが放たれる。
「さっすがファブナー様!これはアンジー活躍のチャンス!!」
アンジーは拘束具の女性とともに吹き飛ばされ、ラッキーとばかりに戦闘態勢に入った。
「ネルン様の敵は…殺す。」
「拘束具ちゃん。服のセンスも言葉のチョイスもセンスがないねぇ」
「私の名はエルレア…ネルン様の敵は殺し続けてきた。親に虐げられていた血塗られた世界をあの人が変えてくれた…あの人こそ唯一神なのです…」
「へぇ~、拘束具ちゃんも勝ちたい理由があるんだねぇ…」
エルレアと名乗った相手に尚も『拘束具ちゃん』と呼びながら、彼女の理由にそれなりの共感を示し、ふわりと飛び上がると巨大な鋏を振り下ろす。
「でも駄目。ファブナー様ほど、アンジーのセンスを理解してくれる人はいないんだから!牙を剥くなら殺しちゃうからね。」
べーと舌を出し、アンジーは改めて自身の武器のようなものを大量に取り出した。
『くっ…想像以上の力…でも。』
「でも、ヴァサラ軍はどうにかバレずに上陸している。あるいは巻き込まれていない…と考えていませんか?」
「!?」
思考を読まれたことにコヒナは息を呑む。
この男、カイナは数合交えただけでも分かるほど強い。
それでも時間稼ぎができればいいと思っていた。
外周賭場周辺が四凶のせいで大きな騒ぎが起こっていることに気付き、この騒動に乗じてあわよくば六賽と地神五代を消耗させ、ヴァサラ軍の戦いを有利に運びたかった。
続いてカイナから言われた、ギャンブルに巻き込まれたという言葉はコヒナに絶望を与えるに充分だった。
「ファブナー様はお前らの思考など上をいく。そして、お前は私に勝てると思っているのか?」
「…思ってないよ」
震える腕に力を込め、コヒナはカイナに突っ込んでいく。
賭博都市、外れ救済の教会正門前
「ジャノメ…」
「い!?」
巨大な斥力の塊が髪をかすめて吹き飛んでいく。
「あららららら、大司祭のホタルちゃんじゃないの…って!ちょっとタイム!」
息もつかせぬ斥力の波動を必死でかわしながら、胸の前で✕のポーズを取る。
「タイムタイム!おいおい、タイムって言ったら止めるルールだったろ!?ガキの頃は!」
まるで小学生が遊びで戦っている時のようなくだらないルールを持ち出しながらバツが悪そうにスプリットタンを出し、斥力の攻撃をかわしつつホタルの右足に小さな切り傷を作る。
「くっ…」
特集な形状の刀からダラリと流れるそれが唾液だとわかり、不快感を覚えると同時に、体の権利が奪われた感覚を覚えた。
「蠱の極み『蛟龍毒蛇』:蜷局」
ホタルの両脚がまるで力が抜けたようにガクッと膝をつく。
人が立つにはそれなりの力が必要だ。まるでその力を奪い取り、地面に向けて押さえつけられているような感覚だった。
「ちょっとタイムって言ったっしょ?俺。あんたの反射と俺の命令じゃ勝負はつかないの。わかる?」
「ええ、一対一ならそうでしょう…ですがここは救済の教会。地神五代は次期に戻りますよ?それまで持ちますかね?」
「やべ…なんてとこに派遣してくれちゃってんのファブナーちゃん。パワハラだよこんなの。やはりさっきのやらかしが響いてるのかね…」
しぶしぶといった様子で刀を構え、ぐ〜っと伸びをすると目つきを変えてホタルを睨む。
欠損ジジ抜き会場
「改めて聞かせてください。貴方は神を信じますか?」
「ケッ、〜」
唇の動きで何かを言っていることは分かるが、どうやら聴覚を奪われたらしいネルンにその言葉は届かない。
そして、次の感覚がオフになる。
「どこ見てんだよ神様ァ?」
「おやおや、似たような武器をお持ちですね…」
窮奇の鎌による攻撃を斧で振り払い、ぐっと握り込んだ拳で顔面を思い切り殴りつける。
「当たってねえんだよ、女ァ!!」
「盛り上がってまいりましたねえ…」
「そうだな、ちょっと待ってろ。」
ヴァルツから貰ったらしい無線機のスイッチを入れた。
「賭場はめちゃくちゃになっちまったが、面白えエキシビションマッチだ!!四凶と俺達、どちらに賭ける?今までの雑魚とは明らかに違う、さぁ賭けろ!」
「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」」」
群衆の盛り上がりと吹き荒れる札束。
彼らの殺気立った怒号に似た声が響き渡る。
「支配人は全勝だ!さすがに今回も負けねえ!支配人に一点全賭けだ!」
「あのお面のやつ、いや…俺は四凶に賭けた!」
「あの女…本当に戦えんのかあ?」
「いや、ここは大穴、宗教女に俺は賭けるぜ…!」
「お、俺も!」
「馬鹿野郎、六賽が今までどんだけ強かったか…あんなガキに負けねえだろ?」
「いや、あいつらの速さと凶暴さ観ただろ?四凶が勝つに決まってる!」
騒がしい声を笑いながら聞くファブナーに斬撃が飛ぶ。
「話し中くらい待ったらどうだ?」
「申し訳ありませんねぇ…少し皆さんに有利に賭けていただこうと思いまして…貴方の肩に羽織っている上着、落ちてますよ。」
「!」
片眉をピクリと上げたファブナーと、数秒の静寂の後、沸き立つ群衆。
度々開催するエキシビションでファブナーが上着を落としたことなどただの一度もなかったのだ。
それが今、軽々と床に落とされている。
賭場のレートは少しづつ混沌に動いていった。
「俺達は悪魔…お前らとは戦った数が違えんだよ…」
「本当に我々と戦うつもりですか?」
ファブナーとネルンは示し合わせたように同時に笑い、言う。
「当然です。」
「当然だ。」
「神たる私が負けるわけないでしょう。」
「王たる俺が負けるわけないだろう。」
チャプター14:策略
四凶が暴れ回る数刻前、ストクのゆくえを探っていたコヒナ達はあまりにも手薄すぎる警備に拍子抜けしていた。
「手薄すぎん?」
「何かがおかし…ん?」
「うう…」
ボロボロになった状態で倒れているのはカイナの部下達。
地神五代らしき三人は服のホコリを払い、ネルンの後に続き、巨大な瓶が置かれた賭場に足を踏み入れる。
ファブナーの社員らしい男は賭場のスイッチを入れ、マイクを握ると、ギャンブル開始の合図を出す。
ギャンブルの説明とは全く関係のない大型ビジョンに映った石花と何か話し込んでいるヴァサラ軍本体の姿を横目で捉えたコヒナは「すぐに向こうへ行こう」とシンラに打診する。
「いえ…ここは三手に分かれましょう。遊太郎さんと七福さんとメイネさんは兵の殲滅、コヒナさんとマサカドさんは会場にいるヴァサラ軍と合流、そして私は…」
シンラはギャンブル場に入る。
「このギャンブルで地神五代を食い止めます。」
「新たな挑戦者です!信頼の瓶!これは素晴らしい演説が聞けるのか〜!!!」
〜信頼の瓶〜
〜ルール〜
演説者の前に大きな瓶が置かれ、響いた演説につき、客が柄杓で水を入れていく。瓶が溢れたものが抜けられ、誰が一抜けをするか参加者以外の群衆は賭けることもできる。
「シンラ、ちょう、待ちや。コヒナと私で殲滅任務に行かせてもらうで…『懐かしい顔と弟の妖気』はこびりついて離れへんわ」
「それって…」
「ま、ともあれ合流せんとアカンやろ?顔見知りにも会いたいしな」
「でしたら、それで…ご健闘を…」
シンラはペコリと頭を下げ、熱気冷めやらぬギャンブル会場に視線を移す。
「ゴミ人間、それなりにやれるやろ。そっちは任せるわ」
「というわけなんで、行くしかないわな。」
「すまぬが…拙者もストクを探すとする…皆のもの…くれぐれもご無事で」
「言うと思ったわ。」
「俺達も行くZE!七福!」
「結局俺等がコンビなんかよ…」
七福と遊太郎は賭博都市の奥へ奥へと進んでいく。
映像を観た限り六賽は全てあちらへ出払っている。
このまま進めば楽なのでは無いだろうかとすら思う。
瞬間、視力が下がるかと思えるほど強烈なライトに照らされる。
「捨て札ポーカアアアアア!!!」
ハイテンションな男の声とともに、債務者やディーラーらしき男が待ち構えているテーブルに招待を受ける。
〜捨て札ポーカー〜
〜ルール〜
賭博都市に捨てられた数多のトランプから数枚選びポーカーを行う。
札集めには時間制限があり、ルート取りが重要になる。
「さあ!挑戦者よ!探せ!最強の札を!」
「七福、ここは俺が行くZE!誰か一人が合流と殲滅をしなければ戦況はジリ貧になるZE」
少しづつ、少しづつ仲間を減らすつもりかと七福は舌打ちをする。
コヒナとメイネは合流できたのだろうかとふと頭によぎるが、おそらく厳重な警備でそうはいかないだろう。
だからこそシンラは腕に覚えのある七福(自称最強らしい…)を殲滅隊にしたのだということも分かる。
本来はメイネやマサカドもこちらに入るべきではあるが…
「どうあっても合流させたくないみたいなんな」
「お待ちしていましたよ。七福さん。ピッタリ時間通り…さすがですね」
将棋の駒とすごろくが置かれたテーブルに『まるでこの場所にこの時間に来ることがわかっていた』かのようなことを言うココが優しい微笑みを浮かべて座っている。
「おー!!ココ!!ガキん時以来?悪いけど相手をしてる暇は…「座れ」
黒い靄が七福を包み、まるで服従するかのように机に座らせられる。
カメラのようなものだろうか、見たこともない技術で七福の行動を覗いていたファブナーは遠隔操作した極みの力で、ギャンブルに強制的に参加をさせようというのだ。
「ぐ…っ」
それなりにこういうものをホイホイくぐり抜ける自信がある自分が指の一本すら動かすことができない。
それどころか力を込めれば込めるほど皮膚に裂けるような激痛が走る。
「ココの予知通りだ。遊んで行けと言っただろう。心配するな、お前らは合流できない。気にするな。人は死ぬ時は一人だ…」
「いや、んなことないっしょ。人は一人で死んでも誰かの心に必ず残る」
『芋もち、痩せ眼鏡、任せた』
「七福さん、貴方は我々の都市の出張賭場を連日連夜荒らして出入り禁止と聴きましたが…」
「れんじ〜つ♪れんや〜♪ワナビ♪ウララァ♪…どうこれ?」
「…は?」
こんな緊迫した場で何を言い出すのかとココは目を丸くする。
何も考えていないからか、それともこの男の『極み』のせいか、向き合うと未来が歪むことがあるのを感じ、不快感が体に駆け巡ってくるのだ。
「この都市では貴方の力が一番厄介だ…ここで私が止めます。」
「厄介二枚貝。わ、分かったよ!そんな怖い顔するなよな〜やるよやる!やりゃいいんだろ!」
「ギャンブルは…『革命すごろく』」
ギャラリーの債務者やスタッフがざわつく。
ギャラリーの声を拾うと彼女がただの一度も負けたことがないギャンブルなのだという。
〜革命すごろく〜
〜ルール〜
すごろくと将棋の駒を用意し、先にゴールしたほうが勝ち。
サイコロを振る側→攻撃駒の使用不使用を決める。あとは普通のすごろくと同じ。
振らない側→『忍ばせマス』を選び、相手の駒を防ぐ。駒が忍ばせマスを通過してしまった場合、その駒は強制的に攻撃駒の効果が発揮され、捨てる。一度使った駒は使えない。
駒の強さは。王、飛、角、金、銀、桂、香、歩
能力↓
王…絶対的防御駒。あらゆる駒を無効化するが、攻撃で使う際は+1マスしか進めない。
飛…最強の攻撃駒。王と金以外には負けず、5マス進む。
角…飛車には劣るが、優秀な攻撃駒。3マス進む。斜め前にマスがあればジャンプすることもできる。
金…2マスのみしか進めないが、飛車と角を防御で倒すことができる。ただし桂は防げない
銀…1マスしか進ないが、飛車と角を防ぐことができる。ただし香は防げない
桂…↑の金以外の駒に負けるが、攻撃と防御成功時に8マス進む。
香…銀と歩以外に負けるが、攻撃と防御成功時に相手と同じマスへ飛ぶことができる。
歩…ただ一人王を討つことができ、王を討った場合、次の相手のターンの駒を任意で捨てることができる。
さらに、歩で捨てた駒は将棋のようにこちらが利用することができる。
「なるほど…駒の出しどころが大事みたいなんな…」
七福はサイコロを手に取り、ココの首を斬り落とすかのような目で見つめる。
ギャンブルをする時にだけ見せる表情にたじろぐことなく、彼女は修道女のように、その火傷痕のある目をゆっくり閉じ、何かを呟く。
「忍ばせマス…忍ばせコマ…私の出目…」
「まさか本当に未来でも見てるって?お前の噂は聞いてたんけど、これで証明になるかもしれんね」
七福vsココ
七福達が足止めを食らっていることを知らず、メイネはコヒナと別れ、合流の手筈を整え、罰夢に斬りかかる。
コヒナは合流に向かう道中でファブナーの極みにより、分断され、カイナと対峙する。
「お前らの作戦は大方分岐して仲間を集めようというものだろう。甘いな、やつらはギャンブルに巻き込まれた…」
「!?」
『メイネのおじさんだけは目的を達成できたのかな?』
「ファブナー様はお前らの思考など上をいく。そして、お前は私に勝てると思っているのか?」
「…思ってないよ」
震える腕に力を込め、コヒナはカイナに突っ込んでいく。
数刻前、メイネはわがままとも言える言動で罰夢の元へ辿り着いていた。
『わがままを聞いてもらった責任は取らなあかんなあ…妖刀が一本…いや、アイツの臭い…妖刀とオカンが結合したクソガキみたいやな…』
長い長い歴史、メイネの母親が起こしたあの時の大事件、妖刀との間に生まれた忌み子は再びその事件を、母親を復活させようとしている。
終わらせる。いや、終わらせなければならないとメイネは今までに無いほど刀に力を込めた。
確実に撃ち込んだはずの攻撃は欲の幕により遮断される。
攻撃をモロに受けたのは罰夢の方だ。
妖気は消えたかと、吹き飛ばされる中辿るが、母親の力の『一番受け継いで欲しくない部分』を受け継いだらしい事に気付き舌打ちをする。
一人、遠くに離されたメイネ、振り出しに戻ったかと苦笑し、再び罰夢の妖気を辿っていく。
「ファブナー、威力を込めすぎだ…」
肉片になっていた罰夢はズルズルと気持ち悪く心臓に集まり、復活する。
「はははは!素晴らしい!素晴らしいぞ!母の愛とはこういうものか!かかってこい、メイネ!ルケミアの始祖の力を思い知らせてくれる!」
チャプター15:スペイン、アルガンダ鉄道・火炎地獄行き
ヘリでの道のりは意外にもスムーズだった。
差し出された機内食をゆっくりと食べながら、「ラーメンが食べたい」だの「ヘリに乗るのははじめて」だの三人で他愛のない雑談をするほどには快適なのだ。
「すごいフカフカな椅子…ヘリってみんなこうなの?」
「そんなわけないでしょ。ザ・ロイヤルの特注品よ」
「やっぱりかぁ…こういうの持てるなんて夢だよな〜…」
「ま、もうすぐスペインに着くから。用意してね。自動操縦から手動に切り替えよし、こちらラヴィーン。着陸態勢に入るから、このままゆっくり下降するわ。座標をよろしく」
「し……………す」
「ん?」
「…………………………ます」
無線の音が全く聞こえないことに気付いたラヴィーンは一度無線機を引き抜き、再度つなげる。
しかし、それでも状況は変わらず、緊急用で支給された電池がわずかしか持たない小型のイヤホンを起動させた。
「ラヴィーンよ。無線が途絶えた。おそらく傍受されてるはず、座標を送って。このままゆっくり…」
瞬間、期待が大きく前に傾く。
ガシャガシャという音とともに海に落ちていく小型の兵器のようなもの。
カメラを通してハリソンにそれを見せると、彼は思わず息を呑む。
「内部破壊型のバズボットか!!離陸の…いや、それよりも遥か前に仕込んでいた…侵入はさせていないから恐らく身内の犯行か…どこか不時着できる場所を探す!」
「待ってられないわ!操縦が効かない!」
「エリック、伏せて!」
ヘリのプロペラは完全に止まり、ゆっくりと落ちていく、幸いにも山の岸壁にぶら下がるように引っかかり、止まったことで三人は安堵する。
重量のある方へヘリが傾くほんの一瞬の安堵ではあったが…
「み、みんな!体を反らして!」
「これよく映画で観るけど意味あるの!?」
「お姉ちゃん、とりあえずやろう!」
「ダメだ!動かない…!」
「うわああああああああ!」
「仕方ないわね!紅の極み『紅月』:積景紅葉!」
ラヴィーンの波動は紅葉が舞い散るかのように巨大な波動のクッションを作り出し、ヘリの墜落の衝撃を和らげる。
エンジンからは黒煙が立ち昇っている。おおよそ爆破炎上するのは時間の問題だろう。
ツカハラはラヴィーンに指示されるがまま渡されたバイクのエンジンを始動させ、スペインの駅へと走らせた。
「しつっこいなぁ!」
当然のことではあるが、簡単に駅には着かせてもらえないらしい。
明らかに武装しているであろう異音を響かせ、追いかける車のフロントから機関銃が覗く。
「!?」
「悪いけど、ちょっと揺れるよ!!」
「え!?うわあああああ!!」
バイクは方向を変え、細い路地へ入っていく。
しかし、上空のヘリは三人乗りのバイクを捕捉し、ミサイルを撃ち込む。
「閃花一刀流『極みの型』:深紅の花!!」
血のように紅い斬撃は空中でミサイルを叩き落とし、爆散させる。
それでも依然として装甲車は民家を破壊しながら三人を追走してくるのだ。
「はぁ!?めちゃくちゃだって!」
「当たり前でしょ。建物ごときで引いてくれるそんな生易しい組織じゃないわ。」
「くっ。このっ!」
苦し紛れにエリックが投げ込んだ手榴弾はまるでプロ野球選手の剛速球かのように装甲車に一直線に飛んでいき、車に当たり爆裂する。
「エンジンが吹っ飛んだわ。あなたなかなかやるじゃない」
「え?なんで?」
「インストールマシンの力でしょ。長くは続かないからこのまま突破しよう」
ツカハラはバイクのスピードを上げ、駅へと向かっていった。
「火の極み『煌華崩天』:業火惨舞」
敵組織の追走が止まると共に駅に降り注ぐ業火の雨、自身の極みでラヴィーンが市民に降り注ぐそれを防いだが、これから乗る予定の汽車の車両が燃え上がる。
機関室に火が燃え移れば大爆発は免れないだろう。
「ラヴィーン、ツカハラ、エリック。私だ。ハリソンだ。スペインの状況は捕捉している。君らに任務を言い渡す。バイクの荷物入れにあるツールの中に消火装置がある。それを…」
ガコンという音と共に汽車が発車する。
車両内にいるのは刀を構えたノヴナガだ。
「すぐに消したんじゃ面白くないじゃろう?のう、ラヴィーンとやら。時間も命も風前の灯と言うやつじゃな。」
「風前の灯?バカ言わないで。こんな修羅場、四番隊で散々経験したわよ。かかってきなさい、ヴァサラ軍の強さを思い知らせてあげるわ。」
とは言ったものの、汽車を止めなければならないなとぼんやりと考え込む。
そして、日本も襲われているらしいというハリソンの言葉。
心配ないとは言われたが、やはり彼女は内心不安になる。
「ツカハラ、エリック、ハッキングツールも入っている、使い方は教えよう、できるな?」
「できるな…ってやるしかないんでしょ?」
「僕がやるよ、ツカハラさん。敵は待ってくれないみたいだし…」
ツカハラとエリックはいつの間にか囲まれていたらしく、刀を構える天下布武の面々に対し、ハリソンに渡された棒状の武器に手を添える。
「エリック、頼んだ。あんたは誰よりも勇気があるんだから、映画でもそうだったでしょ?」
「映画?とにかくやってみるよ!」
ツールを取り出したエリックを合図に、ツカハラは武器を起動させる。
激しい電流が流れたそれは、刀を伝って敵を感電させる。
「すっご…」
「ふう…さすがザ・ロイヤル」
「日本の事なら任せておけ。」
「ハートランド!?あなた今日は休みでしょ?鎧事件にも出てたんだから…」
「気にするな。サービス残業というやつだ。私は日本人じゃないが、たまには悪くないだろう?」
「ふふっ…そうね。そっちは任せたわ。」
日本
Skull Gearとは想像以上に巨大な組織らしいことがわかる。
いったい豊臣財閥を壊滅させるためだけにどれだけの人員を割いているのだろうかと思ってしまう。
三国志の曹操軍は百万の軍勢を率いたそうだが、騒ぎ立て、闘技場の外で大暴れする雑兵達を観るとそれほどの人数がいるようにすら錯覚すら覚える。
しかし、それに恐れをなすものはこの闘技場にいない。
「じいさん。ちょうどいい演舞に使えそうだ…この雑魚どもを借りるぜ」
「おお!これは楽しみじゃ!大槻独虎の演舞とな!」
空手着にアフロに無精髭の男、独虎は拳を高らかに突き上げ、門下生に正拳突きの合図を出す。
「おっさん、そんな空手なんかで…かっ。」
ーー敵の呼吸が止まる。独虎が貫いたのは、心臓!!左胸に一直線に放たれたその正拳突きは大型のライフルに匹敵するほどの威力!!ーー
「次」
「調子に乗るなよ!俺達はマフィア…ッッッ!!」
ーー頭がまるで柔らかいボールになったかのような衝撃。そして痛みを通り越して死を連想させる感覚。後頭部へ思い切り蹴りを入れられたのだと感じた頃には地面に倒れ伏す自分。しかし、後頭部への打撃は格闘技において、反則!!ーー
「言っただろ?反則だろうとなんだろうと、生物的に俺の勝ちだってな」
悪そうな顔つきの男が、まるで独虎の演舞を邪魔するかのように次々と兵を倒していく。
「くっ。こいつら…だが…本体はすでに国会議事堂を襲っているはず」
国会議事堂前
「なんだ?外人?SPか?」
「気にするな。サービス残業というやつだ。私は日本人じゃないが、たまには悪くないだろう?」
メガネをかけた紳士的な佇まいの男はその軍勢に目もくれず、誰かと通信をしている。
話の内容から、彼こそがハートランドだろう。
「豊臣財閥から護衛任務が来ていてな。ここのところ激務だ。できれば大人しく引いてもらいたい」
「ふざけたことを言いやがって!」
ハートランドが腕時計のボタンを押すと、無人の車が凄まじいスピードで敵兵を次々と跳ね飛ばしていく。
「失礼。異世界の人に車道と歩道の区別はつきにくかったかな?」
謝罪のつもりだろうか、光沢のある本革の財布を出すとそれを地面に置き、閃光弾のように反響させると、着けていたループタイを信号機に巻き付け、全員の上を取る。
「ちょこまかと。」
「こちらハートランド。通行止めはもう少し長引かせてくれ。少し手荒にいく。」
加熱式タバコのようなものを取り出し、カチッと言う音が鳴るまで奥にタバコを突き刺すと、大爆発が起きる。
どうやら事前に仕込んでいた地雷の起爆装置だったようだ。
「風の極み『狂風破尽』:鎖迅!!」
「ぐあっ。」
「まだだ…」
鎖のような風の波動を巻き付けられ、思い切りそれを引っ張られると、鎌鼬のような激痛とともにチャリオットの方へ引き寄せられ、モーニングスターを頭に振り下ろされた。
「くっ。」
咄嗟に利き腕と逆の手でそれを防いだが、骨が折れたような鈍い音がする。
「…?防いだ腕ごと頭を潰す威力で撃ち込んだはずだが…」
「いや、こちらもまさかこのスーツを貫通する威力とは思っていなかった。無傷で捕らえるつもりだったが、どうやらそうはいかないらしいな。」
『奴の能力…恐らくあの時共闘した少女と恐らく同じ…ならば!』
ハートランドはライフルを構え、銃弾を一発放つと、地面に閃光弾を叩きつける。
「戦い慣れているな…」
乱暴にモーニングスターを投げつけるチャリオットの攻撃をかわしつつ背後に回るが、膝をついたのはハートランドだった。
「『風斯轟鎖』どうやら気づかなかったらしいな。背後からの攻撃は」
「風の力で武器の軌道を変えたのか…この男…強い」
『また肉がえぐれていない…?なんなんだあの服は…』
少し汚れてしまったスーツのホコリを払うと、チャリオットの変幻自在に動くモーニングスターを傘のようなもので防ぎ、ビー玉ほどの爆弾を投げつけ応戦する。
耳の近くで轟音を立てて爆ぜたそれはチャリオットの鼓膜を破り、片耳の聴力を失わせる。
「答えろ。何が目的だ?」
三半規管もおかしくなったらしい自身の身体を引き起こそうとした瞬間、ライフルを向けられ、聞こえる方の耳側に立つハートランドが尋ねた。
「世界を一度壊し、自分の理想の世界に組み替えることだ。」
「フッ。似たような理由付けをして組織に潜入したことがあったな…人は増えすぎた。だったか?まるでハイスクールの生徒の粗末な落書きだ。」
目的を笑われたと感じたチャリオットは眉をひそめるが、すぐに冷静さを取り戻し、ライフルを掴むと、風の勢いを利用した投げ技で、ハートランドを大きく転倒させる。
しかし、ハートランドは咄嗟に足払いのような動きをし、再び銃撃に有利な距離を取ると、アタッシュケースに入っている折りたたみ傘状のガジェットを取り出した。
「ちょこまかと逃げる男だ…風の極み『狂風破尽』:風霞竜巻」
武器を利用した風の極みとは違う巨大な竜巻が周囲の建造物を飲み込みながら勢いを増し、ハートランドへ向かっていく。
「今までよりも大きい風の力か。それなら…」
取り出した折りたたみ傘を開くと、水の極みに似た高圧の水が竜巻を一瞬受け止める。
「この威力は極み?使えるのか…?」
「余所見は禁物だ」
放たれたライフルの弾丸は弾に着けられていた風圧でスピードが増すギミックで急加速し、チャリオットの左肩に直撃した。
「ぐっ…今度は風か…」
『こいつ…無の極みでも使えるのか?いや…』
「風の極み『狂風破尽』:楼風虚」
今までの豪快な暴風とは真逆のそよ風がチャリオットを包み、風の迷彩のように彼の姿をその場から消失させる。
「!?」
「フッ。やはり力だけ似せたハッタリ技だったか。死ね。」
巨大な風はハートランドを包み、体中を切り裂いていく。いや、切り裂かれたのは手元のボタンを押して発動した泥のポンチョのような鎧だけだった。
「くっ…これでも傷は負うか…引き金を引く方の腕の腱をやられた。撃てて後一発か。」
ハートランドのスーツはまるで殺人でも犯してきたかのように自身の血で真っ赤に染まり、腱を切られた片腕は力なく震えていた。
「まずは姿を捉えなければ…ならば…!」
取り出したのは小型の火炎瓶。地面に叩きつけられたそれはアスファルトを焼き、周囲の温度を底上げし、熱風でチャリオットの迷彩を吹き飛ばす。
「ゲホッゲホッ!むちゃくちゃする男…「終わりだ。」
振り返った先に見える黒光りする銃口。放たれた弾丸は触れると同時に凄まじい高圧電流を流し、チャリオットの意識を一瞬で奪い去った。
銃はその威力に耐えきれず、ハートランドが手を離すとともに銃身が弾け飛んだ。
「やはりあの少女のようにはいかないか…今回のガジェットも失敗だったようだな…あの威力を安定して出すのはザ・ロイヤルの技術をもってして数百、いや数十年はかかりそうだ…」
ハートランドはどれもたった一度しか使えない五神柱ベースの武器の残骸を見てぼやく。
『武器の情報が流れていたら負けていた』と。
『念には念を。マスター以外に情報を漏らさなかったのは正解だったようだな…』
「さて、もうひと仕事…」
耳に無線機を取り付け、エリックにつなぐ。
「エリック…聞こえるか?」
スペイン・アルガンダ鉄道
「この声…父さん!…じゃないか。父さんより落ち着いた声色だ…」
「ツールの中に小型のPCがある。ケーブルを近くのコンセントに繋げ。」
「コンセント…コンセント…あった!でも敵が…いや、行くしかない!」
PCを抱えて敵の集まる中に飛び込んでいくエリックに目を丸くしながら、貨物庫に入れていたバイクのエンジンをかけ、天下布武の兵士を次々に跳ねていく。
「汽車の中でバイクって…昭和の不良かっつーの!あんた、ヤバすぎでしょ…ここに飛び込む普通!?」
「ごめん、早く火を消さなきゃと思って…」
「はぁ…やっぱりあの人の息子だわ…」
「父さんのこと、どこまで知ってるの?」
「まぁ色々と。今はいいでしょ。ったく…人なんて跳ねた場面、日方にでも見られたら格好の餌食なんだから。」
バイクから降りたツカハラはブツブツと文句を言いながら、コードのある道をどうにか切り開いていく。
「日方…って誰?」
「あ〜…私の国のうっざい警官。ハゲた頭しててさ、素行が悪い人が嫌いなのかなんなのか知らないけど、ちょっとケンカしただけで『ツカハラ、テメェ何やってんだこの野郎。ただでさえ東京で組の抗争があるんだから仕事増やすんじゃねぇ、クソガキ』だもん」
髪をわざとオールバックにし、頭頂部を片手で隠す事で、はげ頭を表現し、からかうように口調を真似て見せる。
「ま、ともあれ、道は開いたから。あとはよろしくね」
「ありがとう!お姉ちゃん!これを繋いで…うわっ!!」
PCに表示されたのは大量の計算式のようなもの。
それはひとりでに動き出し、汽車の運行システムと、スプリンクラーを作動させる。
「よくやった。私はこれより帰還する。あとは、ラヴィーンについていくように。」
ハートランドとの通信が切れると同時に、PCは強い衝撃が与えられたかのようにひび割れ、データ諸共吹き飛ばした。
「あとは…ラヴィーンさん。大丈夫かな…」
ラヴィーンはノヴナガと鍔迫り合うが、火の手が回っていく車内では明らかに自身がフリなことを悟る。
彼女が攻撃する度追加攻撃のように降りかかる火の粉による火傷はもちろん、轟々と燃える炎は酸素すら奪っていく。
「どうした?もう終わりか?寂しいやつじゃのう…『炎葬灰』!」
「閃花一刀流『一輪花』!」
火力が増した横薙ぎの一閃を、息を止めながらするりと受け流し、反撃の一撃を加える。
「やっといて本当によかったわ。オルキスには改めて感謝しとかないとね」
「火の…「紅の極み『紅月』:薔薇の風」
範囲の広い回転斬りは、ノヴナガの攻撃より数秒早く到達し、腹部に深手を負わせた。
「ぐっ…大した速さじゃのう…じゃが。お主の負けじゃ」
「!!」
巨大な炎の壁を生成し、激しく燃える車両へ飛び移る。
「地の利を得たぞ!!火の極み『煌華崩天』:焰曉炎焦災薙」
車両に突き刺した刀に炎が集まり、大爆発が起こる。
ラヴィーンは咄嗟に車両全体に極みの防護壁を張り巡らせ、避難する人々とツカハラとエリックを守ったが、その影響で技の直撃を喰らってしまった。
ひどい火傷だ。直撃してしまった自分の呼吸がさらに荒くなる。煙もだいぶ吸い込み、体温もどんどん上がっていくのが分かる。
「それでも…どうにか護らないとね…旧四番隊副隊長として…ノヴナガだっけ?世界を焼くってあんたの思想。それはそっくり返ってくるわよ。紅の極み『紅月』:究極奥義・la vie en rose!」
ノヴナガが出した炎ではない、全く別の火が空間内に発生し、ノヴナガ『のみ』を焼き尽くす。
命の火が消えようとしている刹那、ラヴィーンは火を消し、鞭でノヴナガを拘束すると、消火システムのハッキングに成功したらしい二人を車両から出し、近くの駅で待っていたザ・ロイヤルのスパイがノヴナガを何処かへ連行していった。
「三人とも、良くやってくれた。ここから数キロで目的地に着く」
「ツカハラ、運転頼むわ。少し疲れた…」
「ヘリを!?」
「バイクに決まってるでしょ」
「三人乗れなくはないけどさぁ…」
慣れない三人乗りでバイクを運転し、目的地まで走らせる。
チャプター16:六賽躍動
「そんなに早くない…」
まっすぐ走ってくるアンジーの攻撃はあっさりと空を切り、片足を鎖にとられたことで前方につんのめる。
「繋がり…これは世界で一番大事な物…私は幼い頃、父親に全身を拘束されて監禁され、何度も虐待を受けた。ネルン様に救われた今なら分かる…『繋ぐこと』は大事…」
ナイフがついた部分の鎖をアンジーに巻き付け、処刑を行うようにぐいと思い切りそれを引っ張った。
しかし、鎖は虚しい音を立てて地面に落ちた。いや、『地面に落ちた』というのにはあまりにふざけた光景がエルレアの前で繰り広げられる。
その鎖は近くにいた自殺したらしい債務者の手首とくっつき、ヘビのようにウネウネと動き出しているのだ。
「飾の極み『極彩粧替人形刺繍』:合成無機物獣」
「鎌が蛇のように…?」
債務者の手首の一部がまるで蛇の舌のようにチロチロと動き、威嚇の音を真似ているつもりなのか、地面に垂れ下がっている鎖が激しく動き、『シャーッ』という音を奏でる。
「その子と遊んで勝てるかな?」
武器を失ったエルレアだったが、自身を拘束している鎖を応用し、新たな武器を作り出すことで鎌の蛇を締め上げ、バラバラに砕くと、再び自身の手元に武器を戻す。
「繋がりを解いてしまった、その因果はあなたに返ってくる。『反逆鎖鎌』」
「あ」
間抜けな声を上げ、アンジーの首がストンと落ちる。
確かな手応えを感じたエルレアはネルンに彼女の体を捧げるために鎖で体を拘束する。
「やられた〜…なーんて。勝った気でいるんじゃねーよザーコ」
「!?」
『な、なんなのこの奇妙な事態!?私の体と彼女の首が一体化して…』
「一歩早くアンジーの首を自分で切断しただけだよ〜。好きに組み替えが可能なんだってば。あとね…」
エルレアの新たに使っていた鎖鎌はまるで一枚の画用紙のようにペラペラになっている。
「触れたら紙になっちゃうのよね〜、こうして紙状にした武器なんだけど…固さは毛ほども変わらないわけ。な〜んか気づかない?」
「うっ…」
エルレアの周囲に薄い薄い刃物の膜が大量にあることに気づく。
鋏や針がギラギラと輝くそれはまるで、処刑用に設えたドレスのようだ。
「飾の極み『極彩粧替人形刺繍』:麗飾綺抱刺」
「繊維が絡まって避けられな…ギャアアアア!!」
エルレアは服に抱きしめられるかのように全身を貫かれ、倒れる。
アンジーは首を自らの極みでつけ直すと、破れてしまった服の一部をエルレアのつけていた鎖を巻き、オシャレな模様に変えてファブナーの元へと足早に去っていった。
中央、賭場
「このデブ、攻撃全部吸収しやがる…」
「見た目通りよく食うな。」
「またよそ見?ホントに死んじゃうよ?おじさん達。」
檮杌が走った跡は、人間ばんえいとしてきれいに整備されていた面影がなくなるほどにあちこちにクレーターが空いてしまっていた。
彼の一足一足の踏み込みが強すぎるせいだろうそれを気にもとめずにどんどんとスピードが上がっていく。
「すばしっこいネズミはやはり俺がやるに限るな」
「いつの間に!?」
「お前がどれだけ速く動いても俺には関係ない」
檮杌に放たれた弾丸はその速さでかわされるが、ハーツはもう一度撃ってこいと両手を広げてジェスチャーする。
「次は本気で行くよ。魂解『瞬足』」
「そうか、お前らはそうやって言わなければ能力が発動できないのか。なら俺も隠すのは不公平だな。」
「おい、ハーツ。仕事中だぞ!そういう騎士道は今はいいだろ。」
きちんと割り切るように嗜めるタカナシを手で制すると、スピードを上げた檮杌の影に触れる。
「俺は『影』だ。俺の生まれた貧民街じゃ光が当たらないところも少なくない。この力があったおかげでずいぶん成り上がったもんだ。ファブナー様は勧誘上手でかなわねぇ…影の極み『鬼御影』:影泥」
檮杌の影が泥状に変化し、そのスピードを殺そうと襲いかかるが、予想以上の速さで影を置き去りにし、ハーツを蹴り飛ばす。
「速いやつが力無いってのはファンタジーだな。スピード乗ったらちとは痛えか…」
凄まじい衝撃の音が響き渡った蹴りをまるで突き指でもしたかのように手を振り、苦笑いをする。
「『影雨』」
賭場の小さな影、群衆や債務者にかかる影が雨雲のように集まり、檮杌に矢のように降り注ぐ。
腕力や能力でゴリ押してばかりだった自分の戦い方が、賭博都市での仕事を経て少しづつ相手の利点を潰すものに変わっていったことを攻撃しながら実感し、ハーツは思わず口角を上げた。
「へぇ、あいつもずいぶん変わったな。で?まだやるか、デブ」
饕餮の攻撃は何度撃ち込んでもタカナシにかすりもせず、逆に放たれる小鳥を次々と喰らういたちごっこが続いていた。
「魂解『大食漢』」
「よく食うなぁ。小鳥が美味いのは分かるがさすがに食いすぎだろ。エンゲル係数どうなってんだ?金あんのか?」
懐事情に気を取られてしまったタカナシの服に饕餮の大きく開けた口が当たる。
考え込んでしまうのはよくないなと自戒し、噛みつかれるのを避け、懐から札束を出す。
「これは今月の給料の一部なんだが…お前の食費も賄えるだろ?そんなに食いたきゃうち入れ、六賽ほどじゃないにしろそれなりに強いしな。」
「イヤ、ダメ、オマエ、食う!」
「獣に何言ってもわかんねぇか…じゃ、ちょっとばかし食あたりでも起こしてもらわねぇとな。」
鳥の羽が生えたタカナシが大きく飛び上がり、指で銃のようなポーズを取る。
「10の20乗ほど食えば、ゲロの一つでも吐くだろ。」
「禽の極み『嗜嗿啄嘴』:垓鳴鳥!」
無数の…いや、そのような言葉では到底言い表せないほどの小鳥の弾幕が饕餮に降り注ぐ。
「グウウウ…クルシイ、クルシイ!」
「なんだよ、もう満腹か?まだまだ一割も食ってねえだろ?さっきの数字、もっと簡単に教えてやるよ、俺が放つ鳥の数は…一垓だ。」
「へっ。タカナシの野郎。勝負決めにいきやがったな、なら俺も遊ぶのはやめるか。」
跳弾のように跳ね回り、スピードを増していく檮杌に向けて自身の影から引き出した砲丸のようなものを思い切り投げつけ、撃ち落とす。
饕餮と檮杌、二人に鳥の群れが死体を喰らうかのように群がっていく。
「ああ〜、うめぇなあ。次はしっかり焼いたのを食わしてくれよ。」
バラバラと小鳥が砕けていき、そこからカラフルなモヒカン頭が姿を現す。
ネルンの元に情報がいっていたらしいが、もちろん賭博都市サイドにも情報は行っている。
二人が融合したこの姿は蚩尤と言うらしいことも二人は聞いていたのだ。
「ようやくお出ましか」
「なぁ、さっきのバイキングはもう終わりか?」
格段にスピードが上がっている。
二人の背後を取った蚩尤は影の盾を出したハーツの防御を突破し、思い切り殴りつけた。
「ちっ、パワー上がってるな、さすがに痛え。気をつけろよ、タカナ…「もっと早く言え!」
足の筋力と超スピードを掛け合わせた跳躍でタカナシに近づき、地面にたたき落とすように思い切り蹴り落とす。
羽で態勢を立て直し、地面との激突は免れたが、改めて対策を練らなければならないほどの相手だと感じる。
「バイキング楽しみだぜィ。チャージ三食『食砲』!!」
「『白雁』」
口に溜めたエネルギーの塊を二人に向けて放つ。
タカナシは真白な羽でそれを受け止め、ハーツに何か耳打ちする。
「久しぶりにやるか。」
「それしかないだろ」
「影の極み『鬼御影』」
「禽の極み『嗜嗿啄嘴』」
「「『天喰煌失御影鳥!!』」」
小鳥たちが渡り鳥のように隊列を成し、一つの巨大な怪鳥のような形を形成し、上から蚩尤を襲う。
その影は鳥の妖怪へと変貌し、キャパオーバーになった男の体をズタズタに引き裂いた。
「うぐっ!!クソッ!喰いきれねぇ!」
「どうした?共鳴くらい喰ってくれよ」
「ぎゃあああああ!」
断末魔は小鳥の群れが肉を啄み、引きちぎったことで掻き消される。
「とりあえず二人、あとは大将に任せるか?」
「そうだな。これだけやれば休憩時間で大丈夫だろ」
二人は人間ばんえい場を一度閉め、自分らに金を賭けた群衆に配当を渡すと、豪華な休憩室に入っていく。
信頼の瓶、会場
「私もヴァサラ軍!ここで見捨てるわけにはいかない!」
信頼の瓶を二位抜けしたらしいシンラは上空から落ちてくる剣山の処刑具から男を救い出し、ブーイングを浴びる。
「大丈夫か?」
「ルール違反だ」
「!?!?」
転がっているのは罰夢の肉片の一部。まるでそこから植物が花開くかのように罰夢の体が生え出す。
「母の力がここまでとはな…俺は、肉片の一部があればどこまでも移動できるらしい。」
罰夢は、助けるという行動に出たシンラと会場に残っている五十人以上のネルン信者を順に指差し、白百合を抜く。
「信者を使った不正投票、最下位を救う行為…どちらもルール違反だ。死に値する」
「くっ…ネルン様のところに行かせるな!全員でかかれ!」
「罰の極み『首堕白百合』:不法所持の精液」
「な、なんだこの波動量…!!逃げろ!ネルン様に報告だ!」
「だめだ!!間に合わない!助け…うわああああ!」
波動の塊らしいドロリとした白い液状のそれは信者達を包み込み、もぐもぐと喰らう動作をすると、彼らの骨を吐き出す。
グチャグチャになった肉体を大事に抱えている箱に入った魔女姫の子宮に振りかけ、どくどくという鼓動音とともに活性化させる。
「次はお前だ」
「くっ…私も抵抗程度なら」
シンラと罰夢は数度刀を打ち合うが、それだけでも分かるほどの力の差にどんどんと圧されていく。不意にギラリと光った白百合の刃がシンラの肩に食い込み、血を求めるように深々と刺さっていく。
「ぐっ…このっ!」
罰夢の鳩尾に蹴りを入れ、うまく動かなくなってしまった右肩をかばいながら、思考を巡らせる。
『やはり使いこなしきれてはいない…白百合だけなら元の持ち主の方が使えている…』
「この命に代えても、お前に一太刀入れてみせる!」
「ほう…」
「くらえっ!」
「!!」
シンラは軍師という立場にありながらジンに剣を教える程度には手練れだ。
剣技のみ、ただそれだけが素人同然と判断したシンラの一瞬の剣戟は白百合を弾き飛ばし罰夢の体に大きな傷をつける。
いや、傷こそ確かにつけたはずだった。彼の回復速度が『シンラの剣術』をただ上回っていたのだ。
「『露出する遺骨』」
罰夢の全身から硬化した骨が生え、シンラの体を貫く。
「かはっ…」
「死ね」
シンラに突き刺そうとした白百合を受け止めたのは走り込んで少し息があがっているメイネ。
「ずいぶん遠くまで飛ばされたなぁ…年寄りにはキツイわ。ほんまに、聞き分けのない弟やな。お前さんの相手は私やろ?」
「どうあっても俺を消したいらしい。」
「当たり前や、今日で全部終わりや」
メイネと罰夢は剣を交えた。
「『乱桜』ッ!!」
花びらが舞う乱斬りはカイナのレイピアに綺麗に受け流される。
花びら一つ一つが凄まじい切れ味の刃のこの技を切っ先で、刀身で優しくいなし、全て紙一重で避けていくのだ。
その光景は技を打ち込んだコヒナがその無駄のなさに一瞬目を奪われてしまうほどに美しい。
「ま、オルキス隊長ならもっと受け流し綺麗だけどね」
悪態をつきながら舞い落ちる桜の花びらに身を隠す。
カイナは軽く体をひねるようにし、一瞬だけコヒナを探し、波動の流れを察知するとレイピアを迷いなく突き出し、コヒナの手のひらを貫通させ、壁に張り付ける。
「あう…っ!」
「大人しく負けを認めろ。賭博都市をこれ以上血で汚したくない。」
「やだね。言ったでしょ?いい子じゃないって」
レイピアで貫かれた掌の穴を自ら刀で刺し広げるとカイナを突き飛ばし、反撃に転じる。
「片手が使えなくなっても向かってくるか…」
やはりスピードも剣術もカイナには敵わないと打ち合いながら悟るコヒナだったが、流れ出る血を顔に浴びせ目を潰すと、そのまま背後に回り込む。
「攻め手が単純すぎるな」
『これにも反応してくるの!?』
コヒナの体が両断される。いや、確実に両断した手応えがカイナにはあったと言う方が正しいだろう。
その『コヒナだったもの』は、はらはらと桜の花びらに変わりさらに二体のコヒナを作り出す。
「桜の極み『真桜』:欺桜!」
「分身…!?同じタイプか?」
「魔の極み『百禍之霞』:暴食夢魔」
霧のようなものは周囲に夜が来たかのように太陽を隠し、分身しているコヒナを全て切り裂く。
「『闇誘い』」
「!?」
靄はコヒナの実態を掴み、カイナの近くへと引き寄せられ、闇の中でも分かるほど妖しく輝くレイピアの先端が心臓に差し迫ってきた。
「『狩桜』」
「居合か…遅いな」
「桜の極み『真桜』:蝶桜」
コヒナの体はまるでそこに重力が消えたかのようにふわりと浮かび上がる。
「桜の極み『真桜』:奥義・桜百千!!」
カイナの周囲の重力も消えたかのように体が浮かび上がる。
刀も、発する靄も、全てがコヒナの障害物にならぬよう、木々に揺らめく桜のように浮かんだのだ。
舞い散る花弁が人の形を成していく。無数に分身した彼女の連続斬りがカイナの体に直撃する。
「魔の極み『百禍之霞』:逆児分」
「なんで…っ」
コヒナを前後から貫いたのは二人のカイナ。靄はカイナを形作り、同じように彼女を貫いた。
それだけではない、はじめから戦っていたカイナは分身だったのだ。
はじめから靄に隠れこの一撃で沈めるつもりだったらしいことを自身の血飛沫を見つめながらコヒナは悟る。
「ファブナー様に刃を向けた。貴様は死に値する」
とどめの一撃として振り上げられた極みを纏った刃を止めたのはたった一本の刀。
「やれやれ、勝てない相手にも突っ込んでいく…どこかの馬鹿弟子にそっくりじゃ…」
白髪に酒でも大量に飲んだかのような真っ赤な鼻。
飄々とした喋り方の男性は、コヒナを抱えて着地すると、カイナの分身を一撃でかき消す。
「おじさん…だれ?」
「な〜に、お師匠とでも呼べ」
「いや、それ名前じゃないし」
鼻の赤いお師匠と名乗った男は再び身を隠したカイナの居場所が分かっているかのようにとある方向を睨みつけ、居合いのようなポーズを取る。
「わしの愛弟子がこの世界の話をしていると閻魔王から聞いて来てみれば…随分と汚い戦い方をするやつじゃ…隠れてないで出てきたらどうじゃ。反省文を書き続けて腱鞘炎気味のジジイが怖いか?」
「安い挑発だな。勝てる可能性が高い戦い方をして何が悪い?」
「文句は言わねぇさ…その戦術が本当に一番有効ならなぁ!」
師匠の刀に光が集まる。
「カサーベル・ストライク!」
放たれた光の斬撃はカイナだった靄をかき消し、ついに本体が姿を現した。
師匠は瀕死のコヒナに傷薬を塗ると、攻撃が当たらない場所に彼女を運び、カイナと剣を交える。
師匠vsカイナ
欠損ジジ抜き会場
ネルンの腕に感覚が無くなる。力が抜けてしまい本来なら鎌を落としてしまうが、彼女は怯まずに窮奇に横薙ぎの一撃を与える。
「テメェ…本当に人間かァ?」
「いえ?神は神ですよ?」
「意味分かんねェこと言ってんじゃねぇぞ!!」
ネルンは少し悲しげな、まるで『今から救おうと思っていたのに』と訴えかけるような目を向け、再び優しく微笑む。
「救の極み『罪咎聖歌』:第一楽章-廻る罪科」
「貴方の罪を思い出し、悔い改めなさい。」
「へっ」
「!?」
ネルンは思わず顔を歪めて窮奇の攻撃を受け止める。
大小あれどどんな生き物でさえ何かに対し罪の意識というものがあるはずだ。いや、なければならないのだ。
それでもこの男の攻撃はまるで変わらない。これが『悪魔』というものかと苛立つ。
「本当に…救いようのない…」
「俺達はやりたいようにやっているし、殺らなきゃ殺られる世界から来てんだ。罪悪感?くだらねえ、救って貰おうなんて思っちゃいねェよ!!神様気取ってんじゃねぇぞ、小娘ェ!」
激昂した窮奇の乱舞をことごとく弾き返していくネルンは自身の感覚に寄り添うようにゆっくりと深呼吸をする。
『このガキ…気まぐれな悪戯は効いているはず…なんなんだこの落ち着きは』
「聴覚→視覚→触覚→嗅覚→味覚…ですかね。」
ネルンはこの打ち合っている数秒間、自身の能力のルーティンを探っていたのだと悟る。
「だから何だってんだ…俺は同時に二つまで…「『贖罪禊』」
ネルンの凶刃は窮奇の顔面の皮にめり込み、空いている方の腕でそこを紙でも破るかのようにベリベリと剥がしていく。
彼の顔は見るもおぞましいゾンビのようなものへと変わる。
「神に背きし不届き者は裁かれなければなりません…五感など…このように一度で奪ってしまえばいい。」
剥き出しになった眼球を潰すようにその顔を蹴り上げ、窮奇が攻撃をする間もなく再起不能になるまで鎌を振るっていく。
そして、ボロボロの彼の首に鎌をあてがい優しく微笑んだ。
「何か…祈りたいことはありますか?」
「小娘ェ…だからテメェは神なんかじゃねぇんだよ…悪魔は神には祈らねぇ…」
「そうですか…では」
振り上げられた鎌を弾く混沌の斬撃、戦っていたはずのファブナーの前から飛び退いて離れ、窮奇に触れ、彼を吸収する。
「次は貴方…「引っ込んでろ。神もどき、コイツのご指名は俺だ」
「神の前に立ったということは彼も救われたいのですよ」
「そういう問題じゃねぇ。ここでの仕切りは俺だ。これだけ賭場もめちゃくちゃに荒らされてこっちにも面子ってモンがある。ここは俺の顔を立ててもらうぜ」
「それに」と言葉を付け足し、ネルンに小さな欲の波動を放つ。
「お前もウチの従業員にケガを負わせている。次はお前だ、さんざん見逃してきたが少しだけ猶予をくれてやる。逃げ帰るなり迎え撃つなり好きにしろ」
「あら?神はいつでも救いを貴方にも向けています
よ?」
ファブナーの小さな舌打ちにようやくネルンは暗に自分の事を『邪魔だ』と言われていることに気付き、一言挨拶をするとどこかへ去っていった。
「待たせたな。だが…今攻撃しておけばよかったのに、随分と優しいんだな。悪魔ってのは」
「大切なお仕事の話でしょう?邪魔はいたしませんよ。」
混沌は礼儀正しく一礼するとファブナーに斬撃を放つ。
その斬撃はファブナーを護っていた欲の膜を寸断し、彼の生身に攻撃を届かせるほどの威力になっていた。
カッターナイフでつけられたような小さな腕の傷から流れ出る血を舐め取ると、再び欲の膜を張り直し、落ちているボロボロのコインを拾い上げ、親指に力を込めて銃弾のように発射する。
「命釘」
「無駄ですよ」
宙に舞うコインは軽々と裁断され、混沌は追撃の構えを取るが、そこにファブナーはいない。
欲の膜を脚に纏いブースターのように使うことで一瞬で背後に高速移動したのだ。
「お前がやっていたのはこうか…?欲断」
『バカな…!?これは私の世断!?この一瞬で!?』
細く、かつ斬れ味の鋭い欲の靄が混沌に直撃し、仮面を落とす。
落ちた仮面の中から現れたのは、顔半分に真っ赤な血溜まりのような痣がある恐ろしい顔。
「テメェ…よくも俺の仮面を…」
「口調が変わったな。ようやく本気か?やる気に満ちた顔は嫌いじゃねぇ」
「黙れ。はあああああ…!!」
気合を溜めるようなポーズを取ると、混沌の背中に羽が生え、黒い長髪は金色に変わる。
「『確かな絆』」
「理無尽」
混沌の斬撃は更に数段速く、そして鋭くなっていく。
その攻撃は欲の膜を張っている内側のファブナーのみを切り裂き、頬に切り傷をつける。
『次元をも斬る斬撃ってとこか…だが…』
掌に溜め込んだ欲を地面に叩きつけ、視界を奪うと、余った靄で混沌を拘束する。
「少し本気でやらせてもらう。欲の極み『堕神礼賛』:我欲瓦解!!」
「…チッ」
欲の塊に押し潰されるようにして混沌は一瞬で意識を失い、その場に倒れ伏した。
「ヒャハッ!賭けは俺達の勝ちだ!!!負けたヤローの無様なツラを見てやるぜ!」
賭けに大勝ちして浮かれたのか、ボロボロの身なりの男が賭場に乗り込み、混沌の顔を見ようと乱入する。
ファブナーは舞い散る金を数枚取り、彼の顔を隠すように落とすと、血だらけのアンティを欲の力で治療し、起きるように促す。
「アンティ、不正参加者だ」
「え」
「おやおやァ?うやむやになっちまった欠損ジジ抜きの参加者かい?」
強引に始められた欠損ジジ抜きが始められた数秒後に聞こえた男の指が飛び散る音と絶叫。
ファブナーはそれを背に、頬の血を拭うと、混沌を食いながらどこかへ消えゆく饕餮に告げる。
「そいつの技は久しぶりに俺に届いた。『復讐』は立派な欲望だ。ここは欲望が飛び交う場所。いつでも歓迎すると伝えておけ」
ファブナーはコートを翻し、ココが渡した小さなメモ用紙に書かれた『四凶』の文字に横線を引き、次の対象をホタルに決めて歩き出す。
チャプター17:ヤマトの雷神
数刻前、シンラは信頼の瓶の会場でゲームに参加していた。
しかし、拍子抜けとはこの事かと思ってしまう。
未だに一言も話さない教会側は警戒しているが、債務者と賭博都市側の演説はあまりにもひどすぎるのだ。
口を開けば金、金とそれ以外の話はせず、債務者の欲望を煽ることで瓶に水を足していく。この話は荒唐無稽。その場しのぎの演説ばかりだ。『借金をゼロにする』などいち社員ができることではないのは少し考えればわかるはずなのに何をもって水を入れているのかとすら思ってしまう。
『きっとあれはそうなりたいという願望と思い込みで入れているんだろう…希望的観測はいずれ瓦解する。ハズキ隊長みたいな人が相手じゃなくてよかった…そろそろ仕掛けるか』
シンラは拾い集めていた札束をふわりと風に乗せてその場にばら撒く。
会場にどよめきが起こり、水を入れる手を止め、債務者達が金の取り合いを始める。
シンラはゆっくりとその争いの波が収まるのを待ち、静かになったところでゆっくりと口を開く。
「お前達はなぜそんな立場にいるのか分かっていない。こんな間抜け達から水を貰わなければならないなんて皮肉なものだ。」
賭博都市の電子技術は科学都市の技術や、『あの時』の影響でヴァルツが開発を進めたことで目覚ましく発展している。
シンラはマイクのツマミを更に上げ、債務者達を罵倒するように続ける。
その声を聞いているのは石花と行動を共にするヴァサラ軍にも届いていた。
「バカ、あんなこと言ったら全員から非難を浴びちゃうだろ!ボク達に居場所を教えたいからってなんてことしてるんだ!!」
ルトは冷や汗をかきながらラショウ達に早く来るように促し、電光石火のスピードで信頼の瓶の会場へ走っていく。
「チッ…馬鹿が…」
「いや、アレはいい『演説』ですよ…本当に演説しなれているんですね、あの人は」
『余計なことしてんじゃねぇぞこの野郎…』
にこやかな顔で、シンラの演説を褒めながら心の中で『頭のいい奴がいる』と石花は毒づく。
まるで最低のライブをした会場が酷く荒れるようにあらゆるものが罵声と共にシンラに投げつけられる。
普段から着ているシンラの服が酒や残飯で変色するほどに債務者達は荒れていたが、それでも構わずに演説を続ける。
「どうした?俺の言葉が嫌なら物を投げずに他の演説者の瓶に水を入れればいいじゃないか。それができないということはどこか思い当たるフシがあるのだろう?当ててやろう。『本当にお金をくれるのか』『免除なんてないんじゃないか』そういう疑念がお前達の行動を鈍らせている。そうだろう?大丈夫。ヴァサラ軍はここに来ている。返せない借金に苦労するより、ヴァサラ軍に委ねたほうが確率ははるかに高いと、そう思わないか?積み上げた負債は希望に託すしかない?そうだろう?」
いつの間にかシンラに投げつけられていたものは完全に止まり、ゆっくり、ゆっくりとヴァサラ軍に助けられた者達の心変わりにより、瓶に水が溢れていく。
「ただいま、水が溢れました!!一位通過は『救済の教会』です!」
「「「!?」」」
司会の声に動揺したのはシンラだけではない、壇上に上がった信者は何一つとして声などあげていないのだから。
地神五代が信頼の瓶の会場の階段を一段。たった一段登っただけで信者が沸き上がり一瞬で瓶に水が注がれたのだ。
水があふれなかった二人の上に仕掛けられた剣山が作動し、押しつぶさんと落下する。
「聞いていた話と違うぞ!!最下位の剣山が作動するのではないのか!!」
「教会側はスピーチすらしていない。ルールを逸脱したゲームでこちら側がルールを守る必要はない。」
どこかから聞こえる罰夢の声を聞くと同時に、彼の声が聞こえる方ではなく、債務者達の方へと駆け出していく。
「私もヴァサラ軍!ここで見捨てるわけにはいかない!」
信頼の瓶を二位抜けしたらしいシンラは上空から落ちてくる剣山の処刑具から男を救い出し、ブーイングを浴びる。
「大丈夫か?」
「ルール違反だ」
「!?!?」
転がっているのは罰夢の肉片の一部。まるでそこから植物が花開くかのように罰夢の体が生え出す。
「母の力がここまでとはな…俺は、肉片の一部があればどこまでも移動できるらしい。」
罰夢は、助けるという行動に出たシンラと会場に残っている五十人以上のネルン信者を順に指差し、白百合を抜く。
「信者を使った不正投票、最下位を救う行為…どちらもルール違反だ。死に値する」
「くっ…ネルン様のところに行かせるな!全員でかかれ!」
「罰の極み『首堕白百合』:不法所持の精液」
「な、なんだこの波動量…!!逃げろ!ネルン様に報告だ!」
「だめだ!!間に合わない!助け…うわああああ!」
波動の塊らしいドロリとした白い液状のそれは信者達を包み込み、もぐもぐと喰らう動作をすると、彼らの骨を吐き出す。
グチャグチャになった肉体を大事に抱えている箱に入った魔女姫の子宮に振りかけ、どくどくという鼓動音とともに活性化させる。
「次はお前だ」
「くっ…私も抵抗程度なら」
シンラと罰夢は数度刀を打ち合うが、それだけでも分かるほどの力の差にどんどんと圧されていく。不意にギラリと光った白百合の刃がシンラの肩に食い込み、血を求めるように深々と刺さっていく。
「ぐっ…このっ!」
罰夢の鳩尾に蹴りを入れ、うまく動かなくなってしまった右肩をかばいながら、思考を巡らせる。
『やはり使いこなしきれてはいない…白百合だけなら元の持ち主の方が使えている…』
「この命に代えても、お前に一太刀入れてみせる!」
「ほう…」
「くらえっ!」
「!!」
シンラは軍師という立場にありながらジンに剣を教える程度には手練れだ。
剣技のみ、ただそれだけが素人同然と判断したシンラの一瞬の剣戟は白百合を弾き飛ばし罰夢の体に大きな傷をつける。いや、傷こそ確かにつけたはずだった。彼の回復速度が『シンラの剣術』をただ上回っていたのだ。
「『露出する遺骨』」
罰夢の全身から硬化した骨が生え、シンラの体を貫く。
「かはっ…」
「死ね」
シンラに突き刺そうとした白百合を受け止めたのは走り込んで少し息があがっているメイネ。
「ずいぶん遠くまで飛ばされたなぁ…年寄りにはキツイわ。ほんまに、聞き分けのない弟やな。お前さんの相手は私やろ?」
「どうあっても俺を消したいらしい。」
「当たり前や、今日で全部終わりや」
メイネと罰夢は場所を移し剣を交える。
メイネVS罰夢
「みんな、もう終わったみたいだから帰ろ。ネルン様より先に戻らないのは無礼でしょ?」
「アマニタさん。お出迎えなら『新入りの方』がいるはずでは?」
「新入りなんていたっけ?」
「ホラ!新しく入った人だよ!ボクよりも後に入信した…」
「ん〜?また新しい人?クルスさん、よく覚えてますね」
「シェーヴァが覚えてないだけだろ。実際チェスナはちゃんと覚えていた。お前はあまりにもネルン様以外に興味がなさすぎる。」
「それの何が悪いの?言ってみてよ」
「いずれ足元を掬われるな…お前はただの人間にすぎない」
「ふ〜ん?」
「ま、まあまあ…お二人は同じ目的を持つ信者。僕らが争ってはネルン様も悲しみますから」
チェスナの制止に二人は争いを止め、ナムと戦っているホタルが目に入ったことで心を一つにする。
「は!?帰んの早くね!?これは流石にキツいって!!」
「全員で叩きますよ。λの…「やめたやめた!!こりゃさすがに無理だっての!」
ホタルの攻撃範囲から逃れるように大きく飛び退きながら、仕込んだ武器で牽制し賭博都市へ戻ろうとするジャノメを襲ったのは一発の銃弾。
いや、銃弾というにはあまりにも近代的すぎる。レールガンのような軌道を描いた武器を使った新入りらしい信者の男はジャノメを吹き飛ばし、退却させる。
「よくやった」
この時代に不似合いな戦闘衣のようなものを纏った男は再び銃を構えジャノメを追撃をしようとするが、追撃を当てるには至らず逃げられてしまった。
「ちっ。残念、オレは責任持ってジャノメを追うよ」
「ネルン様の命令がまだだ。」
「そのネルン様のために討ち取ってくるんだつっーの。」
「ダメだ。ネルン様の…「いいじゃないですか。ネルンちゃんを思う気持ちに溢れてて。」
「そうかもしれませんが…我々ほどの力がない者に果たして…みなさん…「ようやく見つけたのォ…モルペウス」
チェスナが地神五代数名を男の元へ向かわせようと指示を飛ばそうとした声は雷鳴にかき消され、一人の男がそこに立つ。
「ヤマトの雷神…ミチザネ。」
「皆…この人の狙いは俺だ…先に行って…「バカなことを言わないでください。我々はネルン様のもの…あの人以外に命じられた『死』は大司祭である私が許しません」
モルペウスの発言をまるで母親のように優しく、それでいてピシャリと制するとミチザネに向き合う。
「私の言いたいことは分かりますね?」
「もちろん!」
「ネルン様に助けられた日のことは忘れていない。そうでしょう?大司祭様」
クルスを中心に精霊のようなものが浮かび上がり、チェスナも指揮棒を取る。
「なーんだ。そっか。ネルンちゃんの敵なら殺せばよかったのか。」
「気付くのが遅いよシェーヴァ。だってこの人は『異教徒』なんだから…」
地神五代と大司祭がたった一人の男を全力で殺す構えを取る。
ミチザネは口角を上げると、けたたましい雷鳴が鳴り響く。
「風神、雷神、水神」
ミチザネのオーラが跳ね上がる。
「『建速須佐之男命』」
弾けるような凄まじい力に全員がたじろぐ。
まるで天災のようなそれは大気そのものを揺らしているようにすら感じる。
「『狂飈』」
「離れてください…λの…「避けろーッ!!!!」
目上の大司祭であることすら忘れるほどモルペウスは絶叫する。
咄嗟に躱したホタルの背後の岩は異様な形に捩じ切れ崩れ落ちる。
「これは…確かに今の波動量では弾くことはできませんでしたね…」
「俺が魂解を出すまでの間、皆力を貸して!」
「しっかり連携を取りましょう。いや…僕らはその方が向いている。指揮者の極み『信徒のための音楽会』:道化師のギャロップ」
チェスナがタクトを振ると同時に炎の白馬が軽やかに飛びかかる。
「ほう…具現化系能力と似とるのォ…」
白馬はまるでミチザネの動きを完全に読んでいたかのようにチェスナのタクトに合わせて方向を変え、ミチザネの腕に軽度の火傷を負わせる。
『動きが読まれた…?』
「その馬…厄介じゃのォ…『白魔』」
周囲全てが氷結してしまうような氷の波動が炎の馬を氷結させ、かき消す。
「妙な消え方じゃ…効果時間の短い技じゃのォ…」
「御名答。僕の極みは曲の長さで変わる。だからね…『トッカータとフーガ』」
吟遊詩人のようなものが現れ、音波がミチザネを拘束し、歌声の波動が反響すると斬撃のように体が鎌鼬のように切り裂かれる。
「こいつはちと骨が折れるな…」
「なっ!?いつの間に!ぐあっ」
ミチザネはモルペウスの眼前に雷鳴とともに現れ、雷撃を放ち吹き飛ばす。
『な、なんだ…一撃でこの威力』
「そいつは氷で作った分身じゃ。」
ミチザネだった体はパキパキと音を立て砕け散り、破片が氷柱の矢のようにシェーヴァへと向かう。
「人の視界を奪うとは趣味の悪いやつじゃ」
「くっ…この程度の氷なら…」
小型のナイフを出したシェーヴァは氷柱を破壊し、仕込み銃をミチザネの額に放つ。
「たくさん武器があるようじゃが…お前さん、視界を自分自身に戻したほうがいいぞ。『黒雷』」
「指揮者の極み『信徒のための音楽会』:G線上のアリア」
二対の刀を出したミチザネは弾丸を弾くと、轟雷を落とす構えに移るが、チェスナのゾンビ兵に体を掴まれ、技を中断する。
「レクイエムはちと早いじゃろう。」
「視の極み『執神監視』:巡視百景」
シェーヴァはゆっくりと目を閉じ、全員と視界を共有し、更にミチザネの骨格をレントゲンのように透過する。
「ほぉ〜。全員で同じ視界を…怖いねぇ…」
「炮の極み『鏖浄獄烙』:燚火」
アマニタに映えた火炎の翼はミチザネが生成した氷の壁を高温の熱で溶かし、大鎌でミチザネの胸元を薙ぎ払う。
『炎で射程が伸びた!?』
「ちいっ!なるほど…視界ジャックでギリギリ躱せないところへ攻撃を…っ!!」
「魂の極み『導魂』:ダイチ」
「この人は殺気が凄まじい…クルス。絶対に無理はしないで。本当は止めたいくらいだ…」
「大丈夫だよ、ダイチ。それに…みんなもいる。」
橙色の『何か』と話しながら、小さな子どもとは思えぬほどの腕力とスピードで受け止めたミチザネを吹き飛ばしたクルスは、また違う方向を向き、赤色の『何か』と話し始める。
「『ベニ』、アマニタさんの力を増幅させるよ!」
「おいおい!俺に戦わせろよ!」
「今回は我慢してよ、アマニタさんだって『異教徒粛清』のためにやってるんだから!」
クルスの掌から炎が放たれ、アマニタの炎の力を倍増させる。
「クルスくん。僕が彼を抑えま…「『海割』」
本体が弱点だと気付いたらしいミチザネが放った水の斬撃はシェーヴァの指示により飛び出したアマニタよりも早く、クルスとチェスナに当たりかけるが、その力とホタルの力を追加した『何か』に反射され、斬撃の跡がミチザネ自身に刻まれる。
「なるほどのぉ…」
「蜃気楼!?」
ゆらりと消えた体、本体はホタルに向けて炎の攻撃を放つが、視界を共有するシェーヴァと、『何か』を動かせるクルスにより阻まれた。
ホタルの足元には地神五代につながる『波動の魔法陣』のようなものが形成されていた。
「お前さんが全員の力を底上げさせていたとはのォ…いいチームじゃねぇか。この世界の愛弟子とやりあった日を思い出すわ。」
「λの極み『夢病』:天鏡五芒星。私の波動でパワーアップをさせている…それがわかったところで止めることは不可能ですよ。」
「そうだね。俺の『投影』も完了する」
モルペウスはカメラのポーズをミチザネに向けた。
「ぶわっはっはっ!!そうか、不可能か!愛弟子以来じゃ、こちらの世界でこれほど楽しいのは…」
楽しそうに笑むミチザネに呼応するように振り出した大雨。
「『武甕槌神』!!」
「まずい…!!λの極み『夢病』:吸魂ッ!!!」
「よく考えろ。逆効果じゃ」
『しまった!!』
ホタルの体を避雷針のようにし、轟雷が地神五代へと降り注ぎ、全員を感電させる。
『意識が飛びそうだ…みんなは大丈夫かな?』
雷の魂を使役したことで誰よりも先に起き上がったクルスは、倒れている仲間たちに駆け寄り、息があるのを確認し、安堵の声ため息をつくと歩み寄るミチザネに攻撃の構えを取る。
「い〜や。選手交代じゃ」
くるりと背を向けるミチザネと閃く稲妻。
ルトの攻撃を受け止めたクルスは水の壁を張り、ルトを孤立させようとするが、横を駆け抜ける二人の侍を食い止めるには至らなかった。
「さすがに対応できなかったみたいだね。」
心なしか少し息を切らしているルトだったが、一対一の勝負に持ち込めたことで勝機を見出したのか、強く刀を握る。
「信頼の瓶の会場からたった一時間ほどでどうしてここに来れたの?」
「みんなの力のおかげ…かな」
「答えになってないよ」
「『信頼』だよ。君らのような仮初のものじゃない、確たる信頼さ」
「答えになってないって。それにボクらは同じ教会の仲間だ!」
大量の投げナイフを弾き飛ばし、ルトは極みを発動する。
ルトvsクルス
「クルスさん、加勢しま「危ない!」
チェスナを襲う剣戟を指揮棒を振るうことで咄嗟に回避し、刀を振るった男へ向けて音を奏で始める。
「ホッホッホ…地獄の使者でも儂の命は取れぬ…」
「伝説の人斬りか…ネルン様があの時にお生まれになっていれば…貴方も救えたというのに…哀れなものですね」
「そうかのう?儂はとある人に救われたことを今でも自身の誇りにしておるが…?」
開戦の合図とばかりにチェスナが出したゾンビ兵をヒジリは一瞬で斬り裂いた。
ヒジリvsチェスナ
「モルペウス…」
「閻魔王ってのはストーカーが趣味?悪魔まで仕向けてさ…」
マサカドの氷の空間を把握しているかのように距離を取ったモルペウスは、ネルンがくれたらしい地神五代の紋章に触れ、『異教徒が』と毒づく。
「人に従うようなものではない貴公がなぜ宗教のようなものに「黙れ」
持ち歩いている傘を落とし、マサカドに斬りかかる。その表情に浮かぶのは怒り。
「あの方は人間なんかじゃない、神だ!薄汚い冥界から抜け出した俺に手を差し伸べてくれたたった一つの絶対的な存在…」
「…言いたいことはそれだけか?」
マサカドはモルペウスの刀を軽々と弾き返し、居合の構えを取る。
「貴公と賭博都市に逃げた男…其奴らの愚行により死んだ者も多い…冥界に住まう武士として貴様らの行動はこれ以上見過ごせぬ…」
「見過ごせない?そもそも『視』えないだろう?」
マサカドvsモルペウス
「炮の…「『黒雷』」
加勢に飛ぶアマニタの羽根を撃ち抜いたのはミチザネの雷。
力を増したミチザネは、電光石火のスピードで更に追撃を加える。
「寂しいじゃろう?一人くらい儂の相手をしてくれないとのォ?」
「異教徒の化け物め…」
ミチザネvsアマニタ
「み、みんな…はっ!ネルンちゃ…「余所見は禁止だよ〜ん」
次々と現れるヴァサラ軍により分断されゆく仲間達の視界から、自身の視界に戻したシェーヴァを襲ったのは、顔面が潰れたかと思うほどの凄まじい殴打の衝撃と奇妙な笑い声。
極みを使っている影響で歯が飛び散るのも分かる。
「シッシッシ…帰ったと思ったかい?」
「ジャノメ…」
「ちょっ!?俺は呼び捨て!?悲しいなぁ…」
「ネルンちゃんを脅かす者の味方は全員消しますから…呼び名なんて気にしなくて大丈夫ですよ。」
服の至る所から暗器を取り出し、ジャノメの『何か』を見る。
「そんなに見つめられても〜…なんちゃって?」
ジャノメvsシェーヴァ
なぜ六賽までもがここに来ているのかとホタルは困惑する。
汚されゆく教会を見ればネルンが悲しむこと、地神五代という名で信頼を置いている幹部たちが尽く戦いに巻き込まれていくその光景に苛立ちが隠せないでいた。
「金狂いのドブネズミがここにも一人」
教団のタペストリーを見張りの信者たちの体を『組み替えて』現代アートのようにしながら教会の壁を破壊するアンジーをまるで斥力が働いたかのように吹き飛ばし、極みの力で磔にすると、なぜこの場所に六賽が来ているのかと問いただす。
「なんで…?って、ファブナー様に刃向けたのそっちじゃん。そんな事も覚えてないの?バーカ」
「私が聞きたいのはそういうことではありません。なぜ戦っていることが分かったのかと聞いているんです。」
「欲の極み『黄金色の追跡者』。ファブナー様が何かを追うときに使う『欲望の偵察機』だよ〜」
ホタルは奥歯を噛み締め、苦い表情を浮かべる。
ファブナーと交戦したあの時につけられていたのだ。
気付かないままネルンの大切な信者達を危険に晒してしまったと強い自責の念が自身の中で渦巻いていた。
「いいでしょう。貴女も倒して教会を再び平和にしてみせます」
「べぇ〜!やってみな!」
アンジーvsホタル
賭博都市の控室で、強制労働債務者達の動向を見ながら一息つくハーツとタカナシは妙な違和感を覚え、賭場へ歩き出す。
「静かすぎる…」
「うるせえ二人がいねえから…って言えたら楽だよな。妙に何の声も聞こえやしねぇ…」
「バカが紛れ込んだ。すぐにお前らの思う通り煩くなるから安心しろ。」
「…ほら見たことか」
周囲に響き渡るほどの轟音で撃ち合った刀。ハーツはその一撃でどうやって情報が漏れたのかと考えることをやめ、ラショウに視線を集中する。
「タカナ…「ヒャハ☆」
ハーツが呼ぶ前に放たれた大量の小鳥とイカれた声の主がぶつかり合う。
パンテラは小鳥の群れの攻撃を受け、体から血を流しながら満面の笑みで反撃をし、タカナシに膝をつかせた。
「効くねぇ〜☆こんな弱っちそうな『極み』でこんなにダメージ入るなんてボクちゃん興奮しちゃうよ☆」
「弱っちい?はっはっは!その通り!俺が六賽で一番弱い極みなのかもしれないな。」
パンテラの刀と召喚した小鳥が再びぶつかり合う。
「それは『使いこなせなければ』の話でしょ?」
パンテラvsタカナシ
チャプター18:三つ巴
地神五代が信頼の瓶を終えて教会でミチザネと戦っている頃に遡る。
ヴァサラ軍一行は石花の案内で賭場の裏口からゆっくりと教会へ向かっていた。
「あの人のことは不安かと思いますが…「ホッホッホ。『あのままなら』な。」
「…たった一人が助けに入っただけで戦況なんて変わりますかね…?」
「ああ、儂は彼をよ〜く知っておる。任せるに値する男じゃ」
ヒジリはシンラの救済に入ったメイネのことを思い出し、石花に優しく語りかけ、少しぬるくなってしまった団子を手渡し、微笑む。
「あ、ありがとうございます…」
苦笑いを浮かべた石花は小さく舌打ちをし、どのように全員を壊滅に持ち込むかの思案にくれる。
「はぁ〜退屈だねぇ…隊の仲間ともはぐれちゃうし、強そうなやつも全くいないし。やっぱり正面突破でよかったんじゃないの?」
勝手に賭博都市のセキュリティや教会の信者達を切り倒して進み、隊員達が各々バラバラに散るようにはぐれてしまった自業自得をさも作戦ミスかのように嘆くパンテラは奥歯が見えるほど大きな欠伸をし、退屈そうに最後尾を歩く。
「チッ…テメェらの暴走のせいでセキュリティと戦うチームと俺達教会へ行くチームに分かれたってのに呑気な野郎だ…」
賭博都市はファブナー達と四凶の乱闘による盛り上がりはもちろん、パンテラが起こした揉め事による騒ぎを聞きつけたセキュリティや信者が大量に現れ、全軍入り乱れた三つ巴の戦いになってしまい、負傷したハズキを運ぶイブキを守る部隊と、石花についていく部隊に分かれることになってしまったのだ。
「チッ…ただでさえ減っているというのに…隊長三人は大きな痛手だ…」
「あれ〜?ラショウちゃんビビってる?」
「フン。お前らの統率力がなさすぎることに苛ついてるだけだ」
「へぇ〜。じゃあ患部の前に決着つけちゃう?」
「望むところ「待って!!待ってください!!お二人が燃え尽きたら勝ち目が無くなっちゃいますから!!」
詰め寄る二人を必死で石花が引き剥がし、汗で蒸れる気持ち悪いスーツのジャケットを脱ぎ、案内を続ける。
「ここは債務者達を捕まえるためにも使われる独自のルートです。ほら、薄っすら海のニオイがしませんか?」
石花の言う通り、地下通路に心地よい潮風が鼻をくすぐる。
海上にある救済の教会が近い証拠だろう。
早速乗り込もうと子供のようにはしゃぐパンテラを再び石花が制止し、裏口らしき場所を指差す。
「先ほどの騒ぎでおそらく六賽が三人…いや…二人いるはずです。人間ばんえいが閉まっていますからね。休憩時間でしょう。二手に分かれて教会と六賽を一気に叩いてください。」
公平を期すためにと用意したくじ引きにしたことを石花は心から後悔した。
先程まで争っていたラショウとパンテラが六賽側に行くことになるとは夢にも思わなかった。
おそらく待機しているのは連携力抜群のハーツとタカナシ。いがみ合っていてはまず勝機がないだろう。
ペアを変える旨を話そうと口を開いた瞬間、賭博都市の従業員が、石花に刀を向けたことに気付き、言葉を飲み込みわざとらしく叫ぶ。
「行ってください!!!」
「大丈夫…すぐ終わ…」
ヒジリの声を遮ったのは一発の銃声。まるで『この世界には存在しない』ほど重厚で黒塗りのそれは従業員の肩を跳ね飛ばし重傷を負わせる。
「私もそこそこ強いんですよ…さ、行って。」
「仕方ねぇ…行くぞ」
「死なないでね〜☆石花ちゃん。」
「儂らは先に行く…」
三人が分かれ道を駆け出していくのを確認し、石花は従業員に銃を乱射し、命を奪う。
「貴様…キノ様達が賭場を閉めたら覚えていろ…お前の裏切りはファブナー様も既に把握済みだ。」
「あぁ?あの変な虫の発信機だろ?知らねぇと思ったのかこの野郎?それになぁ…」
援軍だったらしい血だらけの従業員達は、救済の教会の服を着た男達に連れられ、活け造りのように斬り刻まれていく。
そして、教団服を乱暴に脱ぎ捨て、息も絶え絶えの従業員の一人を石花は思い切り踏みつけた。
「よく聞いとけよ。抗争で死んだ海皇会…つまり俺の部下が既に教会に居たんだよ。お前らの死因は『教会と賭博都市』の戦争に巻き込まれた。それだけだ…」
石花は銃を自身の部下に向ける。
「え…?なんで?石花さ…ギャッ!!」
石花は従業員を連れてきた部下を全員射殺し、ファブナーに着けられた極みの発信機を脱ぎ捨てたスーツと共に血溜まりに投げ込んだ。
「ヴァサラ軍、賭博都市、教会全員の争いが始まる…そして証拠は隠滅…ハハハ…着々と俺の時代になってきたなぁ…」
石花は血溜まりの遺体を乱暴に蹴り飛ばし、『ほとぼりが冷めるまで』と自身の部屋へ戻っていった。
同時刻、賭博都市
「ねぇ〜。ファブナー様は?」
「野暮用だってさ」
「野暮用?さっき暴れたばかりだろう」
「休憩時間だって言ってたのはファブナー様だろ?」
いつもなら他愛のない話をして数時間の余暇を潰す四人だったが、どうにも間が持たない。
戻らないカイナと罰夢、どこかへ行ってしまったファブナー。
そして、接触してきたネルン。教会がいよいよ賭博都市を狙ってきたのだ。
「っし。んじゃ俺が行くわ。みんなより強いし〜」
ジャノメは刀身をペロリと舐め、ハーツの制止を聞く間もなく教会へ走り出して行ってしまった。
「ったく。おとなしくしとけよ。」
「ハーツの言う通り。小鳥でも食って黙って待ってろ。実際アイツが一番強いんだ…「おい!」
「ふ〜ん…」
「やべ…」
「バカだなお前は…」
アンジーは大きなハサミをクルクル回し、明らかに苛立った様子で被服用の布を切り、手頃な座布団のようなものを作り出す。
「…行って来い」
「言われなくても行くけど。こっちはこっちでファブナー様のためにやってんだから」
アンジーは二人に舌を出して挑発すると、ジャノメの後を追うように教会へ向かっていった。
「俺達は留守番だな」
「タカナシ、お前のせいでな。」
二人は退屈そうに出された食事に手を付けた。
同時刻、賭博都市中央
「邪魔だという言葉を聞き入れたと思っていたがな…」
ファブナーは再び自分に会いに来たネルンに『言葉が通じないのか』とばかりに呆れた顔を向ける。
「はい、あの時は。ですが、一言言うのを忘れていました…」
「?」
「今日で…全て終わりそうですね」
ファブナーは肩を震わせて笑う。
「ハハハハハ!そうだな!」
「では…」
「待てよ。チェスでもどうだ?前哨戦代わりにはなるだろ」
欲の力はまるでネルンをそこに抑え込むようにチェスの前に座らせるが、ネルンはそれを解き、立ち上がる。
「いずれやりましょう。こんな前哨戦などではなく、本格的に…」
「フッ…そうだな」
ファブナーは巨大な画面に戦っているジンとルトを映し出す。
同時刻、賭博都市。信頼の瓶会場
騒ぎを聞きつけたのは従業員だけではなく救済の教会もだ。
ルトを筆頭としたヴァサラ軍は会場に集まった敵と戦っていた。
そこに映るのは画面いっぱいに映ったファブナー。
「楽しんでいるな、ヴァサラ軍…そんなお前らにプレゼントだ。」
ファブナーが写したのは無料券と豪華客船を使って賭博都市に呼び出した一般市民。
いや、かつてヴァサラ軍が救い出した市民達だった。
ファブナーが打ち上げ花火のように放った欲望の塊は逃げ惑う市民達を飲み込み、怪しげな靄を放つ。
「解放しろ!お前らの内なる欲望を!!」
「金が…ほしい…」
「ヴァサラ軍…助けるの…遅かった…」
「お、おい!どうしたんだよ!!」
ジンの声がまるで届いていないかのように市民達は豪華客船に飾られていた刀を抜き、襲いかかる。
「くっ…」
「ハハハハハ!!お前らの弱点は強い敵でも強固な罠でもない。戦えば死んでしまうような脆い市民達だ!!さぁ…俺のところへ来い!市民達を容赦なく斬り殺してな!」
ファブナーの映像が切れる。
確かに彼の言う通り、市民など一瞬で斬り捨てることができる副隊長達が回避に徹しているのだ。
『命は奪うな』というヴァサラ軍の理念を利用する敵にジンは苛立ちながら、何かを考える。
『思い出せ…思い出せ…最近傷つけない技を見ただろ…思い出せ!!』
「ジン、ボーッとしてると死ぬぞ」
咥えタバコの男は市民からジンをかばい、器用に峰打ちを加え、気絶させる。
「ん…?」
「んもう!!加減が難しいわ!ったくとんでもない男ね!」
「軽い極みで気絶させられるだけいいんだけどねぇ…」
夫婦だろうか、紫髪の女性と眼帯の男性は極みの力で市民の意識を優しく奪う。
「そうだ!!!!これだ!」
「うおおおおお!見様見真似『獏』!」
その斬撃は市民を傷つけることなく眠らせることに成功する。
効き目が遅く、遅効性の毒のようにゆっくりではあるが…
「行け!ルト!今回はお前に譲ってやる!!」
「今回も!だろ!」
ルトはジン達が開いた道を電光石火の速さで駆けていく。
「そなた…拙者と同じ場所へ?」
「そうじゃな…ルトくん。まずは別の敵を倒しに行くとするか…」
「ヒジリの大じいちゃんと…誰?」
「拙者はマサカド…とある命令により冥界からこちらの世界へ参上した…案ずるな…お主の味方だ」
マサカドは言葉とともに眼前の信者を斬り伏せる。それだけで信用に値する人物であるとルトは信じ、スピードを上げた。
「見えた!教会だ!」
ルトの声が聞こえたらしいミチザネは「選手交代」を宣言し、飛び退いた。
チャプター19:超次元の洗礼堂
捨て札ポーカーの試合は驚くほどあっさり終わってしまった。
確かに賭博都市を走り回りカードを探すのは大変だとは感じたが、観察さえしてしまえば単純なルールだ。
それに加えて敵があまりに弱すぎるのだ。
数多のゲームに勝利してきた遊太郎にとっては拍子抜けするほどに弱い相手。
ただただ時間稼ぎをしたかったのかと思うほどにそれはあっという間の時間だった。
恐れる部下達に巨大な鉄球が襲いかかる。
「くっ!!『レッドマジシャン』を召喚!!レッドマジック!」
魔術の波動で破壊された鉄球と震え上がるファブナーの部下たちの前に男の影が映る。
「やっぱり君達って、バカだよねぇぇぇ!!」
捨て札ポーカーに負け、遊太郎に命を救われこそしたが、ファブナーに欲を奪われ廃人のようになったディーラー達を嘲笑うキノコ頭の男。
「遊太郎くん。君の持ち味はこれだよね?僕とやろうよ。僕はトミナガ、これでも立派なデュエリストなんだよ。」
遊太郎と同じ機械をはめ、会場を盛り上げるキノコ頭の男、トミナガは遊太郎と自身に爆弾を巻き付け、決闘を開始する。
遊太郎も応じるようにカードを出し、機械にはめると、二人の機械にライフポイントが現れる。
LP.4000
「「デュエル!!」」
『クククッ…やっぱりコイツもバカだよねぇ〜。僕のデッキには『封印されしエルゾディア』のパーツが五枚づつ入ってるんだよ…本来は三枚までだから反則だけど、ここは賭博都市、バレなきゃオッケーオッケー♪オッケーオッケー♪』
ゲスな笑みを浮かべ、遊太郎がカードを設置するのを待ちながら、コソコソと次の引くカードを覗き見る。
『封印されし左腕…もう三枚…これは早めに終わっちゃうなぁ〜』
「俺のターン!カードを一枚伏せ、落ちこぼれ魔導士を守備表示!ターン終了」
落ちこぼれ魔導士
攻撃力:600
守備力:300
「攻めてこないのかな?遊太郎くん?僕のターン。捨て札の守人を守備表示」
「さらに、魔法カード『掃き掃除』を発動!自分フィールド上のモンスターを墓地に送り、カードを二枚ドローする!」
『いきなりモンスターを墓地に!?』
「さらに、魔法カード『乞食の施し』!!カードを三枚ドローし!二枚捨てる!」
『また手札の入れ替え!?』
「さらに、カードを二枚伏せて、ターン終了!」
「俺のターン、ドロー!」
「バアアアアカ!!!トラップカード発動!『置き引き』!君のドローカードは僕のものだ!!」
「置き引きだと!?」
トミナガが見せたカードから手が伸び、遊太郎の引いたカードを盗み出し、強制的にフィールドに召喚する。
「このカードの効果で召喚したのは『孤独の戦士』のカード!!このカードは互いの手札を全て捨て…エ?」
「フン、かかったNA!トミナガ!お前の手口は読めていたぜ!リバースカードオープン!!『同種の獄門』!!」
「ど、同種の獄門!?」
同種の獄門
罠
墓地にあるカードと同名カードを全てデッキから除外する。
「うわああああああああああ!!!」
トミナガはぐしゃぐしゃと頭をかき乱し、膝から崩れ落ちる。
それを見ていたレートのボスは遊太郎の前に降り立ち敗者に刀を振り上げるが、危険を察知したらしいトミナガはあっという間に遠くへ逃げ去った。
『爆弾はダミー。命があれば、オッケーオッケー!オッケーオッケー!』
「あの男は後で消すが…遊太郎、デュエルだ。賭博都市の鷗倫が相手をしよう」
どこか異国訛りのある男はデュエルディスクにデッキを装着し、デュエルをするように告げる。
「くっ…次から次へと…だが…受けて立つZE!!」
遊太郎 LP.4000
鷗倫 LP.4000
「「決闘!!」」
「私のターン。ドロー!!」
「私は『反骨精神の呪い』を発動し、『殴り込み隊長』を召喚。1000ライフを払うことで…」
「ぐっ!」
遊太郎の体に殴られたような痛みが走る。ライフポイントが削られた証拠だろう。
敵の永続魔法が厄介なものだとこの一瞬だけで悟る。
遊太郎 LP.3000
「『ガリ戦士』を召喚!!」
『いきなり上級を出せる手はずが整った!?』
「俺のターン!ドロー!!俺はカードを二枚伏せ、『細菌ゾンビ』を召喚!攻撃!『バイオハンド!!』」
細菌ゾンビ 攻撃力:1000
ガリ戦士 攻撃力:700
「ガリ戦士、撃破!」
鷗倫 LP.3700
「フン、焦っているな遊太郎…ガリ戦士の効果発動!!」
「なに!?」
「ガリ戦士は体重が軽いため、勢い余った攻撃はお前に向く!!」
「くっ!」
遊太郎 LP.2000
「私のターン、ドロー!!私のカードは『獄炎流星群』!!互いのライフに500ダメージ!」
『くっ…永続魔法の力でそのダメージも俺に…』
「ぐあああああっ!」
遊太郎 LP.1000
「さらに『殴り込み隊長』を生贄に『絶対攻撃将軍』を召喚!!終わりだ遊太郎!このカードの効果発動!!1ターンに2回攻撃ができる!このカードの攻撃力は2500!!どうあってもお前に勝ち目はない!『絶対攻撃将軍』、獄炎集中砲火!!」
「くっ…リバースカードオープン!『遅刻の護封剣』!」
絶対攻撃将軍を中心に巨大な剣が現れ相手の攻撃を封じ込める。
「2ターン命を延ばしたか…だが、私の永続魔法を打ち破らなければ勝ち目はあるまい」
「フッ、そいつはどうかNA!!俺がここに来る前に戦っていたとある男は『あえてピンチ』に見せて相手を翻弄していた。」
「何が言いたい?」
「はっきり言うZE、お前に次のターンは来ない」
鷗倫はこれ以上ないくらいに笑い飛ばす。明らかにどちらが劣勢なのかは明白。ここから逆転など不可能であると。
「俺のターン!!リバースカードオープン!『感染拡大』!!細菌ゾンビを生贄に、フィールドを細菌フィールドに変えるZE!!」
絶対攻撃将軍に細菌が付着し、攻撃力を奪っていく。
「ククク…策に溺れたな遊太郎。『反骨精神の呪い』は攻撃力のアップダウンも逆に作用する」
「フッ、だと思ったぜ!これでお前の絶対攻撃将軍の攻撃力は3050!俺の魔法カードが発動されるZE!!」
「なに!?」
「魔法カード発動!『超次元の洗礼堂』!!」
二人の間に巨大な礼拝堂が現れる。
超次元の礼拝堂
魔法カード
相手フィールド上に攻撃力3000以上のモンスターが存在する時に発動可能。
自身と相手のライフポイントを同じにする
「くっ…だが『反骨精神の呪い』…「そいつはどうかNA!!」
「このカードの効果は『ライフを同一』にするだけ。回復でもダメージでもない。その効果の対象外だ!!」
「さらに!!『祭壇を守る龍・ドルヴァルザーク』を特殊召喚!!」
祭壇を守る龍・ドルヴァルザーク
攻撃力2000
守備力2000
星8
ドラゴン族:効果
『超次元の礼拝堂』がある時のみ召喚可能。
フィールド上のこのカード以外と手札全てを捨て、捨てた数×100ポイント攻撃力がアップする。
このカードが直接攻撃に成功した時、相手のターンをスキップする。
追加ターンで相手に勝利できなかった場合、自分はデュエルに敗北する。
「『祭壇を守る龍・ドルヴァルザーク』だと!?」
「破壊されたカードの枚数は7枚!!ドルヴァルザークの攻撃力は2700!!喰らえ!!『超洗礼滅光弾』!!!」
「ぐあああああ!!!」
鷗倫 LP.0
「残念だったNA、鷗倫!仲間を大切にしないヤツに俺は倒せないZE!!お前が捨て、殺してきた仲間に一生償うんだNA!」
遊太郎の額に眼のような紋章が現れる。
「罰ゲーム!!『移り変わる世界』!!」
『な、なんだこの景色は…!?さっきから変だ!?道が…街が…どんどんと移り変わって…くっ…やめろ!!お、俺はどこへ行くんだ!?』
「ここから出せ!!遊太郎オオオオオオ!!」
移り変わる幻覚の景色の中で鷗倫は慟哭する。
「七福…あいつは大丈夫だろうか…?」
遊太郎は七福の元へ走り出していく。
チャプター20:ヴァルツの策略
「思わぬ来客ではあったが…」
監視ドローンでも飛ばしているのだろうか、ヴァルツはハートランドとツカハラが映るモニターを交互に見ながら呟く。
「だが…蒔いた種は着実に育っているらしい…」
ヴァルツは『欠片』に触れ、どこかの世界へと通信を繋ぐ。
ザザーッという雑音の後に通信に出たのは軍人らしき見た目に精悍な声をした男性。
「着実に作戦は進んでいるよ、ミスターデクスター。」
「そうか。こちらも『ザ・フォース』を迎撃する手はずは整った。戦闘機の件、感謝している」
「いや、私にもメリットがあるのでね。喜んで協力しよう。無人戦闘機のデータも取りたいところだが…」
ヴァルツは『欠片』を無線機に取り付け、ファブナーと繋ぐ。
「いいタイミングだな、ヴァルツ。話が終わったところだ」
「そちらはどうだ?」
「バタついているが、気にするほどじゃねぇ。それよりそっちはどうだ?」
「予定とは違いこちらにいることになりそうだが、『欠片』は時期集まる。その時はお前の力を借りよう」
「そうか。着実に作戦は進行中というわけか…」
「ああ。『協力者』とも今連絡していた」
「そちらは任せたぞ」
通信が切れる。
ヴァルツは謎のカプセルを欠片とともにデクスターに送り届け、何処かへとヘリで飛び去った。
チャプター21:ザ・フォース・アッセンブル
「わぁ…」
ホーガンに連れられたのはイネスもユオも嫌でも見上げてしまうほどの大きさがあったオフィスビル、『バスター・エンタープライズ』だった。
その内装にイネスは思わず感嘆の声を上げ、恥ずかしそうに口を覆う。
「おや?随分小さな訪問者だ。…アポイントメントは?いや、事情は聞いている。適当にかけるといい。」
社長だろうか、威厳のある渋い声の男はまるで取引先とやり取りでもするような口ぶりでイネスとユオを埋まるのではないかと思うほどふかふかのソファーに誘導する。
「『次元超箱』の欠片を持っているな?」
「でぃめん…?何…?」
ユオは意味のわからない単語に思わず聞き返す。
「ああ、失礼しました。この欠片の事です…」
美味しそうなチャーハンを二人の目の前に置き、『欠片』を見せる。
それはイネスが大柄な男性から貰ったもの。
いや、ヴァサラ軍の訓練中に『拾った』人もいると聞く見慣れたものだった。
「それがなんとかボックス?ってやつ?」
「はい。とある戦いで砕けてしまって…あらゆる『世界』に飛び散ってしまって…いくつかが敵の手に…それを手放す意志が…「そこから先は私が説明しよう。」
マスクを深々と被った男が差し出したパソコンから話すサングラスの男は、『欠片』に光を灯し、歪な形の塊にしてみせた。
「集まっていけば自然と形が戻っていく。そしてショウ・ターには手放す意志があるものの『欠片』集める力がある。」
「ショウ・ター?」
「ああ、申し遅れたな。パソコンを持ってきたマスクの男がトップ・オブ・ジャスティス、中華料理を出した男がショウ・ター、君らをここに案内したのがホーガン、そしてこのビルの…」
男が言葉を発すると同時に響く爆発音。
デクスターと呼ばれた男が銀色に輝く金属製のスーツに身を包み、戦闘機を従えて都市を攻撃する。
「話は後だ、行くぞ!!誰も死なせるな!ザ・フォース!!」
「「「アッセンブル!!」」」
トップはビルから飛び降りながら、降り注ぐ機銃の雨をその盾で防ぐ。
「ウオオオオオ!!」
「!?」
ホーガンはビルから飛ぶと共に緑の巨人に変貌し、まるで砲丸投げのように戦闘機を投げ、破壊する。
「君達は逃げて!」
ショウ・ターは放たれるミサイルをリングのようなものを装着した腕で破壊し、階段を駆け下りていく。
「イネス、こっち!早く抜け出そう!」
狼のような姿に変わったユオが攻撃とは逆方向の非常口へイネスを乗せて駆け下りる。
「だめ!さっきの攻撃で怪我人が多い。私はヴァサラ軍!習った治癒術はこういう時に使わなきゃ。」
「あ!ちょっと待って!!」
イネスはユオから降りて走り出す。
それを追い越すのはデクスターと似た形の黒いスーツを着た男。
男は仮面の一部を外し、先程の渋い声の男が顔をのぞかせる。
「申し遅れた。私がブラックナイトだ」
渋い声の男…ブラックナイトはジェットエンジンのようなものでデクスターの前に降り立つと、掌の穴からビームを放つ。
「年端も行かぬ子供達を襲うとは、軍の大佐からチープな犯罪者に成り下がったな。デクスター。」
「戦場で子供は狙われる…リスクマネジメントは苦手かな?バーンズ、いや…ブラックナイト」
「ぐっ!?」
ビームの威力が増加し、押し返されたブラックナイトが吹き飛ぶ。
「スーツを改造したか?」
「フン、そんなチャチなものではないさ。あの時、貴様から喰らい続けた電撃は、私の体質に大きな変化を齎したのだよ。ブラックナイト!」
電撃を纏ったデクスターの腕がブラックナイトの首に伸び、放電する。
「バッテリー低下。70%です」
ブラックナイトに内蔵されているAIの声に内心焦りつつも、胸元のコアにエネルギーを溜め、放つ。
「このスーツはいい…私の力を増幅させる…この身体に貴様の力は効かん!」
「ぐああああああ!!」
両手から出る電流はスーツを貫通し、生身の身体を痺れさせ、バッテリーの低下も発生させる。
「くっ…ならば接近戦だ。」
「いいだろう」
二本の刀を抜いたブラックナイトに応えるように電撃を纏った刀を抜く。
「どうした?ただ剣をぶつけただけで随分苦しそうじゃないか。」
「なに、しつこいパパラッチよりマシさ…っ」
「相変わらず口だけは達者なようだなブラックナイト。だがこれで…ん?」
脚に喰い付かれたような違和感を感じたデクスターは視線をしたに移す。
ユオがスーツを砕かんとする威力で噛みつき、その動きを止めていたのだ。
「君を文字通りただの『狼少年』だと侮っていた。すまない。この勝利は君のおかげだ」
「当たり前じゃん!僕だってイネスを護るためにそれなりに鍛えてるんだから。」
「女性とはいいモチベーションになる。素晴らしい心がけだ。」
視線をそらしたデクスターのスーツのコアを刀で貫く。
その刀からは酸の水が流れ出し、デクスターのスーツの機能を失わせた。
「チッ!スーツがオシャカになったか…だが、この電撃は俺の力…」
デクスターは自身に凄まじい電流が流れるのを感じ、「しまった!」と声を上げる。
「水に電気を流せばどうなるか知らないわけではないだろう?状況判断は苦手かな?大佐殿?」
ブラックナイトは渾身の力でビームを撃ち込み、デクスターを再起不能にした。
しかし、もはや身体を動かすこともできないデクスターは何処か嬉しそうに爆弾を大量に落とす戦闘機を見つめる。
「『ナノ粒子』…たった数滴で街が壊滅する化学兵器だ…ヴァルツはそれの解析を終えている…クク…あの爆弾はなんだろうなあ?」
『まずい!!』
「バッテリー0%、バッテリー0%」
「こんな時に」と毒づき、ホーガン、ショウ・ター、トップが破壊した戦闘機意外の爆弾が市街地のビルの上で炸裂する。
降り注ぐ液体は一瞬でビル群を溶解させ、増殖し、ヘドロのような形状で降り注ぐ。
触れれば終わり、この街は壊滅するとブラックナイトだけでなくイネスも思い、絶望する。
『いや、諦めちゃダメって言われた…私はヴァサラ軍…』
イネスの心臓の音が大きくなる。
『あれ?これって…ギンベエ副隊長が言ってた…』
それは一日前に遡る。
イネスがピクニックに行く旨を伝えたリーゼントの男、ギンベエは『御守り』と言いながら刀を構えた。
「え!?御守りって…斬られたら私死んじゃ…「黙らんかい!!御守り言うたら御守りなんじゃ!魁の極み『侠客太刀』:侠義理ィ!!」
「ギャアアアアア…あれ?」
「イネス、おどれに送ったのは『勇気』という名の御守りじゃけえ。ヴァサラ軍たるものその心は忘れずに休暇も過ごさんかい!」
ギンベエの激励を『ピクニックなのに大袈裟だな』と聞き流してはいたが、それがこんなタイミングで助けられるとは思っていなかった。
心技体も極みの名前も浮かびはしないが、自身の力がどんなものかぼんやりと分かってくる。
「ギンベエ副隊長!ありがとうございます!ユオ、離れて!」
イネスが創造したのは街全体を覆うような布。
その布はナノ粒子を包み込み、ほんの一瞬市民にそれが降り注ぐのを遅延させた。
「遅らせたところで…」
「ふーっ!なかなかいい武器だね。特注品?大学の課題を忘れて教授にこってり絞られて遅れちゃったよ。あ、僕はソニックスパーク。よろしくね」
ベラベラと喋るチャラいサングラスをした男、ソニックスパークは、まるで時間が止まったかのような速さで市民全員を避難させ、ナノ粒子から引きはがした。
「くっ…」
「絶望しているところすまないが、デクスター。あの『ナノ粒子』は失敗だ。あれは布や建物で防げるような粗末な代物ではない」
「な!?ヴァルツが持っていたのは何だというのだ!?」
「それを作った科学者は私が匿っていてね。それはダミーさ。」
「く…このままでは済まさんぞブラックナイト!!」
ビームで吹き飛ばされる瞬間に捨て台詞のように叫んだデクスターを気にすることなく、ブラックナイトは地図を取り出す。
「残りの次元超箱は…」
「ここです!ここから残りの次元超箱が…」
「残り?まだバラバラなんじゃないの?」
「いや、出処はだいたいわかって…「そんな欠片なんてヴァサラ軍は要らないと思うよ。って言うか正しいことのために使うなら迷わず渡すと思う。でしょ?イネス」
「総督ならそう言うに決まってるわ。ショウ・ターさん、集めてください。」
「うん。ありがとう!」
ショウ・ターが欠片に手を翳すと、あらゆる世界の欠片が眩く輝き、ショウ・ターの元へ集まり、一部が欠けた四角い箱に変わる。
「よかった…これで…殆どの人が次元を行き来できなくなった。」
「いや、肝心の敵がまだ、手放していない…行くぞ。ザ・フォース!」
「ユオ、私達も!あれ…?」
イネスとユオの体が光に包まれる。
「次元超箱の力が切れたんだ。ありがとう…君達のお陰でだいぶ集まったよ。二人は僕らにとって英雄だ。」
「英雄…ありがとうございます。またみんなと会いたいわ」
「僕も、せっかくだからもっと街見たかったなぁ…ピクニック台無しだし」
「ユオ、またこっちの世界に来る時は『あの人』に頼みましょ」
「ゆ、許してくれるかな…」
「私から七福さんに頼んどくから。」
「誰のことを言っているかは知らないが…次はVIPルームを用意しておこう」
ブラックナイトは完全に消える二人を見送り、次元超箱が集まる場所へ自家用ジェットを飛ばす。
そこにすべてが集まると信じて。
チャプター22:暗号の示す先
ツカハラがバイクを走らせたのはスペインのとある街。
ラヴィーンは奇天烈なラクガキを撮影し、端末経由でエデンに送信し、自身もネットを開くとその謎の文字を解析しようと端末を動かす。
「なんだか、こんなに機械慣れして…時代錯誤ね」
「時代錯誤?ラヴィーンさんのとこにはパソコンなんてないの?」
「それどころかこんなビル群も無いわよ」
「そうなの!?」
暗号を検索しながら、雑談をしている二人にツカハラは買ってきたらしい生ハムが挟まったパンを渡し、腹ごしらえをするように促すと、別の暗号データがツカハラのスマホに送られてきたことを告げる。
「なんだろう…島?みたいな感じ?あ、これうまっ」
「なんかの写真みたいね。」
「空撮写真だよ!これ!う〜ん…なんだっけなこの島…あっ!ホントだ!これ美味しいね!」
「ホントね。おいしいわ」
「ボカディージョとかいうやつみたい。スペインのサンドイッチ…みたいな?」
『腹が…減った…』
三人の食事を眺めるのはサラリーマンらしき格好の男。
海外出張だろうか、大きなスーツケースを持った彼は、お腹の音を気にしながらまるで食の品定めをするかのように店の看板とツカハラ達を見比べる。
『ボカディージョ…美味しそうだ…小腹満たしに買っていこう…』
「すみません、ボカディージョを。あの人達と同じやつを一つ…いや、こっちのトマトとチーズのやつもください。」
「あいよ。」
『バゲットに挟まれたシンプルな生ハム、こっちはチーズとトマト…こういうのでいいんだよなぁ…』
男は時計を一瞥すると、歩きながらボカディージョを口にする。
「あ〜…トマトもありだったなぁ…」
ツカハラがボカディージョを頬張りながらラヴィーンの解析を手伝っていると、エデンから通信が入る。
ラヴィーンが『何かの数字の片割れ』であると文字を解析し、それを伝えて一分もしないうちに新たなヒントを導き出すとはさすがとしか言いようがない。
「ラヴィーンさん。座標です。その数字は座標だ。空撮写真と座標…おそらくヴァルツの本拠地はサイパンのマニャガハ島です!」
マニャガハ島とは、サイパンにある無人島だ。
マリンスポーツのメッカとして使われるその場所は、確かに軍需産業を陰でしているとは誰しもが思わないだろう。
「今から向かうわ。エデン、ヘリを出してくれる?おそらくザ・ロイヤルのヘリは全てバレてるわ。民間のヘリをチャーターして…エデン?」
ザーッという雑音と共に無線機から『オールデリート』の音声が繰り返し鳴る。
ラヴィーンは何かが起きたことを察し、ハートランドへ通信を繋ぐ。
「やられた…エデンはヴァルツの部下だ。」
「なんですって!?」
「その通信機器を今すぐ離…」
エデンが作ったらしい通信機器の本体から毒霧が噴射され、三人は眠りに落ちた。
「くっ…遅かったか。」
「次元超箱…便利なものだ。」
転移したエデンは昏睡状態に陥った三人に触れ、サイパンに消えた。
チャプター23:裏切り
「暗号の解析は順調です」
エデンはパソコンのハッキングツールとその頭脳を駆使し、ラヴィーンから逐一送られてくる暗号を解析し、ハリソンへと伝達する。
「すまない。新入りにここまでさせてしまうとは正直司令として失格だ。ここ数日の度重なる戦いにより負傷者が多くてな。」
「いえ、こちらもその方が好都合ですし」
「好都合?」
「ああ、不謹慎ですが、それであなたが私を信頼してくれるのが嬉しいんですよ」
エデンはハリソンが何か言っているのを聞かず、ラヴィーンに連絡を入れる。
「ラヴィーンさん。座標です。その数字は座標だ。空撮写真と座標…おそらくヴァルツの本拠地はサイパンのマニャガハ島です!」
随分早くわかったなと思いながら振り返るハリソンの肩に猛毒の注射針が突き刺さる。
「が…あ…」
「ついに気付きませんでしたね…ハリソン司令。いや…ハリソン」
「いつからだ…」
「いつから?最初からですよ。私は賭博都市お抱えのテロ組織『SALVATION』のリーダー『神殺医』のエデン。ヴァルツ様は我々の取引相手…ザ・ロイヤル管理の欠片を奪うため、そしてタイムリーパーのツカハラさんを殺すため。利用させていただきました。」
エデンはセキュリティを解除し、部下を招き入れる。
「ずいぶんと人望がないようだな…ヤブ医者…」
「他の部下は世界各国に派遣しているんですよ。私の下で働ける優秀な人材をスカウトするためにね。あなた方など通過点だ」
「そうか。なめられたものだ…」
ハリソンが手元の赤いボタンを押すと切れていた無線が作動し、ザ・ロイヤルの資料すべてが削除される。
部屋のモニター全てに映る『SYSTEM ALL DELETE』の文字に『しまった』と思わずエデンは呟いた。
「今から向かうわ。エデン、ヘリを出してくれる?おそらくザ・ロイヤルのヘリは全てバレてるわ。民間のヘリをチャーターして…エデン?」
そして流れるラヴィーンの無線と放たれる数発の銃弾。
バーのマスターのような男は全身が痺れるハリソンを庇うようにマシンガンを持って立ちはだかる。
「モグラは巣穴にお帰りいただこう。こちらマスター。ハートランド、裏切り者だ。こちらへ戻れるか?」
「ああ。すぐに向かう」
ハートランドに連絡を取りながら、マスターはマシンガンを放つが、欠片を握ったエデンがどこかへと消え、銃撃は不発に終わった。
「やられたな…ラヴィーンにはこちらから連絡を入れておく。マスターはザ・ロイヤルを警備してくれ」
「ありがとうございます。頼みましたよ。ミスター、ハートランド」
同時に何かを察したらしいラヴィーンからハートランドへ無線が届き、それを受け取る。
「やられた…エデンはヴァルツの部下だ。」
「なんですって!?」
「その通信機器を今すぐ離…」
エデンが作ったらしい通信機器の本体から毒霧が噴射され、三人は眠りに落ちた。
「くっ…遅かったか。」
ハートランドは悔しそうに通信を切った。
「次元超箱…便利なものだ。」
転移したエデンは昏睡状態に陥った三人に触れ、サイパンに消えた。
サイパン、マニャガハ島
「う…」
「さすがですね。ヴァサラ軍…いや、元ヴァサラ軍ですか?」
痺れる体を抑えながら起き上がったラヴィーンは、二人を庇うように鞭を取り出し、エデンの両腕を拘束する。
「おっと…やはり素早い…」
「紅の…「毒の極み『救世誅毒』:瘴気ガス」
電子機器に隠されていたガスよりも濃く、広範囲に広がる猛毒から二人を遠ざけることを優先したラヴィーンは、エデンに先回りされ、大量の注射器を刺され、ついに倒れてしまった。
「実に優秀だ。助かったよ、Mr.エデン。」
エデンはヴァルツに欠片を渡すと、ザ・フォースが持っていた次元操箱と対になる形状の塊へと変化し、最早用済みになったツカハラとエリックに銃を向ける。
その頃、ザ・フォースも島に辿り着いていたが、あまりにも多すぎる敵に手こずり、それがツカハラの元へ行くことを困難にしていた。
「くっ…敵が多すぎる」
盾をブーメランのように使い、器用に倒していくトップの前に現れたのは、体術で次々と敵を蹴散らしていくスカジャンの女性。
女性は奇天烈な笑い声を上げ、懐から特注らしいショットガンを取り出し、放つ。
「キャハハハ!!アンタらに協力してあげる!ああいう実験とかするやつ気に入らないのよ!ブチ殺してあげるわ!」
スカジャンの女性は弾切れしたショットガンの砲身を敵の顔面に押し付けて焼くと、有刺鉄線バットを取り出し、折れることも厭わずに先陣を切って道を作り出していく。
「すまない。助かった…行くぞ!ザ・フォース!」
チャプター24:未来になれなかった数多の日々に
「ここが賭博都市…」
ヒルヒルはサングラス越しにも分かるきらびやかなその景色とギラギラのネオンライトに目を痛めながら思わず息を呑む。
ヴァサラ軍が戦っているのだろうか、ざわざわと騒ぎ立てる市民、血混じりの札束が舞い散るこの場所はサイカを隠すのには最適だと改めて思う。
「「ん?」」
ミミズとヨモギは騒ぎの最中、こちらに歩いてくる人々の影が視界に入ったことに不穏な気配を感じ、刀に手をかけた。
自然の中で育った二人は目がいいのだろう、他の三人はいくら目を凝らしても見えなかったが、どうやら影が揺れているらしい。
その影はしだいに全員の肉眼で捉えられるようになり、おおよそ賭博都市には似つかわしくない札束の一つも持っていない黒服の集団がこちらに向かって歩いてきた。
見たところ、彼らはただの一般市民だろう。
一人残らず服に『言葉を取り戻せ』と刺繍がされていること以外は…
彼らはサイカの前に来ると、まるでライブでも待つかのように規則正しく座る。
「あー…思ったより早かった…まだあの掛け声もしてないけど…」
気恥ずかしそうにボリボリと後頭部をかいたサイカは、ギターのチューニングを確認し、備え付けてあった水を飲み、すうっと息を吸って声を発する。
「賭博都市!闇の帝王の監視を逃れよく集まってくれた!カミツレ村から来ました!歌人のサイカですッッ!!」
全員の時間が、いや、この世界全ての時間が止まったかのような錯覚に一瞬陥った。
ヒルヒルは以前にこれを体験したが、その時よりも歌唱力も表現力も格段に上がっていることが素人にも分かる。
演奏が始まる。
そこにいる誰もがサイカの歌声がまるで映像のようになり、一人一人の心臓に染み込んでいく光景を観た。
暗いところに隠れたら 誰にも見つからないと思ってた
だけど自分の姿さえ見失ってしまうとは 困ったな
ほんとの事は分からない ずっと考えてるけど分からない
優しい人にはなれない 打算と狡さの怠け者
星空が水面に映ったみたいな 街の灯を眺めてた
あんまり綺麗だから そこまで歩いたら生ゴミ臭かった
酔っぱらって抱き合う男女 混濁した頭で見るなら
この世はきっと美しい ゴミ溜めだって美しい
嘘は泥棒の始まりです 自分に正直に生きなさい
幼い頃の約束は 大人になった今も有効ですか
出来て当たり前の事が 出来ない出来損ないの僕ら
開き直れるならまだましか 反省ばっかじゃ世話無いな
約束なんて何一つ守れなかった僕らのアポロジー
世界に文句ばっか言ってたら 誰も愛しちゃくれねぇよ
ごめんなさい ちゃんといえるかな?
ごめんなさい ちゃんといえるかな?
(amazarashi:アポロジー)
「ん?な、なんだこのどす黒い空は!?」
コバンザメが声を上げると同時に全員が空の違和感に気付く。
それは夜…という言葉では表せないほどその場所だけ黒くなった空。
そしてサイカを含む全員が襲われた『悪寒』。
闇の帝王に監視されているようなその空間にサイカは手を震わせながらもギターを掻き鳴らし歌を歌う。
「なんだァ?これじゃあ『殺してください』って言ってるようなもんだろ?」
「ひ、ひ、ひ…火剣の英須!?」
燃えるような赤髪に真一文字の顔の傷。英須とヒルヒルが呼んだ男は、自身の炎の力を推力にしているらしい、サーフボードに帆がついたような船から飛び降り、あたりを一瞬で火炎地獄に変える。
「カムイ様がそいつの歌を止めるように言っていてな。悪いがここで殺させてもらうぜ」
「くっ…そうはさせないべ!」
「ヨモギ!?僕らじゃ相手になんて…「そういうビビリな野郎が一番腹立つんだよ…オラァッ!!」
刀を打ち合ったヨモギを庇うように割り込んだミミズの顔を思い切り殴りつけ、向かってきたヒルヒルを掴んで蹴り飛ばす。
「くっ…お前らやるしかねえ!!!」
「へっ。やっぱりお前は『気合』入ってるじゃねぇか」
ヒルヒル&アン&ヨモギ&ミミズ&コバンザメvs『火剣』の英須
サイカはまるで英須が目に映っていないかのように歌を続けていた。
僕は悪夢 それかピルカッターで
真っ二つに割れたハート 不純とイノセント
オーロラ 君は泡沫 もしくは不世界論
描写するには 捉え所ない子供
どうせ消える そんなもんに情はないと
泣いて 泣いて 自分の奥底に触れる
窒息寸前の迷子
全部壊して 抉り出す暗影
精神不安定 もよおす吐き気 噛み殺すナイトメア
一切の憂いなく 憂いなく
一切の憂いなく 憂いなく
(amazarashi:ナイトメア)
チャプター25:VS火剣の英須
「うおおお!!」
正面から来るヒルヒルとミミズの攻撃を軽々受け止め、全方位から来るヨモギ達に気付くと刀に炎を灯し、力任せに振り回す。
「悪羅ァッ!!」
凄まじい熱波により全員が一瞬飛び退いたが、攻撃タイミングが一番遅かったヨモギだけが反撃の糸口を見つけ、英須に刺突を加える。
しかし、その刺突はあまりに遅かったのか、白刃取りでもするかのように片手で軽々と捕まれ、その体を力任せに持ち上げられてしまった。
ヨモギは咄嗟に刀から手を離し、素手に波動を溜め込んで反撃に転じる。
「食の極み『椀飯振舞』:肉塊拳骨!!」
力を溜め込んだアッパーが英須の顎に直撃するが、彼はそれを避けることすらせず、まるでダメージがないその攻撃に若干苛立ちながらその腕を掴み上げる。
「かかってくるならなァ…このどうしようもねぇ力の差を、ちったァ埋めてからかかってこい!」
「あうっ!」
ただ軽く小突かれただけで腕が痺れ、刀を一瞬握れなくなるほどの激痛が走る。
「うおお!!土の…「テメーの攻撃はもう知ってんだよ。よく見とけ、ガキ。アッパーってのはこうやって撃つんだ。悪羅ァッ!!」
「ギャッ!!」
「ヒルヒル先輩!!くっ…いきますよ、ヨモギさん。」
「待ちやがれ」
英須はサイカを守るように一人一人攻撃に転じるヒルヒル達に半ば腹立たしく声をかけ、その攻撃を静止させる。
「ナメてやがんのか?その布陣…俺がサイカを攻撃するみてぇな陣形だ。」
「敵なら当然そうやるに決まってるでしょう?何言ってるんですか?」
「ガキ、そりゃテメーの常識だろ?そんな汚えマネしなくても全員殺してから斬りゃいい話だ。」
ミミズの答えに真っ向から否定の言葉をぶつけ、それでも動かないヴァサラ軍に痺れを切らした英須は刀に炎を溜め込む。
「来ねぇなら引き出してやるよ!!『畏怖吏威斗』!!」
「『金色流壁』!!」
「あァ…?」
英須の炎は突如現れた金の壁に阻まれ、防がれる。
その力は英須の『仲間』が言っていたものによく似ていた。
「こいつは…『覚醒』ってやつか。」
「か、覚醒!?いつの間に出来てたんだべ!?ミミズ!」
「だから言ったでしょ?彼は強いって。」
「ちっ…」
『金はそう簡単に溶けやしねぇ…相性の悪い力だぜ』
「だったらよぉ…もっと火力を上げりゃいいんだよなぁ!!」
英須の火力が増幅すると同時にミミズの生成した金の壁が溶け出していく。
しかし、英須は他に仲間がいることを一瞬失念してしまった。
「土の極み『土蜘蛛』:スーパーハイパーウルトラスペシャルダイヤモンド蟻地獄!!」
地盤が揺れる。覚醒に気を取られていつかと同じ轍を踏んでしまったと後悔しながら刀を振りかぶるが、土の塊が刀と脚を挟み込むように押さえつけ、身動きが取れなくなっていた。
「食の極み『椀飯振舞』:挟喰凝固」
「今だべ!!」
「金の極み『青天霹礫』:百川帰磈」
「金色鈍刀っ!」
ミミズの刀が棍棒に変化し、それを思い切り英須の頭にぶつけた。
額から血を流した英須は楽しそうに笑いながらミミズを掴み、炎を溜め込んだ拳を振りかぶる。
「『暴流掛乃』!!」
「『金色流へ…ぐわっ!!」
「ミミズくん!食の…「『裟羅曼陀』!!」
「『流砂金剛飛礫』!!」
金と土の混ざった大量の礫が英須に向かって飛ぶが、火力を上げることでそれを溶かし切り、溜め込んだ火球を雨のように降らせた。
「『炎蔓大灼』!!!」
「ヒイイイイイ!!」
「や、やばいべ!!」
「テメーとの遊びは終わりだ」
降り注ぐ火球の威力を上げ、全員の体が焼き尽くされる。
いや、焼き尽くされたように見えた。
焼かれた泥の人形は炎によりレンガのようにガラガラと崩れ落ち、そこから致命傷を免れた全員が体を覗かせる。
「なんだァ?こんなもんじゃ防げねぇはずだろ?」
「癒の極み『枯木竜吟』:治癒香」
鼻をくすぐる金木犀の香りは充満する治癒の煙から発されているものかと勘づく。
そして足元に集まった歪な砂。
その砂はまるで賭博都市の地図のようになり、英須が目を移すと同時に風で消える。
「土の極み『写記瓢鮎図』:偶像」
「そして!土の極み『写記瓢鮎図』:念写図!」
コバンザメが創り出していたらしい像が崩壊し、地図を頼りに回復した隊員達と逃げ始める。
「逃がすかよ。」
「追わせるか」
殿を買って出たのはヒルヒルを下げて前に出たミミズだった。
「ヒルヒルさんはこの先ラショウ隊長と合流しなきゃでしょ!僕がここは護りますから!」
「いい根性じゃねえか…面白ぇ…「爆の極み『爆天』:煙幕!」
凄まじい煙と共に現れた額に✕の傷がある男は、爆発の勢いとともに英須を思い切り殴りつける。
「今のも効いてねぇのか…さすがカムイ七剣…」
「ジョンさん!?」
ミミズは目の前の✕の傷の男、ジョンを見て目を丸くする。
まさか非番の男が、こんな所で助けに来るとは夢にも思わなかった。
「港で寝てたらお前らがいたんでな。小舟でついてきたらこれだ。俺も戦うぜ!さすがにどうこう言ってられねえだろ!」
「お願いします、ジョンさん。」
チャプター26:俺たちはこのままガンガン逃げる
コバンザメが逃げ出したのは舗装一つされていない都市外れの森。まるでどこに船があるか分かっているかのようにスイスイと逃げ出すのだ。
「ミミズくん…」
アンは心配そうに来た道を振り返るが、横でヨモギが倒れた音を聞き、冷や汗をかきながら振り返る。
「船の上で刺された傷から英須の炎が入ったのね…体の内部が焼けてる…二人とも、ここで治療するから守って。」
アンの放つ光が、香りがカムイ軍と賭博都市、果ては教会の敵まで呼び寄せてしまう。
ヨモギは苦しそうな声で言う。
「あたしは…置いて…」
「馬鹿野郎!俺は後輩は見捨てねえ!昔の隊長の頃からの教えだ!」
「うおおおおお!俺様もやってやる!大丈夫だ!ヨモギ!」
二人は剣を握りしめ、戦う。
修行の甲斐があったのかヒルヒルは善戦することができたが、コバンザメは血を流しながら防戦一方で、どうにかヨモギとアンを守っていた。
サイカはその状況を見て、ギターを抱えると、ゆっくり座り四人を心配そうに見つめ、小さな声で話しかける。
「普段の使い方とは違いますが…ここを人で埋めることはできます…」
「え?」
サイカは答えを聞く前にギターをかき鳴らす。
質の悪いスピーカーのような機械が、その声を賭博都市の半分にサイカの歌声を響かせる。
干からびた栄光が 国道沿い 血も流さず潰れているぜ
欠陥だらけの僕らの 苦悩もこれまた無残な廃品
歌にしたって誰も聴かないし いまだに金にもならねぇし
今日も夕焼けの帰り道 くすぶってんのはどこのどいつだ
分からないものは分からないし
やりたくないことはやらないし
そう言ってら落伍者扱い 立派な社会不適合者
やり続けることの情熱も 今じゃ余計な不穏分子
純粋でいることの代償は つまり居場所が無いって事だ
行き場の無いイノセンス イノセンス 今に見てろって部屋にこもって
爆弾を一人作る 僕らの薄弱なアイデンティティー
ひび割れたイノセンス イノセンス こんなんじゃないって奮い立って
僕は戦う つまりそれが 僕等にとって唯一の免罪符
(amazarashi:爆弾の作り方)
「歌ったところで…なっ!?」
大挙するファンは、まるで敵など目もくれずサイカの曲を聴こうとその場に押し寄せ座り込む。
ファン達はまるでスクラムのようになり、アンの治療の時間稼ぎに知らず知らずのうちに一役買うことになった。
「ありがとうございます!癒の極み『枯木竜吟』:無垢治癒!」
「…っ!」
一瞬の激痛と共に身体から熱が引いていくのがわかる。
アンは力をかなり使ったのかヨロヨロと立ち上がり、ゆっくりと逃げる方向へ歩き出す。
「ここは俺が。」
「あたしも助太刀するべ!」
「土の極み『土蜘蛛』:スーパーハイパーウルトラスペシャルダイヤモンド蟻地獄!」
「食の極み『椀飯振舞』:泥濘!!」
ドロリとぬかるんだ地盤が大きく沈んでいく。
コバンザメはチャンスとばかりにアンを抱え、地図に示されたとある場所へ走り出していく。
「待て!ヴァサラ軍!動けばファンを…「させないわ」
銃撃の音の先にいたのは目を覚ましたハズキ。
そしてそれに気を取られた敵は一瞬にしてイブキに斬り刻まれた。
「さぁ…みんな。その場所へ逃げてねぇ…ハズキちゃん。護衛はよろしく」
「ええ。ここは頼むわ、イブキ」
ハズキはサイカを筆頭に逃げ出していくが、困ったことに、ファン達もサイカについてきてしまったのだ。
「マジか!?いやそりゃそうか!こうなったら…」
コバンザメはアンをヨモギに託し、サイカとヒルヒルを引っ張って別のルートへ歩き出す。
「二手に分かれよう!船は二隻以上ある!治療組は先に!俺たちはこのまま相手を撒きながらガンガン逃げる!!」
「二人共!!」
ハズキは大声で彼らを呼び止め、タバコに火を付ける。彼女も刺された傷が痛むはずだ。それでも気丈に振る舞い、彼らに言う。
「生きて帰りなさい。命さえあれば私に治せないものなんてないんだから!」
「ヒルヒル様が死ぬわけねえだろ!!」
「もちろんだぜ!!」
「まだ、俺にはやることがあるから…あなた達も消えないでくれ…」
サイカの激励ともとれる返答を最後に、二手に道を分かれていった。
英須は正々堂々とした男だ。いや、二人にとっては『逃げた方を狙ってくれ』と言いたくなるような圧倒的な力がそこにはあった。
「おい、覚醒してるガキ…なんでテメーが俺に攻撃が通用しねえかわかるか?能力相性も勝ってるテメーがだ…」
「がっ…あ…」
万力のような力で頭を締め上げられるミミズは苦悶の声を上げながら金で生成した棍棒で何度も英須を殴りつけるが、再生速度が早く、まるでダメージを与えられない。
「テメーはよく戦ったよ。終わりだ「爆の極み『爆天』:爆撃の日!!」
「ちっ!!」
英須はミミズの手を離し、無差別に弾け飛ぶ爆撃を回避することに専念する。
「この爆撃、どこが吹き飛ぶか分からねえぜ!!」
英須の動きに合わせて空気が爆裂する。
「俺以外はな!!」
ジョンはそれでも再生する英須の身体をしぶとく爆撃し、ミミズが大技を使える隙を作り出す。
「金の極み『青天霹礫』:砂金凝泥流傀儡」
土や泥がミミズの探り当てた金属原子と結合し、何体もの泥の人形を作り出す。
「『裟羅曼陀』!!」
焼けた人形は液体金属のように流動化し、形を変えて英須の腕を拘束すると、人形達が一斉にその身体を貫きにかかる。
「ナメんな!『地・炎怒』!!」
地面に突き刺し、発生した炎は人形を溶かし切るが、虫の大群のような形に変形し、英須の身体に傷をつける。
「攻撃は通らないってか…」
「よぉ…捕まえたぜカムイ七剣」
周囲にあるのはガソリンのような強烈な臭いを放つ波動の塊。
ミミズの極みに気を取られていた英須はジョンが大技を繰り出そうとしていることに気が付かなかったのだ。
「さすがにこの波動量なら…少しは痛えだろ?爆の極み『爆天』:C4」
ヘッドフォンを装着したジョンの波動がさらに増幅し、大爆発を起こす。
しかし、英須は多少の傷を負ったまま、楽しそうに笑いながらそこにいた。
「いいぜいいぜお前ら…まどろっこしいのはもう終わりにしてやるよ」
英須は刀を上に掲げ、巨大な太陽を作り出す。
「『仏露滅天宇須』!!」
「金の極み『青天霹礫』:金色霹鑼!!」
巨大な鐘状の防護壁が二人を囲う。
しかし、ジョンはそこから飛び出し、祈るようにヘッドフォンに手を添え、命を削るかのような凄まじい波動を練り、英須に放つ。
その波動には微かに雷撃のようなものが渦巻いていた。
「爆の極み『爆天』:HE-D-SET-KIZ!!」
ミミズの防護壁を貫通するほどの凄まじい波動のぶつかり合い、彼はその爆風で数メートル離れたハズキ達の所へと吹き飛ばされてしまった。
戦いの傷があるとはいえ動けぬほどではないが、英須の攻撃が肺を焼いたらしく、苦しく咳き込む彼をハズキが抱え込んだ。
「よく生きててくれたわ。あとは任せて」
「ジョンさんが…まだ…ゴホッ…」
「ああ、彼も大丈夫。私達の仲間はまだまだいるのよ」
ハズキの声に安心したようにミミズはゆっくりとその体をハズキに預けた。
「仲間を助けるためにやったとはな…いい根性じゃねぇか…だが…」
ヘッドフォンもボロボロに砕け、全身火傷を負ったジョンは、もう一度炎を溜め込んだ英須を見て自身の最期を悟る。
振り下ろされた炎の塊は自身に直撃することなく、それどころか凄まじいスピードで自分の体を安全なところまで運んだダウンジャケットの男を見て何が起こったのか理解ができなかった。
「誰だァ?テメー」
「やぁやぁ、閻魔王だよ〜ん」
閻魔王と名乗った痩せ型の男は、軽々しくピースをしてみせ、苛立つ英須に対し、さらに距離を取る。
「悪いけど、君達の思う通りには行かないよ。魔女姫事件のお礼さ。僕も全力で彼を助けさせてもらう」
「そうかよ。このまま逃げられるならなァ!」
閻魔王らしき男は不思議な力でその場から消え、英須は完全に標的を見失った。
まるでワープでもしたかのようにジョンを隊舎へ送り出したことを、英須は知らない。
「ちっ。とんだイレギュラーだぜ…だが…覚醒するガキもいるとは…面白ぇじゃねえか…」
英須は次なる戦いを楽しみに、特殊なボード状の船に乗り、賭博都市から戻っていった。
チャプター27:道を拓くは運命と未来
ココは先攻で賽を振る。
「駒を使います…」
「んあ?さっそく飛車ァ?ケーキのいちご先に食っちまう派か?俺は他人のいちごを先に食う派なんよな。」
「挑発ですか?それとも…」
「ああ、お前、未来が見えるんはすごいけど『不可避』だったら見る意味ないわな?出目は『六』だ」
ココのように未来を読むようなことを言う七福を無視し、賽を振る。
その出目は六。
「そのマスは忍ばせマス。防御成功だ。俺の駒は「『金』ですか。いい防御駒ですね。意外と小心者だ…」
「言うじゃんよ」
ココはゆっくりと駒を六マスだけ進めながら挑発を仕返しじっと七福の目を見つめる。
「おいおい、見つめるなよな〜。俺に惚れたん?」
「挑発やブラフは貴方の得意分野ですからね…」
「おっと。ま、小心者の七福さんはここは「攻撃駒は使わない…ですよね。予言しましょう貴方は次の回で攻撃駒を使い、それぞれの出目は『六』、『五』、『五』大きな出目ですね…貴方の極みの力…ですかね?」
「おいおいマジかよ…」
自身の行動を読まれた七福は冷や汗をかくが、次で駒を使わなければいいと高を括っていた。
七福の出目は『六』。ココの予言通りだ。
「忍ばせマス、発動です。『桂』」
「『桂』!?」
8マス進むとはいえ金以外に負ける駒だ。こんなものを防御駒に使えるのは『未来が見える』と言わざるを得ない。
そして、一気に離されてしまった。
予言通り、次の攻撃時には駒を使わざるを得ないほどに。
「私の番ですね…出目は「『二』だ。」
「いいえ『四』です。七福さん。運命は変えられないんですよ。私の攻撃駒は『歩』です。」
賽が転がる。ココの予言通り出目は『四』。
「防御…失敗だ。」
七福の防御駒は『王』。たった一つ王を討てる駒。
そして攻撃駒の飛車を捨てられてしまう。
「くっ…」
「どうしますか?攻撃駒を使いますか?そこの運命を変えた所で貴方の敗北は決まったようなものですが…」
ココの言う通りだ。
攻撃駒を今から次に変えた所で未来を見て駒を忍ばせている相手に勝てるはずがない。
七福は仕方なく勝つ見込みのない『桂』で勝負をし、ココの防御駒、『銀』に難なく止められてしまった。
「次の出目も『四』、攻撃駒は『角』です」
賽の力のみで進む七福と攻撃駒を駆使し、進んでいくココ。すでに埋めきれないほどの差が開いていた。
「もう一度言います、七福さん。貴方は100%負ける。」
「く…ククク…ハッハッハッ!!」
七福は突然大きな声で笑い出した。
ココは七福が何を考えているか分からず思わず眉を顰めた。
「未来は見えても心は読めんか。ったく。どいつもこいつも大袈裟なんよ。0か100かしかないんかよ…テキトーでいいんにテキトーで。」
『いきなり何を…?七福さんの未来は変わっていない…』
「俺の攻撃駒は『歩』だ。」
『歩!?』
賽が転がる。ココの予言通りの目…にはならない。出目は『一』。
「防御失敗です…なぜ?」
「宣言してやんよ。俺はイカサマをしてる。それを見つけるんがこういうのの醍醐味だろ?」
七福はココの防御駒、『銀』を捨てさせ、反撃の準備を整える。
「くっ…今回は攻撃駒を…「攻撃駒を使わぬと申ぉされるかそンなったっ」
歌舞伎のような口調で笑いながら言う七福に若干苛立ちながら、自身の盤面を見つめる。
使える攻撃駒は『香』のみ。『銀』の忍ばせマスに行けば駒を飛ばすことができるが、予言が外れた今、その判断は鈍る。
七福はまるで挑発するかのようにココが飲んでいたワインを奪い取り、口に含んでドレスに吐き出す。
「あ〜!もったいね。フードロスはいけないんだよ!!」
「したのは貴方でしょう。ちょっと黙っていてください!」
「苛ついてんなあ…チビ大人。もしかしたらこの身長差でお前の駒をカンニングしてるかもしれんよ?なぁ?147cmいや、14センチちゃん?痩せてるんに脳細胞には脂肪がついちゃったん?遅い遅い。はよ決めてくれんと?待ってるよ〜」
「黙っていてくださいって言ったでしょう!」
「じゃあヒント。自分を信じて攻撃駒をここで使わんと、お前、負けるぜ。それとも今から大食い対決にすっか?からあげ200人前vs春巻き200人前!飛び込み対決なんかも盛り上がりそうよなぁ…コラボ相手的な意味で。…どういう意味?」
ココは七福の挑発を最終的に無視し、賽のみで進める決断をし、『二』というつまらない出目で留まってしまった。
「俺の出目は珍しく『四』。攻撃駒は『香』だ。」
ココの予言はまたしても外れ、そして動悸が激しくなる。『香』の攻撃成功は圧倒的な差が埋まったことを意味するのだ。
ココは逆に攻撃駒を使わなければいけないほど追い詰められ、『香』を使うが、出目を操作する七福により『金』で防がれてしまう。
「万策尽きたな。予言者。俺の出目は『二』使う駒は『角』だ。お前は俺の斜め前のマスにいる…つまり」
七福の駒がココをついに追い越す。
「逆転だ。」
ココは再び賽を振るが、出目を操る七福に追いつく事はかなわない。
「なぜ…貴方の予言が尽く…」
「ククっ…やっぱりお前は一人の予言に集中すると他のことが疎かになるんな。言った通りだろ?紬」
ココの足元から七福の元へ駆け出すのは一匹のハムスター。
そしてそこから声を発するのは倒れていたはずのシンラだった。
「作戦通りですね、七福さん。」
「まさか…」
「その通り!中盤からずっとシンラに戦わせてたんよ!!あいつには『やられた振り』を事前にさせてたんな〜。」
七福はハムスターを優しく撫でる。
「さて、種明かしだ」
〜賭博都市へ来る数刻前〜
シンラは七福に極秘で呼ばれ、情報についての資料を手渡される。
「この人は。」
「俺の街で産まれたココってやつなんけど、生まれつき『未来が視える』なんてとんでもない力持ってるんよ」
「な、未来が視える!?それなら私達の…「しーっ!!だからこそお前が俺に接触してるんをバレたくないんよ」
七福は口に手を当て黙らせると自宅にシンラを招き入れ、そばを食べながら話を続ける。
「ああ、おいしいですね、これ」
「だろ?うちの親のやつなんよ。ま、それはさておき…痩せ眼鏡と色々話したんだろ?なんかあいつの家族がいるってのもお前から聞いたし…う〜ん…」
特徴的な水色頭をぐしゃぐしゃと掻き、六賽の写っている情報とギャンブルについて書かれている情報の資料を何度も見返し、「そうだっ!」と大きな声で言い、シンラの眼前に『信頼の瓶』の情報の紙を突きつける。
「どうせこれとかも負けたら全員死ぬんじゃん?したらさ、そいつら助けてお前一回死んでくんね?」
「は…?」
『死んでくんね?』とは随分軽く言ってくれると少し嫌な気分になる。
もちろんヴァサラ軍のために命は賭けるつもりだが、他人に左右されるのは明らかにおかしいだろうという言葉が喉元まで出かかる。
「あ〜ほんとに死ねって事じゃないんよ。痩せ眼鏡の家族が審判?みたいな立ち位置なんよ、だから…ギャンブル負けたやつをお前が助ければ襲いに来るはず。んで…」
七福はシンラに手を翳す。
「運の極み『日々是好日』:加護。こいつは回復。あと斬られても一回は大丈夫な技なんよな。そのかわりバレずに倒れてろよ?兄弟のことは痩せ眼鏡がなんとかすっけど、多分俺の極みを封じるためにやるだろうココとのギャンブルはお前との連携がいるんよ」
~現在~
「死んだふりのことはわかりましたが…距離が離れているのにどうやって連携を?」
「うちの相棒にゃ。『声伝達専門』の仲間もいるんよな」
「最初からあなたが戦うつもりは無かったということですか…」
「んあ?当たり前じゃんよ。未来が視えるやつとまともにやり合ったら分が悪いに決まってんし。でも…」
七福は紬に一言礼を言い、シンラの元へ帰るように告げると、サイコロをココに向けた。
「奇しくも残り二マスだ。俺が一を出せば飛車持ちのお前の勝ち。それ以外なら俺の勝ち。圧倒的優勢だ…だがよ。お前は未来が視えんだろ?」
一呼吸置いて賽を振りながら言う。
「運命をよう、お前の手で変えてみな。」
賽が落ちる。まるで数年が経過しているかのような一瞬。
賽はゆっくりとその出目を五と表した。
「げ!二だったら締まったんに!!五かぁ…ま、俺の勝ちだわな。」
「そうですね…」
ココが出したのは小さな短剣。彼女はそれを自身の喉元へ持っていき大きく振りかぶるが、サイコロを指で弾いた七福に短剣を落とされる。
「運の極み『日々是好日』:当たるも八卦ってな…俺の方が今は一手上なんよ?みすみす死なせるかっての」
「ファブナー様の眼という力を失った私に生きる意味など…」
「知らんし!死なれたら俺の寝覚めが悪いんよ。それに、お前の帰りを待ってるんはうちの街にも居るんから。バカな親友が『あの時から行方不明になったぁ〜』とかずっと言ってんし…ま、俺はもう一つの野暮用済ましてくっから、あとは遊太郎に任せたわ」
「ああ、任されたZE!七福」
七福は『親友からもらった』と見せびらかす黒いカードに触れ、何処かへと一瞬で転移した。
遊太郎はモンスターを召喚し、今にも自害してしまいそうなココを拘束すると、ふわりと現れたネルンと戦うためにカードを引く。
「その力…そしてその謎の兵器…戦闘には不向きですね…ターン制のゲームならともかく、直接相まみえるにはまるで役に立たない。」
「くっ…」
確かにそうだと遊太郎は思う。カードを選ぶ、出す、攻撃宣言をする。という手順はあまりにも長すぎる一手だ。
それでも七福との約束を守るために戦闘態勢を取った。
「ああ、ヴァサラ軍の援軍は来ませんよ。めぼしい人は私が戦えないようにしてきましたから。」
「ココ、こいつは強い。お前の力も必要だZE!」
「は、はい!」
「さぁ…神罰といきましょうか」
ネルンは二人を刻むために巨大な戦斧を取り出した。
チャプター28:VS地神五代
「『炎憎』」
炎はまるでアマニタの怒りに呼応するように勢いを強め、ミチザネの放った風のパンチを熱風のように転換し、弾き返す。
「くっ…なんて熱じゃ」
ミチザネは自身の体温が向上し、凄まじい汗をかいていることに気付き、氷を使うことで体温を下げようとした。しかし、速さを増したアマニタの鎌はミチザネが休むことを許さず、ガードするために上げた腕に傷をつける。
「ちっ…やるじゃねェか。」
「それであの程度の傷?さすがヤマトの…「『天明引水』」
神様が田んぼの水を自身のところへ全て奪い取っていくかのように、波のような波動が勢い良くアマニタを引き寄せた。
しかし、引き寄せたアマニタはぼんやりとした影になり、そこにはじめからいなかったかのように霧散する。
「熱せん妄だよ。異教徒。」
「炮の極み『鏖浄獄烙』:炎戈赫溶蝶」
鱗粉のように滴り落ちる溶岩の塊はミチザネの体温をさらに上昇させるだけでなく、鱗粉が触れた箇所を融解させていく。
「怖ええ怖ええ…『蛭子流』」
水の塊のようなものが鱗粉に触れると同時に体が一瞬にして別の場所へ瞬間移動する。
それを捉えたアマニタの鎌に合わせるようにミチザネの炎がぶつかり合った。
「火を扱うのは苦手?」
「そうでもないぞ?『異炎牢』」
「炎の牢獄…?」
「このまま空気もろとも焼かせてもらうぞ」
「『神燐火災』!!」
一瞬で作り出された炎の世界のような牢獄に捉えられたアマニタは今までよりもさらに波動を増幅させた一撃を放つ。
「儂も耄碌したか?なかなか痛え攻撃じゃ。」
「私は…生き物を焼いて殺すのが好きだった。」
「なんじゃ?昔話か?」
「なぜだか我慢できなかったの。いたずらに生き物を殺すこと…そんな時に『あなたはそのままでいい』と言ってくださったネルン様は私の神…」
「生い立ちを語るにゃ時間がないじゃろう?」
「いいえ、私がネルン様とお会いしたのは牢獄…今のような牢獄…だからここは私にとって棲み家のようなもの!!」
「ぐっ!!」
アマニタの炎はミチザネですら避けなければならないほど威力が跳ね上がり、体の一部に焼け跡を残す。
「やるじゃねぇか。『焔薙』」
「炮の極み『鏖浄獄烙』:劫熨垓炎火鳴赫蝶羽!!」
再び二人の力がぶつかり合う。
「儂の『魂』とお前さんの『信仰心』…ちと違うが『魂』比べと行こうじゃねえか!!」
アマニタの火力がさらに跳ね上がる。
しかし、ミチザネはその力すら喰ってしまうほどの炎を纏った刀で、彼女の脇腹を斬り裂いた。
「ガハッ!!」
「やめとけ。臓物が焼けなかっただけで重傷には変わりねぇ…このままやれば…死ぬぞ」
「ネルン様のためなら死も…」
アマニタの言葉を待たず、まるで夜が来たかのように曇る空。
一瞬の稲光りとともにその身体に落雷が直撃する。
「ギャアアアア!!」
「威力は弱めておいた。数日もすりゃ目が覚めるじゃろ」
ミチザネはふうっとため息をつき、流れ弾が行かないように守っていたらしいストクを抱えて、小さな黒い何かに話しかけ、冥界の扉を開ける。
「ぶわっはっはっ!派手にやられたのう、ストク!ま、マサカドにもお前の無事は伝えておこう。儂はもう一つを見届けるとするか『長い長い兄弟喧嘩』の果てを」
ミチザネは豪快に笑うと、メイネと罰夢が戦う場所へ歩を進めた。
ミチザネVSアマニタ
勝者:ミチザネ
ヒジリはチェスナの使役する魔物を次々と斬りながら『本体』に接近していく。
そのスピードは彼の想像の数倍速く、指揮棒を持っていない方の手も旋律を奏でる事に使用し始めた。
「驚きましたね…久しぶりにこちらの手を使うことになるとは…」
「『虎月一刀流』:枯山水…」
チェスナの身を守る軍隊はたったの一振りで一掃され、再び使い魔が消えてしまったことで旋律を別のものへと変える。
「『4分33秒』」
チェスナは指揮棒を降ろし、可能な限り脱力すると、剣聖と呼ばれたヒジリの斬撃をまるで紙のようにゆらりと柔らかく躱していく。
『波動を脳に集中させて先読みしている!?』
「一撃必殺の振り抜き、そしてその後に持ち替えての突き…」
「『くるみ割り人形』」
力強い一撃が振り下ろされヒジリの刀がはじき返され、一瞬のスキを作る。
チェスナは指揮棒を演奏を止めるかのように取り出した譜面台にパチパチと鳴らし、曲調を変える。
『音色が変わった!?』
「指揮者の極み『信徒のための音楽会』:魔王」
伝承で伝わるような姿の魔王が現れ、魂が吹き飛ばされそうな暴風を吹かせる。
「ぐっ…」
風に含まれていた不純物がヒジリの視界を奪い、猛毒に侵されたかのように周囲の景色が反転する。
いや、それだけではない。
襲い来る暴風そのものがヒジリの身を斬り裂くのだ。
「『新世界より』」
巨大な拳がヒジリを押し潰そうと降り注ぐ。
「虎月一刀流『二ノ型』:唐竹割!!」
「なっ!?」
魔王と巨大な腕は軽々と両断される。
時間制限を待たずに曲を変えるべきだったと悔いるが、ヒジリは老人とは思えぬスピードでチェスナの眼前に現れ、思考がすべて砕け散る。
「『一文字』!」
「ぐっ!!」
傷こそ浅いが額を斬られ、派手に血が噴き出す。目に入らないように拭うと同時に襲い来る剣聖の追撃に咄嗟に防御の指揮を執る。
「指揮者の極み『信徒のための音楽会』:カルメン」
『2分しか持ちませんね…この間に…』
「っ!?」
召喚された貴婦人のような女性の連撃を全て軽々と捌き切り、指揮棒を持つ手に深い傷がつく。
数歩踏み込んでいたら斬り落とされていたと青ざめながら、その旋律を優しいものへと変える。
「指揮者の極み『信徒のための音楽会』:カノン…しばらく眠って…「そう来ると思ったわ。」
防御用に出していた魔王を使役し、攻撃を辛うじて防いだが、眠りに落とす技が使えない。
鍔迫り合う魔物達を盾にチェスナは再度距離を取った。
「お若き人…貴方は人を救う力がある…なぜこんな教団に?」
「『こんな?』ネルン様を侮辱するな!!人間など…愚かな生き物だ!救えば必ず悪に堕ちる。そんな奴らを救っているのがネルン様なのだ!指揮者の極み『信徒のための音楽会』:最終楽章・レクイエム『怒りの日』…」
「ぐはあっ!!」
現れたのは死神。
チェスナの怒りに呼応しているのか、ヒジリが視認できないほどの速度の斬撃が全身を斬り裂き、血溜まりの中に倒れ伏した。
死神は鎌をヒジリの首に当てがい、命を奪おうとした刹那、体が真っ二つに分かれ、霧散する。
「虎月一刀流『特式』:禍津日神堕」
「バカな…」
「ホッホッホ…人間に絶望する気持ちは分かる…しかし…『心』を失ってはいかん。」
「剣聖ヒジリ…死神をも斬り裂くか…」
万策尽きたチェスナを力強い峰打ちで気絶させると、大きく息を吐き、しゃがみ込む。
「さすがに斬られ過ぎじゃな…あとは任せたぞ…ヴァサラ軍の『未来』達よ…」
ヒジリvsチェスナ
勝者:ヒジリ
「魂解『宵闇…っ!!」
モルペウスは手に持っていた傘を乱暴に投げつけ、マサカドの魂解発動を止めると、カメラのポーズを取りマサカドを捕捉する。
「玉散氷刃か!?」
マサカドの射程範囲に入ってしまったかと飛び退いたが、冷気を纏った斬撃はモルペウスを両断する。
「魂解『餞』」
残り一回の回復ストックがある事を自身の中で反芻し、自身の真なる魂解の詠唱へと転ずる。
「精巧たる絵画の海…「させん!」
マサカドの斬撃はまるで刀を囮にしたような動きをしたモルペウスに一瞬気を取られ、距離をとられてしまう。
『しまった…!』
「眼球持たぬ昇り龍、産まれ堕ちる愚図の虚像、悲哀と絶望と御苦しみに満ちた実像、逆様の現し世、虚無を映す水鏡。魂解『現身』!」
マサカドの『敵』が映し出される。
それは自身を破った赤い髪の男へと変わり、具現化した『魂』をマサカドにぶつける。
「『ビッグバン・パンチ』!!」
「ぐっ…玉散…「俺が手を出さないとでも?」
鎖のようなもので拘束されたマサカドに炎の一撃が飛ぶ。
「『レッドイーグル・パンチ』!!」
「くっ…」
「『レッドイーグル・ラッシュ』!!」
「ぐあああっ!」
マサカドはその攻撃を耐え、背後から心臓を狙うモルペウス諸共その敵を斬り裂いた。
「『餞』…しぶといな。自分を負かした相手にもう一人加われば勝ち目なんかないのに…」
「やらねば解らぬ。武士たるもの果たし合いは全力で遂行する…」
「武士道…そんな陳腐なものも冥界のくだらない方角カーストももうなくなる。ネルン様は冥界神になるべきお方だ…」
「くだらん…」
モルペウスの言葉を一蹴し、マサカドは再び居合の構えを取る。
モルペウスの魂解は記憶も引き継ぐ。
自身を倒した赤髪の男は居合を打ち破ったが、それでもマサカドは構えを崩さない。
「『ボルケーノ・パンチ』!」
「終わりだ」
「『神速抜刀・波游ぎ』!!」
「な…なぜ…」
幻影と共に攻撃を仕掛けたモルペウスから血が噴き出し、倒れる。
もはや立てなくなったモルペウスにマサカドは近寄り、告げる。
「目の見えぬものに…富士の美しさを伝えるにはどうする…?」
いきなり何を言い出すのかとマサカドの言葉を無視するが、その言葉の真意に気付き、唇を噛む。
目が見える人間と富士山の話をするのは簡単だ。
雪が積もる季節、場所による見え方。脳内で思い描くものは同じだろう。
しかし、目が見えないものにその美しさを話すには表現を変える必要がある。そしてそれを鮮明にするのは至難の技だ。
「そういうことだ…貴公は拙者のライバルを具現化することはできなかった。炎帝殿はそれほど弱くはござらん。」
マサカドは動けぬモルペウスを抱え上げ、自身の船へ戻っていった。
激しい戦いだったからか、『石花を連れ戻す』という本来の目的は忘れてしまっているが…
マサカドvsモルペウス
勝者:マサカド
ルトは波動の力が次々と変わるクルスの攻撃に防戦一方だ。
ヴァサラの持つ無の極みとは何かが違う、まるで色鬼でもしているかのように次々と攻撃が変わるのだ。
『彼が喋っている何かが秘密のはず…』
「君は一人だけど…ボクは友達と戦ってるからね!多勢に無勢ってやつだよ!」
「友達…?」
「見えないかもしれないけどここに五人、いるんだよ!」
ルトはクルスの体質を理解し、波動が変わるのはそれかと考える。
しかし、ルトが考えていることと、クルスの能力にわずかな認識のズレがあった。
「『閃光万雷』:蒼麟の太刀!!」
「魂の極み『魂導』:紅陽炎」
「炎は攻撃…だったよね?」
蒼白い雷鳴と共にルトの姿が消え、背後から刺突を繰り出す。
「ゔあっ!!」
しかし、背後から飛ぶ投げナイフを背中に受け、ダメージを負ったのはルトの方だった。
「なんで…っ。」
「魂の極み『魂導』:雷光丸・雷鳴刃。」
「ありがとう。『ライ』」
「そんなにかしこまるなよ、クルスちゃ〜ん、ガンガンいっちまおうぜ!」
「はーっ…また始まった…うっざ…」
「なんだとフウト!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。まずは目先の敵に集中しましょう。」
黄色の魂(ライ)と緑の魂(フウト)が言い合うのをダイチが諌めながら、ルトの斬撃を硬質化により受け流す。
「そうか、ボクは見誤っていたみたいだ…君の体に『いくつもの人格』があると思ってた…君は、『魂』を使役できるんだね…話している魂によって波動が変わる…すごい力だ…」
「え!?褒めてくれたの?ありがとう!死者と話せるボクを認めてくれたのはネルン様だけだったから、嬉しいなあ!でもね…」
ぱあっと明るく笑い、お礼を言うとすぐに戦闘の表情へと戻る。
「ネルン様の理想郷を壊すなら敵だ。魂の極み『魂導』「『皇雷王・刃紋』!!」
刀に凄まじい量の波動を纏わせ、ヒジリの唐竹割のように一直線に振り抜く。
クルスはそれに対応するように青い魂を呼び出し、パワーとスピードを増幅させ、一瞬刀を受け止め、勾玉を媒介に再度極みを発動する。
「魂の極み『魂導』:瑠璃水・雨皿海月!」
「ひっ!こ、こんなの受けるの無理!!こういう時にどうせ期待に添えないんだ…ああ…嫌われるのやだなぁ…」
ネガティブな言葉をブツブツとつぶやく青い魂は、海月状のドームを作り出し、ルトの極みを吸収し、さらに大きな盾に変わる。
「まだだ!!『閃光万雷』:雷牙の太刀!!」
「うあっ!!」
『浅い…!』
ルトは間一髪で避けられたと思い、追撃の準備をするが、クルスはまるで致命傷でも受けたかのように血を吐き出し、片膝をつく。
「なかなかやるね…」
『今のは確実に浅かったはず…もしかして!』
ルトはクルスの体を観察し、ミチザネの雷撃の傷跡が大量にある事に気付いた。
クルスはあの時自身の極みでミチザネの攻撃を躱したのではなく、自身を避雷針のようにすることで攻撃を分散していたのだ。
「本当に…すごい団結力だね。でもボクも負けられないんだ!」
「それはボクも同じだよ!魂の極み『魂導』…」
勾玉が空に浮かび、賭博都市で死んでいったものの『魂』が浮かび上がる。
「『死霊之宴』」
凄まじい人数の死体だ。どうやら一体一体は生前の力に呼するらしく、ルトでも対応することはできている。
あまりにも数が多すぎるのだ。
「くっ…それなら本体を…セト兄ちゃん直伝!『双雷蹴』!!」
雷の推進力を使った二連撃の蹴りをクルスに向けて放つが、使役された死体に止められ、反撃を受ける。
ルトはひるまずにもう一度極みを発動する構えを取った。
「これで終わりじゃないよ?魂の極み『魂導』:移ろい変わる霊魂」
赤、橙、黄、緑、青に輝く勾玉が分散し、死体に乗り移る。
その魂はまるで現世に具現化したように喋りだし、ルトに襲いかかった。
「ははは!!やっと俺が戦う番か!!『赫熔彗星』!!」
「ぐああああ!!」
熔岩のような高温の一撃がルトの脇腹に直撃し、何かに溶かされたかのような火傷痕を作り出す。
「はいはい〜あとは俺に任して!『雷神組紐』」
痛みを堪え立ち上がるルトだったが、ライによって動きを止められ、ハンマーのような力の土の塊に顔を殴り潰される。
「もう、クルスさんを悲しませないでください…『蟠地砕』」
ボクシングのパンチのように回転を加えた殴打は、ルトの頭から折れたような嫌な音を響かせる。
「フウトさん!」
「あ〜…はいはい…『罪牙風理』!!」
無数の鎌鼬がルトにとどめを刺すかのように降り注ぐが、雷の極みを咄嗟に発動させ致命傷を避けると、血だらけの顔を拭い、極みの構えをとる。
「雷の極み『閃光万雷』:雷皇の陣」
「ど、どうしよう…」
「心配すんな!!行くぞ!」
ベニの掛け声とともに、全員が拳に波動を溜め込み放つ。
「「「「「『八百万魂混掌』!!!」」」」」
ルトは極みの波動をさらに跳ね上げ、その攻撃を紙一重で躱す。
『かすっただけだ!!まだ行ける!』
「いや、もう終わりだよ。」
避けきれぬ量の投げナイフは五色の魂に光り輝き、ルトを中心とするように取り囲む。
「魂の極み『魂導』:奥義・魂之輪廻!!!!」
「負けない!!雷の極み『閃光万雷』:雷皇の陣、雷神の太刀!!!」
ルトの波動は波動を削り喰らいながら突き刺さるナイフを弾き返し、クルスに再起不能レベルの一撃を与えた。
「すごいね…ヴァサラ軍…ボクより少し年上なだけなのに…」
称賛のような言葉を吐きながら意識を飛ばすクルスの横でルトは極みの消耗と深手の影響で膝を折る。
「最後一瞬…前の戦いの傷が痛んで一瞬攻撃が遅くなった…あれがなきゃ…負けていた…くっ…」
「でも…行かなきゃ…」
頬に暴走の印のようなものが現れながら、ルトは体を引きずってファブナーの元へ歩き出す。
ルトvsクルス
勝者:ルト
ジャノメはひたすらに監視されているような嫌な感覚を覚える。
目で見ている景色は確かに自分自身が見ているものだが、その視覚そのものがシェーヴァに共有されているような奇妙な感覚なのだ。
「視の極み『執神監視』:神水」
「やべっ!!」
咄嗟に地面の小石を投げ、シェーヴァが投げた『水の入った小瓶』の軌道を逸らそうとするが未来を見ているかのような彼女の極みの前ではそれは無力であると悟る。
少量の水が目から入り込み穴が塞がることで、ジャノメは『陸で溺れる』という感覚を体感する。
「私の大事なネルンちゃんの敵はみんな消さないと。あの人が喜ぶ顔も、教団に布教する顔も、服も武器もたたずまいも、ぜ〜んぶ私のものなんだから。」
「ゴホッゴホッ…シッシッシ…最高にイカれてる女…ゔっ!!」
溺れかけた人間が息を吹き返すように激しくむせ込みながら奇天烈な笑い声をあげ、余裕を見せていたが、右手の指二本に感じる激痛に思わず声を上げてしまう。
最初に襲いかかった時だろうか、見えないようにゆっくり…ゆっくり食い込んだピアノ線に夥しい血が流れていた。
「『去視惹』」
「うぐっっっ!!」
指が千切れ飛び、激痛で声を上げることもできずにのたうち回るジャノメの視界が暗くなり、爆弾が体に炸裂する。
「視の極み『執神監視』:視界ジャック。」
「異教徒さん。あなたはすでに…ガフッ!!」
何が起きたのかと視界ジャックを解除し、自身の身体を見つめる。
その小さい体には吹き飛んだ指から流れ落ちる血を利用し、地面に飛び散ったガラクタや岩を八岐之大蛇のような形状にしたものが突き刺さっていた。
「蠱の極み『蛟竜毒蛇』:蠱惑之大蛇。血も体液だよ、シェーヴァちゃん」
「これだけでは終わらな…うああああっ!「これだけでは終わらせないよ〜」
ジャノメは笑いながら倒れるシェーヴァの傷口に刀を当て、その体の所有権を自分自身に変える。
しかし、ジャノメ自身も過去の古傷に激痛が走る。
焼けたナイフが古傷に刺さったのだ。
まるで魚を切り開くかのように傷を広げるそれは、彼の攻撃を一瞬遅らせる。
「視の極み『執神監視』『奥義』:繚艶・無明四十九景!」
あらゆる暗器が躱すことのできないタイミングで、かつ全てが致命傷になるように投げ込まれる。
「ごめんね〜。俺の勝ちだわ〜蠱の極み『蛟竜毒蛇』:刃責」
シェーヴァの腕の所有権はジャノメに奪われ、自身の腹を右胸を暗器で貫き、倒れる。
「ネルンちゃん…会いたい…ネルンちゃん」
「かぁ~、しつけえ〜…ま、動けないしもういっか。」
パチンと指を鳴らすとジャノメ自身の息がかかった部下たちが信者服を脱ぎ捨て賭博都市のディーラー達を殺していく。
「っ!?」
「シッシッシ…内緒の話ね、俺はハナっから『みんなの敵』だよ。」
ジャノメvsシェーヴァ
勝者:ジャノメ
チャプター29:VS六賽
ワンパターンの攻撃ほどいなしやすく読みやすいものはない。
今目の前にいる男と相対するまではそう思っていた。
いや、何度も鍔迫り合うまではそう思っていたかもしれない。
「スピードが遅くなってるぞ?お前さん。これで40発じゃ」
「ガハッ!!」
カイナは刀を弾かれ、体勢を立て直す前に身体能力が飛躍的に向上したお師匠のパンチの連打を浴び、喀血する。
「ほれ、もう一発!」
「くっ…!『慚愧の靄』」
カイナは防御を捨て、範囲が伸びた斬撃でお師匠の攻撃を喰らいながらその腹を貫く。
「ぐっ…痛み分けだな」
「そうじゃのォ…」
激しく腹から血を流すお師匠に対し、その攻撃範囲による牽制で直撃を避けたカイナのダメージの差は明白だった。
この男には接近技しかないと踏んだカイナはレイピアの攻撃範囲を伸ばし、連続突きを見舞う。
「『闇沙雨』」
「舐めるなよ小僧ォ…」
再び力が増幅し、突きをかわしながら一瞬で間合いを詰め、渾身の斬撃をカイナに向けて振りかぶる。
「ワシの『持たざる者』は特異な能力を持たぬ変わりに身体機能を限界まで上昇させる『常時開放型魂解』じゃ!!!」
「だろうな、傷の治りも早い。魔の極み『百禍之霞』:暴魔霞包」
カイナが発した靄はお師匠の体を包み込み、拘束する。
「くっ…」
「魔の極み『百禍之霞』:獄魔贄供物筵!!」
「ぐああああああっ!!」
『この圧…この力…『持たざる者』の回復が間に合わねェ』
締め上げられたお師匠が見たものは靄で生成された大量の槍。
それはまるで黒ひげ危機一髪のようにお師匠に向かって放たれていく。
「おじさんっ!くっ…見様見真似だけど。」
痛む傷を堪え、コヒナは刀を逆手で持つ。
「何っ!?まだ動けたのか。」
「死にそうだけど、黙って見てるほどいい子じゃないもん!『ブロッサム・ストライク』!!!」
コヒナの渾身の一撃は桜吹雪のような波動に変わり、カイナの靄を解除し、お師匠を助け出す。
「前言撤回じゃ!お前さん、最高の師匠に見てもらったようじゃのォ!」
周りの木々が吹き飛ぶかのようなオーラを放ちながらお師匠は刀を逆手に持つ。
「『持たざる者・カサーベル・ストライク』!!」
「ぐああああっ!」
波動の塊に斬り裂かれたカイナが倒れる。
「やったね、おじさ…えっ!?」
砂煙が晴れた先には誰もいない。
そして現れたカイナの幻影は二人の視界を覆う靄を放ちながら言う。
「見事だ。だが私の目的はファブナー様を王にすること。残りの波動をお前達に使うのは分が悪い。」
やられたと二人は思う。はじめから全てを自分達に使うつもりなどなかったのだと。
深手を負い膝を折るお師匠の傷を、ひどくやられてしまったコヒナを。
互いが互いを庇いながら二人はカイナを探しに歩き出した。
お師匠vsカイナ
勝者:お師匠(?)
相性が悪い敵に出会ったなとホタルは思う。
アンジーの極みは直接的に波動をどうこうといったものではなく、何かを『組み替える』というもの、ホタルの極みを解析する時間に、新たな怪物が生まれ、それを反射しようとするとその体があらぬものに付け替えられている。
「また布の龍ですか…」
「『絹龍絵巻』!ほらほら!どんどん増えちゃうよ?ノロマの司祭様」
「λの…いや、ダメですね。」
一定の距離を取ろうとしたホタルの脚が割り箸のようなものに変えられ、倒れ込むと同時に顔面にハサミを入れられ、大きな傷が残る。
「まだまだ。」
「うぐっ!!」
ボトリと自身の顔から落ちたのが自分の片耳であることに気付くのにそう時間はかからなかった。
アンジーの能力で落とされていてほしいと一瞬祈るが、おびただしい出血と立ち昇る激痛により切り落とされたことを悟る。
いや、何よりネルンが自分のために作ってくれた大司祭の服を血で汚してしまったことに怒りと悲しみが湧き上がってくる。
「何プッツン来ちゃってんの?インチキ教団。内輪でイキり散らして祭り上げられて、バカを騙して金取って、そんなことしてりゃそりゃ殴られたら頭くるわよね!」
「λの極み『夢病』:Fb=−pgV」
「わっ!」
アンジーの挑発に乗ったのか、ホタルの周囲に巨大な無重力波が発生し、あらゆるものが浮かび上がる。
アンジーが作り出したものたちも浮かび上がり、まるで意味をなさなくなった。
それどころか、ホタルはそれを自身の攻撃に利用し、散弾のように放った。
「飾の極み『極彩粧替人形刺繍』:摩訶不思議な知育玩具」
体を文字通りバラバラにしたアンジーはそのまま自身の身体にホタルの波動が乗った破片を結合させ、小型爆弾のようにホタルに付着させ、脇腹を抉る。
『本当に相性が悪すぎますね…』
信者を治療するために取っておいた包帯を巻き、止血すると、浮力で浮いたまま戦闘の構えを取る。
「いいでしょう。貴女にはこの技を使わせていただきます。」
「やってみればぁ?飾の極み『極彩粧替人形刺繍』:奥義・極彩色天鈴可変人形」
あらゆるパーツが集まり作り出された等身大の人形はどうやらアンジーの波動と連動しているらしく、周囲の物を無差別に改造し、武器にしていく。
触れたらバラバラにされる攻撃をかわしながら、ホタルはついにアンジーに向けて手を翳す。
「この距離なら…λの極み『夢病』:織天使響奏讃歌!」
「なっ!!」
激痛…などという甘い表現ではない。引力と斥力と『何か』を動かされ、操り人形のようにあちこちにたたきつけられたアンジーはついに痛みに声を上げることもできずに倒れた。
「貴女の負けです。敗因は…ネルン様を信仰しなかったこと…この都市は、いや、この世界は今日ネルン様のものとなる…その為には…私が先にファブナーを…」
「へっ…バーカ…ファブナー様にあんたが…勝てるわけない…」
ボロボロの身体でハサミを握るアンジーに最早興味もなくなったホタルはファブナーを探すため、背を向けた。
そこへ来るのはキノと呼ばれている賭博都市の重役。
彼女はアンジーに石花の裏切りを告げる。
「こんな時に言うなっての…」
ホタルvsアンジー
勝者:ホタル
「こりゃ久々に楽しい相手だね〜☆」
「『双影乱掌』」
「ぐっ…ヤバいかもこれ…」
ハーツは影と自身の拳で二人にラッシュを叩き込み、傷の再生とともに動いたラショウの攻撃を別の影で受け流すと、牽制に放たれたタカナシの小鳥が、隙をかき消した。
「『インカアジサシ』」
『なんだこの群れの量は!?』
「ぐあっ!!」
黒い羽根に赤い嘴を持つ小鳥達が大量に飛び出し、ラショウの反撃を食い止めると、慣れたように入れ替わったハーツの重い一撃が鳩尾に入る。
「二人で一人を攻撃してたら意味ないんじゃないの〜?」
「影の極み『鬼御影』:影分身」
文字通り10体に分かれたハーツが不意打ちのように飛びかかるパンテラに影を弓のように変形させて対応するが、スピードの上がったパンテラは残像のようなものを残し、タカナシとハーツにカウンターの斬撃を加える。
「『piu mosso』」
「ちっ!!」
「ぐっ!」
「妖の極み『百鬼夜行』:山颪!」
飛び回るパンテラに気を取られた二人は、ラショウの波動に気付き、影と羽根による防御を試みるが、凄まじい力の一撃に意識を飛ばしかけ、踏みとどまる。
「パンテラだったか、そのリズム狂わせてもらうぜ。禽の極み『嗜嗿啄嘴』:葦原炎上」
オオヨシキリの姿になったタカナシはさらに大群を召喚し、一斉に鳴き声を上げ、パンテラの極みの『音』をかき消した。
「マジ!?そんなのありかよ!」
「タカナシ、さすがだ。追撃は任せろ。奴らは『五度触れた』…」
「そうか。」
「影の極み『鬼御影』:影撃ち」
ハーツの力が増幅する。
「影の極み『鬼御影』:陰堕とし」
巨大な海のようになった空間は二人の呼吸を奪っていく。
ハーツとタカナシはそれを好機と見て、さらに追撃の手を増やしていった。
「禽の極み『嗜嗿啄嘴』:既死感」
モズ、いや、ズグロモリモズのような姿という方が正しいだろう。
カラフルな羽根を生やし、飛び上がったタカナシは。まるで豪雨のようにその羽根を空間に落としていく。
その一つ一つが致死量の毒の羽だ。
「『火間虫入道』!!」
熱風が羽根を焼き毒を浴びることは免れたが、たちの悪いことに落ちた毒は地雷原のように地面に残存する。
酸素もそろそろ危険だと感じるラショウが感じたのはパンテラに対する違和感。
明らかに速くなっているのだ。打ち合う攻撃の一合一合がどんどんと速くなっている。
「『双影乱し…「『悪酔う悪魔たちの狂宴』!!」
「ぐあああっ!」
「キャハ☆ごめんね〜おじさん。あまりに遅いから何十回も斬っちゃった」
ハーツの体に数十発の斬撃跡が刻まれ、空間が解除され、酸素が戻る。
「まずいな…援護を…っ!」
「妖の極み『百鬼夜行』:蛞蝓少女」
『粘液の塊』
援護をしようとしたタカナシはナメクジのような粘液の波動に羽根を絡め取られ、落下していく。
「ちっ…」
「覚えておけ。こんなチンケな都市の幹部ごときで俺達を止めるのは不可能だ。妖の極み『百鬼夜行』:大天狗!!」
「ぐああああああ!!」
だらりと脱力した体勢から受けた渾身の一撃にタカナシは死を覚悟しながらもどうにか踏みとどまった。
しぶとい二人にとどめを刺そうとした瞬間、巨大な戦斧が飛来し、咄嗟にそれを弾き返す。
「まずは四人ですか。」
現れたネルンに緊張が漂う。
ハーツはアイコンタクトのようにラショウに何かを目で訴え、渋々ながらそれに応じる。
「一時休戦だ。四人でコイツを叩く。タカナシ、『あの鳥』を出す覚悟もしておけよ」
「俺が嫌いな鳥は出さねぇって言ったろ?それに…」
「ああ、『その程度じゃ勝てない』だろうな。」
「ラショウちゃ〜ん。足引っ張んないでね?」
「テメェの心配をしてろ。だが、まずは…」
全員が武器をネルンに向ける。
「「「「お前が消えろ」」」」
「何を勘違いしているのです?選別するのは『神』ですよ。」
ふわりと柔らかく飛んだネルンに出し惜しみせず、タカナシは1〜100と数字が書かれた小鳥を召喚し、迎撃態勢に入った。
「禽の極み『嗜嗿啄嘴』:奥義・荒賽爆死厨」
番号の小さい鳥たちは刻めば刻むほど大量に増殖し、10匹になった所で巨大化しネルンを襲う。
そして、95からの小鳥は触れると同時に凄まじい爆発が起き、流石のネルンも身を躱し、被弾を回避する。
「『影掴み』」
ハーツの影に掴まれ、身動きが取れなくなったことでついにネルンは極みの構えを取った。
「救の極み『罪咎聖歌』:十五大罪・暴食」
戦斧に纏われた波動がまるで全てを喰らう大きな口のように変形し、小鳥も影も喰らい尽くしていく。
「波動を食いやがった!?」
「『風狸』」
「『energico』」
「それもいただきますよ」
ラショウの風の斬撃も、パンテラの強靭な一撃も全て波動に飲み込まれ、消える。
「反撃といきましょう…『十五大罪・強欲』」
波動が吸われていくのがわかる。
極みのエネルギーそのものを吸い取られ、『消耗』した四人はガクッと膝をついてしまった。
「影の極み『鬼御影』:影蜂」
「『十五大罪・嫉妬』おやおや?」
影で生成された蜂の大群はネルンが作り出した鏡のような幻覚の空間に放たれ、その攻撃が届くことはなかった。
「いや、これでいい。」
「『grandioso』」
「くっ…まさか斬られるとは…無傷で救って差し上げるつもりでしたのに」
広範囲かつ、スピーディーなパンテラの斬撃がついにネルンに届く。
「妖の極み『百鬼夜行』:海難法師!」
「救の極み『罪咎聖歌』:十五大罪・憎悪。」
ラショウの攻撃とネルンの怨念のような一撃必殺の波動がぶつかり合う。
「ぐぐっ…なんて威力。うあああっ!」
ネルンはついに力負けし、ラショウの斬撃をかわしきれずに喰らってしまった。
「ハーツ、共鳴する…「『十五大罪・傲慢』」
波動はまるで西遊記の輪のように四人を締め付け、一瞬動きを止める。
共鳴のタイムラグを起こすことこそネルンの狙いだったのだ。
ネルンはラショウに傷をつけられた血を指で取り、舐めると最後の技を繰り出す。
「救の極み『罪咎聖歌』:十五大罪・絶望」
「これは俺の…」
どうやら一番威力のある技をランダムにコピーし、使いやすいようにアレンジして発動するらしいそれは、空中に大きく上がり弾けて四人を一瞬で戦闘不能に陥らせた。
その威力はタカナシの『100』番目の小鳥そのものだ。いや、ネルンの波動が乗っているぶん、それよりも威力が高いだろう。
ネルンは意識を失った四人を満足そうに眺め、祈りの言葉を捧げると、ファブナーの部下であるココの元へ向かった。
今から救いの時代が来ることに歓喜しているらしいネルンの綻んだ顔はどこか聖母のような優しさも含まれていた。
ラショウ&パンテラvsタカナシ&ハーツ
ラショウ&パンテラ&タカナシ&ハーツvsネルン
勝者:ネルン
チャプター30:この数奇な人生に決着を
「魅の極み…「『飛沫斬血』か…?」
「なっ!?」
メイネは思わず耳を疑う。
こいつは今なんと言ったのかと脳内で反芻しても思考が追いつかない。
魔女姫と呼ばれた母親でも心を読むような力は無かったと朧気な記憶を手繰り寄せ思考する。
しかし、先回りされて斬られた身体から流れる血が、昇ってくる痛みがそれをされたのだと思わざるを得ないのだ。
「何やお前、思考も読めるんか?」
「お前のはな。ククク…素晴らしい。やはり母は偉大だ。」
白百合に滴り落ちるメイネの血を舐め取ると、罰夢の波動がさらに増幅する。
「なじむ…実になじむぞ!!貴様の血が!!ルケミアの血が!!」
「黙っとけ、そんなもん入れて何になんねん。あの女の血なんて必要ないやろ」
「・・・・・」
罰夢はメイネの言葉に思考が停止したかのように押し黙ると、格段に上がったスピードとパワーでメイネを吹き飛ばすと、喉に白百合を突き刺し、肉を抉るようにグリグリとかき回す。
「あっ…ぐ…」
「その状態で生きているのがまず母の恩恵だ。逆にこれだけの恩恵でなぜ母を好きにならない?」
メイネは白百合を掴み、ブチブチと嫌な音を立てながら肉片を飛び散らし拘束から逃れると、再び極みを発動する構えを取る。
「魅の極み『赫』:虚血」
「うっ!!」
一手思考を読み取るのが遅かった罰夢の心臓の血管が欠乏症を起こし、膝をつく。
「どうやら、読むまでに時間はかかるようやな。これで、不出来な弟に話をする時間が設けられたわけや」
「よく聞けや、生まれて0年のガキには分からへんかも知れんけど…私らルケミア人はあの女のせいで世界中を巻き込んでるんやで。災害、呪い、戦争…全てあの時間を操った母親のせい…いや、私ら家族のせいや。だからここで、終わらせる。」
「魅の極み『赫』:溶血」
罰夢の腕がどんどんと黒ずみ、大きく腫れ上がり、壊疽していくかのような異臭と激痛が走る。
しかし、その技をもってして罰夢の表情一つ変えるには至らなかった。
瞬く間に再生したその身体に異形の模様が発生し、凄まじい殺気を感じ取ったメイネが飛び退く。
「罰の極み『首堕白百合』…」
『なんや、この凄まじい殺気…』
「憎極・戯朧朧逢魔時」
白百合から現れた憎しみの黒炎は異様な音を出し、メイネの全身に纏わりつく。
「ゴミ人間が言うとった黒炎…いや、それ以上やな…っ!!母親の嫌な臭いも感じるで…なんでそれが使えんねん…」
黒炎は肺を燃やし、膝をついたメイネは苦しそうな声で疑問をぶつけつつ、さらに波動量を増加させて立ち上がる。
「妖刀と融合したんか…」
魔女姫から生まれ、刀が作り出した力。
罰夢はさらに禍々しいオーラを放ち、もう一本の妖刀の力を放つ。
「それを知って尚立ち上がるか…蝕極・葬刻呪詛憎痕」
「ぐああああっ!!」
今まで斬られてきた生傷が、過去の傷口が『蝕』によって広がる。
メイネは本来生きることができないであろう量の血を吹き出し、倒れ込む。
「蝕の力は死してなおお前の身体の傷を蝕み、広げ、喰らい続ける。哀れだな…母を肯定していればこうはならなかった…」
罰夢は母親の復活のためにメイネにトドメを刺そうと極みの波動を纏う。
しかし、瀕死のメイネは罰夢の身体を掴み『血の縄』で互いを結びつけた。
「お前さん、やっぱり戦い方が幼いんやねぇ。やっぱり0歳児は0歳児や。魔女姫が使っていた妖刀に刻まれているのは持ち主の極み。『蝕』の子はすさまじい怨恨と怨念を持っていた子や。その子と同じくらいお前さんが私を憎んでいたら一瞬で肉片をドロドロにできたんや。経験不足甚だしいわ。」
メイネの腹に刺さっているのは自身の刀。
人工透析のように自身の身体の血を操り、悪い『蝕』の力の血を全部取り出したのだ。
「くっ。離せ!!」
「もう終わりや、魅の極み『赫』:絆血。お前さんと私の血を繋げた縄や。解くことなんでできん。これで全部終わりや。」
「魅の極み『赫』:心中斬血」
「やめろ!母の復活こそが世界の…世界の救いだとなぜわからない!この…無知無能な兄が!!!!」
互いの血が爆裂し、吹き飛ぶ。
自身も死ぬつもりの大技。
罰夢を殺して自分も死ぬための技。
メイネは見たことがないような白銀の長髪に痣のような紋様が入った容姿になり、更に波動を上げ、罰夢の身体を内部から粉微塵にし、自身の身体も血の爆薬のとして使用する。
これで全てを終わらせるつもりだった。
しかし、血の縄をちぎり、メイネだけを守る水のドームのようなものが発生する。
「お前さんは別に死ぬことはないじゃろう。」
そこにいたのはミチザネだった。『現代に行く前に寄った』などと軽口でも叩くように言った彼は、水のドームからメイネを解放し、「なぜ助けた」と言いたげなその表情を思い切り笑い飛ばす。
「あの日のおかげで魔女姫の力はほぼゼロ。罰夢ももはやただの矮小な肉片じゃ。後は冥界で睨みを利かせていればこちらに戻ることはないじゃろう。」
「それでも結局…私はルケミアの生き残りや…」
「ぶわっはっは!!その力を悪用しない者を残したとてなんの意味もなさんじゃろう!それに、お主は世継ぎを産めぬ身体ととある男から聞いたがのう?」
「黙っとけ。誰から聞いたんやそんな事」
「お前もよく知る水色の髪をした男じゃ。」
薄々感づいてはいたが、結局犯人はアイツかと苛立つ。
動けない身体で毒づきながらも、自身以外のルケミアの妖気が消えたことを感じ、メイネは少し微笑んだ。
メイネvs罰夢
勝者:メイネ
チャプター31 :すべて掌の上
「ご苦労だった。ツカハラくん。」
連戦続きで疲れていたとはいえ、ラヴィーンはエデンによりやられてしまった。
残るはエリックと自分自身。そしてヴァルツの手には半壊した次元操箱。
ハリソンから貰った欠片もその一部になり、『転移』はこれでしていたことが分かる。
ザ・ロイヤルのトップすらエデンに騙されていのだ。
次元操箱の欠片をサイパンに集めることこそが、ヴァルツの目的だったと気付くのが遅かったと後悔する。
「そうだな…君達は殺して置かなければならない。口を閉じてもらおう。いや、その前に…」
「う…まずい!」
麻酔のようなもので麻痺した身体を必死で引き起こし、ラヴィーンがヴァルツの手に触れようとした瞬間、その力は発動される。
ラヴィーンとツカハラの身体をまばゆい光が包み込み、一瞬でその場から姿を消す。
いや、確かに消したのだ。
ヴァルツは一瞬眉をひそめる。
『このふざけた事態はなんだ…』
念には念をと片脚を銃撃して倒れていたはずのツカハラが、今ラヴィーンと共に元の世界に転移させたはずの女が、痛む足を引きずって自分に向かって拳を握っている。
「エリック!できるだけ遠くに逃げて!」
「う、うん!!」
ツカハラの声に呼応するように何処かへと走り出す。
『待っててね、お姉ちゃん!絶対に一人で死なせたりしないから!』
「くっ…!」
「さんざん好き勝手に世界をかき乱しやがって…この世界もあっちの世界も…何もかもあんたの…あんたらのものじゃない!!」
「フン」
ヴァルツはツカハラの言葉を鼻で笑い、アーミーナイフを振り下ろす。
しかし、振り下ろしかけたナイフの刃が自身に食い込むほど思い切り掴み、激痛に顔を歪めながら反対の拳を握り込む。
「歯ァ食いしばれよ、最恐。私の最弱はちっとばかし響くぞ!」
ツカハラの右拳はヴァルツの顔面を的確に捉え、吹き飛ばす。
顔面の骨が折れた嫌な感触が手に伝わる。
「ヴァルツ様!!く…撃て!コイツを殺せ!」
ヴァルツの部下達が一斉に銃口を向ける。
ツカハラはとうとう力尽き、自身の最期を悟る。
ヴァルツを殴れた満足感の中に潜む違和感。エデンが一歩も動かないどころかヴァルツが殴られたことにも表情一つ変えないのだ。
「お姉ちゃん!!」
銃撃の集中砲火は盾と巨大な肉体に阻まれ、ツカハラに通ることはなかった。
「協力に感謝する。ミス、ツカハラ」
トップは防いだ盾をフリスビーのように投げ、ヴァルツの兵を次々と倒していく。
不意に背後からヴァルツの頭が弾け飛ぶ音がする。
すさまじい力で頭を踏みつぶしたスカジャンの女性はイカれたようにケラケラと笑い出す。
「キャハハハ!!マジで死んじゃった!!」
「え、A.K.NEX!?配給会社同じだっけ!?」
目の周りの奇抜な模様を歪めてケラケラと笑うスカジャンの女性、A.K.NEXに目を丸くする。
『ザ・フォース…どころじゃないってこんなの』
「誰か助けてくれるかと思って走り出したらこの人達に出会ったんだ。もう大丈夫、お姉ちゃん。ここからは、僕が護るよ!父さんからの教えなんだ『ファミリーは見捨てない』って!」
「そっか…やっぱりさすがだわ、あんた。」
ツカハラはエリックが呼んだ助っ人に先頭を任せるかのように地面に体を預けた。
「ふふふ…ハハハハハ!計画通りに行きましたよ。ファブナー様。ヴァルツ様!」
明らかに絶望的な状況でエデンは笑い出す。
そして、ヴァルツの死体から次元操箱と無線機を取り出した。
「ご苦労だった。エデン」
「!?」
流れてきたのはヴァルツの声。
「出来の悪い試作品のクローンを殺してくれてありがとうと言ったのだよ。全て…計画通りだ。私の掌の上で踊ってくれてありがとう。『殺したい欲望』『守りたい欲望』『世界を救う欲望』が揃っている…聞こえるかファブナー」
第一世界とこちらを繋ぐ無線のように次元操箱を使うと、ファブナーは笑う。
「ああ、聞こえるぞ。カイナ、行けるか?」
欲の塊を捕捉したカイナに向けて放ち、波動を微量回復させると、別世界の欲を自身の身体に溜め込む。
「はい、ファブナー様。戦いこそしくじってしまいましたが…「しくじったと言う言葉を使うな。お前はよくやった。結果を求めるのはトップだけでいい。それにお前は『これから成功する』んだ」
「はい。私は絶対に貴方を王にします。」
「欲の極み『堕神礼賛』…」
「魔の極み『百禍之靄』…」
「「狂気喝采・奸拷万魔殿!!」」
ツカハラ達がいた世界に現れたのは巨大なピエロをあしらい、額がスロット、目がルーレットになった怪物。
ピエロ帽の飾りか、髪の毛の代わりかのように生えたトランプが恐怖を増幅させる。
「やれやれ、賭け事は趣味ではないんだがね。」
「やるしかないぞ、ザ・フォース!!」
「ウオオオオオオ!」
ザ・フォースは二人が生み出した怪物と対峙する。
「エデン、次元操箱をこちらへ持って来い」
「はい、ヴァルツ様。」
『いや、この箱…持っていれば出し抜けるはずだ…ヴァルツも…ファブナー様も…』
従うように言ったエデンの心が揺らぐ。これさえあればあらゆる力を自分のものにできるのではないか、と感じたのだ。
その一瞬の揺らぎは腕に向かって放たれた投石に気付かず、直撃により次元操箱を落としてしまった。
「おー!!やっぱり百発百中じゃんよ。」
七福はまるでストラックアウトでもしたかのようにピースサインをし、手入れをしていないであろうボロボロの刀でエデンの攻撃を受け止める。
しかし、毒を仕込んでいたのかエデンのメスから零れ落ちた液に触れると同時に七福の体の受け止めた箇所から血が噴き出した。
「この波動…君は『あの世界の人』だね?そんな疲れ切った体で何ができる?」
「んあ?お前より強いから気にしなくていいんよ。優しいんな。まぁ優しいか、風邪予防してるもんな。マスク坊や」
「話が長いな…通してもらおう」
「嫌だね。お前にそれは渡さねぇ。俺はお前みたいな他人を陥れる医者が一番嫌いなんよ、ま、だから相手になってもらうぜ。」
「あの程度も防げない死に損ないが…」
七福vsエデン
チャプター32 :狂気喝采・奸拷万魔殿
「ウオオオオオ!!」
共鳴で生み出した怪物は耳をつんざく雄叫びをあげ、ソニックスパークにトランプを放つ。
「おっと。強烈だね。」
完全にかわしたはずの攻撃だったが、ソニックスパークのスピードについてきたのか、体の七カ所に傷ができる。
「油断するな。次が来るぞ!!」
「フン、鈍重は鈍重じゃない!!」
NEXの蹴りが怪物に直撃すると、額のスロットが葡萄に変わり、珍妙な外れ音と共に攻撃が跳ね返される。
「フン、アタシに殴り返すなんていい度胸じゃない!」
「素晴らしい攻撃だ。A.K.NEX。優秀な科学者だったとは思えないいい蹴りだ。」
ジェットエンジンで飛ぶブラックナイトが高熱のレーザーを照射し炎で包み込み、ホーガンが怪物を持ち上げて叩きつけると、額のスロットが『777』になり、大当たり音と共に口が開きコインが流れ出る。
そのコインはカイナの靄がかかり、やがてその姿を兵器に変えた。
「まずい!!隠れろ!!」
「ちょっとちょっと!なんでもあり!?」
トップの盾を軸に防御の術を持たないスペースソニックとNEXは身を隠す。
しかし、強靭な肉体を持つホーガンや、全身武装のブラックナイトをもってして、その生成された兵器の攻撃はダメージを軽減させるので精一杯だった。
「違法賭博向いていないらしい。」
剥がれ落ちるスーツの一部を見てブラックナイトが、皮肉めいたように呟く。
モニターに映る電力は残り48%、ぼちぼちまずいなと考える。
「タイプCの電源コードを取り付けるべきだったか?」
「つけてもこの時代に充電コードなんかないけどね。」
「おっと。これは一本取られたな。」
「もう一発来ますよ!!はあっ!!」
無数のミサイルに変わったコインはショウ・ターが渾身の力で殴り壊し、その隙にトップが盾の投擲で怪物に攻撃を仕掛けるが巨大な腕に掴まれ、投げ返される。
「そうか…あの模様…!!」
怪物の背後にある横線一本に見える模様に盾を投擲し、驚異的な身体能力で腕の攻撃を掻い潜りながら模様に強烈なトンファーの一撃を加え、ショウ・ターとNEXに続くように号令をかける。
「人使いが荒いっての!!」
「ここを狙えばいいんですね!」
拳銃の乱射とショウ・ターの一撃が触れる瞬間、その線の模様が目の形に開き、その眼球一つ一つが彼らの動きを追って巨大な手から現れたチェスの駒が斬り裂く。
「くっ!!」
「やってくれんじゃない!!」
『あの目をどうにか…』
「ウオオオ!!」
ホーガンはそのチェスの駒を持ち上げ、怪物の顔面に向けて思い切り投げつけるがトランプにより防がれ、目の模様に流れ弾のように直撃した。
模様はまるでオセロのように黒色に反転し、与えたダメージがそのままホーガンに反映される。
「グアアアアア!」
『ダメージが与えられない!?』
「消費電力を気にしている場合では無さそうだな…」
ブラックナイトは胸のビームを照射し、怪物の一部を焼く。
ようやく軽度のダメージが入った事に加え、ブラックナイトはとある事に気付いた。
「Foo!!いいね。皆最高だよ!」
いつの間にか怪物の懐にいたスペースソニックは、チェスのもう一つの駒をルーレットのような形の目に斬撃が当たるように方向を変えていたらしい。
しかし、その斬撃は怪物に小さなかすり傷のみを与え、額のスロットにベルの形が揃い、耳をつんざくような超音波が発される。
「怯むな。からくりが分かった。ヤツのダメージ量はおそらく額のスロットだ…」
「なるほどね…当たりが大きければ大きいほど向こうの攻撃の威力も高まるけど、こっちのダメージも大きくなるってわけか…」
「それさえ分かれば戦えないことはないだろう?」
ブラックナイトはジェットエンジンで怪物から一旦距離を取る。
偶然か、トップを中心にヒーロー達が怪物を前に綺麗に並んだのだ。
「行こう、皆!ザ・フォース!」
「「「「「アッセンブル!!!」」」」」
NEXは懐から『PASS OUT!!!』と書かれた特注の金属バットを出し、躊躇いもなく怪物に向けて思い切り振り抜くと、スロットがサイのマークに変わり空中にサイコロが放たれる。
『6』の出目が出たそれは、巨大なクレーターができるほどの凄まじい大爆発を引き起こす。
スペースソニックが遠くへ運んでいなければ全員戦闘不能になっていただろう。
「ありがとうございます!皆さん下がって!!!」
ショウ・ターの腕に着いた8つの輪に凄まじい力が宿り、光り輝く。
「加勢しよう。ニューヨーク中の電力会社から予備電源を借りていて良かった…少々過剰放電にはなるが…」
大量の予備電源を作動させ、『778%』の表示がモニターに現れる。
スーツはオーバーヒートを起こし、サウナのような熱波に今にも意識が飛びそうだ。
「やはり私はギャンブルには向いていないようだ。ラッキーセブンを1%も上回ってしまった…」
オーバーヒートを起こすほどの電力で培ったビームを怪物に浴びせると同時にショウ・ターが最大威力の一撃を放つ。
スロットの表示は777に変わり、再び体内からコインが現れ、背後の目が全て開く。
「君等のおかげでスキができた。」
「鈍すぎだね、このデカブツ」
トップの盾が、スペースソニックの目にも止まらぬスピードが怪物の目を破壊していく。
「な、なんだ!?」
怪物の目のルーレットが高速回転する。
ダイヤモンドゲームのような盤が現れ、コマのようになったザ・フォースの面々は引き寄せられ掌に包まれるように潰されそうになるのをホーガンがどうにか食い止めた。
しかし、怪物のパワーは凄まじく、万力のようにホーガン諸共ザ・フォースの面々をゆっくりと握り潰していく。
スロットの動く音がする。
あと一歩。あと一歩で決めることができるはずなのだ。
たった一瞬怯ませられればとトップは唇を噛む。
瞬間、飛び込む小さな影。
どこから手に入れたのか、手榴弾を持ったエリックが怪物のスロットに向けて投げようとしているのだ。
「よせ!!」
今にもピンを抜こうとするエリックに叫ぶトップの声をかき消すように怪物に綺麗に直撃したのはたった一発のライフル弾。
スロットを的確に撃ち抜いた弾丸により、怪物の動きが一瞬止まる。
「エリック…強くなったな…」
数キロ離れた建物でライフルを構えるエプロン姿の男は身を挺してザ・フォースを助けようとしたエリックに微笑み、ライフルをしまう。
「会わなくていいのか?」
エプロンの男に声をかけるのは長官らしき男。
「ああ、今はまだな…ヴァルツのこともある…巻き込むわけにはいかない。」
エプロンの男は痕跡を残さずヘリに乗り、その場を後にした。
「ウオオオオオオ!!」
何者かの弾丸が作り出した隙、ホーガンは渾身の力で怪物の腕をこじ開け、ソニックスパークが超スピードでエリックを遠ざける。
「いくぞ!!!」
トップの盾は鋭利な刃物のように怪物を切り裂き、その攻撃の隙にNEXが舌に『Fuck ME!!』と書かれたチェンソーを突き立てる。
「しつこい男は嫌われるわよ。キャハハハ!!舌噛んで逝きな!!」
コインが溢れ出る舌を切断し、ショウ・ターがルーレット部分を破壊する威力のパンチを撃ち込む。
「違法賭博は重罪だ。奪った金は私の会社名義で全て途上国への寄付金にしておこう、怪物くん。」
ブラックナイトのビームがとどめのように直撃し、怪物は完全に崩壊し、霧散する。
勝利の余韻に浸る間もなくホログラムが作動し、ザ・フォースの長官が現れる。
「ご苦労だった、ザ・フォースの諸君。休暇を与えたいところだが『例の件』で話がある。至急こちらの世界へ戻ってくれ。」
「わかりました。皆さん、戻りましょう。」
「ミス、ツカハラ」
次元操箱の力で光に包まれるブラックナイトが渡したのは特殊な塗り薬。
「ザ・ロイヤルのとある『研究者』が作り出した秘薬だ。たちまち痛みが取れる。大切に使うといい。」
「あ、ありがとう…ございます…」
同時にツカハラとエリックの通信機が作動する。
「こちらエージェントハートランド。ハリソン司令の身の安全は確保した。任務完了だ。君達の貢献のおかげだ、感謝する。」
ツカハラはハートランドの言葉を聞き、腰が抜けたようにその場に尻餅をつく。
長い長い一日が遂に終わりを迎えたのだ。
ここは第8世界のとある場所。『掃除屋』と名乗る男は、サングラスの男に告げる。
『ヴァルツは今、日本に潜伏している』と。
第1世界
共鳴が破壊されたのがわかる。
満身創痍で出し切れるほどの波動を使ったカイナは消耗のあまりその場で目を閉じるが、ふわりと浮かぶ感覚にその目を開ける。
「まさか逃げ出してなんかしてるなんてね…」
カイナを肩に担いだコヒナは、流れ落ちる血を気にせず、アンのいる『もう一つの船』へ歩き出す。
「何のつもりだ…?」
「別に。アンタが顔に似合わず随分根性あるから敵として敬意を払ってるだけ。きっちり捕まってもらうから」
「こんなところネルンに見つかったらたちまち二人とも殺されるぞ…いや…」
カイナはファブナーの波動を察知し、言いかけた言葉を取りやめ、コヒナに向けて『終わりだ』とだけ呟く。
「終わり…?」
「ファブナー様がどうやら本気になったらしい。共鳴しているからか。私にはわかる…」
「そのファブナー様に殺されるとは思わないわけ?こんな風に敵の手なんか借りてさ」
「フッ…やはりお前らは何もわかっていない…あの人がなぜこのような残酷な都市で今まで帝王として君臨していたのかも…」
カイナの一言でコヒナは思わず冷や汗をかく。激痛で出る嫌な汗とは違う汗。あの男の慕われ方は異常だ。どこかヴァサラの…いや、悪のカリスマであるカムイの慕われ方に似ていた。
「そう…なら、こっちにヴァサラ総督が居ないのは辛いね」
コヒナは精一杯の平静を装い、カラカラの喉で言葉を絞り出し、カイナをもう一つの船へ運んでいく。
チャプター33:七福VSエデン
「『当たるも八卦』!!」
「こんな物を技とはよく言ったものだな…」
七福が投げつけた石はエデンに軽々と避けられ注射器の投擲を意趣返しのように浴びる。
「お前も同じようなもんじゃんよ…っ!?」
わずかに鈍る指の感覚、狙いが外れると直感で察知した七福は、羽織っているジャケットでまるで闘牛士のように注射器をかわし、それをエデンに投げつけ、視界を奪うと右脚を上げ、顔面を思い切り蹴りつけた。
「くっ!!」
『素人同然の蹴りだな…』
「素人同然の蹴りだな…とか思ってるっしょ?んで…」
注射器を握る右腕をサッカーボールのように蹴り上げる。
骨が砕ける嫌な音と鈍く登ってくる激痛。エデンはそのカラクリを脳内で一瞬で計算し、七福の靴をつかみ、脱がせる。
「げ!」
「手の込んだマネを…」
カシャーンと軽快な音を鳴らして落ちて来たのは分厚い鉄板。
七福は焦りの表情を浮かべ、素早くパンチを繰り出す。
「その縞模様の服もリーチを不明瞭にするためのものだ…どうした?『極み』と『銃の流派』は使わないのか…?」
「その手には乗らんよ…お前の割れた注射器…極みに反応する毒物だ…使えば俺は負ける。そうだろ…?」
七福が極みを発動しようとするたびに反応するエデンの注射器の残骸。
例えブラフであってももしもを考えると極みを使うわけにはいかない。
エデンは七福のカラクリを全て見切ったと攻勢をしかける。
「毒の極み『救世誅毒』:強制服毒」
テグス糸が巻き付いたメスを大量に投げる。
七福は銃で致命傷になる場所を撃ち落とすが、数本が体に突き刺さった。
「ぐっ…」
「『固毒伏』!!」
「ゔあっ…」
血液に神経毒が回るのがわかる。激痛に顔を歪め、血を吐いて倒れ込んだ。
「身体が動かないか?七福…いや、死に損ないの被検体…」
「何…しやがった…?」
「毒の極み『救世誅毒』:欠乏麻酔」
エデンが撒き散らした毒の残骸から吹き出る『謎の毒』。
「その散布された毒を吸えば酸素を吸引できなくなる。この世界で最も恐ろしい毒は『酸素』…たった数%無くなるだけで今のお前のようにゆっくりと死んでいく。二手…遅れたようだな…死ね」
エデンが特注のメスを振り降ろそうとした瞬間、七福の靴が爆裂し、辺りに強烈な閃光と音が広がる。
「っ!?」
「三手…遅れたようだな…な〜んちゃって!!頭がいいんに注意力が散漫なんな!!俺とギャンブル勝負したココならこ〜んな単純なイカサマ余裕で見破ったんに。お前ホントに賭博都市のヤツなんか。」
どこかへ隠れた七福はエデンをバカにするように続ける。
「お前みたいに頭いいことを鼻にかけて詰めが甘いヤツのことを何ていうか知ってるん?『無能よ無能』聞いてる〜?無能く〜ん。」
銃弾がエデンの脇腹を『わざと外す』ように放たれる。
「くっ!どこにいる!なぜ動ける!」
「肩の注射器を見てみなよ。目が悪いん?無能く〜ん?」
「はっ!?」
先程のパンチの時かと冷や汗をかく。こいつは注射器を一つ盗んでいたのかと。だが、注射器にどの毒物が入っていたのかは分からないはずだ、なぜ解毒作用のあるものをこの中から選ぶことができたのかがわからない。
「運の極み『日々是好日』:神引き。ずっと極みはこれだけのために使ってたんよ。くらえっ!!」
数発の銃弾がエデンの注射器を割る。
「くっ…」
『まるで姿が見えん…』
「お~い」
白衣の袖から一匹のハムスターが現れ、それが拡声器のような役割をしているのがわかったが、エデンはあえてハムスターを捕まえず周囲の音に耳を傾け七福の場所を探り、驚愕する。
ざわざわと響き渡る木々の音。
七福の脚で行ける範囲にあるのは入り組んだ雑木林。
この世界には未開発の自然が減っているとは聞いたが、それでもわずかに残存するエリア。
彼の視界は木々で覆われているはずだがそのわずかな合間を縫って注射器だけに命中させたらしい。
「さて、とどめと行くかね…「フッ…これがなんだかわかるか?」
「おいおい、次元操箱の欠片かよ。」
「そうだ!これでお前を送り返せば…ん?」
元の世界に帰れるように念じるが、七福の体は光に包まれず、何も起こらなかった。
「悪いな、俺がここに来たのは親友の力でなんよ。この黒いカードでな。」
「どこまでもバカにしやがって…」
「バカにしてる?俺が何も知らんとでも?実験とかいって色んな人間殺したんだろ?お前みたいな人間には同情もせんよ。んじゃ、とどめと行くかね。」
攻撃する術がなくなったエデンの両脚に狙いを定める。
「距離、狙いOK。少し手荒に行くぜっ!!運の極み『日々是好日』:奉納七十七ヶ所巡礼恵比寿神王!!!」
七発の弾丸はエデンの両手脚を貫き、転倒させる。
「逃がすかっ!!」
「くっ!!」
飛びかかるツカハラに投げたのは毒の煙幕。
口を押さえたツカハラに対し、エデンは笑うと、自身の両脚を大きく切り裂く。
「毒の極み『救世誅毒』:酔毒走」
脚に痛み止めの猛毒を注入したらしいエデンは、その脚で脱出用の船へ逃走する。
「あっさり逃走されちゃっちゃ〜♪」
「んなこと言ってないで追いなよ!」
「大丈夫。あの状態じゃどうにもならんて。この世界で医者やるんは医師免許がいる。それに…あとはコイツらに任せりゃ充分なんじゃん?」
ツカハラに指摘された七福だったが、エデンが持っていた次元操箱の欠片をザ・フォースに渡し、『これでいいだろ?』とめんどくさそうにつぶやき、自身の世界に帰っていった。
「もう…ホントに作品の通りマイペースな人だなあ…」
「いや、彼とは『また会うことになる』だろう。近い内にな」
「…?」
「いや、気にするな。ご苦労だったな、ミス、ツカハラ。後は私たちがやろう」
ブラックナイトは小さな無線機を取り出し、どこかに通話を繋ぐ。
第1世界
「んあ?」
七福はいつの間にか入れられていた『何か』に触れる。
「さっきぶりだな。ミスター七福。君の強さは重々承知した。我々の『計画』に協力していただきたい」
長官の顔が映し出された通信機に一瞬驚きつつ、面倒くさそうに欠伸をしながら、その話をしっかりと聞く。
どうやら自身の身内も関わるらしい話を聞き、七福の表情は真剣なものになっていった。
『ま、とりあえず俺のやるべきことは…』
七福は激戦が繰り広げられる賭博都市の中央へ足を踏み入れた。
七福vsエデン
勝者:七福
チャプター34:神を守りし儚き蛍
「く…バケモンかよ…アイツ…ジャノメが勝てるかどうかって感じじゃん…」
ホタルに敗れたアンジーは、どうにかこの場から逃げるために最早力が入らない脚に精一杯の力を込める。
『体重軽くてよかったって感じ…でもないか…』
骨が砕けているかのように力の入らないその脚を必死に引き起こそうとするアンジーの前に現れたのは石花だった。
「手ェ貸しましょうかぁ…?」
「裏切り者の手なんか借りたくないし」
キノ達から石花の裏切りは聞いている。ネルンの側につくような分かりやすいものならまだしも、ヴァサラ軍と賭博都市、そして救済の教会を同士討ちさせて自身が権力をもぎ取ろうとしていることも全て聞いた今、この男がどういう目的でここに来たかはバカでもわかる。
「思い通りになって良かったじゃん。そのかわり、次どっかでアンタと会ったら、その目障りな口縫い合わせて飾ってやるから覚悟しな!!」
ポケットに入っていたハサミを投げつけると、不意を突かれたのか石花の頬に小さな切り傷がつく。
極みを使うことができれば好き放題に殺すことができたが、ホタルにやられた今、波動を使うことなどできなかった。
「この…っ」
石花は眉間にシワを寄せ、アンジーの胸の辺りを思い切り蹴り上げた。
「ただの服飾係の小娘が!!」
息が詰まるような感覚を味わうよりも早く、石花の罵倒とともに踏みつけや蹴りの応酬を浴び、人間とは思えない角度に手足の関節が曲がる。
「なぁんだ…パワハラ以外で人殴れんじゃん…」
アンジーは最早自分のものとは思えない手足と石花を交互に見つめ、勝ち誇ったかのように微笑みながらそう吐き捨てた。
「あ〜!!!いけないんだ〜」
小学生のやる注意のような言葉を使い、石花を指差すのはジャノメ。
彼は石花の左右にいる裏切り者達に一瞬で近づき、切り傷をつけ、刀を抜くように命令する。
「裏切りはダメだよ〜石花ちゃん。ファブナーちゃんに見ててって言われたの当たっちゃったじゃ〜ん。さ、ここからはわかるよね?処刑の「テメェみてぇな下請けが何ほざいてんだこの野郎!」
「…あれ?」
操るはずだった裏切り者達は刀を床に置き、石花が配ったらしい現代の銃の銃口をしっかりジャノメに向けている。
「下請け野郎ォ…テメェの能力どんだけ見たと思ってんだ?」
「うえっ!?何それ!?」
石花の世界にあるのだろうか、特殊メイクで使われるような皮膚を乱暴にめくると血糊が地面に大量に落ちる。
「形勢逆転だな…死ねや、下請け」
響き渡る銃声、膝を撃ち抜かれて悶絶したのは石花だった。
「て、テメェらああああ!!な、何してんだこの野郎!」
激痛を堪えながら石花は怒号を飛ばす。
「どうした?裏切り者くん?」
ジャノメは二人を手招きするように呼び寄せ、指笛を鳴らすと、数十人が石花を囲う。
「裏切り者は石花ちゃんだけじゃないの。賭博都市にいる何人かはすでに、いや…始めから俺の部下なの。」
「いつからだ…」
「それお前が言う?最初からに決まってんじゃん。ここに入って…いや、下請けとしてたまにここに顔出すようになった数年前からずっとだよ。歴で言ったら石花ちゃんより長いんじゃないかな…」
「は、離せこの野郎!!神輿じゃねえんだぞおい!!」
右腕をスッと上げると同時に石花の体は人気のない場所へ連行されていった。
「シッシッシ…俺が欲しいのはね、『権力』だけだよ。何ものにも覆せないそんな『権力』。それ以外は何もいらない…」
撃ち込んだ弾丸はジャノメの唾液を含んでいたらしく石花の身体は磔にされたかのように木にくくりつけられた。
「待っててね、石花ちゃん。秘密を知ったんだ。どの道君には死んでもらわないと『その前に…』」
ジャノメは石花の命令を解かず、何処かへと歩き出した。
ココの予知通りに未来は進んだ。いや、進んでしまった。
ネルンの凶刃は遊太郎を切り裂き、ついにその力をココに向けて放つ。
「くっ!!魔法カード!『守護霊の手鏡』!!」
「!」
ネルンの攻撃はカードから現れた手鏡により遊太郎とココの間へと逸れた。
「おや、カードを出すタイミングを作らせてしまいましたか…ですが。どの道負けた貴女は自殺するつもりだったのでしょう?ならば神に命を捧げなさい」
ココが自決用に置いていた短剣を拾い上げ、脚に突き刺すように投げつける。
小さくうめき声をあげ、転倒したココをかばうように遊太郎はカードに手をかけるが、ネルンは凄まじい波動をまとい、一瞬で二人の体を斬り裂いた。
「な、なに…!?」
「救の極み『罪咎聖歌』:十五大罪・憤怒」
カードなど引く暇もないほどのスピードとたったの一撃で重傷を負わせるほどのパワー。
これまでよりも更に力が増したことに遊太郎は無ずすべなく倒れる。
ココにトドメの一撃を入れようとしたネルンの斧の攻撃を庇ったのは戻ってきた七福。
「なんなんよ、この化け物のパワーとスピード…」
『大丈夫、運良く重症じゃねえ…』
ぐっ。と脚に力を込める七福を先回りするように現れたネルンから攻撃を防いだのはファブナーだった。
「おい、七福…だったか?」
「んあ?ココを殺すつもりなんか?」
「逆だ。一時共闘しろ。ココをお前の船に送り届けろ。」
「は?送る?」
以外な言葉に思わず七福は聞き返す。
「ああ、送り届けろ。そしてこいつも…」
遊太郎が倒れている地面を崩壊させ、欲の靄が觔斗雲のようになり、船へと運んでいく。
「借りは返したぞ。」
「いいん?俺らがまた襲いかかるかもよ?」
「お前らごとき相手にならねぇ…それにお前らは誰かのために敵わない相手に立ち向かうことはあるが、勝てねぇ喧嘩をするほどバカじゃねぇ…そうだろ?」
「人の内面探るのが好きなんなぁ…ま、ここはお言葉に甘えて…」
七福はココを背負って走り出す。
「逃がすと思いますか?」
「欲の極み『堕神礼賛』:箱庭儡世界」
「救の…っ!!」
ネルンは欲の塊でできた巨大な黒い箱の中に閉じ込められた。
「もって10分か。だが、それで充分だ。」
巨大な斥力の塊がファブナーの体を数メートル吹き飛ばす。
「来ると思ったぞ。ホタル。」
「ネルン様にこれ以上の傷はつけさせません…」
「いや、予想通り…まずはお前からだ。」
ファブナーは全身に欲の防護壁を展開し、斥力の塊を放つホタルの攻撃を欲を纏った拳で弾き返した。
「λの極み『夢病』:啓明」
「ぐっ…!」
欲の幕が強風のような動きをする斥力により文字通り吹き飛ばされる。
「『死尊』!」
再び極みの力を蓄えようと構えを取ったファブナーは、引力の塊により急激にホタルへ引き寄せられた。
「『壊よ…「引力からは逃れることはできない…くらえ。ファブナー。λの極み『夢病』:織天使響奏讃歌」
「ガハッ!!」
引力と斥力の応酬、まるで壊れた機械に挟まれたかのように何度も身体があらゆるものに打ち付けられ、ファブナーは思わず吐血する。
血を拭い、再び高速移動しながら欲を体に纏う。
「『死出の喝采』」
増幅した力でホタルの顔面を思い切り殴りつけるが、波動を上乗せされた極みをカウンターされ、ファブナーは更に深手を負った。
「とどめです。λの極み『夢病』:奥義・e⇆MC²」
ホタルの周りに水晶のような球体が数個出現する。
「技のからくりはわかるんだがな…」
「さすが…初見でそこまで…」
「いや…さっきの攻撃でわかった。引力と斥力を操る極み…じゃねぇな…最初の教会での俺の攻撃を弾いたカウンターといい…波動を増幅し弾き返している。」
「それでは完答とは言えませんね…」
ホタルは球体の一つをファブナーに向けて撃ち込む。
建物をうまく利用しうまく防いだが、球体が当たった建物が後方から爆裂する。
「!?」
吹き飛ぶ瓦礫に脚をかけ、ホタルの極みが届かぬ場所へ飛び退くとホタルと同じようなドス黒い球体を作り出し、放つ。
「『豪遊札』」
球体同士が接触し、ホタルの水晶の中に取り込まれ、ファブナーに反転する。
咄嗟に賭場に飾ってある噴水を破壊し、それに衝突させると今度は逆に噴水の内部がファブナーとは逆側へ弾け飛んだ。
「なるほど…これは確かに俺の答えは『完答』じゃなかったな」
砕け散った破片を拾い上げ、ポタポタと虚しく垂れる水滴を掌で受け止める。
「答えは…これか…」
「この数回で看破しますか…」
「波動も水も人の体内にあるもの。お前はそれを操ることができる。放出された波動そのものに自身の波動を重ねて弾き返す…そして」
ファブナーは口から乱暴に血を吐き出し、続ける。
「体内の水を操り、まるで引力と斥力のように動かす…だろ?喰らった攻撃で痛むのは体の中だ…さしずめ、その水晶のようなものはお前の力の塊…内部の水分を利用して身体や物を『破裂』させる。」
「すごい…完璧な答えです…」
「思ってねえだろ?その奥義…一度躱されたら極みのからくりに気付かれやすい…違うか?」
「そこまで読まれているのは気持ち悪いですがね…」
ホタルは再び水晶のようなものを浮かせ、放つ。しかし、まっすぐ突っ込んだファブナーにそれが触れると『破裂』は起こらずシャボン玉のように消えてしまった。
「なっ!?」
「どうした?限界か?」
ホタルは極みの反射の体制を取るため距離を取ろうと飛び退くが、数倍以上のスピードを誇るファブナーに一瞬で接近され、頭を掴まれる。
「お前から奪ったのは『ネルンに対して』の庇護欲だ。お前の一番大切な『欲』だ。ありがたく受け取っておく。」
「欲を奪った!?いつ…?」
ホタルは自身の身体からファブナーが防御に使っていた瓦礫へ欲の靄が流れ出ていることに気付く。
「さて…お前の戦い方はこうか?欲の極み『堕神礼賛』:渇望の代償」
「グハアッ!!!」
欲の靄は体の内部で暴れまわり、ホタルの全身から血が噴き出す。
完全に動けぬ出血量の中、意識のないホタルはゆっくりと立ち上がる。
「ほう…立つか。」
「私は…ネルン様…を…御守りする…儚い…短命の…蛍で構わない…」
ファブナーは起き上がるホタルを地面に投げ倒し、椅子のようにその身体に座り、語りかける。
「蛍は死に際に一際美しく輝く…俺はお前を儚いとは思わねぇ。」
かすかに動くホタルの頭をつかみ、微量の欲を流し込んで死なない程度に傷を防ぎ、話を続ける。
「気に入った。お前は俺の『世界』に必要だ。」
「何を言うかと思えば…私はホタル様以外に従わない…」
「ああ、知ってるさ。」
ファブナーがネルン封印していた欲の箱は硝子が飛び散るような音を立てて弾け飛び、その破片をブラインドに利用しながら巨大な斧が首に振り下ろされるのを欲の靄で生成した刀で受け止め、笑う。
「ネルン、いい部下じゃねえか…俺はお前とコイツをこの先の世界で従えると決めた。」
「ほう…神を使役するとは。神罰が必要ですね…」
「ネルン…様…」
「よくやってくれました…ホタル…貴方の分の神罰も与えます。今はゆっくりおやすみなさい…」
「私は少しでも貴女の役に立ちたかった…」
「充分です。ありがとうございました。」
ホタルはネルンの優しい微笑みに対し、安心と少しの罪悪感じながらゆっくりと目を閉じた。
「ファブナーさん。改めて言わせていただきます。」
「ちょうどいいな、俺もお前に言うことがある。」
二人の武器がぶつかり合う。
「王たる俺が負けるわけないだろう。」
「神たる私が負けるわけないでしょう。」
ファブナーvsネルン
チャプター35:王か神か
「『十五大罪・欺瞞』」
打ち合っていたネルンが五人に分身し、ファブナーに攻撃を加える。
「幻影か…」
「ほう…どれが幻影か分かっていないようですが…?」
「そうだな。欲の極み『堕神礼賛』:我欲瓦解!!」
波動の塊はネルンの分身とネルン自身に直撃し、吹き飛ばしたかに見えた。
「救の極み『罪咎聖歌』:第一楽章-廻ル罪科。貴方にも罪の意識があるとは…一瞬鈍りましたね…?」
攻撃の出足が一瞬遅れたのをネルンは当然見逃すことなく、消されていない二体の分身と共にファブナーを斬りつける。
「ちっ!」
欲の力で身体能力を上げ、自身に撃ち込まれる攻撃が早い幻覚の順に一人一人一撃でかき消していく。
しかし、ネルン本体の攻撃に対応することは叶わず、斧の斬撃をその体に受け、地面に両膝をついた。
「さすがだ…久しぶりに痛みで両膝をついた…俺はますますお前のことが…っ!!」
「救の極み『罪咎聖歌』:第二楽章-悔悟ノ枷…」
焦りだろうか、ひどい見落としをしたものだと思う。ネルンが出している波動で作られた音色は別の旋律に変わっていることに気づかなかった。
もっとも、斧の多種多様な攻撃、十五大罪という『技』を組みこむ事でコード進行が乱され気付きにくくなってはいるのだが…
ファブナーは凄まじい重力により指を動かすのがやっとになっていた。
更に悪いことにその重力は皮膚や骨を押し潰すほどに威力が増幅し、体の骨が折れていくのがわかる。
「この旋律は貴方の『罪の意識』に関係なく、犯した罪で重くなる…賭博都市の王ともなればその罪も大きいでしょう…さぁ…救って差し上げます」
「『命釘』」
動かせる指ではじき出した小石はネルンに軽々とはじかれ、首に斧が振り下される。
「っ…!?」
斧を落としてしまうほどの両腕の激痛とファブナーと同じように動けなくなる体。
痛みの出処に目を向けると、まるでガリバー旅行記のように欲の靄に縫い付けられているのがわかる。
「欲の極み『堕神礼賛』:血の代償。俺の血と波動が合わさったものだ…俺が食らった痛みをそのままお前に返す。そして。」
縫われた靄から欲がファブナーに流れ出し、傷の回復と共にネルンの極みから強引に抜け出す。
「呪いってのはこういうもんだ。しっかり受け取れよ『命釘・宵刻』」
瓦礫の塊は波動で藁人形を突き刺す鋭い巨大な釘のように変形し、そのままネルン心臓を貫く。
「か…はっ…」
「ちっ…大した回復にならねぇ…とんでもねえ威力だ…それに…」
完全に風穴が開いたネルンの遺体に手を伸ばすが、耳をつんざくような心音と、その音から出る衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
「やはり生きてたか…くっ…だがこいつは予想外だな。」
音波で片側の鼓膜と三半規管を潰されたファブナーは、耳から大量の血を流し、ぐるぐると回る視界に手こずり木にもたれかかる。
「救の極み『罪咎聖歌』:十五大罪・執着…生命に執着をする事で心臓も、肉体も復活させました。」
ネルンのスピードが、元通りの速さへ戻る。
「『十五大罪・冷酷』」
「ぐあっ!!」
刻まれたファブナーの体の傷が氷結し、動くことが困難になる。
ネルンは更に追撃を加えるため、斧を構えた。
「欲の極み…」
『何か』を呟いたファブナーの波動量が飛躍的に増加する。
追撃のために向けられた斧を素手で握ると同時に、まるで飴細工のように触れた部分が粉々に砕け散った。
「なるほど…貴方の力はこれほど…」
「悪かった…この状態は覇王との戦いまで取っておくつもりだったが…どうやらお前にも向けなければならないらしい。」
ファブナーは脚に欲の塊を溜め込む。
「『壊欲』!!」
『早い』なんて言葉では表せないほどのスピード。この動きを表現するには『視えない』が正しいだろう。
靄の残像のみを頼りに、ネルンは斧を振るうが、まるで蜃気楼を切り裂いているかのように手応えがない。
「欲の極み『堕神礼賛』:虐斃遊泳」
「ゔああああっ!!」
ネルンの腹部にそっと触れると同時に身体が吹き飛ぶ。
臓器の全てが捻転するような込み上げる激痛を感じる。
いや、体内だけではない。触れられた部分の肉が全て飛び散ったかのような感覚。
ネルンは思わず自分自身の身体が吹き飛んでいないかを触れて確かめてしまった。
べっとりと付着する血。肉片が飛び散るほどではなかったらしいが、皮膚の一部が引きちぎれたのがわかる。
「よそ見は禁物だろ?『我欲瓦解』」
「『十五大罪・怠惰』」
ネルンの身体から力が抜け、ファブナーの攻撃を見切ったかのようにゆらりと身を躱す。
「『十五大罪・狂気』」
ドーピングや危険な薬を打ち込んだかのようにネルンは血を流しながら打ちかかる。
その力は波動量を上げたファブナーが競り負けるほどだった。
「まだこんな力がありやがるか…だが…欲の極み『堕神礼賛』:酔狂晩餐・溺欲𠛬」
欲の靄で作り出した刀を解除し、振り下ろされる斧に触れる。
水が通り道を作られた場所を流れるように、武器を伝ってネルンの体に波動が流れ込み、腕の一部が千切れ飛ぶ。
あまりの激痛にネルンは声すら上げることができずにその場に倒れ込んだ。
白無垢という言葉が似合うほどに綺麗だったネルンの服は鮮血で真っ赤に染まる。
「欲の「救…の…極み『罪咎聖歌』:十五大罪・色欲」
「うっ!!」
目が痛くなるほどの白い光がファブナーの視界を奪い、まるでネルンに恋焦がれているかのようにその身が引き寄せられ、ネルンに触れる。
「救の極み『罪咎聖歌』:十五大罪・孤独」
「!?」
『なんだ…ここは?いや…』
『孤独』の言葉の通りファブナーの五感が一瞬で奪われる。
「数秒ですがね…ただ…譜面は揃いました。救の極み『罪咎聖歌』:第三楽章-清キ贖イ。そしてその痛みを増幅させて差し上げましょう…『十五大罪・恐怖』」
「ぐあああああああ!!」
触れただけで自殺してしまいそうなほど痛覚神経が鋭敏になるのがわかる。これほどの激闘だ、ファブナーですら絶叫しなければ耐えきれないほどの激痛が彼を襲う。
そして、頭の中に『殺してほしい』と一瞬よぎってしまい欲の力が減少する。
『まずい…』
「その一瞬の迷いが貴方の罪です…今救いを…救の極み『罪咎聖歌』:最終楽章-慈悲深キ救済」
音が佳境へ向かう。
ファブナーは『死』を直感し、自身の頭に欲を流し込み意識を元に戻し、宣言する。
「死ぬわけにはいかねぇ…俺は全てを手に入れる男。」
波動が増幅し、加速する。
「欲の極み『堕神礼賛』:邪欲強哭萬來讃歌!!」
飛び散る鮮血、止まりかけだった自身の心臓が鼓動するのがわかる。
欲の靄に肺を潰され、武器一つ動かすことができないほど両腕ボロボロにされたネルンはついにその場に倒れ伏した。
「まだ息があるか…さすがだ。」
「わ…たしは…貴方のものには…」
動かぬ体を引きずりながらホタルとともに去っていくネルンに手を翳す。
「そうか…残念だ…」
『神の世界には…ならなかった…ということですね…』
「欲の「よ〜やく隙ができた。何年待ったんだって感じよ。社長…いや、ファブナーちゃん。」
「ジャ…ノメ…」
その凶刃はファブナーの心臓を貫き、意識を昏倒させた。
「あ〜あ…あっけないもんだね。さて、じゃあそろそろこの都市貰っちゃおっか。」
取り出した笛を大きく鳴らすと同時に、ジャノメの息がかかった者たちが一斉に賭博都市の客や教会の信者達を次々と斬り伏せていく。
「さ、あとは知りすぎた石花ちゃんだけか。」
ジャノメは足取り軽く拘束している石花の元へと戻っていった。
「ネルン…様…」
「大丈夫です…貴方がいれば…大丈夫…またここからやり直せます…救えます」
「おや?随分派手にやられたねぇ…大丈夫?」
二人の前に立ちはだかったのはハズキを戦線離脱させた後、姿をくらましていたイブキだった。
ホタルは、回らない思考の中彼がヴァサラ軍であることを思い出し、極みの構えを取る。
しかし、イブキの神速の居合いはボロボロになった体では発動することすら叶わなかった。
「御免よぉ…少し眠っててねぇ…『黄泉の花道』」
峰打ちで二人を撃ち抜いたイブキは、ゆっくりと二番隊の船へ戻っていった。
『少し卑怯かもしれないけど…さすがに人がたくさん死ぬような教団を見過ごすわけにはいかないからねぇ…』
チャプター36:全てが捲れる
石花の全身の所有権を奪い取ったジャノメは、まるで見せつけるかのようにファブナーが倒れている場所へ連れ出した。
まるでドラマのように目を見開いて倒れるファブナーを見て石花は戦慄する。
「じ、ジャノメ!!テメーこんなことしてただで済むと思ってんのか!!この力を解きやがれこの野郎!!」
「シッシッシッ…アンタどっちにしろ終わりだよ。ファブナーの野郎もテメーの悪行は気づいてる。一番間抜けなのはテメーだ。」
「ま、待て!お前も裏切り者だファブナー様が黙ってねぇぞ」
「そのファブナー様は俺の裏切りに気付かずもう死んだ。いや…時期に出血で死ぬ…おっと。今までの口調で言ってやろうか?なぁ?先輩?」
大量の血を流して倒れているファブナーをちらりと横目で眺め、まるで今までのようにヘラヘラと笑う。
「わ、わかった、ジャノメさん。あ、貴方についていきます!や、やめて!抜け出した冥界に戻るのは嫌…ぎゃああああああ!!」
奇妙な笑い方以外は全て今までのチャラけた口調とは打って変わり、四肢を動かす権利を奪い取ったジャノメは、石花の命乞いを聞かずまるで毒蛇のようにバラバラに斬り裂いた。
「さて…あとは従者が一人…ココせんぱ〜い」
元のチャラい口調に戻りつつ、獲物を狩るスピードで、ココを背負う七福の眼前に現れる。
「おいおい、勘弁しろし」
たじろぐ七福にココは自分を降ろすように促す。
「アホ。俺は人殺しはしないんよ。それにお前は同郷だろ…帰んぞ」
「私の帰る場所は…ファブナー様のとこだけです…あの人の眼になることだけが…私の…」
「話は終わったかな?んじゃ。とっとと…「そうだ。この先もお前は永久に俺の『眼』だ。」
欲の塊が七福達を遠くに吹き飛ばす。
「おいおい、優しいじゃんよ。」
「そいつはココの礼だ。」
全身を凄まじい我欲の塊で守っていたとはいえ意識は奪ったはずの男が自身の作った刺し傷をきれいさっぱりなくしてそこにいた。
「社長、手品もできるの?聞いてないって…」
「欲の力を全て『回復』に持っていって倒れたフリをしていただけだ。」
刺したはずの傷は確かに癒えている。しかし、なぜ気絶したフリをしていたのががジャノメにはわからなかった。
「お前は優秀だ。特に戦闘員としては六賽でも一番強い。気絶したフリをしている間に賭博都市の何割かはくれてやるつもりだったが…お前は選択を間違えた…俺の『眼』に刃を向けた」
その言葉だけでわかる。この男は自分を殺すつもりだ。
ファブナーの強さは六賽が一番わかっている。逃げても追いつかれることも。
ジャノメは賭博都市各地に配置した部下を呼ぼうとも考えたが、焼け石に水だと悟り刀を抜く。
「ほう…確かにそれも良い選択だ。」
「多少なり…いや、かなり手負いっしょ?あんなバケモンとやったんだからさ」
ファブナーはココの落とした自決用の短剣を拾い上げ、ジャノメとぶつかり合う。
ファブナーVSジャノメ
欲が七福達を運んだのはハズキ達の船。
七福はハズキにココを渡し、ヘラヘラと笑う。
「よっ。ハズキ!また老けたん?」
ピキッと青筋を立てたハズキをまるで意に返さぬようにまるでマシンガンのごとく続ける。
「いやいや、顔がちょっとだるーんとしたというか?あっ!!糸リフトか!」
「七福…戻ったら覚えてなさい…」
ギリギリと歯ぎしりをし、必死で怒りを抑え込んだハズキは、船で待つアンにココを引き渡す。
「ハズキ」
「何よ」
「そいつは俺の同郷だ。お前の刺された傷も酷いのはわかるが…あとは頼む」
「アンタもよくやったわ。そんなボロボロになって…」
「いやぁ…20年前よりマシだわな」
「口が減らないわね」
ハズキはタバコを咥えて痛む腹をごまかしながらアンの顔を横目で見ながら治療のプランを模索し始めた。
ジャノメはファブナーの身体に静かに命令を加え、ピクリと筋繊維が動いたことを見逃さなかった。
『確かに傷はついているらしい…』
「蠱の極み『蛟竜毒蛇』:悪蛇の令爪!」
支配権を奪い取ったファブナーの短刀を持った腕はジャノメの刀に道を譲るようにガードを開け、欲の防護壁を突破し、身体に大きな傷を作り出す。
「ぐっ…さすが俺の左腕だ…」
「調子に乗らないでくれる?そんなボロボロでさ。激戦後のファブナーちゃんならギリ刺し違えられるかもしれないのに余裕だね〜」
支配権を確実に奪い取ること、欲の防護壁を突破することを察知したジャノメは、ネルンとの一戦で明らかに消耗しているファブナーに容赦なく刃を突き立てる。
「『麻痺か欠落か』」
刀に落とした唾液を散弾のように放ち、ファブナーに片膝をつかせ、致命傷を与えに襲いかかる。しかし、ファブナーの短刀から欲の靄が伸び、ジャノメの肩を貫き、そのまま力が抜けたように地面に押し倒された。
「欲の極み『堕神礼賛』:罪欲」
凄まじい重力が発生したかのように地面から身体を引き起こすことができなくなったジャノメの髪を掴み、ファブナーは掌に短刀を突き刺す。
「ぐあああああっ!!」
絶叫するほどの激痛。痛覚も、筋力も、全ての感覚が欲望ごとファブナーに奪われているのがわかる。
「社長!さすがっすね!!ジャノメ!俺を覚えてるか?お前の同郷だよ?なぁ?賭博都市の下請け会社で数年やってると思ったら…コソコソコソコソ大出世かよ!だが、残念だったな!読み違えだ!お前の命はここで終わる。数日の短い幹部人生だったな?なぁ、『ナヨ』!!」
ファブナーの部下がジャノメに向けて刀を振り下ろす。しかし、首が吹き飛んだのは部下の方だった。
ジャノメから引き抜いた短刀はその男の首を捕らえ吹き飛ばす。
ファブナーは吹き飛んだ首を拾い上げ、告げる。
「よく聞け、こいつに幹部の椅子を与えなかったのはカモフラージュのためだ。ここ数日で席を与えたのはヴァサラ軍に対抗するためだ。俺の社員を『過去の蔑称』で呼ぶことは誰であれ許さん…さて、ジャノメ。お前の回答を聞こう」
「ファブナーちゃん…俺は…」
ゆっくりと顔を上げる。
「お前のそういう『自分に全ての決定権がある』って考えてるところが死ぬほど嫌いだよ!!蠱の極み『蛟竜毒蛇』:潜影黒蛇!!」
「ちっ!!」
解放されたジャノメは、ファブナーの後ろに仕掛けていた仕込み短刀を糸で引き寄せ、数箇所に切り傷を作り出す。
致命傷になりうる部分こそ避けたファブナーだったが、再び体の一部の所有権を奪われ、自傷行為をするかのように脚に深々と欲の力を纏ったナイフを突き刺した。
「考えたな…ジャノメ…俺の力には俺の力か…」
「その手の所有権はもうお前のじゃない…」
ファブナーは自らの腕の腱を斬り落とし、反撃態勢を取ると、脚に欲を纏わせ高速移動し、ジャノメの左胸に触れる。
「さっきの仮死状態の『もう一つ』の種明かしだ。欲の極み『堕神礼賛』:斃出籟奨」
生きる事も欲だ。生きよう生きようと思っている人間ほど事故に遭った際に目を覚ます確率が高くなるという話もある。
ファブナーが触れた先の内側の臓器…心臓の拍動が弱まるのを感じる。この男は自らの拍動を弱めて自身を仮死状態にしていたのかと分かると同時に、今まで感じたことがない緩やかな『死』の恐怖がジャノメを襲う。
「シッシッシ…アンタも…俺も…同じだよ…切り札は最後まで取っておく…」
喘鳴を響かせながらジャノメは波動を最大限解放する。
「蠱の極み『蛟竜毒蛇』:奥義・盲蛇仏口憑神葬禱」
ジャノメが今まで葬ってきた債務者や敵が飛び散らせた返り血が、彼の刀によりつけられた傷が、まるですべてを飲み込む蛇の口のように地面を割り、ファブナーを砕くための牙へと変貌する。
賭博都市の建物と瓦礫で創り上げられた大蛇は、大きな口を開けファブナーを飲み込んだ。
「都市の所有権も奪うか…さすがだ…ジャノメ。」
声と共に響いた轟音はジャノメの奥義を完全に破壊し、元の瓦礫の山に大蛇を強引に戻した。
「あー…そういう…初めて見たよ…アンタの本気…」
もはや防ぐことができないと諦めすら覚えるファブナーの『それ』を鳩尾に受けた。
「あ〜あ…さすがだよ…最後の最後まで偉大なカリスマだ…こんな風には生きられないなぁ…」
純粋な経緯に続けて何か言葉を発するようにパクパクと口を動かしたが、もはや喋ることもままならないまま意識を失う。
「残念だ…お前は『クビ』だ。」
トドメとばかりにその手に欲の塊を溜め込み、放つ。
刹那、ジャノメの部下らしき男が数人彼を抱えて走り去る。
ファブナーの攻撃に呑まれた数人が一瞬で命を落としながら、部下達は死に物狂いで彼を取り戻したのだ。
ファブナーVSジャノメ
勝者:ファブナー
ファブナーは波動を発生させ、部下の方に視線を移す。
「お前の刃も『思想』も…俺に確かに届いた。だからこそ『リスク』は避けなければならない」
ファブナーは逃げ去る部下に攻撃の構えをとるが、何者かの剣にその攻撃は弾かれた。
「やっと…追いついたぞ!!」
そこに現れたのはたのは覇王を夢見る少年だった。
チャプター37:間一髪
「ふ〜っ。滑り込みセーフですかね…」
ジャノメを抱えて、ファブナーの攻撃からどうにか逃れ、小舟に乗り込んだ部下達は何かを話しているジャノメに微笑むと、戦いの声が消えない賭博都市を見ながら満足気に離れていく。
「話すこともままならないくらいダメージ喰らったみたいですね…ジャノメ様がまさか…こんなに…」
「…っ…」
「大丈夫ですか?ただ…あなたはやっぱり大したものです…ついてきてよかった…こんな攻撃喰らい続けて生きてるなんて…」
部下にかすっただけのファブナーの攻撃は、彼の肉を抉り取り、船に血溜まりを作り出す。
「ともあれ…救済の教会は崩壊。賭博都市は大荒れ、貴方は惜しかったんです…ジャノメ様。みんなあなたの味方ですから…」
船は賭博都市を離れ、どこかへ向かっていった。
重症者はジャノメだけではなく、ヴァサラ軍の別働隊の船にもそれに該当する人々はいた。
「皆の傷が酷すぎる…いや、でも私は六番隊…!絶対に死なせるわけにはいかない」
アンは疲れ切った体にムチを打ち、一番ひどい傷を負っているココから施術することを決める。
『ヨモギちゃん達は命に別状は無いけど…』
「あたしもやるわ。」
合流時にイブキに頼まれ、事前に治療をしていたハズキが目を覚ます。
「ありがとう。随分腕を上げたわね。さ!救うわよ!」
彼女の喘鳴を聞く限り明らかに無理をしているのが分かる。
それでもアンは止めることができなかった。
今この場でココを救うことができるのはハズキしかいないとわかるからだ。
「手伝います、ハズキ隊長!」
「よろしく」
ハズキは毒の力を麻酔のように使い、ココを眠らせると、斬られた場所をメスで開く。
同時に、ココの身体から血が吹き出す。
「っ!!とんでもなく深い傷ね…毒の極み『女王蜂』:凝固血清」
血の流れが止まる。大量の出血はどうにか防ぐことができたが、深々と刺された斧は、血管を数箇所刻み、酸素の供給もできなくなっている。
「ミミズくん、極みを貸して!」
「か、貸す!?」
「アンの癒の極みは他の極みを治療に限り借りれるのよ。治癒の無の極み?ってとこかしら。」
「はぁ…」
ミミズが差し出された手に触れる。
「癒の極み『金』:人造金型血管!!」
ココの体に『血液の通り道』を作り出し、亀裂が入た血管とアンの作り出した人工血管をハズキが縫合していく。
「ハズキ隊長!心臓の拍動が弱くなってます!」
「分かってるわ。大丈夫。」
ココの心臓を直接握り、ゆっくり、ゆっくりと心臓マッサージを開始する。
帰ってくることを祈りながら行うそれは、まるで奇跡でも起きたかのようにココの心臓を再び動かした。
「ハズキ隊長…っ!」
「どうにかなったわね。」
「仕上げに…癒の極み『奥義』:画竜点睛!!」
ココの外傷が癒えていく。
ハズキの手術とアンの極みが彼女の命を救ったのだ。
アンは力を使い果たし、甲板に倒れるようにして眠りについた。
「あとは頼んだわよ、みんな」
ハズキの声に応えるようにジンはファブナーの元に辿り着いた。
「ほう…『世界に嫌われ、潰されるはず』だったが切り抜けてきたか。」
息を切らし、生傷のひどいジンを感心したように見るファブナーに刀を向け、堂々と宣言する。
「あたりめーだ!俺の名はジン、この国の『覇王』になる男だ!!」
「そうか…」
ジンの宣言に、ファブナーはどこか嬉しそうに笑い、欲の膜を解除する。
今までジンの宣言を聞いてきたものはみな、バカにするか笑うかのどちらかだったが、ファブナーの反応はどれとも違い、それが逆に恐怖を煽った。
「お前が一番危険な敵…いや、この先そうなると認めてやろう」
ファブナーの波動が増加する。
「お前と俺の夢は同じだ。俺の名はファブナー。この世界の『王』になる男だ!」
二人の刃がぶつかり合う。
いや、ファブナーの刃は簡素な拾った刀などではなく、欲の靄で生成した鋭利なもの。
その切れ味は防いだ刃をものともせず、触れていない体に大きな傷を作り出す。
『防いだはずだろ!?』
触れられていないその攻撃で受けた傷が深いのが分かる。
次の攻撃が来る事を予測し、『地の極み』を模倣することで防御の態勢を取り、視線を戻すが、そこにファブナーはいない。
ネルンと戦っていた時にやっていたように欲の力を推進力にした高速移動。
それは格段に速度を上げ、一蹴りでジンを吹き飛ばす。
「ぐあっ!!」
『この極み使っててもこんなに痛えのか…でも、みんな別のとこで戦ってる…それなら俺も負けられねぇ!!』
「うおおお!!根じょ…「砕けろ。」
さらに速度を上げたファブナーがジンの頭に触れる。
刹那、ルトの雷がそれを防ぎ、ファブナーに傷を負わせた。
「ちっ!!やるじゃねぇか、その傷で…」
クルスとやり合った深手を庇うようにしながらも、スピードはどうにかファブナーに追いつき、わずかばかりの抵抗ができることに安堵する。
「ジン、それに覇王になるのはこのボクだ!」
「何!?そんなボロボロの身体で何言ってんだ!!こいつを倒すのは俺だ!」
「なんだと!何度も言うけどボクは隊長だぞ!!!」
「オメーは俺の隊長じゃねぇ!」
「フッ…若いな。だが、言うだけの土台はあるらしい。もう少し本気でやるか…」
ファブナーは二人と数度刃を交えたことで、『覇王を目指す』と豪語するだけの鍛錬は積んでいることを見破り、さらに自信の極みを解放させる。
「ジン!気をつけろ!!多分こいつは纏っていた防御を解いてその力を全部攻撃に変えてる!まだ強くなるぞ!!」
「うるせぇ!見りゃ分かる!」
「欲の極み『堕神礼賛』:鐘」
賭博都市が揺れる。
霊魂のように吐き出された欲の塊はファブナーに集まり、彼の力がさらに増幅する。
「こ、これはやばいぞ!ジン!」
「関係ねぇ…」
一瞬してしまった動揺を振り払うように再び剣を握りしめ、ファブナーに視線を移すと同時に首を捕まれ、持ち上げられる。
「お前らの意思じゃ自殺させることはできねぇか…それに…大したもんだ。お前ら二人の『覇王になりたい』という言葉は欲望じゃねぇらしい。『確たる意志』を感じる…いい志だ。」
欲の極みは自他共に発生する欲望を奪い取り、力に還元する極みだ。
相手の欲を吸収し、力を弱め、自身の欲で力を増幅させる。
何かを攻撃するときの力は無限大に上がると言っても良いと自負している。
しかし、今自分自身が掴んでいる年端もいかぬ少年達から欲を奪うことができない。
彼らの『覇王になる』という言葉は欲望のかけらもない実直な志。
ファブナーは改めてこの二人と戦えたことを嬉しく思うと同時に、今消しておかなければ脅威になると再び手に力を込める。
「『煌雷』!!」
「ッ!!」
雷鳴と強烈な稲光りで、ファブナーの視界と聴力を奪い、極みをコピーしたジンと二人で斬りかかる。
しかし、ファブナーは欲の刀で全てを防ぎ、距離を取って視力を取り戻すと、再び攻撃の構えを取る。
「急げ!ジン!」
「うるせーな!やってんだろ!!」
「雷の極み『閃光万雷』!」
「見様見真似『赫灼炎舞』!」
「「『炎雷神』!!」」
「いい攻撃だ…」
雷鳴と炎がファブナーに傷を負わせる。しかし、力が足りなかったのか、すぐに起き上がり、巨大な欲の塊を生成する。
「欲の極み『堕神礼賛』:清濁併せ呑む深層の我慾」
ジンとルトの身体が塊に引き寄せられ、取り込まれる。酸素などない内部にあるのは身体を破壊する欲の靄。
骨や肉が壊れていくのが分かる。ここで死ぬのかとあきらめてしまうほどにすさまじい力。それでも二人はもがくことを諦めなかった。
覇王になるという夢のために。
「力はさらに上がる。欲の極み『堕神礼賛』:賞賛浴びる強欲の虹」
賭博都市の…いや、国中から集められる欲望。
二人を押し潰す力は更に増す。
いや、増していたはずだった。
『なんだ!?欲の力が消えた!?』
力の弱まりを感じたファブナーの耳に届いたのは一つの歌。
すっかり萎びてしまった 死なばもろともがそっぽ向いた
才能不在が前提 天才より働く常人
けど誰にもある限界が その結果、頭がいかれた
この調子で上げろゲインを 膨大なボイスメモとテキスト
世も末だと殺気だった言葉は 動脈を切った
十年前に終わったんだ ポストアポカリプスの最中
主役になれないNPC 生き残り笑うセレブリティー 革命家は今日も寝坊だ 急上昇に夜明けの歌
絶望込めるシリンダー 汗して暮らす小市民だ
たった一つでいいんだ 冴えたやり方をしてイーア
守るために切り捨てたんだ その結果に胸は痛むか次はきっと僕らの番だ 絞首台で笑って待つか
(amazarashi:小市民イーア)
『歌人のサイカだと!?』
ファブナーは攻撃を解除した二人に背を向けて声の方へ走り出す。
チャプター38 :大都市演奏監視空間・ゴースト
数刻前…
どこまでもついてくるサイカのファンたちに辟易しながら、ヨモギやミミズ、そしてここにいるヒルヒルが英須というとんでもない幹部を撃退(向こうから引いてくれたとはいえ)し、国一番の歌人を救うことに成功した。
しかし、倒されたハズのネルンが率いる信者達は『奴の歌こそ悪』と叫びながら、コバンザメの見出した抜け道に向けて火を放っていくのだ。
賭博都市の外れにある寂れた建物は次々と燃え、ついに火の手と信者の追手はコバンザメとヒルヒルを崖に追い詰める。
「くっ…俺かお前だけなら逃げられるが…この人数…」
信者はともかく、ただ歌が聴きたくて集まった者達を見捨てるわけにはいかないとコバンザメは額に冷や汗をためる。
しかし、サイカは命が狙われている事も気にせず、残骸になった建物の一部に腰掛け、ギターを鳴らす。
「その歌は看過できない」
「げ!?賭博都市の連中!?絶体絶命じゃねえか!!歌ってる場合じゃねえぞ!」
ヒルヒルはサイカの袖を引っ張り、歌うのをやめるように言うが、ファンたちが息を呑んで歌を聞こうとする姿を見て、敵に刀を向ける。
「こ、コバンザメ先輩…俺のやることは歌を止めさせることじゃねぇな…」
「当然。俺の言いたいことをよく言ってくれた。」
「この憧れは、俺がラショ兄にしているものに近い。やるしかない!」
「俺は死ぬ気で逃げ道を探すから、頼んだぞ!ヒルヒル!」
「あ、ああ!!」
震える声で承諾し、地面に刀を突き刺す。
「土の極み『土蜘蛛』:スーパーハイパーウルトラスペシャルダイヤモンド蟻地獄!!」
地盤が歪む。
敵は一瞬足を取られ、サイカに向けて放った火矢を地面に誤射し、燃え上がる。
「歌ええええ!!」
ヒルヒルの叫び声に呼応するようにサイカが歌い出す。
俯瞰で見れば 世の理のような色彩
当事者となり 凝視すれば粗悪な落書き
ありえないことが何度起こった 君が生きている間に
その度目を伏せて 無かったことにした 今や忘れた
悲劇も喜劇も 同じ容量
数メガ単位のBGM 聞きながら 命からがら
壊れた世界泣きついて やっぱ僕らにはなかった
人の才能も そんな世界の解像度
今日も残酷の過密かき分け やるべきことに疲弊して
残す生きていた証拠 合わせる世界の解像度
君の視点 僕の視点 何が見える
(amazarashi:世界の解像度)
サイカが持っていた『不眠症』と言う名称の機械が作動する。
その機械はサイカの声を拡散し、賭博都市全体にその歌声を届け始めた。
債務者達が、信者達が、その歌により目を覚まし、あらゆる欲望を鎮めていく。
「ファブナー様の邪魔をするな!」
まるで暴漢を叩きのめすかのように降り注ぐ斬撃や打撃の雨。
どうにか致命傷を避けてはいるが、ヒルヒルの力量ではもはや限界に近い事は明白だ。
「『泥鯰目潰』!!」
「た、助かった〜!!」
薄汚れた泥が周囲に降り注ぎ目の中にそれが入った敵達は、痛みに一瞬剣を手放す。
「うおおおおお!!大チャンスだ!!」
ヒルヒルは自身に刃が向かない状況を利用し、次々と敵を斬っていく。修行の成果か成長か、その斬撃は深く、かつ、致命傷は避けたものとなっていることをコバンザメは心の中で感心する。
「歌ええええええ!!未来の一番隊隊長ヒルヒル様がついてるぜ!!」
何がどうなって ここに立ってるんだ 時々われに帰って 首をかしげるんだ
歌うのが好きな少年だった だけどそれを誰にもいえない気弱な子だった
久しぶりだな そっちはどうだ? 元気してんなら 別にそれでいいんだ
つまらねぇ愚痴は 言いっこなしだ 昔話もたまにはいいか
わいは今も歌っているんだ 暗い歌ばかり歌いやがってと人は言うが
ぜってぇ負けねぇって 気持ちだけで 今まで ここまで やってきたんだ
これだけは本気でゆずれないんだ 背負ってるものが増えすぎたようだ
夢を諦めた人 捨てた人 叶えられず死んだ人 覚えているか?
あっけなく命や夢が消える星で ありふれた良くある悲しい話
そんなもんに飽きもせず泣き笑い 人生は美しい
一つを手に入れて一つを失くして いつも何か足りないって泣いている
だけど後悔なんてしてやるものか 人生は美しい
(amazarashi:ライフイズビューティフル)
サイカはギターを大きくかき鳴らし、ゆっくり、ゆっくりと、まるで都市全体に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「全てに負けた夜…信じたものが虚構だと知った夜…悲しみと、打ちひしがれた日々の狭間、その人生の痛みの一つ一つが拭いきれない汚れになって僕らの心を蝕んでいく…それでも、この一瞬が、今日この日この夜が素晴らしいものであるようにと、何度も僕は問いかける…夜の向こうに答えはあるのか!!夜の向こうに答えはあるのか!!スターライト!!」
音が鳴る。いや、周囲の景色も美しい銀河鉄道に変わるような錯覚を覚える。
かき鳴らされるギター、人々のすすり泣く声、全てが欲望をかき消していく。
僕らを取り囲むあらゆることに特別な事なんてない この手の中偶然の振りして居座る宝物も
出会うべくして出会った 奇跡のように光はなった ガラクタも 重なれば 僕を形作った
もう駄目だって挫けそうな 時にだけ輝くものが つまり いつだって胸の奥に眠ってる
屑みたいな ゴミみたいな 小さな星を見つけたんだ
掴めはしなくても その明かりで 僕らは 前に進むよ
夜の向こうで何かが待ってて それを照らして スターライト スターライト
情熱 希望なんでもいいけど 僕らはここに居ちゃ駄目だ
片道切符は承知だジョバンニ 涙は捨てろ スターライト スターライト
きっといい事ばかりじゃないけど だからこそ 僕らは行くんだよ
(amazarashi:スターライト)
「やってくれたな…」
「ファ、ファ、ファブナー!?」
刀を構える時間すら与えては貰えないほど素早い殴打がヒルヒルの顔面を捉え、一撃で意識を奪い去る。
『ちっ…あまりにも欲の力がねぇ…欲の力で殴れば殺せたが、これで精一杯だ。』
「アフロ野郎…褒めてやる。お前は俺から『最も多くの欲』を奪った男だ。そして、その世界一の歌うたいもな!」
自身の心に潜む欲を解放し力を増幅させ、サイカに襲いかかるが、コバンザメが巨大なぬかるみの壁を生成し、ほんの一瞬その攻撃を防ぐ。
「自己犠牲でも時間稼ぎでもねぇな…」
思考が一手遅れたかと舌打ちをしたと同時に広範囲をぬかるみにしていたコバンザメの極みが発動し、地盤が崩れ落ちる。
「や、やった!作戦通りだぜ!!ファブナー!お前は力が強すぎるんだよねっと…昔の口癖出しちまった!お前さんが攻撃すりゃこうなる!こいつは…『逃げの泥舟』だぜ!!」
コバンザメが作り出した泥の船は、彼の極みにより、外壁に土嚢のようなコーティングがなされ、サイカやヒルヒル、果てはファン達を乗せたまま崩れることなく遠ざかっていく。
「人々の心に少しだけ…少しだけ…歌が響いた。俺の役目はここまでだ。皆さん、また『生きて』お会いしましょう。」
まるでエンディングを奏でるかのようにサイカは泥舟の上で歌い出す。
振り返れば果てしない ゴールはそう遠くない
住宅地のジムノペディ BGMの旅行記
僕ら息をしていたよ 月明りに夏の匂い
何かから隠れてた 僕らずっと隠れてた
間違いだと言われても 失敗と揶揄されても
僕には分からないんだよ 同じ言葉を話せよ
正しくなんてなくていい 優しくなんてなくていい
自分勝手が丁度いい 今日が君のバースデイ
ひた隠した心の奥底 処刑されちゃうかも 全部ばれてしまったら
君の記憶から涙は消えろ 良かったことだけ数えて笑えたら また明日ここで会おう
忘れ去られた窓際のゴースト 持たざることが図らずも武器になる 這い上がるときにだけ
(ゴースト:amazarashi)
人々欲がかき消されるサイカの歌は自分にとって脅威だ。どうにか殺しておきたいところだったとファブナーは後悔するが、離れゆく泥舟とともにサイカの音が次第に小さくなっていくことに安堵し、再び都市中から欲をかき集め、追いついたジン達と対峙する。
「遅かったな。ついさっきまでの俺ならお前らにもチャンスはあった…残念だ。」
「いや、小僧共…よくやった。」
聞き慣れた声、翻るマント。眠っていたはずの覇王ヴァサラがそこにいた。
いや、確かに声も佇まいも覇王ヴァサラだ。しかし、その男は緑色の長髪をなびかせていた。
チャプター39:証拠は残さず、目的は逃がさず
七福が転移する数刻前…
「あっさり逃走されちゃっちゃ〜♪」
「んなこと言ってないで追いなよ!」
「大丈夫。あの状態じゃどうにもならんて。この世界で医者やるんは医師免許がいる。それに…あとはコイツらに任せりゃ充分なんじゃん?」
ツカハラに指摘された七福だったが、エデンが持っていた次元操箱の欠片をザ・フォースに渡し、『これでいいだろ?』とめんどくさそうにつぶやき、自身の世界に帰っていった。
「もう…ホントに作品の通りマイペースな人だなあ…」
「いや、彼とは『また会うことになる』だろう。近い内にな」
「…?」
「いや、気にするな。ご苦労だったな、ミス、ツカハラ。後は私たちがやろう」
ブラックナイトは小さな無線機を取り出し、どこかに通話を繋ぐ。
第一世界
「んあ?」
七福はいつの間にか入れられていた『何か』に触れる。
「さっきぶりだな。ミスター七福。君の強さは重々承知した。我々の『計画』に協力していただきたい」
長官の顔が映し出された通信機に一瞬驚きつつ、面倒くさそうに欠伸をしながら、その話をしっかりと聞く。どうやら自身の身内も関わるらしい話を聞き、七福の表情は真剣なものになっていった。
『ま、とりあえず俺のやるべきことは…』
七福は激戦が繰り広げられる賭博都市の中央へ足を踏み入れた。
第8世界
「お姉ちゃん!本当にありがとう。」
ありがとうはこっちの方だとつくづく思う。彼の勇気や行動に何度助けられただろう、ツカハラの中に生まれたのは感謝と、『まだ話していたいな』という感情。
それでも行かなければならない。
自分をこの世界に送ったピエロマスクの男が遠巻きに自分を待っていることだけではなく、この世界の住人ではないのに必要以上に関わってしまった事も本来良いことではないのだから。
「エリック。その…「もう帰らなきゃならないんでしょ?タイム…?はよく分からないけど、わかるよ。なんとなく」
「・・・・・」
「お姉ちゃん、色々あったけど、楽しかった!!ねぇ、今度会う時は僕の友達も呼んでいい?」
「…カルロス?」
「はは…やっぱりお姉ちゃんは不思議な人だね。そんな事も分かっちゃうなんて。」
「はは、まぁ…色々ね。」
「お姉ちゃん、今度はその話聞かせてよ!!!ね!約束!」
「うん!また会おう!エリック!」
二人は顔を見合わせて笑い合うと、ツカハラはピエロマスクの男の方へ歩いていき、エリックに手を振ると、光りに包まれて何処かへと消えていった。
「もう少し遅刻してくれてもよかったのに。こんな時だけちゃんと来るんだから…」
「何か言いました?」
「…なんでもない」
光が晴れた先にあるのは地元の時計台。しかし、ツカハラは何処か不満げな顔をする。
「ねぇ…ここ私の家から凄い遠いんだけど…」
「あれ?そうでしたっけ?」
「ちゃんと調べてよ!」
「まあまあ、お詫びのコーヒーです。」
「変なもんとか入ってないよね…?」
「まさか!!これは私が信頼する人に厳選してもらった大事な豆から作ったちゃんとしたこだわりのコーヒーですよ!?」
「変なとこ真面目だなあ…」
コーヒーをしまいながらこぼす愚痴は路上ライブの爆音にかき消され、思わずツカハラは目を丸くする。
明らかに路上で出していい音量ではない音と声で歌い続ける男の周りには大量の人集りができ、その演奏に歓声をあげる。
その声がさらに周囲に騒音を響かせるのだ。
「わじま…なんて読むんだろ?難しい名前だな…」
和嶋希明と書かれた路上ライブの看板を一瞥し、ツカハラはその足を家に向けた。
第8世界
エデンが解析したナノ粒子のレポートを七福に焼き捨てられ、次元操箱をも回収されたヴァルツだったが、遠隔操作でその様子を眺めていたその表情にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「目的は果たせなかったが…より精巧な『クローン技術』が手に入った。充分だ。だが…」
ヴァルツはどこかに電話をかけ、何か指示する。
しばらく眠っていたようだ。
どうにか逃げおおせたエデンは極度の疲労からか、森の中で眠ってしまったらしい事を自嘲気味に笑う。
しかし、それが自身の勘違いであったと頭に登ってくる激痛により気づき、ゆっくりと額に触れるとおびただしい血が流れていた。
誰かに殴られたことと同時に気付いたのは今にも沈みそうな船の上に自分がいること。そして、備え付けのラジオから男の声が流れる。
「御機嫌よう、異世界の悪徳医、エデンくん。私の名はルービック。とある人に依頼をされ、君の経歴を聞いたが…生きるチャンスを与えよう。ゲームをしようじゃないか。」
「ゲーム…?」
「その船は間もなく沈没するが、この船内にある『何か』と『何か』を組み合わせれば救命胴衣になる。それを見つければ助けてあげよう。」
ルービックと名乗った男の無線は切れ、大きく傾いた小舟に焦りを感じ、エデンは自身の極みで痛みと流れ出る血を止血し、船内にあるものを探し出す。
「包帯…笛…投網…」
エデンがわかるのはこの三つだけ。
確かにこの世界に潜んではいたが、出される飲み物は必ずコップに注がれていたため、奇天烈な形をした入れ物に入った水の詳細は分からない。
浸水はすでに足元まで来ている。エデンは奇天烈な形をした入れ物…ペットボトルの中の水を捨て、それと包帯を結び試験的に水に放り込み、浮くことを確認し、クーラーボックス内にある二本のペットボトルを結び、それを抱えて浸水を待つ。
ラジオは最後の力を振り絞るように雑音をかき鳴らしながら、ルービックの声を拾う。
「さすが、見たことのないものに対しての対応力も抜群だ…だが、惜しくもハズれだ。」
エデンの身体が海に沈む。ペットボトルで持ちこたえてはいたが、ゆっくりゆっくり身体は海に引っ張られていくのだ。
服も最大限に軽くしたと戸惑いながら沈みゆくエデンの目に映ったのは先ほど自分が捨てたクーラーボックスが浮かんでいる光景だった。
「証拠は残さず、目的は逃さず。か…ヴァルツ…君はとんでもない悪人だよ…」
沈みゆくエデンをカメラで監視していたヴァルツは呟く。
「証拠は残さず、目的は逃さず。さて…次は」
ヴァルツはサングラスの男の写真を軍用ナイフで突き刺した。
チャプター40:俺たちは覇王になれないが
「ヴァサラのじいちゃん…じゃ…ねぇ?」
緑髪のヴァサラらしき男は刀を握り込み、ファブナーと打ち合う。
声が、動きが、すべてヴァサラに似通っているが、何処か違う。
明らかに弱すぎるのだ。
「いや…体は覇王だな…」
「ぐあっ!」
欲の力を取り戻したファブナーは崩れ落ちた岩壁の一部を蹴り飛ばし、散弾のように弾き飛ばすと緑髪の男の体に大量に傷を作り出す。
「お前は誰だ…?」
男の首をつかみ上げ、ミシミシと骨が軋む音が響き渡るほどに締め上げる。
「やめろッ!!!」
飛びかかるジンに向けて男を投げつけ、ルトの腕を渾身の蹴りで折り刀を奪い取ると、緑髪の男の腹部を刺し貫いた。
「が…はっ…」
「質問に答えろ…お前は何者だ…?」
「俺は…いや…儂は覇王…っ」
ー数日前、冥界ー
閻魔王は黒尽くめの男に何かを話していた。
「覇王は今動けん!あんな事件があった後じゃ!!どうか、助けてやれんか!琉義亞」
「は、覇王に!?俺が!?」
ガタガタと震える黒い男、琉義亞は自身に縋り付く閻魔王のお願いに目を丸くする。
確かに自分はとある男と戦い、友達というものを認識できた。
だが、成り代わるのは史上最強の男。
自分自身にできるのかと不安になり震えが止まらなくなる。
「なぁ!頼む!マサカド達が、いや、ヴァサラ軍のみんなが仮に殺されでもしたら儂はどうしたらいいんじゃ!!」
「ああ…もう!わかったよ!魂解『魂換』!!」
眠っているヴァサラの魂が琉義亞のものに入れ替わる。
「うおっ…スゲー力だ…でも…身体が重てえ…操れる気がしねえぞ…こんなの!!」
琉義亞は慌てて地図を眺め、賭博都市へ船を出す。
ー現在ー
「覇王?確かにお前は覇王だ…外見はな。」
刺し貫いた刀に力を込める。
「やめろッ!やめろォッ!!」
喰らった攻撃の余波で立ち上がる事が出来ないジンは悔しそうに慟哭し、地面を強く拳で叩く。
「お前がその体を使う資格はねぇ…哀れなものだ。副隊長にも満たない力しか出せないお前が、覇王の体に黒星をつける。」
ファブナーは欲の力を更に上げ、琉義亞を殺しにかかるが、突如として増幅した波動に吹き飛ばされる。
「やれやれ…好き勝手に儂の体を切り刻みおって…」
「あ、あれ!?俺の身体がなんで!?」
琉義亞は覇王の体内で能力が解除されたことに戸惑い、周囲を見まわす。
「な、なんで!?」
「お主の能力…便利なものじゃな。少しの間借りるぞ」
「え!?借り…え!?」
心の中で『自分と同じ力』で話しかけられた琉義亞は更に戸惑う。
そしてファブナーの前に現れたのは白銀の髪を靡かせた『覇王』。
「よくやった小僧共…いや、よくやったヴァサラ軍。もう大丈夫、儂が来た!!」
ファブナーは一瞬冷や汗をかくが、再び口元に笑みを作る。
「覇王ヴァサラ、本当の最終決戦だな。」
「随分傷をつけてくれたのう…これで傷は『五分』か?」
『覇王』ヴァサラVS『帝王』ファブナー
チャプター41:覇王VS帝王
ヴァサラが出したのは刀ではなくハズキが作ったらしい銃。
「銃…?」
引鉄部分に指をかけ、器用に回しながら弾薬をリロードし数発撃ち込むが、ファブナーはそれを軽々と弾き返し、欲の力でヴァサラの懐に飛び込んだ。
「その技…『別の世界』のものだな?」
狙撃の技術、撃ち方、全てがヴァルツの世界のものだと理解したファブナーはヴァサラが銃に手をかける前に斬撃を撃ち込む。
「なかなかやるのう…」
「極みじゃない猿真似如きじゃさすがにやられねぇよ」
「そうかのう?あの時開催した『大会』の猛者達の力はこんなもんではないぞ…」
「そうか…お前も『何かの大会?』とやらで更に力を上げているらしいならば…欲の極み『堕神礼賛』:賞賛浴びる強欲の虹」
ファブナーは再び国中の欲望をかき集め、大気が揺れるほどの力をその身に纏う。
「欲の極み『堕神礼賛』:狂気喝采・暴我壊欲!!」
波動を一点に凝縮させ、見えなくなるほどの高速移動を繰り出す。
「ほう…一点凝縮か…欲とは際限がないもの…その力をこれだけ操るとは大したやつじゃ…」
ヴァサラは銃を捨て、刀を抜くと力を増したファブナーとぶつかり合う。
「欲の極み『堕神礼賛』:狂気喝采・愚榊」
欲の靄が鋭利な刃に変貌し、意志を持つかのようにあらゆる方向からヴァサラを襲う。
「無の極み『無限共鳴』…」
「武の極み『柔』」
まるで合気道のようにスルスルと攻撃をくぐり抜け、ファブナーに向けて拳を握る。
「かかったな。」
思い切り握った拳に欲を纏わせ放つ。
しかし、当たったはずの拳は身体を反転させたヴァサラにより躱され、ファブナーは身体のバランスを崩す。
「これも『とある世界』の技でのう…武の極み『柔』柔・刀身流しと言ったところか…」
「そして…武の極み『剛』剛・虎昇拳」
「ぐはっ!!」
武の極みの波動を纏ったアッパーがファブナーの顔面を捉え、大きく吹き飛ばされた。
大量の血を吐き出し、立ち上がるのも困難なほどの強烈な一撃に、ファブナーは『自身の波動と同じもの』を感じる。
「欲の極みも使うとはな…」
「欲があるというのも悪くない…今のはこの小僧たちの『夢』…お前が還元できなかった力じゃ。」
「ちっ…上をいくか。覇王ヴァサラ…欲の極み『堕神礼賛』:狂気喝采・耀禍聖衝!!」
ヴァサラとファブナーの剣がぶつかり合う。何度も何度もぶつかり合う中でファブナーの剣に欲が溜まっていくのがわかる。
しかし、ヴァサラはそれを上回る速度で攻撃の威力を上げていくのだ。
まるで攻撃が、力が何乗にも上乗せされていくように。
「無の極み『連打連打』!うおおおお!!拾陸ッ!!」
『欲が弾かれる!!』
ファブナーは咄嗟に危険を感じ、半歩下がり、波動を全開放し最後の技を放つ。
「琉義亞とやら…お主の力も借りるぞ」
「えっ!?俺ので足りるのかよ!」
「お前さんの『も』じゃ」
ヴァサラの髪色が緑と銀色に変わる。
「欲の極み『堕神礼賛』:奥義・無一文の片翼」
その剣撃が通過した場所全てが崩壊し、ボロボロと崩れ落ちるほどの一撃。
ヴァサラは光に身を包み、その攻撃とファブナーに向けて一直線に攻撃を放つ。
「光の極み『光魂絆環斬』!!!」
ヴァサラの放った一撃はファブナーの一撃をかき消し、立ち上がれなくなるほどの傷をつける。
ヴァサラは勝負が決したことを悟り近づくが、ファブナーはその脚を這いながら掴む。
「今回は…今回は…俺の負けにしてやる…だが、必ずお前の力も…世界も必ず奪ってやる…それまで待ってろ…覇王…ヴァサラ…」
「…戯けがッ。百年早いわ」
意識を失ったファブナーにヴァサラは言うと。ジン達を起こし、隊長達を呼ぶように言う。
消える街灯、停止する賭場。
ファブナーは自身が負けた時はこうなるように仕組んでいたらしい。
異常を察知した債務者達の静寂がヴァサラ軍の勝利を物語っていた。
『覇王』ヴァサラVS『帝王』ファブナー
勝者:ヴァサラ
チャプターFINAL:全てが終わったその日に…
賭博都市の従業員やファブナーに雇われていたテロリスト達を一斉検挙したヴァサラ軍の噂はその日のうちに王都を駆け巡った。
また一つヴァサラ軍の伝説が市民の中に刻まれるのだろう。
しかし、当のヴァサラ軍の者達はそんなことなど露知らず、ハズキをはじめとする六番隊の治療を受けていた。
「ありがとね。ハズキお…姉ちゃん」
あと一歩のところで踏みとどまったコヒナは自ら捕まる事を宣言したココのカルテを指でつまみ、「大変だね」とぼやく。
「ま、その子にとってはファブナーのところにいることこそが人生だったんでしょ?無理強いはしないわ。」
「…そうだね。ところでさ、あのガキ三人は…「おうおうおう!!ガキ三人とはなんだ!!俺こそがラショ兄の一番弟子、ヒルヒル様だ!!」
甲高い声に遮られたかと思えばドタドタと続けて部屋に乱入する二人。
ルトは仰々しい包帯を巻き付けながらもガキ扱いを訂正するようにコヒナに詰め寄る。
「昔隊にいたのかもしれないけど、今の隊長はこのボクだ!ガキじゃない!」
「ぷっ…あははっ!『いい子』じゃないとこ昔の私にそっくり。」
「なっ!!」
「…頑張って。なれるといいね、覇王。」
「え…」
「とにかく今は治療しなね。死んだらなれるもんもなれないから」
「その通りよ坊っちゃん!!ファブナーとやり合ったって聞いて私心配したんだから!!」
「生きて帰って来れてよかったねぇ…着実に強くなっている証拠だよぉ…」
紫色のパーマ髪の女性と眼帯の男性がルトに声をかけ、ハズキに渡された薬を飲むように手渡す。
「ママン…パパン…心配かけてごめん。ボク、もっと強くなるよ…二人に心配かけないように…いや、おじいちゃんを超えられるような立派な覇王になれるように!」
「ぼ、坊っちゃん…」
ママンと呼ばれた女性はルトの成長に涙ぐみ、二人から宥められる。
「邪魔してごめんねハズキお姉ちゃん。私はこの子達よりは治ってきてるから…あとはゆっくり家で休むわ。」
コヒナは痛みがだいぶ落ち着いた傷を優しく撫でると、ハズキに手を振り隊舎のドアに手をかける。
それを遮るのは少年の声。
「おい!!お前なにルトが次の覇王みたいに決めてけてんだ?」
「何…?もう帰るんだけど…」
「待ちやがれ!覇王になるのはこの俺だ!」
「ふ~ん…」
コヒナはドアノブをつかむ手を下ろし、ジンを面白そうに見つめる。
「俺の名はジン、この国の覇王になる男だ!!」
少年の高らかな宣言は隊舎を越えて響き渡る。
ジンの宣言を聞きながらニコニコとお茶をすするヒジリの近くにいるのはサイカ護衛任務の隊員達。
「ホッホッホ…とんだ災難があったようじゃが…無事で何よりじゃ。」
「えーふとふぁひふ…「食べてから話しましょうよヨモギさん…」
おにぎりを口いっぱいに頬張り、包帯だらけの体で興奮気味に語るヨモギを未だ自力では歩けない程度にしか回復していないミミズがプルプルと震える腕で制する。
「いや〜。しかしミミズくんがそんなに強いなんてねぇ…」
「あっ!その!それは…」
悟られたくないのかミミズは泥酔しかけたイブキの口を精一杯の早さで塞ごうと動く。
今回英須が引いたのはミミズへの興味と全員の守り抜く決意を見たからだろう。
こと戦いにおいてはミミズが獅子奮迅の活躍をしていたことは全員が目の当たりにしている。
そしてもう二人…逃走経路の確保をしたコバンザメと意識を失ったミミズを守り抜いたジョンもこの戦いの英雄と言えるだろう。
「アンはまだ治療中か?ま?俺はすっかり治っちまったんだけど!そして聞いてくれよイブキ隊長!!俺の作戦がバッチリハマりカムイ七剣を撃退した話!」
「はぁ!?お前は何も…はぁ…」
怒号を浴びせようとしたジョンは大きなため息をつき、ず〜んと暗い表情を浮かべる。
「じ、ジョンさん…船からずっと沈んでるべ…」
「ライクさんからもらったヘッドホン…ボロボロに壊しちまった…」
恋人から貰ったらしいヘッドホンは英須の火でドロドロに溶け、地面に落としたことで崩壊し、原型をとどめていないような形になっていた。
「はぁ〜っ…なんて言ったらいいんだ…御守りだってくれたのに…」
「げ、元気出すべ!!御守りがジョンさんを守ってくれたんだべ!」
言われてみればそうかもしれないとジョンは考える。いや、そう思うことにしたのだ。英須を相手取りながらみなぎる力、まるで『共鳴』したかのような凄まじい波動量。
火事場の馬鹿力かもしれないが、それも恋人の力であると。
「そ、そうっすよ。とにかく食べ…「今なら殺せるかもね〜。」
「フン、紛い物が中に入った状態の総督じゃなきゃ勝てねえのか。」
「あれ〜?ボクちゃんに総督が食べられちゃうのが怖いのかい?」
「ケッ。そのケガで勝てるとは思えねぇがな…」
「あれ〜?ラショウちゃんも同じようなもんに見えるけどね〜☆」
「やめんか!!」
平和な食卓を揺るがす火花。そこへ飛ぶ覇王の拳骨激痛にうずくまる二人をよそにヴァサラは隊員を集める。
「皆の者!此度の戦、良くやってくれた!」
「フン」
「ようやく終わったねぇ…」
「ホッホッホ…若き目は確実に成長しておりますな…」
「おじいちゃんの修行のおかげだよ!」
「俺はラショ兄の一番弟子だからな!」
「くっ…またじいちゃんに先越されちまったけど、いつか絶対超えてやるからな!」
「戯けがッ!100年早いわ!じゃが…そろそろ時間のようじゃ…」
ヴァサラの魂から琉義亞が抜けようとしているのがわかる。
「おじいちゃんも、ちゃんと目覚めなさいよ。こっちも死ぬ気で治療してるんだから。」
「そうだよ総督、僕ちゃんが殺すって決めてるんだから☆ぺろりんちょ☆」
「フッ。そうじゃな…ともあれ…」
ヴァサラは一呼吸置いて言う。
「さぁ…宴といこうか!!!」
同時に琉義亞の魂がヴァサラから抜け出た。
劇場版ヴァサラ戦記
FILM:GOLD 我欲渦巻く賭博都市
〜終わり〜
おまけ
「俺のカードは『遅刻』!!お前の召喚を2ターン遅らせるんよ!!」
「甘いZE!『運命の時』のカードはすでに0時を指している!蘇れ時の悪魔!タイムパラドックス・デーモン!!」
「た、タイムパラドックス・デーモンだと!?」
「このカードの効果によりお前の魔法・罠の発動は1ターン後になるZE!タイムパラドックス・デーモン、直接攻撃!!『パラドックス・インフェルノ』!!」
「くぅ〜っ!!なんでまた勝てないん?ココにも勝ったんに!!!!違うゲームだけど…」
最後くらい勝ちたかったなと愚痴愚痴と負け惜しみを言いながら七福は遊太郎にとある黒い札を渡す。
「それは俺の親友の力でできたまぁ…転移装置みたいなのだと思ってくれればいいんよ。」
遊太郎の身体が光りに包まれ、七福に礼を言いながら消えていく。
七福は自身のデッキからカードを一枚出し、遊太郎に投げる。
「アンティルールってやつじゃん?あと…その…」
恥ずかしそうにもじもじと頭を掻きながら言う。
「ありがとな…その…色々。お前がいなきゃダメだったかもしれんし…助かったわ。そのカードはまた会おうぜってことで。」
「ああ!!また会おう!七福!またいつでも挑戦は受けるZE!」
遊太郎の身体は光りに包まれ、消えていった。
JACKPOT・KING ー 運命の奇術師 ー
攻撃力:500
守備力:600
魔法使い族:効果
このカードが召喚された時、サイコロを振り、出た目の効果を得る
1…相手のモンスターを一体破壊する
2…攻撃力が100ポイントアップする
3…相手のモンスター1体の表示形式を変更する。
4…自身を墓地へ送る
5…相手フィールドを二箇所使用不可にする
6…相手のターンを1ターンスキップする
このカード効果は1ターンに1度しか使えない
冥界
罰夢は再会した母親の力が格段に下がっていることを知り、絶望する。
「貴様…何をしたミチザネ!!」
「儂は何もしとらん…勇気ある若き芽が魔女姫を弱めたのじゃ。」
「そんなことは聞いていない!母にあのような傷をつけたのが貴様かと聞いているんだ!」
魔女姫の全身についた稲妻の紋様は痛々しく焼け焦げて入れ墨のように深く刻まれていた。
「ぶわっはっはっ!!何度も向かってきたから倒しただけじゃ?さて…次はお前を相手にするとしよう…」
凄まじい轟音と共に冥界に雷鳴が轟き、ミチザネと罰夢は剣を交えた。
「ふーっ…どうにかなった…冥界武術界もいよいよ明日にでもできそうじゃ!!」
「決戦は明日!!」
白銀の少年のチームに決勝戦の日取りを宣言する。
「なるほど、この話はシネマンガフェスタ4の後の期間だから決勝前というわけか…」
「そ、それ言って大丈夫なのか!?」
黒い長髪の男の発言に銀髪の少年がツッコミを入れる。
第8世界?
「はぁ〜。すっかり遅くなっちゃった。てか深夜だし…」
すっかり夜も更け、街灯の明かりのみがツカハラを照らす街で大きくため息をつきながら、楽しそうにしているピエロマスクの男を睨みつける。
「ここまでかかるなんて聞いてないけど?」
「言ってないですからね。深夜帰りなんてこの作者はちょっと前までずっとしてましたよ?ってなわけで、じゃ!」
「あっ!」
どこかへ消えてしまった男に舌打ちし、ふと顔を上げると、鼻をくすぐる食べ物の匂いを感じる。
「深夜定食…屋台かな?」
暖簾をくぐると、顔に傷のある無骨な店の主人は「あるものなら作る」とツカハラに言う。
「う…そう言われると逆に悩む…主婦の『何でもいい』みたいな…」
「ヒデさん、もう無茶する歳じゃないんですかね、俺…」
「ん?」
ツカハラの隣の男は店主を「ヒデさん」と呼び、おでんをつまみながら何やら悩んでいる様子だ。
愚痴をこぼしながら食べているそのおでんが彼女には妙に美味しそうに感じ、同じものを頼む。
「お待ち。」
「!!うまっ!めちゃくちゃ味がしみてるし…そういえば今日ほとんど何も食べてないんだっけ。ボカディージョくらい?」
「姉ちゃん、その包帯、ケガでもしたのかい?」
そういえば激戦のあとハズキに治療してもらい、包帯をたくさん巻いて第八世界に戻ってきたことを思い出す。
「こ、これはちょっと…冒険というか…はは」
最悪だ。疲れるとこうも頭が回らないかと頭が痛くなる。どこかの海賊漫画じゃあるまいし、怪しまれるに決まっている、何が冒険だと自分に説教したい気分だ。
「あっはっは!冒険か…」
意外な反応だった。
男は笑ったかと思うと神妙な顔つきになり、「そうだよな」と呟く。
「俺…昔から嫌いだった言葉があるんだよ。ジェットコースターとかで『あんな小さい子も』ってやつ。怖いものに小さいも大きいもないだろ!って反抗ばっかりしてたんだけどさ…今の俺はその言葉を自分に言ってやりたいね、『こんな高校生くらいの子が冒険してんだぞ』って。ヒデさん、俺…起業してみるよ、この子が来てくれてよかった…いくつになっても冒険は続きそうだ。お勘定。この子のぶんも!」
カウンターやレジなどない食堂の台に、明らかに自分の分も含まれてるであろう代金を置き、お礼を言う間もなく晴れやかな顔で男は店を出ていく。
「あっ、ちょっ!おじさん、お金はちゃんと払うから!」
「いや、もういただいちまったよ…」
「なんだか悪いなぁ…」
どこか申し訳なさを感じながら湯気の立つおでんをゆっくりと口に運んだ。
「新言語秩序だ!!」
「…は?しん…何?」
深夜の食堂に入ってきたのは新言語秩序と書かれた制服を着る政府お抱えの軍隊らしき人物。
深夜だったこともあり気付くのが遅くなったが、家の近くのシャッター商店街に書かれた、『〇〇教はカルト集団だ!!』だの『セフレ求ム@〇〇』だの『消費税を廃止にしなければ直ちに国家転覆』などと言った下劣な落書きが綺麗さっぱりと無くなっていた事を思い出す。
「ねぇ、ここって…」
「そうですよ。別の世界です。」
ピエロマスクの男は突然姿を現し、トマトラーメンを頼むと、うまそうに啜りながら続ける。
「この世界は『言葉』を取り締まるディストピアですが、あなたの元の世界よりはマシでしょう。これからのあなたの世界よりはね」
「どういうこと?」
「始まるんですよ、あらゆる世界を巻き込む大きな大きな『戦が』」
第1世界
「にしてもよう。エデンの軍?あいつら何であんな居なかったんだろうな。六福、お前なんか別の世界にいたんだろ?なんか知らないん?」
「六福言うな!!知らないよ!知らないけど…『何か変な感覚があった…』その…なんというか…私と同じように兵を倒していく人の映像が出たというか…うまく説明はできないけど…そんな感覚…」
『極みをまだ二つ使ってなかったとはいえ…殴り合いだけならなかなか強いやつだった…あんな奴があの世界にたくさんいるとしたら…』
ミズキは七福の嫌なあだ名を否定しつつ、自分の身に起こったことを思い返す。
第8世界
ー ミズキが感じたのは『シンクロニシティ』ファブナーの情報を頼りに世界各国の刑務所に赴いたエデンの軍はそれにより半壊したのである!! ー
エデンの軍は、『医師』として死刑囚と会い、仲間に引き入れようとしていたのだ。
中国:有嘉斗刑務所
潜入した先にいる拘束具をつけた白い無精髭の男は、看守に連れられやって来た。
「何が望みだ?」
「敗北を教えてほしい。」
「敗北を?それは困る…俺たちは世界を…っ!!」
無精髭の男は縮地でも使ったかのような速度で一番近い兵を蹴り殺し、刀を抜いた兵たちを次々と薙ぎ倒していく。
その脚の力は凄まじく、エデンの兵たちは頭蓋骨が潰れ、一瞬で絶命した。
「まだ…その時ではない。」
極悪非道の紳士・パイン
フランス:アナータカンソ刑務所
フランスは住みやすいと聞く。
目の前に現れた優男を一瞥し、死刑囚にしては大したことがなさそうだと油断していた兵士は、家で何をするかを考え、すっかり上の空だ。
瞬間、自身の首から流れる生暖かいものに気付く。
血だ。
どこから出したのだろうか、ともかく反抗的な態度を取る優男にエデンの兵達が攻撃を仕掛ける。
刹那、優男は不思議な動きのパンチを放ち、兵達を瞬く間に吹き飛ばした。
「敗北を知りたい。君達では不可能だ…」
散らばる遺体に目もくれず、優男は独房へ戻っていった。
麗しき武器人間・ジョルジュ
ロシア:エバネッセンス刑務所
「上に気をつけろ?こんな所で?」
確かにそこの天井は高い。
高いが登る方法がないのだ。
つるりとした壁面、四方もただの壁。
一体どう気をつければいいのかと兵士達は笑う。
銀髪の男はまるで地面を楽々と歩くように壁の小さな錆に捕まり、兵士を次々に『拳で切り刻む』。
『殴る』ではない。『切り刻む』のだ。
顔を切られ、動脈をも切られた兵士達を房の外につまらなそうに投げ捨て、男はゆっくりと座る。
「敗北を知りたい。こんな奴らではなくな。」
クライムクライマー・シコルビッチ
アメリカ:エンドリバー海底刑務所
嫌なところに来てしまったなと兵士達は思う。
他の場所は明らかに娯楽があるが、ここは深海。
何一つ楽しいことがないハズレくじだ。
そういえば看守が何か言っていたが、すっかり忘れたままとある男の監房へ向かう。
「ゴーメンナサイヨー!!」
大きな声と共に放たれる殴打により、仲間が頭を潰され、迎え撃つ自分の顔に脚がめり込む。
巨大な男は楽しげに兵士を殺害すると、タバコを奪い取り優雅に吸う。
「君達も…私を敗北させるには程遠い…」
無呼吸外道・ステック
日本:奈羅山刑務所
日本の死刑囚はどうやら『毒ガス使い』らしい。
エデンの戦い方とも合う男だ。
勧誘にはより気合が入る。
しかし、小柄な男はたった一言「敗北を知りたい。」という言葉しか言わず、再び口を閉ざしてしまった。
「あ…えっと…毒を使われるそうですが…なんの武器で?」
「武器?私が使うのはこの手だよ…」
ようやく口を開いたかと思えば荒唐無稽な返答だ。いよいよ頭にきた別の兵士が小柄な男に斬りかかるが、男は兵士の口に手を当て、一瞬で命を奪う。
「!?」
「ほらねェ…?」
この毒はなんだと悩んでいるうちに男の意識も混濁する。
そうか、思い出した。エデンも言っていた。一番の毒は『酸素』だと
「またつまらぬ勝利をしてしまったか…」
空師・梵龍門
五人の男達がこの先東京に集まることをこの段階ではまだ誰も知らない。
第???世界
バスターエンタープライズと書かれた巨大なビルの会議室内から謎の敵の襲来を見つめるブラックナイト。
「いよいよ始まったようだ…」
彼はスーツを装着し、敵が群がる中心部へ降りていった。
劇場版ヴァサラ戦記 FILM:AMAZINGに続く
制作:Capy.Novels

