カピノベホワイトデー記念短編集(2日遅れ)


ホワイトデーキャバクラ貢ぎ物くん編

「じゃ、10日4割ね。(利子のこと。違法)」

お決まりのセリフと共に、200万はあろうかという札束を江藤は大人しそうな20代の男に渡す。
横では上司であり社長である鮫島が『里井、3月14日、200万』と記載し、使用用途も事細かに記載していく。

「ありがとうございます!これでホワイトデーのプレゼントが渡せます!あの子しか俺を褒めてくれないんですよ!!俺は天下の東大生!地頭の出来が違うのに、会社ではけなされるばかりですから」

『俺は特別な人間なんだ、わかってくれるのはきらりちゃんだけだ…』

里井は鼻息荒く歌舞伎町のキャバクラがたくさん立ち並ぶ道へと消えていった。

「しっかし、あいつ東大卒でメガバンクで働くエリート中のエリートっすよ?こんなに夜の店なんかハマりますかね?俺なら合コンや会社でマウント取るのに」

「その『就職先』でうまくいってねぇんだろ。会社にはFランや高卒、果ては再雇用された老人までいるところが多い。ブランド物のように身に着けていた『学歴』が、仕事の出来不出来によって自分の体を拘束する重りに変わる。そんな時に思うことは一つだ。『俺は特別だ。こいつらとは話が合わないだけだ』ってな。だからこそ話を聞いてくれる水商売の女に入れあげる」

「そんなもんっすかね…?学歴あるなら仕事できると思うんすけど…」

「行くぞ江藤」

「うす。」

食べていたたこ焼きを口に詰め込み、サメジマと江藤は未払いの債務者のところへその足を進めた。

里井はお気に入りのキャバクラ嬢、きらりに飴細工の職人に作らせたシャンパンをかけるとキラキラと光るガラスに入ったバラのような形を模した飴をプレゼントし、最高級のシャンパンを注文し、騒ぎ出した。

「ありがとお〜サトちゃん!!」

いかにも股が緩く頭の悪そうなネットリとした話し方と、小銭はおろか、箸すら掴めないほど長くなったネイルアートのある手で里井の腕に抱きついたきらりは、勢いよくシャンパンを開け、乾杯する。

「でぇ〜もぉ〜サトちゃん大丈夫なのぉ〜?借金ってヤバいんじゃなぁい?前ここ来てた銀行員の人、借金でクビになったよお?」

「大丈夫大丈夫!俺はメガバンク職員、いざとなれば海外転勤して踏み倒して逃げてやるよ。あんな低学歴のクズなんかじゃできない勝ち方があるんだよ!上司も借金取りも、全員ゴミばっかりだ!人生なんてラクショーだよ!あ、お兄ちゃん!ドンドンシャンパン持ってきて!」

里井はきらりを抱き寄せ、ポッキーゲームのように飴を口にくわえ、その唇を差し出す。

「きらりちゃ〜ん。ハッピーホワイトデー!」

「いえーい!ハッピーホワイトデー!!!」

二人は飴を挟んで唇と唇を重ね合わせる。

その晩、里井はまるで借りた金だと忘れたかのように大声で騒ぎ、札束を投げるように大量のシャンパンをきらりに入れ、退店寸前になるほど騒ぎ立て、泥酔状態でどうにか家の床につき、泥のように眠った。

翌日、サメジマから来た過去の借金による督促状を乱暴にゴミ箱に捨て痛む頭を引きずって職場へ向かうと、自身に電話が来ていることを伝えられ、受話器を取る。

「里井、返済まだ?」

「!?」

声にならない声を発し受話器を手で隠すと、小声で話し出す。

「さ、サメジマさん!?ここどこだと思ってんですか!?」

「東京支店。だから何?」

「勘弁してくださいよ!お金なら明日きちんと返しますから!今日引き出し忘れただけですって…」

「ダメだ、今日返せ。」

「利子をプラスして返しますから。」

「…」

サメジマが何も言わずに電話を切ったことを確認し、里井はほくそ笑む。

『勝った…』

「お前、海外転勤すんの?まだ2年目だろ?そんな焦らずにさ、ゆっくり地盤を固めて…「先輩、確か出身は法政でしたよね?」

先輩の言葉を遮るように里井は学歴を持ち出し、続ける。

「私立三教科組と違って俺は最高峰の大学なんです。俺がうまくいかないのはこんな小さな国だからだ!黙っててもらえませんか?」

「そうか…したら足元すくわれないようにしろよ。こういうとこじゃ小さなミスが島流しになっちまうからな」

『フン、地頭の出来が違うんだよ。』

里井はいつも通りの仕事をこなし、帰路に着いたところで待ち伏せしていたサメジマと江藤に捕まる。

「金、返して欲しいんだけど。」

「サメジマさん、今朝言ったじゃないですか!明日利息付きで…「あっそう!じゃあこれ何?日付、明日みたいだけど?」

江藤が出したのは海外行きのパスポートと飛行機のチケット。

「な、なんでそれを?」

「家の中で売れそうなの探したらさ、こんなの見つけちゃったよ。海外に逃げようとした?」

「いや…その…」

サメジマは里井の返答を聞くことなくチケットに火をつけ、つけていた高級時計を奪い取る。

「明日、足りない分は職場に請求するから。」

「ま、待ってください!そんな事したら…」

「行くぞ江藤」

「うす」

「俺は特別な人間なんだ!!やめろおおおおお!」

高級な住宅街の十字路に里井の慟哭だけが響き渡った。

闇金は違法です
消費者金融のご利用は計画的に



時には休息を


ジンがヴァサラ軍に入る2年前の賭博都市ルピナス。
ファブナーに改めて呼び出されたココは襟元を正して扉をノックする。

「来たか。ココ」

「はい、それでご用件は…?」

「明日は何の日だ?」

賭博都市の状況報告かと思い身構えていた体から力が抜けると同時に一瞬戸惑いの色が浮かぶが、すぐに暦に目を移す。言われたことをすぐにやってしまうのは職業病とファブナーへの敬愛のせいだろう。

「3月14日…あっ。」

「ホワイトデーだ。お前は数年、いやルピナスができてからずっとここで働いていた。たまには休め。休暇だ。」

「休暇…ですか…」

どうしたらいいかと迷ってしまう。ファブナーの横にいれることだけをモチベーションにしてきた自分に休みの命令、やることがないというのはここまで不安になるものかと感じる。
付き合いの古いカイナに相談したいところだが、彼は彼で忙しいだろう。

「25年前、俺と初めて会った日を覚えているか?」

幼い頃の記憶なんてものは朧気だ、当時仲良かった人の顔すら思い出すのは難しい、しかし、それでもあの日のことは忘れない。
ゼラニウム街で『危険な力』と言われ、両瞼を焼かれて失明した目に光をくれ、両親と共に面倒を見てくれた恩人、ファブナーとの会合。忘れたくても忘れられないに決まっている。

「もちろんです。」

「だからこそだ。たまには礼をさせろ。」

こう言われてしまっては断れないなと思ったココは賭博都市に住まわせてもらっている両親の元へ駆け出し、今や温泉街になったらしいかつての実家のゼラニウム街へ行く約束を取り付けた。

その話をすれ違ったカイナにしたところ、『帰省なら相談していただければシフトの予定はつけた』と言われてしまったが…

しかし、ファブナーがココに休暇を与えたのは別の意味もあった。
後に戦うことになる『救済の教会』の内通者をカイナがあぶり出したのだ。

ネルンと繋がっている写真を渡される三人。ファブナーは部屋の椅子に座り、正座をしている三人に小さな瓶を見せる。

「未来が見えるココが邪魔か?こいつは毒だな。」

「黙れ!こんなところにいたって心は救われない!!お前が満たせるのは金だけだ!ココが邪魔かって?当然だ!あいつがいなければ先を読まれることもない!」

写真を見せられた一人の男は顔を真っ赤にし、写真を引き裂いてファブナーに怒号を飛ばす。
それに反応するようにもう一人の男は刀を抜いて飛びかかる。

「お前を殺せばネルン様の天下だ!!!!死ね!!」

ファブナーは振り下ろされた刀を赤黒いオーラを纏った指一本で受け止め、軽々とそれを弾き飛ばすと、反発した二人の頭を掴み、震え続けて土下座している三人目の男に顔を向ける。

「今なら刺せるぞ。俺は両手が塞がっている。」

「ひっ!い、いや…その!ゆ、許してください!!僕は…親が教会の会員で…ココ様にも優しくしてもらったのに…その…こんな事…ふ、ファブナー様…お願いですから…」

「そうか…」

赤黒いオーラを二人の頭に流し込み、破裂させて殺害すると、震え上がる男の元に近づき、一枚の紙を差し出す。

「え…?」

「お前にはここを辞めてもらう。今日中にルピナスを出ろ。その紙に名前を書いてカイナに渡せ。」

ファブナーが差し出した紙には『解雇通知』と書かれていた。
この男だけは生かすつもりなのだろうということがカイナとそこにいたもう一人のスーツにメガネの男…石花は瞬時に理解した。
そして、石花はファブナーに耳打ちする。

「賭博都市から逃げる船に乗った瞬間射殺でもしましょうか?」

下卑た笑いを浮かべこの時代には無いような形状の拳銃をちらつかせる石花を制し、解雇通知を男の手に渡す。

「お前の言葉に嘘はねぇ。俺の極みでこの部屋に欲関連の嘘はつけないようにしておいた。お前の言葉は本心だ。何より、ココに対する評価も聞けた。だがお前は俺の『眼』に毒を盛ろうとしたことは確かだ。ルピナスに置くわけにはいかねぇ。わかるな?」

「私からも一つ。」

安堵し切る男にカイナは釘を刺す。

「二度とルピナスに来るな。次は殺されると思え」

男は震え上がりながらカイナに連れられ、不満げな石花の顔を見ることなく船着き場へと歩いていった。

帰省の準備をしていたココは自身のドレスのポケットに何かが入っていることに気づく。

「これ…」

それはファブナーに初めて開発途中のルピナスに連れてこられたときに自身が欲しがっていた指輪。あの頃とは10年以上も経ってしまった今、形が歪み、内径がおかしくなってしまったそれをペンダントのようにし、自分にくれたのだと嬉しくなる。

『ファブナー様…私はあなたのもとで働けて幸せです…』

「ココ、そろそろ出よう」

「今行くね〜」

ココはファブナーに貰った指輪を首につけ、今ではすっかり良くなった自身の故郷へ帰っていった。

『久しぶりだなぁ…ゼラニウム。ラミアのお兄ちゃんとかいるかなぁ…』

などと考えながら。


煙蝶日和ハッピーホワイトデー

ここはあの頃の十一番隊の隊舎。血で血を洗う揉め事が絶えず、常にどこかの壁に信じられないほど大きな穴が空いていたり、血の汚れがすっかり茶色くなり取れない場所もある。

今回は隊長のボイラも、そしていつも掃除を手伝ってくれる副隊長のスケキヨもいない。
となると掃除をするのは繭一人だ。
彼女は苛立った顔を浮かべて雑巾を絞り、一生懸命に泥だらけの床を拭く。

「繭、そんな拭き掃除なんかしてねぇで喧嘩しようぜ?勝ったら俺が副隊長だ」

聞こえるほど大きな舌打ちをして喧嘩を売ってきた隊員を一蹴する。
普段であればあの程度の挑発など相手にしないが、随分と苛ついているなと自戒し、箒を手に取ると、たまたま近くにいたウキグモも雑巾を持ち、繭を手伝うように床を拭き始めた。

「あら?自分の隊にいなくて大丈夫なの?」

「今日は俺は待機だからな。手伝う」

「そう。ありがと。」

「なんでそんな苛ついてんだよお前」

「らしくないぞ」と言おうとしたウキグモだったが、普段とは違う繭の『ある変化』に気付きその口を噤む。

翌日、息を切らしてやってきたのはハナヨイだ。
着ている女物の着物をらしくなく乱し、ウキグモに何かを聞いている。

「おいおい、お前さん達何したんだ?」

「は…?」

ウキグモは『何をした』と言われるほどの事案はないはずだとここ数日の自分の行動を思い返す。
今日はホワイトデーということもわかっている。ハナヨイのことだ、『ホワイトデーのお返しはしろ』と以前のバレンタインのことで冷やかしてくるだろうと思い、繭やハツカイチへのお返しは買った。それがバレていたとしてもこの反応は異常すぎる。

「あのな、カナデ、いくら俺がそういうのに疎いとしても…「お前さんと繭が離婚したって隊内中で噂になってんだよ!すげえ騒ぎになって総督の耳にも入っちまいそうだ!」

「はぁ!?なんだよその噂?そもそも俺達は…「ウキグモ副隊長っ!」

話を遮るようにハツカイチがウキグモの体を掴み、ぶんぶんと揺らす。

「落ち着け、イチ、お前へのお返しはちゃんと…「い、今そんなの渡さないでください!要りませんから!繭副隊長と早く仲直りしてください!」

ウキグモはこいつも同じかと大きなため息をつく。

「あのな…「籍を入れていないのは知ってます!でも十一番隊舎でなんかよそよしかったって聞きましたよ!ケンカしてるなら仲直りしてください」

『公式カプが崩壊の危機!?いやいやいや!ダメダメダメダメ!絶対に仲直りさせないと』

「あ〜…そういうことか」

「悠長なこと言ってねえで早く誤解を解かねぇと…」

「いや…この話はしばらくしたら落ち着くだろ繭の機嫌も時期直る。理由は分かるしな。」

「「…ん?」」

至って冷静なウキグモに二人が頓狂な声を上げる。

同じ頃、任務から帰ってきたスケキヨが繭に気を遣うようにお茶を渡す。

「何…?」

「まぁ…色々大変だと思うが、無理はするなよ」

「は…?」

「ほら、気まずかったり…な?」

「気まずい…?」

「いや、いいんだ。気にしないでくれ」

「はっきり言ってくれない?時間ないんだけど」

明らかに苛ついた声にスケキヨは諦めて隊内の噂について話す。
繭は頭を抱えて、大きなため息をつき、そもそもウキグモとはなんともないことを告げる。

「随分と噂になったな。」

噂をすればとばかりに顔を出したウキグモを見て、スケキヨはメイクの奥からもわかるほど気まずい顔をする。

「ごめんなさい、私が苛ついてたから。」

「ま、仕方ないよな、禁煙して三日だろ?無理は禁物だ。」

「は…?」

思わず自分らしかぬ声が出たスケキヨは慌てて口を噤み、続けて困ったようにぽつぽつと言の葉を紡いでいく。

「いや…その…なんだ…お前が喧嘩っ早い事は悪くねえ。それに十一番隊の中じゃ一番冷静だ…いや…だが…一緒にいる人間が誰なのかとか…そういう空気は読んでくれ。俺のところに相談が来すぎている…噂は俺とハナヨイが何とかしておくが…そうだな…二人共もう少し自分達の噂と立場を自覚してくれ。」

「立場って言われても…なぁ…?」

「別に私達何もないし…」

「ッッッ〜!!」

「まあまあ、まずは繭の話を聞こうじゃねえか」

苛立ちと気まずさで全身が痒くなるスケキヨの元へ助け舟とばかりに現れたハナヨイがそれをうまくなだめ、繭の『禁煙』についての話に流れを戻す。

「ああ、その話?三日前かしらね…ヤマイからこんなのをもらって…」

繭が出した健康診断の書類には明らかに20代とは思えぬ肺の数値が書かれていた。

「『申し訳ないけどこの数値は六番隊隊長として看過できないな…今日から禁煙ね』って…」

意気消沈する繭を見て、スケキヨとハナヨイは機嫌の悪い合点がいった顔をする。繭は重度のヘビースモーカーだ。食事をするときも戦うときも、風呂にいるときでさえ吸っていると武勇伝のように隊舎で語っているのもスケキヨは聞いている。だからこそこの苛立ちは納得できた。
繭にとって禁煙は皮膚の一部が千切られたようなものなのだろう。とてもじゃないが耐えられる痛みではないことは明白だ。

「ほら、これやるから落ち着け。」

ウキグモは繭の機嫌の原因をどうやら察していたらしく、缶に入ったいつもより度数の高い両切りタバコをプレゼントする。

繭はそれに目の色を変えて飛びつき、急いで火をつけ思い切り吸う。
頭にガツンとしたものが来るのがわかる。いつもよりきついタバコだ、今までの禁煙の苛立ちと共に意識も吹き飛びそうな気分だ。

「うっま…っ!!!」

「おいおい、いつになく表情がキラキラしてんぜ?」

「繭のこんな顔見たことねえ、ウキグモさん、あんたはあるか?」

「いや、ないな…てか怖ええ。目が完全にイッてるな…」

「ちょっと、用が済んだならもういいでしょ。もう少しタバコ楽しませてよ」

人払いをするように三人を追い返すが、ウキグモだけはそこに残り、繭の隣に座る。

「繭、これ」

「ホワイトデー?あなたからは貰ったはずよ。あの酒器、気に入ったわ。絶対隊舎に持ってこない」

「気に入ったなら持ってきてくれよ…いや…やっぱりお前が正しい。今のは聞かなかったことにしてくれ。お前の隊じゃ一日持たねえ…」

「でしょ?せっかくのプレゼントが台無しになるもの。死んでも持ってこない。あんな問題児だらけの隊じゃなきゃ使えたのに…」

繭の文句の端々から自身のプレゼントが大切にされていることが伝わり、少し嬉しくなるウキグモだったが、本題を忘れかけていたことを思い出し、包みを渡す。

「だから、あなたからは貰ったって、何個も何個も渡すならイチにもあげなさいよ。だいたい、たくさんプレゼントする男は重い…「俺からじゃない。」

なぜこういうものだけ素直に渡せるのだろうと自分が嫌になる。
しかし、これは繭にとって大切な『お返し』だ、無下にするわけにはいかない。

「隊の誰かってこと?お返しなんてやるのスケキヨくらいじゃない?だいたい、新しい四番隊の隊長なんか、自分のとこの温泉優待券の一番グレード低いやつ配った挙句『チビシジミチョウ』とかいう腹立つあだ名だけ残して去ってったわ。」

「そいつは隊員からじゃない。それにあの水色は殺していい。だからその箱を開けろ」

ウキグモには珍しく少し急かすような様子で促されたそれを開けて手が止まる。

「…ホントにこういうとこだけ律儀なんだから」

自分の声に少し涙が混じっているのを感じてフードを被る。繭はとある過去の出来事から泣く日は一日だけと決めているからだ。

「ロポポ隊長にも調べてもらった…お前の旦那が結婚して最初に渡したホワイトデーだろ?このカップケーキ。探し回るのに苦労したよ、この顔でケーキ屋に入るのも緊張する。甘い物も苦手だしな…でも、それより…忘れさせるわけにはいかないからな。お前の大切な人を。俺達はそのために戦ってる」

「…そうね」

ウキグモからもらった『嬉しさ』で心が満たされるようなプレゼントとは違う『懐かしさ』を感じるプレゼント。
思わず言葉が出なくなる。

ウキグモはうつむく繭を察するように椅子から立ち上がるが、繭は服の袖をつかみ、言う。

「ありがとう…本当に…」

「…俺があげた酒器…とってこれるか?」

「ごめん。待っててくれる?その…もう少し今日は話したいかも」

「ああ、そのつもりだ。」

その晩、二人はあげた酒器で酒を酌み交わし、夜通し何かを話していた。
翌日、その噂が広がっていたのはまた別のお話。


流れ

給仕部は大変だという噂がある。もちろん早朝から仕込みをしなければならないし、自分の両親が決めたルールである『毎月軍の人に味と衛生を評価してもらい、三つ星〜無星の評価をくだしてもらう』という過酷な条件があるのも確かだ。
しかし、現給仕長のメスティンはそうは思っていなかった。
今日は休日だというのに朝5時に起き、いつものようにツインテールを結び、明日の仕事のためにラーメンのスープを作る。

「セパティ…」

いいスープが作れたなと思わず最上級の褒め言葉の独り言が出る。

「さて。あとはもう少し煮詰めて…」

「お〜い。メスティンいる〜?」

そろそろ来る頃かなと頭の隅で思っていた通り、メガネの奥の優しい顔をニッコリと微笑ませてワグリが扉の前に立っていた。

「ワグリくん。そろそろ来るころだと思ってたよ。いつも通り残り物だけど…」

「いや…ケーキバイキングだよねこれ…」

「えっ!?」

豪華なケーキの山に苦笑しながら持ってきたのは一般隊員ではなかなか財布のを緩めづらいレベルの超高級和菓子店のわらび餅。値段を知ってメスティンは思わず大きな声を出してしまい、慌てて手で口を覆う。

「い、いいのこんなの!?隊員じゃ手が届かないレベルのやつでしょ?」

「いつももらってばかりだからさ、お金貯めたんだ〜」

「『貯めたんだ〜』って…そんな満面の笑みで言えるこれ!?本来もうちょっと引き攣った顔していいのに…でも、ありがとね!」

メスティンも笑顔になり、わらび餅を口に入れる。
同時に彼女の目が料理人のものに変わる。

「砂糖、きな粉、黒蜜、塩、大豆…は使ってない、くるみで代用してる…水飴、ん?隠し味に醤油…か、大豆感はこれね。しかも地方限定の甘いやつだ。この大豆は…フジ急流付近の…王都からだいぶ離れたところにある味…収穫時期は…「ちょっ!ちょっと!怖いってそれ!!」

「あっ!つい!ご、ごめんね!」

一口入れただけで全ての材料が0.01mgの誤差もなくわかる『神の舌』を持つメスティンは、名店の商品を仕入れてはこのように研究をしているのだ。
これもまた職業病なのだろう、メスティンは申し訳なさそうに顔を赤くして頭を下げる。

「ゔ〜…だからそばかす消しクリームとかでいいのに…」

「はは…いいよいいよ、どんな形でもせっかくだから喜んでほしいし。よかったぁ…食べ物だから緊張したよ…」

「ごめんね。びっくりさせて…ほら、最近王都にできたチャーハンの屋台、あそこすごい美味しいらしくてさ、ちょっと色々研究してて…」

「そっか、でも心配ないと思うなあ…俺も食べてみて確かにあそこ美味しかったけど…」

たくさん並べられたケーキのなかのモンブランを食べ、綻んだ顔をし、続ける。

「こんなおいしいの作れるのはメスティンだけだよ!」

「そうかなぁ…チャーハンは負けてる気が…」

「そんな事ないって。もっと自分に甘くていいんじゃない?だから毎日来てるんだし。」

ふとカレンダーに目をやる。自分の料理を食べにわざわざ家に来てくれる人はいるが、ワグリは特別多い。軍の遠征以外は基本的にうちにデザートを食べに来ているのだ。

「う〜ん…まぁあたしも正直来てくれてるのは嬉しいよ。っていうかたまに来ないと心配になるのが本音かな、ほら、いつも軍のご飯作るでしょ?軍の人数が減るたびに調理の数も減る。退職も殉職も、人数減ると悲しくなるのよね…」

「もちろんワグリくんの遠征の時も不安だよ?」と微笑みかけると、何か思いついたように、彼の顔を見る。

「そしたらさ、一緒に住む?」

「あ〜…いいかも」

「「え」」

しばしの沈黙が流れ、二人の顔が真っ赤になる。

「い、い、いや!変な意味じゃないよ!!別にど、同棲とかそういうんじゃないからね!」

「わ、わかってるよ、うん!ご、ごめん、つい流れでOK出しちゃった!わ、忘れて!うん…」

再び気まずい沈黙が流れる。

「どうする…?」

〜半年後〜

「で、間を取って近くに引っ越すことにしたのね。いや~君達らしいねぇ…」

食堂で酒を飲みながら極上のつまみを食べるワグリが所属する二番隊の隊長であるイブキがおそらく副隊長に丸投げするであろう引っ越し関連の書類に目を通し、ながら嬉しそうに笑う。 
 
「でも、なんでそのホワイトデーの時に決めなかったの?」

「ほら、リュウキンカの件があったじゃないですか。あの時は俺も出払ってて話どころじゃなくて…」

「リュウキンカ?何があったんだべ?」

同席していた新米隊員のヨモギが食事の手を止め尋ねる。机の上には細身の彼女が食べたとは思えない量のカラの食器が積み上げられ、さらにもう四皿ほど大盛りの料理が残っている。

「よく食べるねぇ…っていうかさっき屋台で『にんにく30コ入りチャーハン』食べてなかった…?体調とか悪くならない…?若いっていいねぇ…」

「わ、若さの問題かな…あ、それよりヨモギさんは知らなかったっけ?半年前のヴァサラ軍の大きな戦」

「初めて聞くべ」

「あれは二つの国の関係悪化から始まって…」

ワグリはゆっくりと話し始める。




金色の鐘と黄金の歴史

飴細工とは不思議なものだ。
あれほど固くなり美しいオブジェのように変化するはずなのに一度熱を加えれば融解しただの飴に戻ってしまう。
『時』も同じだろう。形成された『時』は『歴史』となり一つの物語を紡ぐ。
これは、とある国の形成される歴史がまだ一つの時として秒針を動かしていた頃の話。

リュウキンカという国がある。その国は存在そのものが幻とされている黄金の国。
その国全体が『金』に近い特殊な鉱物や、黄金の樹木に囲まれ、全ての物が他国で売れば純金相当の値段になると言われている。
しかし、この『黄金』すぎる外観が太陽に反射し、その姿を迷彩のようにかき消す。
そして、毎夜まるで幽霊船かのように忽然と姿を現すのだ。

国交や貿易は金を欲する国から、その草木の性質上食料が自国では収穫することができないリュウキンカへ食べ物を輸入してもらうことで正常に保たれていた。

しかし、数代後の女王、パイライトは黄金に気を狂わされ、老婆になるまで自身の世継ぎを『殺害』するようになってしまった。

狂王パイライトの凶行は数年止まず、持ちつ持たれつだった国交は『恐怖政治』へと変貌した。
そこで、パイライト失脚のために白羽の矢が立ったのは、リュウキンカ王族の遠縁、『オーラミューン家』の一人息子、アーク。

彼は聡明な頭脳と素早い判断でパイライトを失脚させ、『とある国』と友好条約を結んだ。

その国は、食料王国マヌカ。
この国は食料が余りあるほどにあり、お金や金に意味はなく、食料と食料の物々交換で国が成り立っている特殊な王国。

アークはそこに目をつけたのだ。
食べ物を余らせてしまうことを危惧した当時の国王は喜んでリュウキンカに食料を輸出し、友好関係を作った。

時は経ち、アークは妻を娶ることとなった。
候補は二人。
一人は心優しき鉱物加工屋の娘、レイア。
もう一人は知略と家柄に優れた貴族の娘、ファクティス。

「アーク様、残る候補は二人になりました、どちらにしますかな?」

長年使えていた使用人の男性が尋ねる。

「昨日…ファクティスの家を尋ねた。彼女は凄い人だ。料理のダメなところをすぐに見つけて言葉にできる、王家で学問を学んだ僕より早くあらゆる事柄の計算ができる。それに、この争いで毒を盛られたらしいけど、経路から犯人を自力で割り出したらしい。マナーも完璧だ、非の打ちどころがないよ。」

「では…ファクティス様にいたしますか?」

「いや、だからこそ彼女は選びたくない。」

「は…?」

「今の話の中で僕は彼女を褒めはしたが、それはすべて裏を返せば『攻撃的』であるのと同じだ。それだけじゃない。」

アークはとてもじゃないがおおよそ綺麗とは言い切れない金のオルゴールを出し、幸せそうに笑う。

「レイアのはじめての手作りだって。どうしても僕に受け取ってほしかったって…バレンタインにね。彼女といるとなんだか心が温かいよ。だから婚約者の発表は明日にするつもりだった。明日はせっかくのホワイトデーだからね。」

「そうですか、では…」

翌日、レイアは正式に王妃となった。

2年後、若くして身籠ったレイアはよく似た女児を出産し、その子はセラと名付けられた。

「あの女…いや、アーク…この私をコケにしたな!」

当然それを面白く思わない女がいる。
ファクティスだ。

彼女は派手な宝石だらけのドレスに身をつつみ、ウェーブがかった金髪に美しい顔をしているが、その美しい顔を底冷えするような悪意が満ち溢れた表情に変えて幸せでいっぱいの家族を見つめる。
そこから彼女の行動は早かった。
失脚したパイライトに美しいセラの顔が写った写真を見せ、数年にわたり襲わせたのだ。

「ファクティスさん、もうこんなことはやめてください。」

しかし、その策略は想像以上に成長してしまった15歳のセラにより暴かれてしまった。

「っ…このガキ…ここまで強く…」

セラの中に眠る潜在的な戦闘の才、両親の素晴らしい教育による人格形成、数多の師範から教わる剣術や護身術。そしてストーカーのように襲い来る狂人、パイライト。その環境が心技体を磨き上げ、彼女の力を『極み』という形で最大限発揮させてしまったのだ。

『くっ…とんだ誤算だ…いや…』

ファクティスは顔を歪めて笑う。

「黙れ!このあたしを選ばなかった貴様の親が悪い!あんな貧乏人を妻にするだと!プライドまで汚されたのこっちだ!死ね!」

ファクティスが振り上げた短刀をはじき飛ばしたのはアークの刀だった。
アークはセラを後ろにかばい、ファクティスに刀を向ける。

「君は素晴らしい才能の持ち主だ。そこは今でも認めている。ただね、君は誰も愛せない。パイライトと同じさ、子どもに王位を渡すことなどできなくなる…それはね、君が根深く持っているそのプライドだよ。レイアは確かに貧しかった、でも君のように誰かを下に見たりはしないんだ…」

「黙れ!あたしは事実を述べたまでだ!子どもにも才能があれば認め…「才能がなければ?君は子どもを捨てるのかい?悪いけど、娘に刃を向けた人をこのまま置いておくわけにはいかない。この国から出るんだ。仮にも一度婚約者候補になった女性だ…傷をつけたくない。」

「だ、黙れ…!この女さえいなければ…」

「よせっ!」

「ぎゃあああっ!」

ファクティスは腕を震わせ、黙っていたレイアに刃を振り下ろすが、一瞬で身体を切られ、倒れ込む。

「ファクティスさん…治療はします。ですが、治癒が済み次第国外に出ていただきます。こんな事言うべきでは無いかもしれませんが、私は貴女に国の為に助けになって欲しかった…私より知恵も家柄もあるのに…どうして…」

斬られた傷に触れ、憐れむようなレイアの言葉にギリギリと歯ぎしりをし、睨みつけるが、斬られた激痛が邪魔をし、ついに意識を手放した。

それから、傷が癒えるまでファクティスは牢獄に幽閉されるはずだった。しかし、三日後にはすでに牢獄から姿を消し、その消息を絶った。

脱獄の手引きをしたのは花嫁候補としてファクティスを推していた『ファクティス派』の兵士であることまでは発覚したが、消息は依然として掴めず、深手を負ったまま『死んだ』という噂が流れた。

ファクティスが逃げ延びたのはマヌカ王国。彼女は策略があったのだ。
娘や妻を襲えば確実にアークは自分を斬ることも計算していた。
そして、彼女の本当の狙いはマヌカ王国の王子と傷を負った状態で接触すること。
過去に一度マヌカの王子がリュウキンカに訪れた際、ファクティスは一目惚れされ、求婚されたが、『顔が不細工だ』という理由で断っていた。

『ヤムヤム…あの男はあたしに惚れている…』

痛む傷を手で押さえながら、ファクティスはマヌカの城へ歩を進めた。

「止まれ。何者…「ふ、ファクティスちゃん!大丈夫?その傷は何?心配だしん!」

「ヤムヤム様!この方は誰ですか?」

「リュウキンカの貴族だよ!早くお部屋に案内して!」

いかにも食事の王国ですよと言いたげなコック帽の兵士達を制す甲高い声。
ヤムヤムと呼ばれたナマズのような髭、独特の語尾、でっぷりと太ったその男は兵士にファクティスを王室へ連れて行くことを命令し、不安そうに抱きしめる。
ファクティスはそれに応え、ヤムヤムを強く抱き返し、涙を流す。

「ヤムヤム様…っ。間に合ってよかった…本当に…」

「何があったの…?」

「レイアです。アークの花嫁になったあいつが私を…逃げてください!ヤムヤム様!奴らは…この国に攻め込むつもりです!」

「えっ!?」

いきなり国に来ての発言だ、本来多少なり疑うだろう。しかし、ファクティスはそれすらも考えを巡らせていた。

『このバカな男はあたしに惚れている…あと一押し…』

「貴方の…貴方の為に私はここに来ました!好きな人が傷付くのは見たくないから。ごめんなさい…勝手なことをしてごめんなさい…」

ボロボロと胸元で泣き崩れるファクティスをヤムヤムは優しく抱き締め、何かを決意したようにぐっと顔に力を入れる。

「大丈夫、僕に考えがあるしん!」

『計画通り…あたしを笑い者にしたオーラミューン家…絶対に壊してやる…』

ファクティスはヤムヤムの胸元でほくそ笑んだ。

それから、リュウキンカには食料が輸入されることがなくなっていった。

「勘弁してくれ、うちもマヌカに頼ってるんだ」

「マヌカと揉めたら終わりだ。すまない、うちからの輸入はできない」

と周辺の国から輸入を断絶されてしまい、食糧を国で賄えないリュウキンカは備蓄で数年をしのぐことになった。
しかし、備蓄など何年も持たないことはアークも分かっている。そして、とうとう備蓄食糧が底をつき、国民が飢え始めた頃、ファクティスから一通の手紙が夫婦に届いた。

手紙を読んだ二人は立派に公務をこなすようになったセラを呼び出し、食糧輸入の交渉にこれから行くことを告げ、優しくセラの頬にキスをする。

「セラ」

「お父さん、どうしたの?」

「言いたいことがあるんだ…この先、何があっても人を恨まないで。いいかい、国は人がいるからあるんだ、何があっても誰かの命を奪っちゃいけない、約束できるね。」

「何言ってんの?急に改まって、何度も聞いてるよ。お父さんのそういうところ尊敬してるし」

「いいわね、セラ。貴女は強い、この国で貴女に勝てる人など誰もいない、でもね。本当に強いのは優しい人なのよ。」

「お母さんまで…どうしたの」

「いや、いいんだ。最期に言っておきたくてね」

すっかり痩せこけてしまった頬を上げて優しく笑い、向かったのは交渉のための応接間…ではなく、結婚記念で作られた巨大な黄金の鐘の前、そこには集められた国民がいた。

「皆さん、食糧が底をついたのは私の責任です。私は夫をファクティス様から奪い取り、そしてマヌカへ島流しにしました。」

「お母さん…何言ってんの!?」

セラの顔が青ざめる、ファクティスの悪行は自分も知るところだ、レイアも殺されそうになったのをこの目で見た。
しかし、母の口から次々と出る言葉はまるで自分がファクティスを追い出した最悪の女であると言っているかのようだ。

「セラ様、これを…」

「っ!?」

その手紙はファクティスからの物だった。書かれている内容は『自分達を悪人だと言えば輸入を解禁する』というもの。
そして、もう一つの条件は『二人が大衆の前で自殺すること』
あの二人は死ぬつもりだと慌てて階段を駆け上がるが、それを使用人達に止められる。

「離して!離してよ!」

「おやめください!こうするしかないんです。私達はすでに聞いていました…申し訳ありませんが…」

「嫌だよ!ねぇ!お父さん!お母さん!」

二人は泣きながら叫ぶセラの方向に一瞬だけ向き、互いの首の動脈を斬り、結婚を誓った鐘の中に自らを閉じ込めた。

飢えに苦しんだ国民の罵倒と嘲笑は七日七晩続き、墓標のようになった鐘にセラは話す。

「お父さん、お母さん…ようやく落ち着いたよ。マヌカも食糧をくれた…たったの一年分」

「一年分…こんなもののために…っ…ねぇ…約束守れないよ…優しくなれない…私はあの人が憎くて仕方がない…」

爪から血が流れるほど鐘を掻きむしり、大量の涙を流すセラは、食糧が戻ったことですっかり元に戻ったリュウキンカの国民を見て、ある決意をする。

それから、三ヶ月の時が過ぎ、セラは来ていなかった戦闘服に着替え、『事実を知っている』兵士たちと共にマヌカ王国へ船を出した。

その船と鎧はリュウキンカの技術を集めて作った太陽を利用した迷彩のようなもので、その姿がマヌカに捕捉されることはなかった。

その特性を知っているファクティス以外には…

ファクティスはいち早くヤムヤムにそれを報告し、彼が依頼したのは『とある国』最高峰の軍、ヴァサラ軍だった。

「セラ様!報告します!ヤムヤムが依頼したのはヴァサラ軍です!」

「なんですって!?」

セラも、いや、リュウキンカの民もその名は知っている。
『覇王』ヴァサラ率いるヴァサラ軍。とてつもない相手がここに来ると不安に駆られる。しかし、セラは目に力を入れ、大きな声で号令をかける。

「いいですか!皆さん!これは戦争です!決して油断はしないように!そして…」

ファクティスの事や死にゆく両親の顔を浮かべ、最後に両親の言葉を回想する。

『何があっても誰かの命を奪っちゃいけない、約束できるね。』

『本当に強いのは優しい人なのよ。』

「及びやむを得ない手傷を負わせるのは許します、ですが断じて命は奪わないように!いいですね!」  

〜これはヴァサラ軍にジンが入隊する半年前に起きた戦争の話〜




捕食者イーター


「これはなかなか困りましたね…」

明らかにこの世界とは違った場所で一人呟くピエロマスクの男は第三世界を覗き込み、とある男をこの場に呼び寄せた。

「いつかの『お祭り』以来ですねぇ、創造主ディ・クリエイターさん。」

「お久しぶりです。ハリー・ワイルドさん。お元気でしたか?」

「ええ、もちろん。」

ピエロマスクの男を創造主と呼んだ全身黒服の小説家らしい男性、ハリー・ワイルドは空間を見渡し、またいつかのように『ゲーム』の相手役をさせられるのかとため息をつく。

「思っているのとは違いますよ…今回はね」

「ほう…」

創造主はスマートフォンに表示された画像を拡大するかのように指を動かし、空中に巨大なモニターを映し出す。
映っていたのはマヌカのものらしい厨房。

「確かにあの時ヴァサラ軍はこの国に入国し、戦いました。でももう一つ。この国には大きな事件があったわけです。そこで!そういうのに詳しいあなたを呼んだわけですよ!」

創造主はやや砕けた口調に変わり、仮面の奥でも分かるようにヘラヘラと笑い飛ばしながら続ける。

「ま、簡単に言えば殺人ですね。これ解決しないとちょっと不都合があって…そうですね…2027年あたりに不都合が…」

空中から人の体が無惨に潰され、出切った大量の血にスープの具材のように体の一部が浮いた写真をハリーに渡す。

「やるとは一言も言っていませんが…?」

「もちろん。それこそええ、もちろん。貴方からの返事の有無は聞いていませんから。さ、いってらっしゃーい。」

ピクリとわずかに眉をひそめたハリーをハンドスナップで半ば強引にヴァサラ達のいる第一世界に送り込み、軽快に手を振ってその姿を消す。

「やれやれ、困りましたね…」

とんだ土産を置かれたものだと厨房の床を一瞥する。
まるで高価な果物の皮を剥くように全身の皮膚が剥かれた遺体がそこに転がっているのだ。

ハリーの手には第三世界から持ってきたナイフとフォークが握られている。疑われるのは当然だろう。

「お前!何をしている」

「さぁ…私にもよくわからないんですよ」

「ふざけるな!そこの死体はなんだ!」

この国独自の騎士団だろうか、コック帽のようなものを被り、鎧を着た男が、ハリーとの距離を詰めようと足を一歩踏み出す。
瞬間、ハリーはこの男が戦闘慣れしていないことを見破り、舌なめずりをすると近くにあった胡椒の入れ物を投げつけ、背後に回り、ナイフを首元に突きつける。

「こう見えても私は警察の方とやり合ったこともありましてねぇ…あなたの体の動きと向き、素人に毛が生えたレベルだとすぐに分かりましたよ」

「っ…!俺を人質にしてここを抜けるつもりか?」

「ええ、もちろん…と、言いたいところですが、ばらけて捜査をしているようですね。この厨房に足音が聞こえませんし…」

なぜそんなことまでわかるのかと男が動揺したのをハリーが見逃すはずもなく、説明を始める。

「わかるんですよ。私はミステリー作家ですからね。」

「た、助け…」

男の声は聞こえることもなく厨房に数分の静寂が訪れる。
そこに聞こえるのはナイフとフォークの音のみ。
いや、ハリーにとってはその音のみになるはずだった。
先程自分が男にしたように首元に刀を突きつけてきた男を見ると、その男は銀髪の長髪と男性にしては美しすぎる顔に返り血を付着させ、一筋の涙をこぼしていた。

「お前は…肉にされた生き物の気持ちがわからないのか…ん…?」

男はすぐに涙を拭い、『何かに気づいたように』刀を鞘に納めると、食事を終えたハリーについてくるよう促し、裏口の扉を開けた。

ワインのためだろうかとろけるほど芳醇な香りを放つ店裏にあったマヌカ王国のブドウ畑で銀髪の男は握手を求めるように手を差し出す。

「俺はアルフ。すまない、君が思想に賛同している人物だったとは。これは非礼を詫びなければならないな。」

「思想?」

「動物の命を奪う奴が許せない、だから俺の死体と共に兵士を食べた。違うのか?」

「何のことか分かりませんね。ですが、あなたの言いたいことは分かりました。そして、あなたが私が追うべき人物じゃないということもね。」

ハリーは創造主に渡された写真を銀髪の男、アルフに見せ、近くにあったブドウの実を一つ取り口に放り込む。

「これは…?」

「私が追っている死体ですよ。どうやらあなたとはやり方が違うみたいですね…そして。」

放り込んだ葡萄を噛み、匂いが畑に充満するのを待ち、続ける。

「香りの強い葡萄ですね。まるで香水だ。あなたからこの匂いが強く香っている…そしてその服…人の皮膚を縫って作ったものですね?確かに、この葡萄があれば腐敗臭は消えますね…」

「人の皮膚を着ていることに驚かないのか?」

「ええ、もちろん。初めから分かっていましたよ。あなたは『こっち側』だと。」

「心外だな。お前のような『異常者』と同じにされたくない。お前の食事は俺のような『思想』のものではないらしい。ただのふざけた悪趣味だ」

「残念ですが、人からすれば我々は同族ですよ」

「フン、好きに言えばいい、俺には動物の肉を喜んで食らう人間とお前のほうが同じに見える」

今までの言動から自身の思想への賛同ではなく、ハリーの悪趣味による食人だと分かったアルフは汚物を見るような目でハリーを一瞥すると、近くの肉料理屋の場所が描かれた地図に目を通し、ハリーに背を向けて歩き出した。

「アルフさん、もう一つ。同じ仲間として注意しておきます」

『仲間』という言葉をあえて使うハリーに苛立ちながらその足を止める。

「これからとある軍が来ます、そして私は先程の『遺体』の犯人を追っている…あまり派手に動かないほうがいいですよ」

「何もなければな。それに俺はある程度の殺人は認められている。ファクティスのおかげでな。ま、これはいい情報として受け取っておく。」

アルフは忠告の礼とばかりに国の地図をハリーに渡し、肉料理屋があるらしい場所に駆け出していく。

「ファクティス…?」

同時刻、ファクティスはヤムヤムにとある空の牢獄を指差し、言う。

「この国は時期にリュウキンカと戦争になる…わたくしの独断で決めさせていただきました。アルフの釈放を。」

ヤムヤムの顔がみるみる青ざめ、甲高い声が牢獄に響き渡る。

「た、大変なことになるしん!!アルフは肉料理をした人物の皮を剥いで100人以上を殺した大罪人だしん!この国の肉料理がまた衰退しちゃうしんよ〜!」

ファクティスは安心させるようにヤムヤムを優しく抱きしめて優しく語りかける。

「ご安心を…リュウキンカの王女、セラの戦闘力はアルフに匹敵する…いや、それ以上です。上手くダメージを与えたところを私たちが処刑し、二人とも死ねば安泰です。人殺しは苦しいですが、これも国のため…ヤムヤム様、わたくしは愛するあなたに救世主になっていただきたいのです。」

ファクティスがヤムヤムに優しく口づけすると、そのナマズのような髭をいじり興奮したように腕を高々と上げる。

「当然だしん!国が一番とファクティスだもん!僕がやってやる!」

ファクティスに再びキスをしたヤムヤムは鼻息荒く王室に戻っていく。
おそらく挙兵の準備をするのだろうとファクティスは不敵に笑う。

『バカな男だ…これでこのあたしの復讐は成し得る。あたしを振った王の娘…絶対に殺してやる。捕食者イーターになるのはこのあたしだ!』

ファクティスはリュウキンカで取れた黄金色に輝く宝玉でできた指輪を舌で舐め、ポケットに入っていたセラの写真に火をつけた。

劇場版ヴァサラ戦記 FILM:EATER 食の国の掟と攻め入る異国に続く


地の獄より蘇る遠い日の虐憶きおく


「ったく。ずいぶんと面倒な監獄だったわ」

タスマはその赤い鼻をポリポリと掻きながら横に並ぶ麒麟に監獄の話を始める。

「なるほど、これはその現場を知る人間が回想を思い浮かべることで、劇場版につながる過去のシーンに繋がる漫画あるあるというわけですね。」

「ま、まぁ…そうじゃな。これは儂が看守から少し聞いた話なんじゃが…」

「ちなみに、これはあくまで二次創作だ、そのように構えて聞いてほしい」

「…」

「…」

「…話を続けるぞ、麒麟」

「はい。」

〜これは、冥界神の魂が七つに分かれるよりもさらに数千年前の話〜

今でこそ『最弱』と言われている冥界の『北』だが、この時代は今とはまるで様子が違っていた。
さらに北にはとある噂が流れ、血で血を洗う冥界戦争が勃発寸前だった。

その噂とは『魂解を発現させる宝玉、魂玉がある』というもので、悪魔たちが二つ目の力を求めて争っていたのだ。

「魂解『不幸の階級アンハッピー・ホワイトデイ』」

ー西の悪魔、マイヤーズの魂解、『不幸の階級』は、ホワイトデーのお菓子の意味になぞらえた爆弾を生成する放出系の魂解である、その威力は、マシュマロ、チョコレート、クッキー、キャラメル、キャンディ、マカロンの七段階に分けられ、マカロンはAA級相当の破壊力を有しているー

「ギャハハハ!魂玉は俺のものだあ!!!!!」

悪魔のマスクのようなものを設えたマイヤーズは大声で叫び、周囲を無差別爆撃し、魂玉のある部屋へと一番乗りで入っていく。

「くっ…マイヤーズの野郎…っ」

「魂玉か…それを飲めば冥界ここも少しは退屈じゃなくなるか?」

「お、お前は…なぜこんなところに…まずいぞ…」

赤いコートを羽織り、黒い角を生やした銀髪の長髪の男は、まるで『地面に何もないかのように』横たわる悪魔を踏みつぶし、ゆっくりとマイヤーズの後を追うように魂玉があるらしい部屋へと歩いていった。

部屋の中央にはまるで冒険映画の秘宝のように台座に置かれ、冥界に似つかわしくないほど煌々と青く光り輝いていた。
マイヤーズはそれに手を伸ばす。

刹那。

「魂解『引き裂かれし永劫エムラクール』」

マイヤーズは腹部にピンク色のクモの巣のような紋章がある紫の服を着て、触手のようなものがうごめく刀を持っている女性の触腕に捕らえられてしまった。

「私の名はエムラクール。魂玉を守護するものだ。」

「離しやがれ…!くそっ!『キャンディ』!」

空中を浮き上がる腹部にピンク色のクモの巣のような紋章を持つ女性、エムラクールに超高威力の爆弾を投げ込むが、エムラクールの周りに謎の浮力波が発生し、届くことなく地面に着弾する。

『なんだこの女…攻撃が当たらねぇ…』

「『響叫し嬲る斬舞クライア・ガール&クライア・ボーイ』」

たった一振りで六発の斬撃がマイヤーズに振り注ぎ、防御手段に乏しい彼は、それを全て喰らってしまった。

「ぐあああっ!」

激痛がこみ上げる。その痛みは今喰らったダメージよりもはるかに痛みが増幅しているかのように思えた。

ーエムラクールの魂解、『引き裂かれし永劫』は彼女自身に複数の能力を付与する強化系の魂解である一つ目は『身体能力強化』、シンプルな攻撃力の底上げと触腕による攻撃範囲の拡大を行う。二つ目は『攻撃回数』、彼女が一度剣を触れば同時に六度の斬撃が攻撃対象を襲う。三つ目は『ダメージ量』、彼女が与えたダメージは全て二倍の痛みとして襲ってくる。そして四つ目が『浮遊』、彼女が浮いている間、周囲に浮力波が発生し、腹部の紋章から下の攻撃は全て無効化される。ー

「ちっ…ダリィ女だな…だがこれで…「拍子抜けだな」

紫、赤、黒、緑の混ざり合ったオーラを纏った赤いコートの男は近くにいたマイヤーズの腕を掴み、軽々と持ち上げると、爆弾を奪い取って。エムラクールに向かって投げつける。

「なんだテメェ…!」

「ダメです!逃げて!!その男は、ファウド。今の冥界で最強最悪と言われている男…」

不発弾になったクッキーを軽々とはじき飛ばしたエムラクールは斬撃を赤いコートの男に放ちながら叫ぶ。

「ファウドだと…こいつが…」

マイヤーズは目の前の赤いコートの男、ファウドに恐怖する。

「なんだ。知ってるのか。なら喋る必要は無さそうだ…魂玉をよこせ。その力は俺が使うべきだ」

「これは誰にも渡しません!!私の友達はこの力で変わってしまった…その子は醜い容姿を変えるためにこの力を使って…顔が変わると同時に優しかった性格が変わった…これは危険な力なんです!「昔話は終わったか?」

「!?」

オーラを纏った脚で放つ一蹴りで自身の制空域まで飛び上がったファウドは、エムラクールの斬撃を軽々と防ぎ切ると、刀を持つ腕を蹴り折った。

「俺は『原罪』のファウド。使えないものなどない、邪魔をするなら殺す。俺は思い通りにならないことをされるのが一番嫌いなんだ」

「っ…」

握力が無くなった腕で必死で刀を掴もうとするが、ファウドはそれを待たず脚を振り上げ、追撃の体勢を取る。

「エムラクールだったか?避けろよ。『マカロン』!!」

ファウドは飛来する爆弾を口で挟み込み噛み砕く。同時に凄まじい大爆発が起き、エムラクールは好機とばかりにファウドに刀を振り下ろす。
しかし、その刀は爆煙の中から飛び出したファウドの腕に軽々と掴まれてしまった。

「こことは時間がズレてるらしい人間界の話は聞いていたが…クソまずいな、マカロンってのは。」

爆弾の破片をつばを吐くように乱暴に吐き出すと、オーラを纏ってエムラクールの紋章を蹴り砕く。

「ゴホッ…」

「女の吐血を見て興奮する男もいるというが…つまらねえな。羨ましいもんだ、この程度の力で戦えるお前らのことがな。」

紋章を砕かれ、地上に落ちたエムラクールを放置し、反応できないスピードでマイヤーズの前に立ち、その腕で体を貫く。

「笑いすらこみ上げて来ねぇな。もう終わりか。」

「殺す価値もねぇ…寝てろ」

立ち上がろうとするエムラクールの頭を掴み、爆裂させ、魂玉を手に取る。

しかし、ファウドは魂玉をつまらなそうに投げ捨て、自身を制圧に来た監獄に収監するための悪魔達にその手を差し出す。

「めんどくせぇ。監獄の方が少しはマシかもしれねぇな…捕まえろ。抵抗はしねえ。」

「!?」

鎖で全身を巻き付けられたファウドはそのまま監獄に収監された。

現代、タスマは話を続ける。

「ファウドはその後監獄でも大暴れし、脱獄をしたそうじゃ。理由は『退屈だから』それから監獄の制度が厳しくなった…そして奴は今、自身を封印しておる。同じように封印された『八人の悪魔』と共に」

麒麟は七大悪魔以外にもこの冥界に危険な人物がいることを噛み締め、ゆっくりと口を開く。

「このシリーズはニュアンスで書いていると言っている通り、おそらく魂玉は二度と出てこない、及びおそらく忘れられているという設定である点以外は分かりました。この先、そいつらが来るときはまたとない脅威になりそうですね…」

メタ発言を交えながら麒麟はついに現れた最大の敵、ルシファーに向けて師匠であるタスマと共に刀を構える。

『いや、これは劇場版ヴァサラ戦記 FILM:OCEANの前日譚のような話だからおそらく吾輩達は戦わないのか…?』

劇場版ヴァサラ戦記 FILM:OCEAN 海底に眠る王国に続く。


おまけ

ヴォルフラム「長えよ!!1万字つったろうが!!何劇場版の前日譚2つ分書いてんだよこいつ!」

デスラビッツ「EATERのが殺人鬼シリーズとセラの過去だから3本だろ」

ヴォルフラム「もっとダメだわ!あれ?てかなんで俺等だけ台本形式なのこれ?」

デスラビッツ「書きにくいからだろ。恋愛書くの苦手だから書きにくいとかいってるこいつが台本形式に逃げたってのは俺等の方が書きにくいんだよ。」

ヴォルフラム「てかさぁ…恋愛やれよ!ホワイトデーだろこれ!何闇金とかやってんだよ!こいつは人を嫌な気持ちにさせたいの?カピノベってワンパターンだよな。」

デスラビッツ「やめろ。登場減らされるぞ」

ヴォルフラム「どうせ出してもらえないんだから色々言ってやるぜ!ハンチョウの話はどうした!PAPABUBBLEの話やるんじゃなかったのか?劇場版の宣伝になるから前日譚を書くのは違うぞ!」

デスラビッツ「まぁ…めでたい日だからな。そこはお前に賛成する。でも、まぁ…最悪カップリング二つだけ見てもらえばいいしな。それに月末にホワイトデー長編小説があるんだろ?あれは…」

ヴォルフラム「あれはスパイ映画あるあるだぞ!!恋愛じゃない!」

デスラビッツ「マジかよ…まぁ島編もエピローグ含めず残り10話、声も復帰するというから許してやってくれ。」

ヴォルフラム「というわけで!みんなごめんね!スタエフでホワイトデーの話やってるし、ほかの人がちゃんと恋愛書いてるから!そっちを見てやってくれ!」


カピノベホワイトデー記念短編集
ーおわりー


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