【開運マネジメント⑩】退職勧奨と法的リスク - 最後の手段の正しい進め方
シーズン4 第10話
EP01〜09のあらゆる手を尽くしても、改善が見られない。チームへの悪影響が限界を超えている。
その場合、マネージャーとして、あなたは「退職勧奨」という最後の選択肢に直面することになるかもしれません。これは「切り捨て」ではなく、お互いのための「ミスマッチ解消」です。しかし、「退職勧奨」というのは単なる「クビ」の宣告とは全く異なります。法的リスクを伴う高度に繊細なプロセスであり、一歩間違えれば不当解雇訴訟やパワハラ認定のリスクを招く危険な橋です。
本記事では、感情論ではなく、事実と法律に基づいた「退職勧奨」の正しい進め方と、組織を守るための安全な対応方法を解説します。
1. 解雇と退職勧奨の違い
ここを混同すると命取りになります。
解雇(Dismissal)
会社からの一方的な契約解除。日本の法律では極めてハードルが高く、「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が厳格に求められます。安易な解雇は「不当解雇」として無効になり、訴訟リスクが高いです。
退職勧奨(Resignation Recommendation)
会社が「退職してくれないか」とお願いし、労働者が合意して退職すること(合意退職)。双方が納得すれば成立するため、リスクは比較的低いです。実務上の解決策のほとんどはこれです。
⚠️ 重要ポイント
退職勧奨は適法ですが、それが「強要」や「脅迫」になった瞬間、違法となります。「辞めないと解雇するぞ」と脅したり、長時間拘束して執拗に迫ったりすると、パワハラや退職強要として訴えられるリスクがあります。
過去の東京地裁の判決でも、執拗な退職勧奨が違法とされ、慰謝料請求が認められたケースがあります。線引きは「相手の自由意思を尊重しているか」にあります。
退職勧奨は、「なんとなく合わないから」で行ってはいけません。以下の3つの条件が揃っているか、冷静に確認してください。
条件1:業務上の重大な支障が継続的に発生している
単なるミスではなく、チーム全体の運営に深刻な悪影響を与えている事実が必要です。条件2:十分な改善機会を与えた(最低3〜6ヶ月)
注意指導を行い、PIP(業務改善計画)を実施してもなお、改善が見られなかったというプロセスが必要です。条件3:配置転換等の代替措置を検討・実施したが効果がない
「この部署ではダメだが、他部署なら輝くかもしれない」という可能性を模索したかどうかが問われます。
退職勧奨検討前の10項目確認シート
確認項目チェック
文書による警告は2回以上行ったか?
改善計画(PIP)を提示・実行したか?
人事・法務部門に相談したか?
他部署への異動可能性を検討したか?
本人の健康問題(メンタル)は把握しているか?
具体的な問題行動の記録(日時・内容)はあるか?
就業規則のどの条項に抵触するか特定しているか?
評価は公平・客観的に行われているか?
退職パッケージ(条件)の準備はできているか?
マネージャー自身の感情的なバイアスはないか?

3. 退職勧奨の正しい6ステップ・プロセス
ステップ1:準備(人事・法務との連携)
独断で進めるのは絶対にNGです。必ず人事・法務と連携し、シナリオを作成します。勤務評価記録、警告書、改善計画書、これまでの面談記録など、客観的な証拠を全て揃えます。
ステップ2:初回面談(状況の共有)
まずは現状の認識を合わせます。突然「辞めてくれ」と言うのではなく、改善が見られない事実を伝えます。
「〇〇さん、これまで△△の改善をお願いしてきましたが、残念ながら期待する水準に達していない状況です。会社としても、このまま続けることは双方にとって良くないと考えています。今後のキャリアについて、一緒に考えたいと思います。」
NG例:「このままだとクビだよ」「もう辞めてくれないか」
ステップ3:条件提示(退職パッケージの提案)
相手が合意しやすくするための条件(退職パッケージ)を提示します。
「会社として、円満な退職をサポートしたいと考えています。退職金の特別加算、有給の全消化、アウトプレースメント(再就職支援)サービスの提供を用意しています。」
ステップ4:熟考期間の設定(最低1週間)
その場での即答を求めてはいけません。「重要なことですので、ご家族とも相談して、来週またお話ししましょう」と持ち帰らせます。
ステップ5:合意書の作成
合意が得られたら、退職合意書を作成します。退職日、退職理由(通常は「一身上の都合」または「合意退職」)、退職金額、守秘義務などを明記し、署名をもらいます。
ステップ6:引き継ぎ&送別
最後まで誠実に対応します。丁寧な引き継ぎを行い、立つ鳥跡を濁さずの精神で送り出します。2. 退職勧奨の3つの鉄則
強要しない:「辞めないと解雇するぞ」「明日から来るな」といった発言は脅迫・パワハラになります。あくまで「自由意思による合意」が前提です。
記録を残す:これまでの指導記録、改善機会の提供、本人の反応など、客観的な証拠が必須です。「いきなりクビにされた」と言われないためです。
パッケージ(条件)を提示する:退職金の上乗せ、有給買取、再就職支援など、相手にとっても「合意するメリット」を提示します。
3. 進め方のプロセス
準備:人事・法務と相談し、方針と条件を固める。記録を整理する。
面談(数回):現状の課題を共有し、会社としての考え(退職してほしい)を伝える。即答を求めず、持ち帰らせる。
合意・条件交渉:退職日や条件をすり合わせる。
合意書締結:必ず書面で合意を取り交わす。

4.もし拒否されたら?次の選択肢
退職勧奨はあくまで「お願い」なので、拒否されることもあります。その場合の選択肢は以下の通りです。
選択肢1:配置転換・業務内容の変更(ラストチャンス)
本人の適性に合う別の部署や、負担の軽い業務へ異動させます。選択肢2:普通解雇の検討
極めてハードルが高いですが、客観的証拠が十分にあり、就業規則の解雇事由に該当する場合は検討します。ただし、会社勝訴率は約30〜40%と低いため、弁護士と慎重に相談が必要です。選択肢3:現状維持+継続的なPIPと記録
粘り強く指導を続け、記録を取り続けます。
重要なのは、「辞めさせる」ことをゴールにするのではなく、「組織の健全性を守る」ことをゴールにすることです。感情的にならず、淡々とプロセスを進めましょう。

4. 今週のミニ習慣:「人事への相談」
退職勧奨は、絶対にマネージャー個人の判断で行ってはいけません。少しでも「危ない」と感じたら、すぐに人事部に相談する習慣をつけてください。
「まだ決断していませんが、状況を共有させてください」というレベルで構いません。
退職勧奨は「最後の手段」であり、慎重かつ法的に適切なプロセスが求められます。EP01〜09の改善施策を尽くした上で、それでも組織と本人の双方にとって最善の選択として行うものです。感情ではなく、事実と法律に基づいた冷静な判断を心がけてください。
次回予告:EP11では、激務に耐えるマネージャーや、問題社員対応でヘトヘトになったマネージャー自身の「セルフケア」について解説します。
(続きはEP11へ)
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