【開運マネジメント③】「期待値調整」で9割の問題は消える
シーズン4 第3話
「なんでこんなこともできないんだ?」
「言わなくてもわかるだろう」
喉まで出かかったその言葉を、ぐっと飲み込む。
そんな経験、マネージャーなら一度や二度ではないはずです。
返事はいい。やる気もある。遅刻もしない。
でも、資料を作らせればポイントがずれているし、顧客へのメールは誤字だらけ。何度教えても同じミスを繰り返す……。
いわゆる「能力不足型(Can't Do)」の部下に直面したとき、多くのマネージャーは「この人には才能がない」「採用ミスだ」と結論づけてしまいがちです。
しかし、少し待ってください。
その「できない」の原因は、部下の能力ではなく、あなたの「教え方」にあるとしたら?
実は、部下の「できない」の多くは、上司の「伝えていない」が原因です。
本記事では、マネジメントにおける「期待値(Expectation)」の重要性と、その調整方法を解説します。
1. 暗黙の期待 vs 明示的な期待
私たち日本人は「察する文化」で生きてきました。しかし、多様な価値観を持つメンバーが集まる現代のチームでは、「暗黙の期待」は通用しません。
暗黙の期待(ズレの元)
「普通の社会人なら、これくらい当然」
「空気を読んで対応してほしい」
「1から10まで言わせないでほしい」
明示的な期待(成功の鍵)
「この資料は、社内会議用なので60点の出来でいい。その代わり今日中に出してほしい」
「お客様へのメールは、送信前に必ず私をCCに入れてほしい」

2. 期待値ギャップが生む悲劇
期待値がズレたままだと、以下のような悲劇が起きます。
部下:「一生懸命やったのに評価されない」(質のズレ)
上司:「余計なことばかりして、肝心なことができていない」(方向性のズレ)
組織:手戻りが増え、生産性が低下する
3. 期待値を調整する「3つのステップ」
このギャップを埋めるためには、以下の3ステップが必要です。
Step 1:自分の期待を言語化する
まず、あなたが何を求めているかを言葉にします。
What(何を):具体的な成果物は?
How(どのように):進め方やルールは?
When(いつまでに):最終納期と中間報告は?
Why(なぜ):この仕事の目的は?
Step 2:相手に伝え、復唱させる
「わかった?」と聞くと、部下は反射的に「はい」と答えます。そうではなく、「どう理解したか、自分の言葉で言ってみて」と復唱(リフレクション)を求めます。
Step 3:合意形成(握手)をする
お互いの認識が一致したところで、「よし、これでいこう」と合意します。これを「握る」と言います。
4. SMART目標で具体化する
期待値を伝える最強のツールがSMART目標です。
Specific(具体的):誰が読んでもわかるか?
Measurable(測定可能):数字で測れるか?
Achievable(達成可能):現実的か?
Relevant(関連性):組織目標とつながっているか?
Time-bound(期限):いつまでか?
NG例
「来月はもっと頑張って営業成績を上げてくれ」
OK例
「来月末までに(Time)、新規顧客への訪問数を(Specific)、現状の月10件から15件に増やし(Measurable)、売上10%アップを目指そう(Relevant)。君ならできる(Achievable)」

5. 名選手、名監督にあらず:暗黙知の壁
プレイングマネージャーとして優秀なあなたにとって、「仕事ができる」というのは、呼吸をするように当たり前のことかもしれません。
「空気を読んで先回りする」
「要点を簡潔にまとめる」
「お客様の本当のニーズを汲み取る」
これらは、あなたが長年の経験で培った勘やセンス、すなわち「暗黙知」です。
しかし、経験の浅い部下にとって、これらは魔法のように見えます。
「普通にやって」「いい感じでまとめて」
この指示で動けるのは、あなたと同じレベルの達人だけです。
能力不足型の部下は、決して頭が悪いわけではありません。
マネージャーの脳内にある「暗黙の正解イメージ」が見えていないだけなのです。
このギャップを埋めずに「なぜできない」と責めるのは、地図を持たずに迷路に入れられた人を「方向感覚がない」と責めるようなものです。
6. 「できない」を「できる」に変える3つのステップ
では、どうすれば暗黙知を形式知(マニュアル)に変え、部下を迷路から脱出させられるでしょうか。
科学的なインストラクショナル・デザイン(教授設計)に基づいた3ステップを紹介します。
ステップ1:業務を「手順」と「基準」に分解する
「議事録を書いて」というタスクを例に考えてみましょう。
これをこのまま渡すのではなく、以下のように分解します。
タスク分解の例
【手順(何をやるか)】
会議の日時・参加者を記録する
決定事項を箇条書きにする
Next Action(誰が・いつまでに・何を)を表にする
【基準(どのレベルでやるか)】
会議終了後、24時間以内に提出する(スピード)
A4用紙1枚以内に収める(分量)
専門用語には注釈をつける(わかりやすさ)
ここまで因数分解されていれば、「どうすればいいかわからない」という状態はなくなります。
能力不足だと思っていた部下が、実は「基準を知らなかっただけ」だったというケースは山ほどあります。
ステップ2:「60点の合格ライン」で合意する
優秀なマネージャーほど、部下に最初から100点(完璧)を求めがちです。
しかし、スキルが未熟な段階で100点を目指させると、挫折するか、時間がかかりすぎて納期遅れを起こします。
最初は「60点(及第点)」をクリアさせることに集中させましょう。
「誤字があってもいいから、まずは期限内に出すこと」
「分析は浅くていいから、ファクト(事実)だけは正確に集めること」
ハードルを下げることで、部下は「これならできるかも」と動き出せます。
そして、60点がクリアできたら、次は70点、80点と、徐々に期待値を上げていけばいいのです。
ステップ3:ティーチングとコーチングを使い分ける
「考えさせる(コーチング)」のは、基礎ができてからです。
泳ぎ方を知らない人に「どうやったら泳げると思う?」と問いかけても、答えは出ません。溺れるだけです。
能力不足型の部下には、最初は徹底的に「ティーチング(教える)」を行います。
正解を教え、型を真似させ、反復練習させる。守破離の「守」です。
「自分で考えろ」と言うのは、型が身についてからの話です。

7. 開運の法則:スモールウィンが脳を変える
なぜ、ハードルを下げて「60点」を目指させることが開運につながるのでしょうか?
これには脳科学的な理由があります。
人間の脳は、達成感を感じたときにドーパミンという快楽物質を分泌します。
これは「やる気スイッチ」を押す燃料です。
いきなり大きな目標(100点)を目指して失敗し続けると、脳は「どうせ無理だ」と学習し、無気力になります(学習性無力感)。
逆に、小さな目標(60点)をクリアし、「できた!」という「スモールウィン(小さな勝利)」を積み重ねると、脳は「自分はできる!」という自己効力感を高めていきます。
この自己効力感こそが、成長を加速させる最大のエンジンです。
あなたがハードルを調整し、部下に「勝たせてあげる」こと。
それこそが、部下の脳を「負け癖」から「勝ち癖」へと書き換え、チーム全体の運気を上げる最強の開運アクションなのです。5. 今週のミニ習慣:「完了の定義」確認
仕事を依頼するとき、または受けるとき、必ず「完了の定義(Definition of Done)」を確認しましょう。
「この仕事、どうなっていたらゴールですか?」
この一言が、無駄な手戻りを防ぎます。
次回予告:EP04では、期待値を伝えても動けない「能力不足型」への処方箋、タスク分解技術を解説します。
(続きはEP04へ)
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