見出し画像

心の奥にしまっていた感情が、溢れ出す朝---あたらよの『忘愛』

朝の通勤途中、何気なく流していたSpotifyのプレイリストから、ふいに聞こえてきた声が僕の心を突いた。

──「あお」

不意に胸がざわめく。それは、姉が僕にくれたたったひとつの呼び名だった。普段、誰かに呼ばれることはもうなくなったはずのその音が、突然音楽の中から聞こえたのだ。

続いて流れてきたのは、「花の名前を教えてよ」というフレーズ。思わず曲名を確認すると、あたらよの『忘愛』。そしてさらに追い打ちをかけるように──

「どこから間違えていたんだろう?」

雑踏の中、ただ歩いているだけなのに、涙がこぼれそうになっていた。今ではもう、僕の隣にはいない人がいる。選んだ道を否定するつもりはない。けれど、心の奥にしまっていた感情が、不意にほどけてしまった。

そして耳に届いた歌詞──

「あの夜、手の中で咲いた花の名前」

彼女と一緒に見た、名前も知らない花。夕暮れの風に揺れるその小さな花を、ふたりしてそっと手にとって眺めた、あの瞬間がずっと心の中に残っている。

──それは、忘れな草に似ていた気がする。

そう思った瞬間、もうひとつのメロディが胸の奥から響きだした。尾崎豊の『Forget-me-not』。「忘れな草」なんて直訳では語り尽くせない、静かで深い歌。彼女が笑っていたあの夜の匂いや声が、優しい痛みと共に蘇る。

一度心が緩んでしまうと、涙はなかなか言うことを聞いてくれない。それでも僕は、また歩き出す。その花の名前のように、忘れたくない記憶が確かにある。それだけで、今朝の空気が少しだけ優しく感じられた。