【ピリカ文庫】初夏 【ショートショート】
『オマエヲ ムカエニキタ』
そんな言葉が川の方から聞こえてきた。
でも姿はハッキリと見えなくて、少し近づいてみたけど、さっきと全く変わらない。
とても不思議だけれど、怖さは感じなかったんだ。
⌘⌘⌘
ボクは、どちらかというと貧しい家に産まれた。
だって、皆んなオシャレなランドセルと穴の開いていない靴を履いているけど、ボクのランドセルは、爺ちゃんが若い頃に使っていたスポーツバッグだ。
紺色に英語の文字が書いてある。それも消えかけてて、中のポケットは破けている。
小学3年のボクには、少し恥ずかしい。
でも爺ちゃんが大事にしまっていたバッグだから、ボクは友達に「きったねーバッグ」と言われても平気だった。
ボクは爺ちゃんが大好きだ。
ポケットにはいつも飴玉を入れていて、ボクのお腹が鳴ると「ほれ、飴玉だ。かじらんで、舐めるんだぞ」って一つくれる。
ボクは爺ちゃんの言う通りにかじらずに舐めるんだ。
そうすると幸せな気分が続く気がした。
爺ちゃんは蛍が大好きで、毎年蛍を見に二人で行くんだ。僕たちだけの秘密の場所。
今年もその日がやってきた。
「ねえ 爺ちゃん、人間って生まれ変わるの?」
『なんだ、随分けったいなこと聞くんだな。どうした?何かあったか?』
「ボク、今度生まれてくる時は、爺ちゃんの子供になりたい!」
爺ちゃんは嬉しそうにうなづいて、下を向いた。
「爺ちゃん蛍だ!!」
目の前には、蛍達が数えきれないくらい飛んでる!ボクは爺ちゃんと時々目を合わせながら、ジッーと蛍を見ていた。
「ね、爺ちゃんは生まれ変わったら何になりたいの?」
『そうだな、蛍だな。お前に会いにくるよ』
ボクはその時、ボクのお父さんじゃないことに少しがっかりした。
⌘⌘⌘
蛍を見たその年の冬、爺ちゃんは死んじゃった。ボクを残して。。。。
ボクは蛍を見られるのを楽しみに6月を待った。
行くのは、去年爺ちゃんと一緒に見にいった日って決めてたんだ。
どうしたことか、今年は蛍が少ない。そう思っていた時、あの声が聞こえたんだ。
『オマエヲ ムカエニキタ』
ボクは爺ちゃんの去年の言葉を思い出した。
「爺ちゃん? もしかして爺ちゃんなの?」
ボクは嬉しくて、走って抱きついた!
爺ちゃんのにおいだ。嬉しいのに涙が出てきた。
爺ちゃんはしっかりとボクの手を握りしめて、『行こうか』と言った。
ボク達は、空の向こうを目指して歩き出した。
天の川がとても綺麗な夜だった。
おしまい
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