頭の中がうるさいので、犯人を捜してみた。
第1話 事件発生
、、、ぐは!!!痛っっった!!!
息子のかかと落としで目が覚めた。なんて寝相だ。くっそ。
時計を見る。5:03。…まだ5時か。その瞬間。
「今日はランチ会ですよ。」
うっわ。そうだ。今日だ。
よく知らないママさんも来る、ランチ会の日。
なんで。なんで私は、
「ぜひ参加させてください😊」なんて送ったんだ。
😊じゃないだろ。本音は🥶とか🤯だろ。
「仕方ありません。」
また始まった。
「みなさん参加するとおっしゃっていました。」
「断ると、次から誘われない可能性があります。」
「……念のため、参加しておきましょう。」
うるさ。なんで早朝からこんな仕打ち。
すると別の声。
「そういえば、みなさん、とてもオシャレでした。」
「いつものアウトドアスタイルでは、少し浮く可能性があります。」
「浮いた場合、お子さんにも影響するかもしれません。」
いや飛躍。飛躍がすごい。
「ダサいママの子ども。」
「と思われる可能性も――」
いや誰が言うんだよ。朝5時だぞ。
布団の中で目を閉じる。静かになれ。
頼む。5分でいい。静かにしてくれ。
「お店、どこでしたっけ。」
「駐車場ありますか。」
「遅刻すると第一印象が――」
「話題は何を――」
うるさ。
お前ら。誰だ?
第2話 最初の容疑者
ランチ会は。思っていたより、普通だった。みんな優しかった。
怖い人もいなかった。変な空気もなかった。
服も別に浮かなかった。よし。どうやら今日は、
「ダサいママ」のレッテルは貼られずに済んだらしい。
…でも。なんでこんなに疲れた?
帰り道。私は今日の会話を思い出していた。
「うちの子、この間、大会で優勝して!」
その瞬間。どこからともなく声がした。
「優勝です。」
「ちなみに、あなたのお子さんは、何か一番になったことがありますか?」
う、、、うるさい。
「うち、この前、英検○級に合格して。」
「英検○級です。」
「ちなみに、お子さんは何級ですか?」
うるさい。
「最近うちの子、お友達だけで買い物に行ったの。」
「自立していますね。」
「ちなみに、お宅のお子さんは?」
ぐっ。いや。うちは……。まだ無理。私が無理。
過保護なのは認める。
「なるほど。」
「少し遅れているようですね。」
……おい。誰だよ。お前。さっきから。
「ちなみに。」
「ちなみに。」
「ちなみに。」
って。人んちの人生、勝手に順位つけてんじゃねぇ。
私は立ち止まる。
ん?待てよ。
いる。やたら。人と比べてくるやつ。
お前か!!
双眼鏡持った、お前!!
お前が、犯人か?
第3話 共犯者
家に帰る。ソファへ倒れ込む。疲れた。
その時。ピコン。LINE。
「今日は楽しかった!また集まろうね☺」
返信しようとした。けど。手が止まる。
疲れた。打ちたくない。
その瞬間。
「少し遅いですね。」
「既読のまま返信しないのは、印象がよくありません。」
あー。またお前らか。私はため息をつく。
はいはい。わかったよ、送ればいいんでしょ。送信。
数日後。
授業参観と懇談会のお知らせが届く。
参観は行く。子どもの様子、見たいし。
でも。懇談会。
あの一言ずつ自己紹介する空気。無理。
すると。
「欠席ですか。」
「ちゃんとしてないお母さんと思われます。」
…またお前。結局。行く。
さらに別の日。
下の子の帰りが少し遅い。
時計を見る。いつもより5分。遅い。
「事故です。」
「誘拐です。」
「警察へ――」
…もう。うっさ。
私は立ち止まる。
ランチ会。
LINE。
懇談会。
子どもの帰り道。
双眼鏡のあいつか?
違う。
あいつ以外にも、、、いるな?!
誰だ、お前ら。
何かあるたび。あっちから。こっちから。
勝手にしゃべり始める。
私はゆっくり顔を上げた。
その瞬間だった。
東京ドーム。
その真ん中に。
私が立っていた。
観客席
ぎっしり満員。
「あの人は。」
「返信。」
「ちゃんとして。」
「危ない。」
「みんなは。」
「念のため。」
わー。
わー。
わー。
観客うっっっさ。
お前ら。
一体、誰なんだ。
第4話 組織犯罪
頭の中が、うるさい。
朝から。夜まで。何かあるたび。
わーーーわーーー。
東京ドーム。今日も満員。
最前列。あいつ。
また双眼鏡のぞいてる。
「あの人ママのお子さんは、もう習い事に1人で行っています。」
「塾も通い始めたらしいですよ。」
「あなたのお子さんは?」
またお前か。人んちばっか見てんじゃねぇ。
すると今度は、反対側から。
「みんな返信してます。空気読んでください。」
「みんな、もう既読ですよ。」
「その手土産で大丈夫ですか。浮きませんか。」
お前。さっきから。
みんな。
みんな。
空気。
空気。
って。
さらにあっち側から、
「それ、ちゃんとしてますか?」
「非常識と思われますよ。」
評価ばっかり気にしてる。
まだいる。
「酷暑です。」
「人類は大丈夫でしょうか。」
「地球は滅亡する可能性があります。」
話がでかい。最悪のケース想定しすぎ。
ちょっと落ち着け。
私は観客席を見回した。
ん?
待て。
毎回、
同じことしか言わない。
双眼鏡のやつは、
人と比べることしかしない。
あいつは、
空気ばっかり読んでる。
あいつは、
評価ばっかり気にしてる。
あいつは、
最悪の未来しか見せてこない。
え。
もしかして。
担当制?
比較担当。
空気担当。
評価担当。
最悪シナリオ担当。
うそだろ。
役職まであるの?
私は観客席を見渡す。
そこでやっと気づいた。
違う。
観客じゃない。
、、、議員だ。
だから。
みんな好き勝手しゃべってるんじゃなかった。
担当の仕事をしてただけだった。
ちょっと待って。
じゃあここ。
東京ドームじゃない。
議会じゃん。
第5話 犯人、お前だったのか。
ちょっと待て。
比較担当。空気担当。評価担当。最悪シナリオ担当。
お前ら。
言ってることは違うのに。
なんか。
全部、
同じ方向向いてない?
比較担当。
「あの人はこうしてます。」
空気担当。
「みんなそうしてます。」
評価担当。
「それ、いいお母さんのやることですか?」
最悪シナリオ担当。
「外れると危険です。」
あれ?
これ。
全部、
「普通でいて。」
って言ってない?
「ちゃんとして。」
「浮かないで。」
「念のため。」
誰だ。
こんなスローガン決めたやつ。
私は議場を見回した。
その時だった。
一番奥。
今まで一言もしゃべらなかった人が、
ゆっくり立ち上がる。
地味。とにかく地味。オーラもない。
なのに。
比較担当が、姿勢を正した。
空気担当も、評価担当も、最悪シナリオ担当も、
全員。その人を見る。
……。
え。お前……。
男は軽く一礼した。
「普通担当です。」
「以後、お見知りおきを。」
…うわ。名前、普通担当って普通すぎ!
挨拶まで普通。
いやいやいや。そこじゃない。
普通担当は、
何事もなかったように続けた。
「比較担当。」
「はい。」
「空気担当。」
「はい。」
、、、
おいおい、返事すんの?
直属なん?
マジで?
え。ちょっと待って。
全員。
普通担当の指示で動いてたの?
お前が、
犯人か。
第6話 犯人の動機
お前か。
比較担当も。空気担当も。評価担当も。最悪シナリオ担当も。
みんな。お前の言うこと聞いてた。
つまり。今まで。
私を散々振り回してきた犯人は、、、お前だ!!
…ほんっと。迷惑だった。
ランチ会。参観日。ママ友LINE。服。髪型。習い事。
何をするにも。
「普通は。」
「ちゃんとして。」
「浮かないように。」
「念のため。」
……うるせぇ。
自由にしようとすると止める。
断ろうとすると騒ぐ。
挑戦しようとすると不安にさせる。
全部。お前。
……私は普通担当の前まで歩いた。
文句を言ってやる。
一発くらい殴っても、許されるだろ。
お前のせいで、
私がどれだけ苦しんでるかわかってんのか?!
……でも。近づいた瞬間。足が止まった。
……あれ?なんだ。その顔。
目の下は真っ黒。服はヨレヨレ。
机の上には。一冊のノート。
……ボロボロだった。何年使ったんだ。そのノート。
私は思わず聞いた。
「お前。」
「なんでそんなに必死なんだ?」
普通担当は、少し困った顔をした。
そして。小さく言った。
「……覚えていませんか。」
……その瞬間だった。
昔の景色が浮かんできた。
玄関の外。父の車の音。
私は。無意識に母の顔を見る。
今日は。大丈夫そうか。機嫌は悪くないか。
何か起きそうな空気はないか。
子どもだった。本当は。
守られる側だった。
なのに。私は。守る側に立っていた。
母が悲しまないように。
困らないように。
いい子でいよう。
ちゃんとしていよう。
期待に応えよう。
その方が。安全だった。
……次のページ。
学校。女子グループ。
昨日まで笑っていた子が。今日は一人でいる。
何があったか分からない。
でも。空気だけは分かった。
私は学んだ。
目立つな。
出過ぎるな。
嫌われるな。
空気を読め。
そうすれば。一人にならない。
……私は。普通担当を見る。
普通担当は。黙ったまま。ノートを開いた。
そこには。
「人に迷惑をかけない。」
「空気を読む。」
「嫌われない。」
「目立たない。」
「我慢する。」
……その横には。小さな字で。書き足されていた。
『これで怒られなかった。』
『これなら嫌われなかった。』
『これは安全。』
『次もこれでいこう。』
……私は。息をのんだ。このノート。
父の声。
母の声。
友達の声。
人生で出会った人たちの言葉を。
傷つくたび。怒られるたび。
少しずつ。書き足してきたんだ。
普通担当はノートを閉じた。
「全部。」
「必要だと思ったんです。」
「一人にならないように。」
「嫌われないように。」
「つらい思いをしないように。」
「さみしい思いをしないように。」
悲しそうに笑う。
「……それしか。」
「知らなかったんです。」
……私は。返事ができなかった。
悔しい。でも。普通担当の作戦は。成功していた。
私は。ちゃんと。ここまで生きてきた。
……普通担当を見る。
敵じゃなかった。
ずっと。一人で。
私を守り続けていた人だった。
第7話 議長席を返してもらう
あんなに憎らしかった普通担当。
ノートを見てから責められなくなった。
ふと。普通担当を見る。
あれ?
ん?
お前。
その席。
議員席じゃない。
議長席だ。
私は聞いた。
「普通担当。」
「いつからそこ座ってる?」
普通担当は。きょとんとして言った。
「最初からですが。」
最初から。
私は議会を見回す。
比較担当。空気担当。評価担当。最悪シナリオ担当。
みんな。
普通担当を見ている。
だからか。
お前たち。
私じゃなくて。
議長にプレゼンしてたのか。
私は。ボロボロのノートを開く。
前半は。ぎっしりだった。
「怒られない方法。」
「嫌われない方法。」
「傷つかかない方法。」
人生で覚えたことが。全部書いてある。
でも。途中から。
真っ白だった。
私は聞く。
「ここは?」
普通担当は笑う。
「まだ。」
「経験していません。」
私はペンを取る。
白紙に書く。
好きなことを好きと言ってみた。
関係は崩れなかった。
noteで脳内議会なんて変な話を書いた。
読んでくれる人がいた。
私はノートを閉じる。
「これからは。」
「怖かったことだけじゃなくて。」
「大丈夫だったことも。」
「書いていこう。」
普通担当は。静かにうなずいた。
その時。私は気づいた。
今まで。
なんでこんなに悩むのか。
なんでこんなに優柔不断なのか。
自分の意見がないんじゃないか。
そう思ってた。
でも。そうか。そうだったのか。
普通担当が。
ずっと議長席に座っていたからだったんだ。
最後の決定が。
全部。
普通担当だったんだ。
私は普通担当を見る。
「ありがとう。」
「でも。」
「ここ。」
「私の席だったみたい。」
少し笑って言う。
「普通担当。」
「ちょっと隣にズレてもらえますか。」
最終話 犯人と同居することにした
普通担当に。ちょっと隣へズレてもらった。
……よし。議長席。座ってみっか。
……はいはいはい。待ってました。
脳内議会、開廷!
比較担当。
「やはり、あの人の方がちゃんとしています。」
はい。双眼鏡没収。
空気担当。
「みんなそうしています。」
その"みんな"1回全員連れてきてみ?
評価担当。
「少々非常識かと。」
非常識で何が悪い。
最悪シナリオ担当。
「危険です。」
また今日も地球滅亡すんの?
……なんか。ツッコんでたら。
笑えてきた。
……私。
こんな会議。
毎日真に受けてた?
アホくさ!!!!!爆
……私は議長席から言う。
「はい。」
「全部聞きました。」
「今日は。」
「これでいきます!!」
……全員。
「えっ。」
今日はこれでいく!
閉会!!!
ん?
なんか、
ちょっと、
生きやすいじゃん?
「普通担当。」
「今日のこと。追記しといて!」
こうして。
私は。
頭の中のうるさい人たちを追い出すのはやめた。
同居することにした。
たぶん明日の朝も、
「念のため。」
「ちゃんとして。」
「みんな。」
って始まるんだろう。
でも。
今日から私は、
共犯者じゃなくて議長になった。
今日はこれでいく!!!
自分で決めるって最高に気持ちいい。
👇️「何やってる人?」と思った方はこちら。
