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仕事を極めし、カットチャンピオン!(注文の多い理髪店)

この物語は、転職を繰り返して感覚が狂ってしまった人間がたどり着いた、町の奇妙なミステリースポットについて描いたノンフィクションです。

濃い! 

今までのお店の中で一番濃い! 

お店なのか? 

いや、それは孤高のカットチャンピオンとのバトルフィールド。

わたしは頬を叩き、気合いを入れる。

「よし、行くぞ!」

◇ ◇ ◇

みなさまは美容室(床屋)に何を求めているでしょうか? 
何を重視してお店を選んでいますか?

わたしが見たところ、人によってかなり幅がある。

① 価格 
② コミュニケーション
③ ロケーション 
④ 待ち時間の少なさ  
⑤ 自分が変わるわくわく感
⑥ リラクゼーション 
⑦ 費用対効果の追求

複数の理由で選ぶ人もいれば、1点に絞っている人もいると思う。

年齢によっても変わってきそう。
若いときは「⑤ 自分が変わるわくわく感」の要素に強く引っ張られるだろうし、年齢を重ねると「④ 待ち時間の少なさ」のような実利性が大切になってくる。

自分がどれに当てはまるかイメージして読んでみてね

さて、ここからわたしの話をするのだけど、お気づきのとおり、エクストリームな展開になる。

わたしが「⑦ 費用対効果の追求」に振り切ったからだ。だってバリュー投資家ですから。

何かに振り切るということは、何かを犠牲にするといういこと。

今から紹介するお店にもう3年くらい通っているのだけど、心が折れて何度もやめようと思った。だけど、費用対効果を求めるなら、この店以外に選択肢がない。

そう、客側を追い込むくらい、究極の特化型美容室なのである。

ホームページには「当店は床屋に近い」と注意書きがある。

これも重要なミステリーポイントだね!

◇ ◇ ◇

「よし、行くぞ!」

今からこの店に行くとする。

覚悟を決めるところからはじまる。

今日がいい日であることを祈る。

予約制ではないので、待ち時間用の本を数冊用意する。

家を出る直前にかならずトイレに行く(これが最重要!)

自転車で最寄りの駅に向かい、さらにそこから別の路線の駅へと向かう。

片道25分!

道が狭く、車がすぐ横をかすめる。

道のりは遠く、険しい。

そう、目的のために「③ ロケーション」など、わたしはとうに切り捨てている。

多くの緊張感を経て店に着いたにもかかわらず、すぐに別の緊張が発生する。

先客が何人順番待ちしているかわからない!

以前、2つある長椅子がすべて埋まっていたため、泣く泣く難路を引き返したことがある。

はたして今回は?(3人待ち程度なら、わたしの勝ちと言える) 

勝負! 

5人待ちだった! 

厳しい……。

が、手ぶらであの難路を帰るのもつらい。

6番目の客としてソファのひとつだけ空いた場所に腰掛ける。

読書をすればいい。ここを喫茶店だと思い込むんだ。

「④ 待ち時間の少なさ」を大胆に捨てることがこの店の常連になるコツだ。

奥のカットの現場を見る。

仕事の鬼がいる。

ひとり親方であることからも、その職人気質が伝わってくる。

店長は余計なことはいっさいしない。カットして、毛をはらうのみ。

店長は何かのカットチャンピオンらしく(HPに「カットチャンピオン」とだけ書いてあるんだ!)、本来2,000円の美容室では出現しないはずの技術が提供される。

そう、この圧倒的な費用対効果は謎のチャンピオンシップがもたらしている。

客の試練はここから真のピークを迎える。

超スピードながらも妥協のないカットが続くため、ひとり当たり15~20分はかかる。

待ち時間のダメージが次第に蓄積してくる。おっさんに挟まれ、息苦しい。息苦しさの理由はそれだけではない。

店長の厳しさが待ち時間にも適用される。

最初にこの店を訪れたときから、そのことには気づいていた。

トイレと思わしき扉に、「お客様によるトラブルがあったため使用禁止とします」と張り紙が貼られていた。

「何か不快なことが起きたのだろうけど、禁止にまでするかねえ……」と思ったことを覚えている。

あれから3年経った今もトイレは禁じられたままだ。

今回のように店が混んでいたとき、ずっと待っていた客が「ちょっと外のトイレに行ってきていいですか」と聞いたことがある。

店長は答えた。「いいですけど、順番が最後になります」

徹底している! 

しかし、これだけ並ばせる店でこのルールを適応すると、「長時間トイレに行けない美容室」になってしまう。

店長に悪意はない。職人気質によるバグだ。この店で尿意を催したら負け。

ようやく自分の番が回ってくる。

ここからは別の種類の緊張感が発生する。

店長のスピードに対応するための動きをしなければならない。

コートを素早くハンガーにかけ、最低限の要望を店長に伝える(毎回同じ内容を伝えている)。

そこからは無言。店長がゾーンに入る。

ときどき「もう少し顔を上げて」など指示されるので素早くこたえる。

今さら言うまでもないが、「② コミュニケーション」は最初から放棄している。「⑥ リラクゼーション」は輪をかけて言うまでもない。

チャンピオンカットの結果、いつもと同じわたしが現れる。「⑤ 自分が変わるわくわく感」も完全放棄。

残ったものが、純度の高い「⑦ 費用対効果の追求」というわけだ。







チャンピオンカットの真のすごさは、ひと月後に現れる。

価格だけで見れば、もっと安いチェーンの店がある。だが、そういう店でカットすると、ひと月後には髪全体のバランスが悪くなってしまうので、また散髪をしなければならない。

比べて、チャンピオンカットは、バランスが崩れない。散髪に行く頻度を減らせるため、費用対効果が見た目よりもずっと高い。

すごいぜ、チャンピオン!

本物だぜ、チャンピオン!

孤高の匠、チャンピオン!

さまざまな不満を抱えながらも、チャンピオンのお店に行ってしまう未来が見える。

読んでくれてありがとう!
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焔ふぁい|FIREの精霊 クリエイターであり続けたいー! が、整体に行かないと死ぬ。ポンコツゆえ、ポンコツゆえ、300円よろしくお願いしまーーす!