「FIREダンジョンズ」(仕事と、転職と、投資術のファンタジー)①未来に向けた挑戦
【あらすじ】会社員じゃない生き方がしたい。そう願った主人公はオンラインRPG「FIREダンジョンズ」に参加した。はじまりの町で創造主より「ゲームをクリアするまで元の世界に戻れない」と告げられる。プレイヤーたちはそれぞれが信じる武器を持ち、強力な敵「カイシャイーン」と戦いながら真のFIREを目指す。
会社員じゃない生き方がしたい。
ある日わたしはそう願ってしまった。
それが何を意味するかも知らずに。
あのときからわたしは旅に出たのだと思う。
アバターをつくり、オンラインRPG「FIREダンジョンズ」に参加した。

この広大な世界は、いつ終わるとも知れない、いくつもの階層からできている。わたしは、ゲームのスタートと同時に、はじまりの町にいた。
何ページもあった同意書はスクロールだけして読んでいない。
広場の上空が突然真っ暗になり、そこに現れた世界の創造主っぽい人が告げるには、最後のほうに「ゲームをクリアするまで元の世界には戻れない」と書いてあったようだ。
広場に集まっていたプレイヤーたちは口々に「なんてことだ!」と叫んだ。誰も同意書を読んでいなかった。
当惑しながらも、プレイヤーたちはパーティーを組み、ダンジョンの突破を目指す流れになる。
ある人たちは言う。
お金があればいい。投資でお金を稼ぎ、経済的自立を勝ち取る。そうすれば、俺たちは自由になれる。
ある人たちは言う。
いや、好きなことをすればいいんだ。好きなことを続ければ、きっとうまくいく。夢はかなう。
ある人たちは言う。
世界はそんなに甘くない。得意なことをする。得意なことに特化すれば、きっとみんなが認めてくれる。
こう話すカップルもいた。
地方に移住して、ぼくたちはカフェを開きます。古民家を安く買い取って、理想のお店を開くんです。好きなものに囲まれた暮らし。最高じゃないですか。
◇ ◇ ◇
わたしは、どこのパーティーにも所属できなかった。
何かが違う気がした。
いや、どのパーティーの主張も一理あるのだけど、それだけではダンジョンの凶暴な魔物に勝てる気がしなかった。
わたしはみなが旅立ってからも、しばらく町に残り、民家のチェストにときどき入っているカロリーメイトをかじりながら過ごした。
やがて、わたしにも旅立ちの日が訪れる。
発見するカロリーメイトがチョコレート味ばかりになった。チョコレート味は毎日食べられない。
わたしは、初期アイテムを3つ選択した。
・経済的自立のシンボル「お金の盾」
・好きなことのシンボル「物書きの剣」
・得意なことのシンボル「コンサルの魔法」
(カフェの件はとりあえず無視した)
アイテムは複数選択できる。
ただし、ひとつに絞ったほうが強力になる(より強力なアイテムを選択できる)。
パーティーの人たちはみな、自信のあるひとつを選択して持っていった。
わたしは、嫌な予感がしていた。
旅立ったプレイヤーがひとりも帰ってこない。
普通は、少し外を探索したら、いったん町に戻るはずだ。それが自然な行動だと思うのだ。
何かが、起きた……?
その答えはすぐにわかった。
一本道の真ん中にモンスターがいる。
黒装束に身を包んだ人型のモンスター。背が低い。
顔の部分は暗闇で、そこに目玉が、ふたつの丸い光が浮かんでいる。
わたしは身構える。
相手はあまり強そうに見えない。
「ふふふ、わたしのことをあまり舐めないほうがいいですよ」
しゃべった!
「わたしの名前は、カイシャイーン」
会社員?
「みなさん、わたしの名前を聞いて、見下したような顔をしました。その後、彼らがどうなったかはご想像におまかせしますが」
嫌な汗が、額を伝った。
◇ ◇ ◇
先手必勝、「コンサルの魔法!」
これはわたしの得意技だ。
相手がよほどの上級コンサルでなければ勝てる。
魔法の矢が相手に飛ぶ。
「あなたに仕事を発注するのは誰ですか!」
光の矢が消し飛ぶ。
「あなたのコンサル能力なんて誰も測れません」
「う……」
「じゃあ、今度はわたしの番ですね」
わたしは反射的に一歩下がった。
「仕事において意味を持つもの。それは――会社の看板」
敵の手元が光った。
ガキーン!
とっさにお金の盾を構えたため、助かった。
お金は身を守ってくれる。
「どんどんいきますよ。あなた、人とずっと会話をせずに耐えられますか? あなたに暇があっても、他の人には暇がありません。一日の会話相手が」
やばい……。
「コンビニの店員だけ!」
わたしは盾を使わず、身体をひねった。
巨大な半月の刃がすぐ横をかすめた。
「いい判断です。お金のアーマーを纏っていたやつらは、まっぷだつでした。くくく」
ぞっとした。
町を出てすぐの、一体目のモンスターがこの強さなのか?
わたしに残された攻撃手段は「物書きの剣」しかない。
しかし、これを振るうと立ち直れないくらいの攻撃(悪口)を食らう気がする……。
「そちらが来ないなら、わたしのターンですよ」
覚悟を決めた。
わたしの強みは3つの組み合わせにある――。
「投資をしながら、それが役立つ仕事をする」
魔法を盾にぶつける。
増幅した光で、敵の目がくらむ。
「物書きは――」わたしは飛びかかる。「ただの気晴らしだ」
ズバッ。
ぎゃあああ。
や、やったか……!
「勘違いをしてもらっては困りますね」
消えかけのカイシャイーンが言う。
「わたしは会社員のごく一側面。会社員ではない生き方を望むなら、たくさんの強力なわたしを倒さなければなりません」
う……。
「もうひとつ、あなたは重大な思い違いをしています。わたしを倒したのはあなただけではありません」
「えっ……」
「たしかにわたしは多くのプレイヤーを葬りました。しかし、わたしを倒し、先に進んだプレイヤーたちがいます。投資家も、好きなことの民も、得意なことの民も、カフェもいます」
カフェ、こいつ倒したんだ……。
「さあ、行きなさい。この先にあなたの仲間がいます。彼らとともに、理想の生き方とやらを見つけてみなさい」
……カイシャイーン。
「そんなものが、あればですけどね」
そう言って、カイシャイーンは消えた。
わたしは歩き出す。進むしかない。
ここは「FIREダンジョンズ」のほんの入り口。
未来に向けた挑戦は、まだはじまったばかりだ。
わたしは元の名を捨てる。
それは覚悟の証。
そして、こう名乗る。
FIREの精霊、焔ふぁい――と。


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