転職と転職の狭間にあらわれた0.5! 幻の仕事プレイスへと大崎駅に通った話。
転職が多い。
最近では、「過去の印象的な出来事」を記事にするとき、何の仕事をしていた時期だったかを把握するために、転職フェーズ〇と書くことが多い。
たとえば、「九州で一生分のダムを見た話@転職フェーズ6」
これで6社目での出来事だったことがわかる。
ところがこの方式でタイトルを付けていくと、すっぽりと抜け落ちてしまう隙間ができる。
それが4.5。
4社目と5社目のあいだに、不思議な8か月があった。
失業していたわけではない。
わたしは間違いなく会社員で、そして、大崎駅へと通っていた。
◇ ◇ ◇
4社目の話をしなければならない。
4社目とはいえ、わたしは十分に若く、将来に向けてキャリアを固めなければいけない時期だった。
初期の3社でだいぶ道に迷ってしまった。遅れを取り戻すための、大事な、大事なフェーズ4。
それなのに、その出来事は起きた。
まさかの早期退職制度の適用(リストラ)。
会社が買収され、管理部門の人間が不要になってしまった。
わたしたちは人事部から選択を迫られた。
プランA:退職金の上積みが多い。だけど、今すぐ辞めなければならない。
プランB:退職金の上積みが少ない。その代わり、一定期間、社員のまま再就職支援センターに通うことができる。
わたしが選択したものは、Bだった。
Bボタンを押した瞬間、わたしの人生は時空の歪みへと吸い込まれた。
それが転職フェーズ4.5のはじまりだった。
◇ ◇ ◇
大崎駅。
東京の南側にある、多くの路線が乗り入れた主要駅。
指定された再就職支援センターは、大崎にあった。
2階にあるJR改札を抜け、右手に向かうと、オフィスや商業施設の入った大きなビルがある。ビルの周りにはベンチや緑があり、都会的な公園のような趣があった。
こういうオシャレな場所で仕事がしたい。
社会人になってからずっと思い描いていた、そんな場所だった。
……まさか、こんな状況下で夢が叶うとは思っていなかった。
キラキラしたオフィス街と、再就職。
立地と、置かれた状況のギャップがすごすぎる!
転職フェーズ4.5は、会社員であって会社員でない場所。
本当は存在しないかりそめの宿。
いわば、幽霊が住む世界だった。
当時の大崎を舞台に小説を書きました。主人公の会社は、再就職支援センターのオフィスがモデルです。
◇ ◇ ◇
大崎でのわたしの仕事は、仕事を探すこと。
再就職支援センターは、実際には4社目が契約したカタカナ名の会社で、広くて綺麗なオフィスを備えていた。
受付を済まし、オフィス内に入ると、PC付きのフリースペースのデスクがずらっと並ぶ。左右には、キャリアアドバイザーとの面談に使う、おしゃれな個室が広がっている。
何も言われなければ、IT企業の社内のように見えたことだろう。
最初のころは、同じ会社の人たちの姿がちらほらと見えた。
――が、やがてすぐにいなくなる。
正直ここにいても、そんなにやることがないのだ。
求人を検索して、週に一度キャリアアドバイザーと話すくらい。
いくらデスクで勉強ができるとはいえ、普通の人はそんなに長くいられない。
求職者たちは、この場所に通うことから、次々と脱落した。
しかし、わたしは違った。
なんと、自宅から大崎駅までの半年間の定期も買っていた。
毎日、毎日、大崎駅へと通う。
社員扱いゆえ、会社に交通費を請求できる。
わたしが毎日交通費を請求するため、会社の人事部が「そんなわけないだろ!」と再就職支援センターに照会をかけた。
本当に毎日通っていたことが証明されてしまい、人事部長は電話でわたしに「出社時間がずれて入力されていた日があった! 気を付けてくれ!」と意味のない捨て台詞を吐いた。
毎日、大崎に通い続けたこの狂気。
プランBを選択したわたしには計画があった。
次に転職する職業は、小説家――。
そう、わたしは大崎で仕事を探しながら、キャリアアドバイザーと面談をしながら、その合間に公募用の小説を書いていた。
こんなに小説を書ける時期は人生において二度とない。
わたしはそれを直感していた。
早期退職――?
ピンチはチャンスだ。
道は自分で切り開け!
願いは、かなわなかった。
再就職支援センターに在籍できるリミットが迫り、次の会社員人生へと舵を切らざるを得なかった。
期限ぎりぎりで転職先が決まる。
わたしを担当してくれたキャリアアドバイザーがすごくいい人で、涙を流して喜んでくれた。
「真面目に努力してる人は報われるんですよ。あなたは毎日、本当に努力していました。くっ……」
ありがとうございます。すいません。
ありがとうございます。すいません。すいません。すいません。
言えなかった……。
失敗したことを。
目指していた職業に、転身に、失敗してしまったことを。
大崎に別れを告げる。
憧れの場所としばしの別れ。
わたしは歩いていく。
分かれ道はきっとまた現れる。
新たな0.5が、きっと人生のどこかで待っている。

スキ・シェア・コメント大歓迎
▼記事を書いたのはこんなひと▼
▼お仕事小説を書いています▼
いいなと思ったら応援しよう!
クリエイターであり続けたいー! が、整体に行かないと死ぬ。ポンコツゆえ、ポンコツゆえ、300円よろしくお願いしまーーす!