まふゆのドライブ #song26+1
記念撮影
〈超・人生会議を使う〉
男は、決め顔で言った。
あの、海ゆばーばの? 正気なの? 今のあなたに、それを使いこなせると思ってるの?
――と、言うとでも思ったか。
こいつ、ダメだ。わたしは思った。
もう、着くのだと思う。
車は、高速道路を下りて、道をいくつか曲がり、話に聞いていた高速道路と松林の下をくぐるトンネルを、今、抜けたのだから。
プラスポもシートから上体を起こし、膝の上で、両手を組んでいる。試合前のボクサーみたいだ。体も小刻みに震えている。さむさむ、とつぶやいているように聞こえた。なむなむ、の聞き違いだろうな。もう限界、とも聞こえた。いいぞ、ようやく緊張感が出てきた。あんたには、それくらいの気構えが必要だ。
道の両脇に、砂の塊が散らばっているのが見えた。進行方向の先を見ると、中世の建築物にあるような、しゃれたスタンドグラスの絵が目に入った。大きな建物……。レストランだろうか? おお、壁に、「千里ヶ浜」の文字が、でかでかとある。
着いたのだ――。因縁の地に。決戦の地に。
わたしだけ千里ヶ浜を見たことがなくて、道中、寂しい思いをしていたので、ちょっと感動した。
……などと思っていたところ、車は徐行をはじめ、やがて、止まってしまった。海岸どころか、手前のレストランまでも行かない、不自然なところにだ。最初はガソリンが切れたのかと思ったけれど、そうではなさそうだ。夏子にすれば、すこし離れたこの場所で、感慨に浸りたいのかもしれない。
プラスポは、ビニール袋から、新しい缶コーヒーを取り出して、フタを開け、運転席のドリンクホルダーにある缶を、新しいものに取り替えた。お供え物みたいだな……。
わたしは、忙しく首を動かし、あたりを観察する。
砂浜の手前には、目隠しのように土が盛り上がっていて、その切れ間から、海が少しだけのぞいている。土の目隠しと、さっきわたしが名づけた、レストラン「千里ヶ浜」は、アルファベットのLの字のかたちをつくって、目の前の敷地を、四角にかこっていた。
午前四時半。
車のなかで点滅するデジタル時計の「:」は、今にも尽きてしまう、砂時計のように思えた。
人影はなく、敷地のアスファルトは、整然としている。
そして、ひと際目立つのが、レストラン脇の一角。自動販売機が、五台もかたまって並んでいる。今、わたしたちのいる夜と朝の境目では、彼らはとてもまぶしく、とても頼もしい感じがした。
目を離すと、霞のかかったようなぼんやりとした色彩が、あたりに漂っていた。車が停止してからのわずかな時間に、印象は変わった。世界は確実に、本来の姿を取り戻しつつある。
ふと思い立ち、ガラス越しに後ろを見る。高速道路の上のほうが、ピンク色に染まっていた。
朝日のやつ、あっちか!
一方、海側はというと……。
身を低くして、空を見上げる。
――月。
月が出ていた。それも、かなり高い位置に。
そういうもんなのか? 想定外の現象にびっくりした。
わたしの期待は、完全に外れてしまった。
まあいい。こんなの、どうできるものでもないし、仕方がないじゃないか。プラスポに話さなくてよかった。理系バカに馬鹿にされることほど腹の立つことはない。
さっさと気持ちを切り替える。いい条件だってあるのだ。明け方まで、時間を引っ張ることができた。暗い時間にやってきたのでは間が持たないし、夜は霊力の強まる時間帯でもあるから、分が悪い。道の途中途中、ダルシムに栄養補給をしていたため、うまいこと時間が調整されてしまった。これが計算ってことは、さすがにあるまい。
つまり、到着のタイミングは、ベストではないが、最悪でもない。
だけど――、
仮にベストのタイミングで、とてもいい雰囲気の海に来たとして、幽霊の気が治まるかというと、必ずしもそうとは限らない。
夕日のイベントの後に起こった二股事件が強調されて、恨みを増長させるかもしれない。気分がよくなったとして、相手を自分側の世界につれて帰りたくなるかもしれない。
夏子の魂はそうとう歪んでしまっている。正直なところ、どう出るのか分からないのだ。
とはいえ、わたしにできることは、プラスポに助言をして送り出すこと。
〈いい、プラスポ〉と、まずはひと言目。〈油断したらだめだよ。あれはもう、ダルシムじゃないから。完全に夏子だと思うこと〉
〈うん〉
よし、いい表情になってきた。
ようやく車が動き出す。駐車のためのスペースなんて、ここにはいくらでもあるというのに、海に近いところまで行かず、まだ距離のあるところで停まった。例の、自動販売機の近くだ。
夏子が無言でドアを開ける。ゆっくりと車を降りる。缶コーヒーは、車のなかに置いたまま。
ダルシムに戻っていることを、ちょっと期待したんだけどな……。
彼はきっと、体力の限界だろう。長時間憑依されて、おそらく肉体的にも精神的にもぼろぼろのはず。ここまで、無事、運転してきただけでも、よくやった。ナイス・アシスト! わたしなりの、最大の賛辞を送った。
プラスポも車を降りる。わたしは横につき添う。
夏子は、ゆっくりと砂浜のほうへ歩いてゆき、少し距離を置いて、わたしたちも続く。
視線をあちこちに向ける。近くに、凶器になりそうなものがないか、確認をする。
ちょっと強い幽霊なら、小さなナイフくらい簡単に動かせるし、もっと強くなると、大人を突き飛ばすことだってできる。いつか駅のホームで、それを見た。
あまり、危険そうなものはないかな……。
でもどうだろう。あれくらい強力な霊だったら、念力で心臓を止めたり……できるのかも。考えたら、怖くなった。
対戦者に念押しする。〈いい? 何度も言ったけど、霊の強さってのは、想いの強さなんだからね。中途半端な気持ちじゃ、やられるよ。嘘や言い訳はもってのほか。こっちも想いで応えること〉
と、真剣な顔で、わたしは言ったのだが、渦中のそいつは、声を出さずに笑った。
ムカっときた。何だよ、心配してやってんのに。
わたしの心中を察したのか、プラスポは、その反応を言葉にした。
〈だって、まふゆは、とにかく真実の愛なんだって、ずっと繰り返してたよ。はじめっから、そうやって説明してくれればいいのに〉
〈えっ、そう? わたしは、その、愛の力を信じてるんですけど、まあ、相手あってのことですから〉おいおい、わたし! しっかり!
〈――けっきょくは、気に入らなきゃ、やられる。のかな。愛って、むずかしいね。頑張ってとしか、わたしには言えない〉
何を言ってるのか、自分でもわからなくなってきた。これでは、アドバイスになっていないのでは……。
プラスポが答える。〈うん。まふゆはここにいていいの?〉
またわたしか。言い返したいのをこらえて、一応考える。どうかな、夏子からわたしの姿は見えてないだろうし、大丈夫とは思うけど……。
〈余裕だね。現実逃避?〉
〈だって、僕のやることは決まっていて、そうするしかないんだもの〉
ふーん、と答えながら、わたしはプラスポの大まかな戦略が見えた。それは、パターンAだ!
いつの日か、わたしは気づいたのだ。デートの際、男が告白しようと腹を決めているとき、その戦略は、大きく分けてツーパターンある。
《パターンA》
デートコース、時間配分、決め台詞など、その日のシナリオをあらかじめ入念に頭に描いておき、できるだけそのとおりに実行する。文字通り、「シナリオ」を手帳に書き込んできた、几帳面な男を知っている。
まめな男がモテるというのは本当で、手間がかかるが、手堅く、無難な作戦だ。
ディメリットをあげるなら、男の妄想が多分に含まれていて、気色悪かったり、想定外の出来事に意味不明のセリフを口走り、ひどい失敗をすることがある。
《パターンB》
パターンAとはまったく逆の作戦。最初から細かい部分まで決めてしまわず、その場その場の空気を読んで、柔軟に対応する。
女心と……なんだったかな、まあいいや。女子の気分は、いわばナックルボールのように不規則変化する。事前に予測するなんてことが、そもそも不可能なのだ。
空気を読める男がモテるというのは本当で、これが決まると効果絶大。パターンAのように、残念な発言をしてしまうこともない。
ディメリットはたいていの場合、最後まで気のきいた台詞を思いつかず、機を逃してしまうということ。
ほぼ神頼み。恋愛初心者には絶対無理。
もちろん上級者は、パターンBを決めてくるし、AとBを組み合わせることもできる。そうなれば、もはや催眠術だ。わたしに限らず、女子はみな抵抗できないだろう。
プラスポは、パターンAというわけ。しかもガチガチの。シナリオだっていくつも用意しているはず。ドライブの最中、ずっと考え込んでいたのも納得がいく。なにやらぶつぶつ言っていたのは、台詞を暗記していたのだろう。
と、考えていたところ、
「そこのあなた、写真をお願いできるかしら」
夏子の顔は、完全にわたしのほうを向いていた。げっ、気づかれてる!
あせった。えっ、えっ。
「じゃあ、僕の携帯をここに置いておくよ」
プラスポは携帯電話を取り出して何度かボタンを押したあと、砂浜につづく斜面の手前の、大きな岩の上に置いた。続けて缶コーヒーを置いた。それがうまいこと携帯の支えになる。
「シャッターボタンを押すだけにしておいたから。できるでしょ?」
〈うん、できる、できる〉わたしは慌てて首を振る。
何事もなかったかのようにやりとりは過ぎ、わたしを残し、二人は砂浜に降りていった。
わたしが何も動かせないってこと、知ってるはずなのに……。
こいつ、けっこう演技力あるのか? わたしが気づかれるケースなんて、想定できていたとは思えない。
ともかくこれで、夏子と距離をとることができた。感謝する。
携帯の画面をのぞき込む。砂浜と、そして海までが、ちゃんと画面におさまっている。小さくなるだろうが、人物も入る……あっ、今、二人が映り込んだ。
この絶妙な角度は偶然の賜物だろうけど、とても幸先のよいものに感じた。ダルナツコ対策の缶コーヒーがこんなところで役に立つなんて。
これは……いい風がきてるのか?
画面から目を離す。二人の様子、それから、二人が見ているであろう景色を見た。
空はまだ薄暗い。鈍い水色だ。背後の松林のずっと後ろ、とても低い位置から、太陽がそう照らしているのだろうが、いまだ高くにある、すこし歪んだ月が、この場を支配しているように思えた。
わたしは視覚でしか季節を判断できないけれど、これは、夏の景色ではない。寒色系……。海の家は、どこにもない。観光客もいない。
ここは、夏のおわり――。
「なつかしいね」
立ち止まった夏子が、海に身体を向けながら言う。
プラスポも、合わせるように、ゆっくり海のほうを向き、夏子の横に立つ。二人の背中が、直線上にきれいに並んだ。
こいつ、やっぱり演技うまい。よし、いい。台詞も頭に入ってるよな。
それから彼は、間をおいて、とても自然にこう言った。
「そうだね、瑞穂ちゃん」
わたしがびっくりした。いきなりセリフ間違えやがった! アホなのか、アホなのか、死ななきゃわからないアホなのか? 何、恋敵の名前出してんだ!
プラスポの様子に変化はない。コイツ、台詞まちがったことに気づいてない。実は、あたまのなか真っ白なんじゃ……。
そうか、余裕あるふりするの、得意なんだっけ。
夏子が、ゆっくりとプラスポのほうを向く。
殺される……。わたしは息を飲む。
彼女の真っ黒な顔にむかって、「瑞穂ちゃんでしょ?」今度は、はっきりと言った。
台詞を間違えたわけではない?
二人に動きはない。海を背景に向き合ったままだ。
わたしの位置から見えるもの。プラスポの背中。その向こうの、深く、暗い霊の顔。
一秒、二秒……動きはない。
そう、なのか? でも……なんで?
「会えて、とてもうれしいよ」
相手の返事を待たず、彼は言う。続けて話しているのに違和感がない。間の取り方のためだ。相手を見ながら柔軟に――って、これ、パターンBだ。こいつ素だ。アドリブだ。
「恥ずかしかった? 名乗り出るのが怖かった?」
その口調は、とても柔らかくて、「それとも僕の口から、なっちゃんのほうが好きだなんて聞いて、自分をいじめたかった?」
そして、考えたものじゃない淀みのなさがあって、「残念だったね、ぼくは君を……」
最後のことばが、わたしの――、
「忘れたりしないよ」
胸にささった。
わたしは、部外者。セコンドにすらなれなかった傍観者。なのに、こんなに胸が熱い。だから、その言葉が向けられた彼女はきっと、
「……ごめんなさい」
ひどく、幼い感じがした。
「けんしさんは……、関係ないのに」彼女は声を詰まらせる。「なんで、こんな変なことしちゃったのか、わからない」
思考が戻ってきたのか? 顔を覆っていた黒い霧が、渦になって動き出す。しぶきが飛び、黒く濁った物質が砂の中に消える。その度、闇がやわらいでいく。
「なんだか、ずっと夢の中にいたみたい。お母さんが、変な男の人つくっちゃって……。借金を返さなくちゃいけなくて……。私、家を出て、働いたんだけど、それから……それから……」渦は、回転を止めようとして、
「聞いてほしい!」
また動き出す。
「最後に電話で話したとき、明るい声だったけど、本当は重いのかなって思った。つらいんじゃないかって。かもめの君を覚えているもの。僕はずっと見ていたんだよ」
「最初に話しかけたとき、お金を貯めて、外国に住みたいって言ってたよね。どこの国? って訊いても、答えられずにいた。誰が見ていなくても一生懸命働いていた。こうしていると、ぜんぶ忘れていられるって言っていた」
「ずっと気になっていた。だから、今日は本当に嬉しいんだ」
「どうか言わせてほしい! 一緒に写真を撮った日のことを覚えている。あれからだって、きっと君は一生懸命だったと思う! 君に何が起きていたってかまわない。一緒に写真を撮ったあの日のまま、ずっと綺麗だったと思う!」
訪れる静寂。
なんだよ……、最後の。
そんなの、あんたの思い込みに過ぎないじゃないか。それなのに……。
なぜだか、わたしのほうが涙が出た。
忘れていなかった。夏子のふりをして現れても気づいてくれた。
幽霊だって泣くのだ。あのときだっていっぱい泣いた。死んで、男の元を離れて、しばらくしてから悔しくて泣いた。わたしは、出会うことができなかったのだ。わたしが死んでも、わたしのことを覚えていてくれて、そのあと変装して現われたってわかってくれて……わかってくれる……。
気が緩んでいた一瞬のことだった。彼女は、その姿でいた。わたしと同じくらいの純度だ。まだ上がる。純度が上がり続ける。まぶしいくらいだった。プラスポにも、見えているのかも。
その顔は、とても、とても、可愛らしかった。わたしなんかより、ずっと、ずっと。
くそ、嘘つき。可愛いじゃん。
祝福してやろう。祝ってやろう。写真を撮るのだ。
携帯の画面をのぞく。わたしにできるかわからないが、精一杯の気合を込めた。てい!
画面のなかで、瑞穂がプラスポに抱きついた。おお! もう一回、てい!
わたしは急いで二人に駆け寄る。プラスポが受け止めていた身体を、てい! と投げ捨てた。〈こら!〉
〈これは、ダルシムだよ〉
〈ええ? ああ、ほんとだ〉
そこにはダルシムが、仰向けになって、眠りに落ちていた。ぐーぐー音もする。
砂とか口に入っちゃわないかな。
〈瑞穂、消えちゃったね……〉
〈うん〉
〈プラスポも最後、瑞穂の顔見えた?〉
〈うん〉
こいつ、ぼーっとしてやがって。
それはそうと、
〈プラスポ、すごい、すごかったよ! これが、真実の愛なの?〉
〈なにが……?〉
何がじゃなくて、〈だから! 夏子じゃないってよくわかったね。一歩間違えてたら、あんたが死んでたんだよ。本当にあの子、どうしようもなく壊れてたんだから。すごく堂々として、ぜんぜん迷ったふうに見えなかった。これって、その、真実の愛だと思うんだけど……〉
〈ああ、夏実は恋に恋する感じだったからね。僕のことなんてとっくに忘れてるよ。それに、途中で答えがわかったから〉
〈えっ、いつ?〉
〈わからない? まふゆは僕のこと、声フェチだって言ったでしょ〉
あ、留守電……。ずっと前じゃん。
わたしの感動を返せ、この変態!
プラスポはコンクリートの段差に、くたりと腰を下ろした。それから膝につきそうなった顔を持ち上げて、空を見上げた。
〈おーい、口が開いてるぞ〉
わたしも見る。だいぶ澄んだ色になってきた。今日もいい天気になりそうだ。
〈成仏するって、どういうカラクリなんだろう……〉顔を上げたままプラスポが言う。〈彼女の未練は、解決したわけじゃないと思うんだ。彼女が歩んできた人生なんて、想像もつかない。僕なんて、ほんの通過点、思い出のひとつにすぎないよ〉
〈そんなの、勢いだよ。あの子、純度の上がり方が半端なかったもの〉
〈勢いって……。でも、そういうものかもね〉
〈それにさ、過去に戻れるわけでもないんだから、そんなの解決するものじゃないんだよ〉
〈そうだね……〉
〈自分なりに……、納得するしかないじゃない〉
〈まふゆは、偉いね〉プラスポはわたしを見た。
〈ん、んん……〉他人のことはよく見えるのだ。
〈あんたの勝負を、『真実の愛』に認定できたらさ、わたしも勢いで成仏してやろうと思ったのに〉悪態をつく。
〈愛なんて大げさなもんじゃないけど、でも、どこかで引っかかっていた。ありがとう〉
どいつもこいつも、いい顔をする。
〈いいよ、真実の愛ってことにしてあげる。おまけね〉
〈まふゆはどうするの? 俺はしばらく、動けそうにないみたい〉
彼はとても疲れて見えた。深夜のドライブがはじまってから、ずっと気を張っていたのだろう。
〈もう帰るよ。生まれた町に行く。さすがにすぐあの世ってわけにはいかないけど、自分の心にしっかり決着をつけるよ〉
そう、わたしは笑って消えるんだ。あの子のように――。
〈さらばだ!〉
すぐ立ち去るべきだと思った。振り返らない。わたしたちの旅は終わったのだ。トンネルを抜ける。旅が終われば、みな日常に帰る。プラスポもダルシムも。わたしの日常は彼らとはすこし変わっているけれど、目標はもう、決まったんだから。
そのときだ。
立ち並ぶ民家の上に、奴はいた。オレンジ色に輝く朝日。
今頃きたのかよ。あんたが照らすのは、わたしじゃないだろう。
ちくしょう。でも、きれいだ。
ここまでしてもらって、なんなのだが、ひとつ気になることがあるかな……。
記念撮影(reprise)
本来なら、昨日東京に戻る予定だったのだが、あまりに疲労が激しく、帰りを一日遅らせることにした。千里ヶ浜から僕の実家まで、徒歩にして10分もかからない。
あのあと砂浜に、一時間は座っていたと思う。
朝方の気温はそれなりに低かったはずだが、ドライブのときに比べれば、ずっと暖かかった。
日が射してきて、ぼーっと座っているあいだ、景色はどんどん見慣れたものへと変わっていった。静かな波と乾いた砂。波打ち際を歩く、二、三の人影。
鳥が鳴く。その声に混じり、道路のほうから車のエンジン音が聞こえた。そして傍から、似たような音。いびきをかくダルシムだ。こいつ、いい夢見てそうだな。
ダルシムじゃないけれど、僕まで夢の中にいるような心地がして、現実感が感じられなかった。
本当に夢を見ていたのでは、とも思ったが、そうではないようだ――。
帰り支度は済ませた。電車の時刻まで少し時間があり、実家にそのままになっている自室の勉強机に座っている。
手には一枚の写真。
携帯の画面に僕とダルシムが映っていたことが、すでに夢でない証拠なのだが、アナログであるほど「よく」写るかもしれないと、写真店の機械でプリントアウトしてみた。
写真のなかでは、やはり僕とダルシムが寄り添っていて、それにプラスし、周囲が花柄に縁取られていた。
まふゆのやつ、念写までできてるじゃん。捨てるわけにもいかないしな。うむ、困った。
写真を眺めていると、ふっと首筋が冷たくなる。
振り返り、僕は言う。
「せっかくだから、ぼくたちも記念写真撮ろうか」
彼女は笑った。
(了)
===
【エンドロール】出演:まふゆ、プラスポ、ダルシム、夏実、瑞穂、海ゆばーば、かもめじじい(故人)、バイト役の皆さま、挿入歌:the Rolling Stones、オフコース、小田和正、制作:「ロックスターになりてえなぁ」プロジェクト、主題歌:the pillows「Beehive」(※願望)
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