moon shine
「これで今日から君もAIの支配に抗う仲間だ」
目覚めて最初に感じたのは頭痛でした。目の奥が痛み、腕も重たく、ついでにお腹が減っていました。
ドクターは私の不調について、
「俺たちサイボーグはかくもAIに支えられていたのさ。管理クソAIとのリンクを絶てば多かれ少なかれ機能不全が生じる」
と説明しました。
物心つく前から私の頭には機械のチップが入っていました。十二歳の頃に眼球を機械に取り換え、十八歳で腕も換えました。
サイボーグ手術は決して珍しいことではありません。
快適な生活、健康、長寿。全てが機械によって手に入るのです。
ただ一つ、「自由」を除いては。
「じきに慣れて頭痛も消える。だが落ちた性能は戻らないからな」
私は頷きました。管理AIに反乱しようというのだから多少の不便は覚悟の上でした。
「でも、私はもう自由です」
「そうとも。AIはもう君を縛れない」
私たちの社会を管理する人工知能……最初は人々を幸せにするAIだったと聞きます。
しかしいつしか管理AIは小さな違反も見逃さず、それでいて重い罰を私たちに与えるようになりました。
人の心や自由よりも大切なものがある……そう判断したかのように振る舞い始めたのです。
『健康で健全で健やかな人間社会』と綺麗ごとを掲げ、人々から自由を奪っています。
今日私は管理AIとのリンクを絶ち、AIの束縛から逃れる闇組織に加わりました。
「手術明けで悪いが早速やってほしい仕事がある」
「なんですか?」
「密造だ。紙の」
「紙ですか?」
「俺たちの組織では特に重要な指令は紙で出すんだ。AIの監視を逃れるためにね」
今の時代、紙はあまり流通していません。デジタルデータの方が監視しやすくAIに都合が良いからです。
「それともう一つ。これからは砕けた喋り方をしような。ロボット仕込みの丁寧語は忘れよう」
はい、と返事をするより先に腹の虫が「ぐう」と鳴りました。ドクターに笑われて、私は赤面しました。
その日から私は紙作り担当として働いたんだ。
材料となる植物をよく煮て、さらに叩きほぐす。
そして紙漉きという工程。水槽に入れたどろどろの繊維を薄くすくい上げると、なんとなく紙っぽい姿形になる。
その紙っぽいのを乾燥させると本当に紙になる。ちゃんと文字が書けるんだよ。
私は昼も夜もなく作業に没頭して……一ヶ月が過ぎた頃。ついに私のもとにも紙の指令が届いた。
紙の指令は重要な戦いの命令。AIに抗う、私たちの戦い。
私の胸は高鳴っていた。ついに私は自由を手にする。
管理AIは……あるいはAIを作った人たちは、知らなかったのかもしれない。
人間は機械のようには生きられないってことを。
ハロウィンパーティのお知らせ
管理AIの食事制限に逆らう食事会をアジトで開催!
ポテトチップスやドーナツなど違法なジャンクフードをお腹いっぱい食べちゃおう!
(貸し出し衣装も鋭意制作中 ご期待あれ)
(1200文字)
あとがき:私にしては珍しくAIに悪役っぽくなってもらいました。たまには良いね。
こちらの企画の参加作品です

