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無責任のキャンバス

 工事現場を通り抜けると同時に、ぎゅうっと見つめていた。

 建てものっていうのは地面の上に、どーんと建つのではなく
 枠を作って、その上に建つ。
 ということを、大工だった父の仕事場で学んだ。
 その枠を跨いで、父に会いに行っていたような、
 もう、記憶なのか、気のせいなのか、わからない。
 過去というのはときに、時空が歪んだように、見たことと思ったことの区別がつかなかったり、一秒を永遠と錯覚したりする。

 とにもかくにも、「建てものは基礎と呼ばれる枠の上に建つ」という知識はあって、
 通り抜けた工事現場は、まさしく剥き出しの基礎だった。
 これから何かが建つのだろう。

 わたしは、この街に来るのは初めてだから
 この場所に、もともと何があったかなんて知らない。
 いつも通っている道だって、お店がなくなったりすると「何があったっけ?」なんて思ったりする。薄情だ。
 もしも、自分事だったら
 さびしいだろう、と思う。
 とてつもなく、途方もなく、
 さびしいだろう、と思う。
 もと在ったものが、なくなることも。
 その場所に新しいものが建つことも、
 きっと建たなくたって、さびしいままで。

 だからこそとても無責任に、無遠慮に、「よかったね」と思う。

 建ものは傷む。必ず、傷む。
 同じ場所に、同じ建てものが在り続けることはない。
 だから、このさびしさと苦しみを抜けて、新しい建てものになったら
 きっとまたしばらくは、つやつやで、愉快な時間が続くだろう。
 そしてただ四角い基礎の上には、どんな建てものが建つだろうと、わくわくする。
 もう戻れない、直せない、さびしさを握りしめながら

 それでも、
 真っ白なキャンバスのように、美しいと思った。
 とても無責任にそう思いながら、
 ああ、わたしの人生や日々、決断や積み重ねが、こんなふうに美しく
 つやつやと、希望に満ち溢れることを願った。




▼now playing(今日は絶対にこの曲で書こうと思った)


▼「僕にないのは地図ではなく、目的地だった」「大きなものを作るには、まず足場が必要だった」竹本くんのことを思い出しながら書きました。


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