奇跡の末端
午前10時のスターバックスは、空いている。
平日だから、当然か。
ぼおっと座って、ぼおっとする。
今日も、会社にたどり着けない。
毎日会社に行くって、なかなかエライことだ。
いや、このまま這ってたどり着くことはできるかもしれないけれど、それって給料泥棒だ。
たぶん、何もできない。
だから、スターバックスでぼおっとする。
わたしはなんて、ダメなやつだろう。
ときどき、そういう朝がある。
いやもうさ、とぜんぶ投げやりになる。
実際には、そういう気持ちになるだけで、身体は動かないのでぼおっとする。
ぼおっとする、とにかく
うまく集中できない。
うまく集中できたら、会社に行っている。
いつもサイレントモードにしているスマートフォンの通知を、ときおりすうっと確認する。
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あ、HACHIちゃん
HACHIちゃんの、オリジナル曲の新曲MVが上がった。
わたしはいま、スターバックスで、アイスコーヒーで、ポンコツで
だけど、HACHIちゃんの新曲が聞けて
それはすごくやさしい出来事のような気がして、ちょっと泣けた。
へんなふうに、涙腺がゆるい。
今度、HACHIちゃんの生配信を聞ける日がきたら
スパチャでもっと課金したい。
推しに課金したい。
あなたのおかげであの日、息ができました。
そういうの、伝えられたらいいよね。
まあ、伝わらなくてもいいか。
それよりも、手の届くあなたの前で笑えたら、それでいいか。
とにもかくにも
あの朝のスターバックスの、奇跡みたいな瞬間を忘れないよ。
ああ、生きてたら新曲が聞けちゃうんだな、スマートフォンでなんだか繋がっているみたいな錯覚で
繋いでゆけたらいいよね、奇跡みたいなやつ。
誰かから見たら、笑い話みたいなやつでも
些細なことで、生きようと思える、そのやさしいヤツを奇跡と呼んで
その末端を担えたら
誰かの希望とやさしさで繋がれた奇跡で、生きている甲斐があるってもんだ
とは思うけれど、生きることに甲斐なんて本当は必要なくて
つまるところ、奇跡の末端を担いたいというのは、わたしのわがままなのだ。
であるならば、わたしはやっぱり、わがままに生きたい。と思っている。
そしてまた、推しの新曲を聞きたい。
そしてこんなばかみたいなアタシの日常が
誰かを、推しの新曲にたどり着くまでの長い道のりの、ちっぽけな給水所とか、ないよりはマシな屋根みたいになれたら
そいうのがきっと、わたしの思い描く、奇跡の末端なのだ。
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