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ほんとはきらい

サンダル欲しいな。って思ってた。
5月に一足買ったんだけど、そうじゃなくて。
あれは買い足しだったから。

サンダルを、買い替えるべきではないか。
それは、純粋な欲とは別として
使い古したパンツとか靴下を捨てるみたいな
そういう、儀式めいたもの。

例の如く、「まだいける」と思ってしまう。
タオルとか、食器用のスポンジもそう。
あいつらは特に、「少し疲れてきたとき」がいちばんちょうどよかったりする。
でも、その一線を越えたら
お別れのときは必ず来る。

サンダルは、お別れの一歩手前の状態。のような気がしていた。
まだ、決定的ではないのだけれど、もう何年も履いている。
溝の口で買ったことは覚えているんだけれど、何年前かは思い出せない。
思い出すためのヒントもないから、ずっと思い出せないままだ。

買った年にはそればかり履いて
たぶんスニーカーばかりを履いていた年もあって
そもそも流行病と無職で外出していないのが、ここ2年。
だから、買った年数のわりにはきれい。だと思う。
スニーカーだったらとっくに別れている。

サンダルを買ったその年から、何年経ったかわからないけれど
わたしは仕事も変わって、伴うように着るものも変わって、髪の色も変わった。
もしかしたら、ピアスを開けるより前に買ったサンダル…かもしれない。

いまでも履ける。
でもいまのわたしには、少し違うような気がしている。

どれだけお気に入りのスカートで、ウエストがゴムで、
永遠に一緒にいられるような気がしていても
少しずつ、似合わなくなってくる。
むかしほど高鳴らなくなって
それは、もう致し方のないことだった。

今年に入ってから粗大ごみを捨てた。
洋服もラックに収まる分だけを手持ちにして、それ以外の着ないものを捨てた。
少しずつわたしは正しく、身軽になってゆく。

大量を大切にする甲斐性がなければ、
やっぱり持ちすぎてはいけないんだと思う。

いまあるものを把握したそのうえで大切にして
暮らしやすい部屋にして
この部屋で暮らし始めたときのわたしより、歳を重ねたいま
居心地の良い空間に整えてゆくことを、幸福に思えるようになった。

それでもほんとうは

ほんとうは、寂しい。
ときどき、寂しい。

新しく買うことなんて我慢すればいいから
まだまだ一緒にいたい、と思うこともある。

でも、お別れするべきだ。と、わかってしまったら
わたしは、進むしかない。

狙っていたサンダルが半額になっていたから、そのままレジに持っていった。

履いていたピンクのサンダルに、「ありがとう」と告げてゴミ箱に捨てた。

2020年。無職だった年の夏

捨てよう、と決意できたのは、写真をたくさん撮ってもらっていたかもしれない。
もう充分な季節を、君と過ごせた。と思えた。

2021年。スカイツリー
「ちょっと気分転換が必要で」て言ったら、助けてくれたね
たぶん、1枚目と2枚目のあいだ? 夏? いつの?
そしていつもブレずに花柄が好きなわたし

こんなに時を経て、たくさん撮ってもらえたサンダルは君くらいだろうよ。
しあわせだったね。楽しかったね。
たぶん、あんまり遠くへは連れて行ってあげられなかったけど。
サンダルと言えば君、という数年を過ごせてしあわせだった。
ありがとう。

ありがとう、たくさん写真に残してくれて

あんまり写真を撮る文化のない家に育って、
かつては写真を「見直す」という行為が苦しくてたまらなくて
たぶん、「失った」と思っていたんだと思う。いろんなことを

いまは、写真っていいなあ。と思う。

わたしの父と祖父は大工で
大工って言うのは、家とか寺とか橋とか作って
それは、地図に残る仕事だ。と言われたとき、なんだかすごいなあ。と思った。

写真も、残る仕事だ。と思う。
記憶とは別の、外付けハードディスクみたいに
ぜんぜん印象深くない出来事だとしても、写真は覚えていてくれる。

スカイツリーに行ったときの感傷とか感謝はもちろん覚えているけれど
写真があったから覚えている、という一瞬も確かにある。

ありがとう、たくさん旅をしたね。
ありがとう、旅の途中で、少しずつおとなになったね。
少しずつ生きやすくなって、やさしくすることを許せるようになってきた。

いまの暮らしに合わせたサンダルを買うっていうのも
自分にやさしくすることだよね。

でも、寂しさは消えなくて
ただほんの少し、上手に折り合えるようになっただけで

ほんとうは嫌いだよ
大切なものとお別れするのは、嫌い。
いつまで経っても慣れない。
平気な顔はできないし、するべきではない。

だからどうか、安心して。
これからもどうか、嫌いなものは嫌いなままでいてもいい。
嫌いでいることよりも必要なことができたそのときに、どうか捨てて欲しい。

わたしが寂しさよりも、
暮らしやすさと、ほんの少しおとなになることを選ばせてもらったみたいに。





【photo】 amano yasuhiro
https://note.com/hiro_pic09
https://twitter.com/hiro_57p
https://www.instagram.com/hiro.pic09/

(すべての写真ありがとう)



※5月に買ったサンダルのこと


※now playing

新譜リリースおめでとうございます!
と思って、書き始める前に聞いていたんだけど
失う寂しさと、旅立ちのことを書こうと思ったら、良い温度で
ずっと聞いてた。






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