あのときは、「やっちまった」と思ったけどね。
#あの失敗があったから
というハッシュタグを見つけて、そのまま5秒ほど見つめた。
やっぱり思い出すのは、会社をクビになったことだった。
転職する、とか
自分の意志で仕事を辞める、ということはあっても
「会社をクビになる」という経験をした人が、どれくらいいるだろうか。
なんだか、悲壮感漂う言葉である。
最初の緊急事態宣言に伴うクビ宣告だった。
世の中は何か大変なことが起こる気配がしていたし、「観光・レジャー系」と分別される職で、アルバイトだったわたしにとっては、もう致し方のないと言うしかない出来事だった。
落ち込むまでにはしばらく時間が掛かって、
悲壮感漂う上司の前で気丈に振る舞い、「アルバイトだから仕方ない」とか「早めに決断してくれてありがとう」なんて言ってみた。
「だから早く社員になれって言ったじゃん」と、上司には怒られた。
そして、会社が早めに決断してくれたおかげで、なんとか暮らしていけるだけの失業保険を得ることになった。
(失業保険は、直近の給料で給付額が決まるという制度なので、休職とかシフトを削られたあとにクビになっていたら本当に大変だったと思う)
だから、あのときの言葉は全部嘘じゃなかった。
嘘じゃなかった。
苦しかった、というのも嘘じゃなかった。
みんなが当たり前に働いているのに、それができないことに絶望したりもした。
世の中的にも「せっかく無職になったんだから遊びに行こうぜ」なんて雰囲気じゃなくて、
そういう雰囲気じゃない世の中だから、会社をクビになったんだった。
清く正しく途方に暮れることすらできなくて、起きている時間は「どうぶつの森」に癒やしを求め、大半の時間は思考を放棄して眠っていた。
なにをしていいか、わからなかった。
趣味といえる趣味も、わたしにはなかった。
*
「もっと時間があればいいのに」
会社をクビになる前、わたしは確かにそう思っていた。
あの頃は、疲れて帰って眠り、休みの日もまた眠っていた。
3連勤、4連勤して1日また休み、そしてまた4連勤
1週間の勤務日数は、5日か6日。
月の休みは、月の土日の数と同じだけあればいいほうで、世の中の長期休暇は「稼ぎ時」で、年間でいうならば結構な日数を働いていたと思う。
やりたいことを考える時間や体力すらない、と思っていたし、今でも「その通りだった」と思っている。
これも、嘘ではない。
*
無職になって、時間を手に入れた。
体力も手に入ったような気がする。
仕事から開放されてようやく、「仕事で受けていたストレス」の存在に気づいた。
良い環境で悪くない仕事だと思っていた。これも嘘じゃないんだけどな。
失業保険という最低限の収入もあるし、状況的には「望んでいたもの」だったと思う。
でも、わたしは動けなかった。
眠ってばかりの日々を、ずっとずっと続けていた。
たまに背伸びをして苦しくて、また眠った。
*
「時間があればなんでもできる」というのは、間違いだった。
それが、無職に於ける大きな学びだったと思う。
時間があっても「やりたいこと」とか「やりたいと思う気持ち」がないと、何もできない。
同時に、「やりたいこと」と「やりたいと思う気持ち」っていうのは、時間を投資しないと生み出すことができない。
いまは、そう思っている。
*
無職になって、1年と少し。
新しいアルバイト始めてもうすぐ5ヶ月。
8ヶ月間の無職を経て、あの頃に戻りたいかって思うとそうじゃない。
無職のあいだ、やりたいことがわからなくて、毎日noteを更新してみることにした。
いまはきっと、これが「やりたいこと」なんだと思う。
べつに何にならなくても、わたしがすばらしいと思った世界を切り開いてゆく。
わたしは、作り続けてゆく。
たぶんこれが、わたしの欲しかった人生なんだと思う。
*
無職になってわたしは、”わたし”を見つけたと思っている。
毎日エッセイを書くなんて、できる人だと思っていなかった。
いまでもやっぱり、あんまり趣味はないし、寝てばかりいるけれど
言葉や音を紡ぐことは、去年より楽しくなってきた。
去年は、あんなに苦しかったのに。
人は少しずつ進化する、ということも、無職で見つけたことかもしれない。
「意味あるかな」なんて思いながら作り続けたものが、何ヶ月後かに形が変わったりするのは、いまでも幸福な体験だ。
1年前は、YouTubeに動画を載せられるなんて思っていなかったし、
2021年が始まった頃には、ピアノ以外の音で作品を作ることができるようになると思わなかった。
なんか、成長した気がするよ。
そしてその成長っていうのが、ずっとずっとわたしをわくわくさせてくれる。
わたしはずっと、わくわくしていたかったんだ。
文化祭の準備をしている、あの頃みたいに。
*
無職の頃に戻りたくはないけれど、
無職にならなかったわたしに会いたい、とは絶対に思わない。
無職になってよかった。
あのときは、「やっちまった」と思ったけどね。
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