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【物語】心の余白ーー余裕がある人は、なぜうまくいくのか/第12話

これは、
「心の余白」を知るまでの、ひとつの物語。


第12話

できていたはずなのに、また崩れる

キッチンカーの手伝い、数日後。
ボクはまた、その場に立っていた。
「おはようございまーす!」
「おはよ〜!」
いつもの二人。
幸せ之助さんと、リナさん。
「今日もよろしくお願いします!」
「よろしく〜!」
前より、自然に言えている気がした。

開店前。
準備をしながら、ボクは少しだけ余裕を感じていた。
 『……あの感じ。』
前にできた、あの感覚。
考えなくても見える。
自然に動ける。
 『……今日もいける気がする。』
そんな気がしていた。

開店時間。
人が一気に増える。
いつもの忙しさ。
でも。
 『……大丈夫。』
そう思っていた。
「ハニ丸くん、これお願い!」
「はい!」
できたてのクレープを受け取る。
 『……落ち着いて。』
名前を確認する。
お客さんを見る。
 『……大丈夫。』
「〇〇でお待ちのお客様〜!」
声を出す。
一人の女性が手を挙げた。
「はーい。」
 『……よし。』
ボクはそのままクレープを手渡した。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます。」
女性はそのまま受け取る。

次の対応に移ろうとした、その時だった。
「すみません、まだですか?」
別の方向から声がする。
「はい!」
振り向く。
一人の女性。
少しだけ不安そうな顔。
「〇〇を頼んだんですけど……」
「……え?」
頭が止まる。
 『……今、渡したよな?』
さっきの女性を見る。
すでに一口、食べている。
 『……違う。』
同じクレープが続いていたことに気づかず、入れ違って渡してしまった。
血の気が引く。
「申し訳ありません!」
ボクはすぐに駆け寄った。
「そちら、別のお客様のものでした……!」
「え?」
女性も驚いた顔をする。
周りの空気が、一瞬だけ止まる。
「……あ。」
胸が一気に重くなる。
「すぐに新しいものをご用意しますので……!」
ボクは頭を下げる。
「……すみません。」
女性は少し困ったように笑った。
でも、その空気は、やわらかくはなかった。
 『……やってしまった。』
頭の中が、一気にうるさくなる。
 『落ち着け。』
 『考えるな。』
 『さっきみたいにやれ。』
 『ちゃんとしろ。』
全部、頭の声だった。
「ハニ丸くん。」
「はい!」
幸せ之助さんの声。
「大丈夫?すぐ作り直すよ。」
「……大丈夫です!」
即答だった。
でも、ボクの頭の中はパニック状態。
全然、大丈夫じゃなかった。
作り直しを待つ間。
時間が、やけに長く感じる。
周りの視線が気になる。
空気が、少しだけ硬い。
 『……早くしないと。』
 『待たせてる。』
 『取り戻さないと。』
焦りが、どんどん強くなる。
できあがったクレープを受け取る。
「お待たせしました!」
少しだけ強い声。
少しだけ急いだ動き。

「先ほどは申し訳ありませんでした!」
女性はそれを受け取る。
「……はい。」
短い返事。
そのまま、少しだけ距離ができる。
 『……あ。』
胸の奥が、冷たくなる。
さっきと違う。
空気が、戻らない。
 『……まただ。』
頭の中で、何かが崩れる。
 『……できてたはずなのに。なんでだよ。』

その後も。
流れがうまく噛み合わなかった。
焦る。
ズレる。
また焦る。
その繰り返し。
そのまま自分のペースを取り戻せずに営業が終わり、ボクは完全に疲れていた。

その帰り道。
「……ダメだ。」
ぽつりとつぶやく。
「全然できてない。」
その時だった。
「できとらんのぅ。」
「うわっ!!」
振り返ると、いつもの三毛猫。
――猫の神様。
「だからびっくりするって!」
「慣れんのぅ。」
「慣れません!」
ボクはため息をついた。
「……なんでですか。」
小さく言う。
「前、できたんですよ。」
「うむ。」
「ちゃんと見えてた。」
「うむ。」
「なのに、今日は全然ダメでした。」
猫の神様は、静かに言った。
「当たり前じゃな。」
「……え?」
「それは“できた”のではない。」
猫の神様は続けた。
「“できた気になった”だけじゃ。」
「……」
言葉が刺さる。
「お前さん、今日どうじゃった。」
「……」
思い出す。
焦り。
不安。
周りの目。
「……怖かったです。」
「何がじゃ。」
「失敗するのが。」
「うむ。」
「お前さんは、“できていた状態”を守ろうとした。」
「……」
猫の神様の言葉にボクはハッとした。
「それもまた、“外”じゃ。」
頭の中が、静かに整理されていく。
「できているかどうか。うまくいくかどうか。失敗しないかどうか。全部、“自分”じゃ。」
「……」
全くその通りだと思って、少し情けない気持ちさえ感じていた。
「じゃあ、どうすればいいんですか。」
ボクは小さく言った。
猫の神様は、少しだけ間を置いて言った。
「崩れろ。」
「……え?」
「崩れることを、許せ。」
「……」
意味は、まだ分からない。
でも。
どこかで、分かる気もする。
「崩れた時に出るものが、お前さんの本物じゃ。」
「……」
「整っている時の自分は、まだ作っておる。」
「……」
「崩れた時、何が出るか。」
「そこに、お前さんの“内”がある。」
「……」
「ミスを無くそうとするな。」
「……」
「ミスは、起こるものじゃ。」
「……」
「それをどう扱うかが、お前さんじゃ。」
ボクはしばらく何も言えなかった。
「……難しすぎる。」
「そうじゃな。」
猫の神様はあっさり言った。
「でもな。」
「……」
「それでいい。」
その一言だけだった。

再び帰路についたボクには、
夜の空気が、少しだけ重く感じた。
「……できたと思ったら、また崩れる。」
ぽつりとつぶやく。
 『……でも。前と、ちょっと違う気もする。』
うまく言えない。
でも。
何かは、変わっている。
「……もうちょい、やってみるか。」
その言葉は、少しだけ重かった。
でも。
足は、止まっていなかった。




🌿この物語は、身近なコリから
健康、社会、生き方、考え方とテーマが広がった
「日本の未来を変えるかもしれない話リメイク版」から生まれました。

“余裕がある=幸せに繋がる”という考えを、
物語として、
そっと置いています。


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