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【第70話 初恋の人は俺にとって女神】初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺

中学三年生・想いを伝える為に編

第70話 初恋の人は俺にとって女神


 次の日の昼休み。

 俺は村瀬と一緒に弁当を食べていた。

 すると――

 慌てて教室に入って来る女子三人組の姿が!?

「 「 「いっ、五十鈴君!!」 」 」

「グホッ!!」

 三人同時に俺の名前を叫んだので、俺は驚いてオカズを喉に詰まらせてしまった。

 ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。

「オイ隆、だ、大丈夫かい!? 早くお茶を飲んだ方がいいよ!!」

 心配した村瀬がそう言うと、何故か稲田が俺の水筒をサッと取り、水筒の蓋にお茶を入れて俺に手渡してくれた。

 俺はそれを受け取り、一気にお茶を飲んだ。

 ゴクッ、ゴクッ……。

「プハァァ!! 死ぬかと思ったよ……」

「『プハァァ』だなんて、うちのお父さんみたいな飲み方ね? フフ……」

 悪かったな。

 俺は稲田の親父さんよりも年上なんだよ……。

「と、ところで三人共どうしたんだよ? 俺に何か用があるのかい?」

「あるに決まってるじゃない!! 

 昨日、五十鈴君、塾サボったでしょ!? 

  私達、浩美のことを聞きたかったのに!! 

  もしかして、ずっと浩美の家にいたの!?」

 岸本が、えらい剣幕で俺に言ってきた。

 昨日、俺はあれから家に帰り、布団の上に転がっていた。

 しかし、疲れもあって、そのまま眠ってしまったらしい。

 その姿を見た母さんが気を遣ってくれて、塾に欠席の連絡をしてくれたんだ。

 俺が塾を休んだのは初めての事である。

 まぁ、それだけ石田の病気の事を知った俺はショックを受け、また色々な思いが駆け巡って、一気に疲れてしまったのだろう。

「で、どうだったの、浩美は? 今日も学校休んでるし……」

 川田が、とても不安そうな顔をしながら聞いてくる。

 俺は悩んだ。

 今、彼女達に石田の病気の事を話してもいいのだろうか……。

 石田が直接言うべきなのではないか?

 逆に言えば、病気の事を俺にしか言っていないということは……

 まだ他の友人達には知られたくないって事なんだろうか?

 俺は悩んだ末、こう答えた。

「ああ、石田は病気は病気なんだけどさ……

 まぁ、治る病気ではあるんだけど、完治するには時間がかかるそうなんだ。

 だから治療費もバカにならないらしくて、

 少しでもお金を浮かす為に仕方なく塾を辞めたそうだよ……」

 なかなか苦しい『嘘』だ。

 それでも彼女達には通じる『嘘』だろう。

 それに、治療費の問題で塾を辞めたのは本当の事だしな……。

「 「 「へぇーっ、そうなんだぁぁ……浩美、可哀想……」 」 」

 ふぅぅ……。

 何とか誤魔化せたみたいだな。

 彼女達は、とりあえず納得してくれたみたいで、自分達の教室に戻ろうとしていた。

 しかし、稲田だけが俺の傍に来て、耳元でこう囁いた。

「五十鈴君って『嘘』が下手だね……」

「えっ!?」

 稲田は、どの部分を嘘だと思ったんだ!?

「それじゃ、また今夜、塾でねぇ」

 稲田は俺にニコッと微笑み、先に教室に戻った岸本と川田を追いかける為に、小走りで教室を出て行くのだった。

 ほんと、『この世界』の女子達は勘が鋭いというか、何というか……。

 日頃、『ポワーン』としている稲田に見抜かれるとは……。

 いや、本当に見抜かれたのか?

 かまをかけて、俺の反応を確かめたのだろうか?

 俺が『大人』ということで、必要以上に彼女達の動きや発言に敏感になっているだけで、稲田の言う事を真に受けなくても良いのかもしれない。

 それとも稲田の言う通り、本当に俺は『嘘』が下手なのか?

 もしそれが本当なら、俺はやはり『元演劇部』失格だな……。


 この日、俺はちゃんと部活も頑張り、そして塾にも行った。

 しかし塾では意外と稲田達は石田の事には触れず、その日の塾は終わるのであった。

 そして俺は家に帰ると、直ぐにつねちゃんに電話をした。

 石田の事を話す為だ。

 さすがに俺一人だけが石田の病気の事を知っているというのが苦しくて、つねちゃんには申し訳ないが、つねちゃんには知っていて欲しい。

 出来れば一緒に悩みを共有したい。

 そんな『わがまま』というか、『甘え』みたいな俺がいた。

 実年齢五十八歳。

 還暦に近い俺が、三十二歳のつねちゃんに甘えるというのもおかしな話かもしれない。

 でも今の俺には……

 つねちゃんに対して、そんなプライドなどとっくの昔に捨てている。

「えっ!? 浩美ちゃん、白血病なの……!?」

「う、うん……そうなんだ……」

「それで、その事を知っている同級生は、おそらく俺だけなんだよ。

 だから……」

 俺は言葉に詰まってしまう。

 すると――

「隆君、分かったわ」

 つねちゃんの優しい声が聞こえてきた。

「先生に教えてくれてありがとね。

 隆君だけがそんな辛い思いをする必要は無いわ。

 これから一緒に考えよ。ねっ?」

「……」

「それに浩美ちゃんも私の『元教え子』だから、とても心配だし、

 もっと辛い状況になる前に知る事が出来て本当に良かったわ……

 本当に有難う……」

 この人は何て凄い人なんだろう……。

 俺が途中までしか話をしていないのに、俺の心情を見抜き、そして直ぐに安心感を与えてくれる。

 それが、つねちゃんなんだ。

 そういうところが、俺は昔から大好きだった。

 俺が幼稚園児の時は、常に近くにいてくれた。

 俺が何か凹みそうな状況になる前に、さりげなくフォローをしてくれた。

 俺が絵を描いたり、工作で何かを作れば、思いっきり褒めてくれた。

 前のバーベキューで、つねちゃんは俺の事を『天使』だと言ってくれていた。

 でも――

 俺にとってのつねちゃんは『女神』だった。

 いや、『過去形』じゃない。

 それは『前の世界』での話だ。

 今は……

『現在進行形』で、つねちゃんは俺の『女神』だ。

 早く十八歳になりたい……。

 そして……。

「つねちゃん、俺の方こそ有難う……

 なんか聞いてもらってスッキリしたよ」

「それは良かったわ。隆君って『大人っぽい』ところがあって、

 とても素敵なんだけど、その為に自分だけで何でも抱え込んでしまう所が

 あるような気もしていたから……」

 つねちゃんは、少しだけ間を置いてから続けた。

「これからは遠慮しないで、何でも先生に相談してね? 

 隆君が一年生の頃に卓球部の事で相談してくれた時は、

 先生、とっても嬉しかったよ……」

「うん、分かった……。これからは何でも相談するよ……有難う……」

 石田は八月に飛行機事故で死んでしまう。

 どうすれば回避できるんだろう?

 俺は『未来の世界』から、つねちゃんと結婚する為にやって来た還暦間近のおっさんだ。

 そんな俺でも、つねちゃんは結婚してくれるかい?

 この二点だけは、絶対につねちゃんに相談する事は出来ない。

 だけど、それ以外の事は、これからは自分だけで解決しようとせずに――

『女神』……

 いや、つねちゃんに相談しよう。

 俺はそう思った。


 あくる日。

 石田が入院する事になったという連絡が、稲田達から入って来た。

 但し、病名はまだ伏せたままのようであった。


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