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【創作大賞感想】⑪『パパ、いんせいになるって』を読んで

今回読んだ創作大賞応募作はこちら。
シリーズの最初がここです。


30代半ばという時期は、人生の「踊り場」のようなものかもしれない。仕事にも慣れ、家庭を持ち、ふと周囲を見渡したときに「このままでいいのだろうか」という、輪郭のない焦燥感に襲われる。本書(※note連載)は、そんな35歳の会社員であり一児の父である著者が、働きながら大学院受験(院生になる)へと挑む180日間の軌跡をリアルタイムで追った、剥き出しのドキュメンタリーである。
私事で恐縮だが、私は理系の国立大学を卒業し、現在は50代後半のサラリーマンとして、まもなく定年退職という人生の大きな節目を迎える。これまでイギリス赴任や、大病(がん)のサバイバーとしての経験、そして「サイドスローFIRE」と名付けた、退職後の文筆活動や資産運用の計画など、それなりに多くのハードルを越えてきた自負があった。しかし、本書の第1章で著者が吐露する「今のままで終わりたくない。プロフェッショナルとして、もう一歩深い学びを得たい」という純粋な渇きに触れた瞬間、私の中にあった、かつての熱い記憶が呼び覚まされるのを感じた。
本書の最大の価値は、単なる「社会人大学院の合格ノウハウ本」に終始していない点にある。平日22時以降の限られた時間、睡魔と戦いながら英語の論文を読み解くステップ、そして何より、妻や幼い子どもとの時間をどう捻出するかという「時間管理と家族との対話」の具体策が、数値と行動のレベルで極めて詳細に綴られている。
例えば、第3章に登場する「平日の可処分時間を毎日一律120分確保するための、家事の徹底的な仕組み化と夫婦のタスクシェア」のくだりは、これから学び直しを考えている全てのビジネスマンにとって、明日からそのまま真似できる(再現性の高い)タイムマネジメントの教科書だ。環境や才能のせいにする言い訳を、見事に封じ込めてくれる。
私は本書を全編読み終えたその夜、思わず本棚から古い技術書を引っ張り出し、気づけば2時間ほどノートをとっていた。いつの間にか効率や安定ばかりを優先していた自分に気づかされ、定年後の「第二の開業」に向けて、もう一度学びのギヤを入れ直そうという具体的な行動変容が起きたのだ。同じ大学の国語科出身で、現在は日本語教師として言葉に厳しい妻も、本書の持つ、飾らない臨場感ある文章の力には「これは一気に読ませるね」と深く感銘を受けていた。
「もう遅い」ということは、人生において何一つない。30代の挑戦者はもちろん、40代、50代を迎え、心のどこかに「もうひと花咲かせたい」という燻る想いを抱えているすべての人に、強くお薦めしたい名作である。

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