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【創作大賞感想】⑮『あのカレーじゃなきゃダメだった』を読んで

今回読んだ作品はこれです。

同じくnote創作大賞のフード部門に応募している縁もあり、ふと目に留まって読み始めた作品だったが、気づけば50代後半の男である私の、最も記憶の奥底にある感情を揺さぶられていた。
私には、がんサバイバーとしての過去がある。今でも定期検診のために病院へ通うが、あの独特の緊迫感から解放された帰り道は、いつも何とも言えない孤独感と、妙に乾いた空腹感に襲われる。そんな時、吸い込まれるように入った喫茶店で食べたランチの味と、本作に描かれている「カレー」を巡る心の機微が、驚くほど見事に重なり合った。

ネットに溢れるフードエッセイは、単に「美味しい店」を紹介するだけの無機質なグルメレポートになりがちだ。私自身、闘病を経験してからは、食を単なる物質的な栄養補給としてしか捉えられない瞬間があり、どこか心を満たしてくれる「言葉」に飢えていた。

本作を読み終えた瞬間、当時の病院帰りに立ち寄った喫茶店のスパイスの香りが、まるで昨日のことのように鮮烈によみがえってきた。張り詰めていた心がすっと軽くなるのを感じ、私はすぐにスマートフォンの画面を開いた。そして、いつも心配をかけている妻へ、「今度の検査の帰り、あの店のカレーを久しぶりに二人で食べに行かないか」と、文字通り30秒でメッセージを送っていた。

本作が優れているのは、著者の個人的な体験談でありながら、わずか数分で読み切れる短いテキストの中に、読者の個人的な記憶を呼び起こす「トリガー」が巧妙に仕込まれている点だ。サラリーマンとして長年書類を読んできたが、これほど無駄がなく、かつ感情の解像度が高い文章には滅多に出会えない。

誰にでも、「あの時、あの場所で、あの料理じゃなきゃダメだった」という瞬間が必ずあるはずだ。特に、人生の大きな転機や、張り詰めた状況を乗り越えた経験を持つ人なら、本作に描かれる「食と感情の結びつき」に深く共感できるだろう。次に病院へ行く時、私はきっと、これまでとは少し違う温かい気持ちで、あの喫茶店の扉を叩くことになるはずだ。
一過性のグルメ情報ではなく、読み手の人生に寄り添う、確かな力を持ったフードエッセイとして、広く一読をお勧めしたい。

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