【短編小説】怪獣の襲来で変わることある?働き方
7月に入ったばかりだというのに、灼熱地獄のような日本列島。
暑すぎるのかセミの鳴き声すら聞こえてこない。
聞こえてくるのは、選挙カーから候補者の名前を連呼する爽やかな声が一番響きわたる。
3月以来の東京出張に新幹線の乗り心地が良くてうたた寝していたら、もう上野駅に到着、つぎは東京駅だ近いからゆっくり走るから車窓からの眺めていても人の動きが分かるし、人が近くに感じる区間。
地下の上野駅から地上に出ると神田から大手町の高層ビル群に景色が変わる。
東京駅から丸の内に改札を出て行くと駅前広場が広がる。ここには多くの外国人観光客が木陰に身を寄せ合い日差しを避けつつ東京駅を眺めている。
「東京も暑いな。」ぽつりと独り言、誰にも気付かれない。
「はぁ~」と諦めのため息がでるが、息苦しさを解消する深呼吸がわりのため息だ。
湿気が高い中、日差しを浴びているとすぐに額から汗があふれんばかりに顔を覆い、その汗はメガネのレンズにまでしたたり落ちるほど、さらに体の毛穴が開くのが分かるくらい汗が服に吸い込まれていくのを感じた。
(やばい汗が止まらない。地下街を歩かないとヤバい。でも、皇居がみたい。)
私は、皇居のほうに信号を渡り直進し、お掘りのほとりを和田倉門そして平将門公首塚と歩いて汗だくとなった。
東京駅から和田倉門まで10分程度かかった。
地下街を歩けば良かったと後悔したが、お上りさんは見たいのだ皇居を。
やっと本社につき、生き返る涼しさ。爽やかな笑顔の受付嬢を見ながら、彼女の受付窓口で入館証をもらい、いざエレベーターホールへ。
エレベーターホールで待つ東京の会社員は、田舎の会社員より精錬され、流行に乗るのも早そうに見えてしまう。
エレベーターのドアが開き32階のボタンを押し、ドアが閉まってからは階数表示をただ追う時間。一人でエレベーターに乗り込むと「やり場のなさ」で、この行動になる。
32階は会議室フロアになっている。
ここにも受付があるが、会議通知に部屋番号があるので、特に話しかけずに素通り。
まだ、会議まで時間があるので、お上りさんとしてはビルからの眺めが楽しみなもんだ。
このビルからはスカイツリー、皇居、羽田空港に向かう飛行機を眺めることができる。
(いつもながら良い眺め。東京タワーより低く、より近くに眼下に行き交う車や人、建物も近い。)
ビルの間から飛行機が顔を出しゆっくり飛行する先に、東京湾に出来た入道雲がモクモクと大きくなっていく。
今日の会議は、この本社移転。
7月に入り毎日何処かで短時間のゲリラ豪雨に被災している。
あの入道雲もこれから雨を降らすのだろうと、眺めていると白く見えていた入道雲は、黒ずみ、こちらからも分かるほどの稲光が閃光のように飛び交っていた。
その時、雲の中から翼竜が姿を表し、我々の方に火炎を放射した。
「へっ」
ここからはまだ遠くの街が炎とともに爆発したように見えた。
「ウソだろ。」
(ニュースでは、時より伝えてくる怪獣が現れるなんて、運が悪い。悪くて死ぬ。良くてケガはする。)
いつの間にか翼竜は、私の頭上を飛び去り、ビルがゆれた。
被害が拡大する予感とともに、一目散に32階からエレベーターを使いビルをでなければと自然に体が動いた。
エレベーターホールで、下行のボタンを連打してもすぐは来ない。他に5基あるエレベーターのボタンを押した。
上階層のおかげで、気分的には数十分かかってきた感じだが、5基のボタンを押しているうちに、一つのエレベーターのドアが開いた。
まだ、気が付いている人は少ないのか、ノンストップで1階にたどり着きエレベーターのドアが静かに、空いた途端に静寂はかき消され、
「早く、早く」と不安を声に乗せて叫び声や
「落ち着いて、誘導に従って」と警備員さんも冷静さを装うように声が上がっていた。
しかし、ゆっくりと整然に、ビルの外に向かう人々がここにはいる。
「早く」と急かすのは、たまたまこのビルにいた地方から来た人達だろう。
視線もキョロキョロしている。
慣れている人は、方向が定まっているし、ヘルメットをかぶっている。
やっとあの灼熱地獄の外に出た。
まだ、焦げ臭い臭いもない。
どこに向かって行くのが正解か分からない。人の流れに身を任せるように小走りに走り、皇居の方へ。
(江戸城の本丸跡の周辺は開けた公園だ。ガレキの下敷きや火事も無いはずだ。)
そう理解して走った。
公園まで階段にもつまずかずに走りきった。
周りはビルから出る時のように、周りを見渡しながら翼竜の去るのを待っている。
「なんて運が悪いんだ。たまたま今日、ここに来ただけで」
本社移転は、自然災害の頻度や大きさが増しただけではない。
怪獣が、現れだしたからだ。
なぜか、東京のような都市にだけ、世界中で現れている。
そんな危ないところに本社を置けないという理由だ。役員達は、すでに各々地方に移住し、業務はWEB会議で済ませている。
役員は、自らのリスクヘッジが良く取れているもんだ。
社員は、危険な場所で仕事をしている。
取引先、お客様がいる場所から離れられない。
いや、本社機能をすぐに移転できる場所の選定や働き方を選択する判断が役員にできないからだ。
その判断をしに東京に来て、「これじゃ」と苦笑いしかでない。
落ち着いて空を見上げると翼竜が新宿方面や品川方面にも火焔を放射しているようだった。
そんな時、
【テテテ テテテ テテテ・テテテ】
とゴジラの出現を匂わせる名曲が辺り一面中?いや頭の中で響き渡る。
心躍るような、はたまた、そわそわとした「どうしよう。どこに逃げれば」と危険を察知する私。
東京湾の方から火事で発生した煙の合間に「がぁオー」と勇ましい声を荒ぶりながらあの怪獣ゴジラの顔が現れた。
と、映画で見る風景が目前に迫る。多分、上陸した街はガレキが飛び交い、道にも降り注ぐ残がい、ビルの窓ガラス、つぶれた車、逃げ惑う人々、出てきた時にはもう逃げ場はない。そんな惨状が想像できた。
ドーン、ド~ン、ドンと一歩ずつ近づいてくる。
いや、そんな生易しいものではない、迫ってくる。
「一歩近づくとともに何十メートルちかづいているんだ。1キロメートル進むのに、40歩あれば来てしまうのではないか」と思うくらい大きく見えてくる。
足音がするたびに、地震の縦揺れと台風のような風圧を身体に感じ、近くに生えている街路樹にしがみつくしか無い。
街路樹の下は日陰になっていて、他の人にとられたくない場所でもあり、しがみついた。
翼竜よりゴジラの方がビルをなぎ倒し、車や人を踏み倒しているんじゃないか?被害が拡大しているように煙が立ちこめて見える。
周囲の人々は、ゴジラ出現で正義の味方が来たように、目をキラキラと輝かせ祈っている。なんか異様だな。
破壊しているのは一緒なのに、自分の味方をゴジラだと決めただけじゃないか。
プロレスのヒーローがゴジラ、ヒールが翼竜だ。
悪者が暴れ被害を受けた時に、ゴジラが退治してくれるからヒーローなんだろうな。
ゴジラが出てきた途端、翼竜は何処かへ飛び去った。
ゴジラは、翼竜を探すように周囲を見渡しながら歩き回り、ビルをさらに破壊している。
もう翼竜が来ないことを確認したのかゴジラも去って行った。
皇居に避難している人達も大手町、丸の内は被災しなかったのでビルに戻って行く。避難訓練だったかのようだ。
30代の会社員風の男性は「煙のでている方、ウチの方だな。やられてないかな?」
知り合いなのだろう。
「お前んち、ウィークリーマンションだろ。管理会社聞いてみたら、被害あったら空き聞いてみなよ。」
「被害があったら、また服買い直しと、転居届け出さないと面倒だな」
「住所は、田舎の実家にしとけばいいのに、俺は移転済み。」
そっか。自宅の届けと住所届けの乖離も通勤手当とかで考慮しないと
この短時間に、この異様に慣れ私までこの事態を冷静に見ている。
「ミーン、ミーン、ミー」と蝉の声が聞こえてきた。皇居は、自然がいっぱいだな。
会社に戻り会議が始まったが、本社の移転ありきの議論の中で移転先は雲をつかむような空論となりつつあった。議論尽くされたところで、
「みんな覚悟を決めよう。本社は、東京。
地方に移転すると地方にも怪獣が出現する場所が出来てしまう可能性がある。危険はいつやってくるか分からない。
この本社には、機能、役割、什器そしてここに通える社員がいる。
社員の転居は、社員の退職や単身赴任を増加させる。
今起きている災害に伴う働き方に、会社の規則を合わせ、手当てなどの見直しをする方向で、役員会で協議していただこう。」と切り出し、参集者は「現状維持でも良かったんだ」という呆気と安堵が交錯し、皆の合意形成が出来ていた。
怪獣の出現は、死傷する原因を増やしただけ、過去にも飛行機や自動車の登場で人の死傷する原因が増えたのと同様で、この原因で死傷するのは偶然で、運が悪いくらいの感覚が、東京に住む人達には根付いた。
会社のビルから東京駅までは、地下通路を歩いた。
思ったより通行人はいない。
案内表示がお上りさんには分かりづらい。
足早に歩き東京駅に着き、出発が早い新幹線に飛び乗った。また、怪獣が現れたら帰宅困難者になりかねない。
帰りの新幹線のテロップに、政府から立て続くゲリラ豪雨に起因する水害、地震そして怪獣の襲来による国の行政執行を継続するため、行政府の一部を地方に移転することが発表された。
移転先の条件は、首都東京近郊であり、新幹線等で2時間以内に内閣府に参集可能、災害が少ない地域とされ、例として
1.財務省 埼玉県
2.外務省 茨城県
3.文部科学省 栃木県
4.環境省 新潟県
5.国土交通省 神奈川県
どうして選ばれたかな?多分、決めた人の中に歴史や地理好きがいるな。
1.財務省の埼玉県は、和同開珎と渋沢栄一由来だな。
2.外務省の茨城県は、県庁所在地水戸が県内人口1割しかいない県内首位都市と言えないくらい人口分散している。空港・港湾あるし、羽田空港にも行きやすい。
3.文部科学省の栃木県は、日本最古の学校「足利学校」や日本考古学発祥の地「下侍塚古墳」があったり、百人一首のゆかりのある宇都宮かな。
4.環境省の新潟県は、緑豊かな感と原子力のバランスをとった。
5.国土交通省の神奈川県は、横浜港などの港湾、羽田空港への近さ、海上保安管区の第三管区が横浜にあるからかな。
こんな歴史と地理的条件だろう。
会社も発祥の地というのもあるが、日本の首都でネイムバリューがある、消費者に近いところ、社員を確保しやすいところとなると東京が選ばれる理由がある。
また、怪獣が破壊し空き地となった場所は、国主導の再開発が行われることも発表された。
地方に移転する会社も、大手だと報道の対象になっている。
ワイドショーなどでは、怪獣襲来の原因をアレヤコレヤと検証している。
環境破壊への警告とか、太古の昔から生存していたとか、何処かの国で実験で作られた人造怪獣とか、実は他の惑星から移住したとか。
想像は尽きない。
夏が過ぎていくとともに、怪獣の出現がかなり減少した。秋は短い、もう冬だ。
いつか怪獣のことを忘れる。でも、忘れたころにやってくるだろう。
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