Hapbeat 活動報告 2026年1月
Hapbeat の山崎です。今月は、常設アトラクションにおける長時間・連日稼働を前提とした安定運用を実現するための改良検討に、多くの時間を充てました。
各種取組は以下のように分類します(無い場合は打ち消し線)。
プロダクト関連:販売するプロダクト開発や進捗など
イベント関連:イベントや展示会への出展報告や準備など
検証・広報・その他:今後の方針に関する検討や広報活動など
プロダクト関連
常設アトラクション用途を想定した改良計画の概要
今月は、常設アトラクションにおける長時間・連日稼働を前提とした安定運用を実現するための改良検討に、多くの時間を充てました。実際に運用を進める中で、常設アトラクションという用途は、個人向けや研究用途とは求められる耐久条件が大きく異なることを改めて実感しています。
特に、1日あたり長時間にわたり連続稼働する点に加え、アトラクション特有の激しい振動表現により、想定以上に稼働部の動きが大きくなります。その結果、これまで主な想定用途としてきた音楽体験と比べても、部材の損耗が早く進む傾向があることが分かってきました。
こうした状況を踏まえ、今後の基本方針としては、
① 耐久性を高めること
② 故障や損耗が発生した際に、顧客側で交換・復旧できる構造にすること
の二点を軸に検討を進めています。特に重要なのは②の「顧客側で交換できる構造」にすることです。
現場での交換が難しい場合、郵送による修理対応が必要となり、迅速に対応したとしても数日間はデバイスを使用できない期間が生じます。個人利用であれば数日使用できないだけで済むため、民生品としては許容範囲だと考えていますが、アトラクション用途では、この停止期間が運営上の大きな制約となります。
この点については、現状の Hapbeat が実は消費者向け仕様であったこと、を十分に理解しないまま、常設アトラクション用に提供してしまったことを反省しています。
仮に一定期間の連日使用に耐えられる設計であったとしても、業務用として提供するには、損耗部について②の「顧客側で交換できる構造」にすることが不可欠であると身に沁みました。そのため最終的には、糸やバネ部などの損耗部全体を、できるだけ簡便な方法で交換できる構造を目指します。
もっとも、これには筐体の再設計が必要となるため、まずは比較的軽微な変更で対応可能な部分から、順次改良を進めています。
以下では、現時点で公開可能かつ見通しが立っている改善項目についてのみ記載し、原因や影響がまだ十分に切り分けられていない事項や、内部構造に関わる詳細については省略します。
また、本記事では検索等による誤解を避けるため、該当アトラクションの具体名称は記載していません。該当アトラクションにおける Hapbeat は、現場スタッフの皆さまの多大なご尽力のもと、現在も安定して運用されています。ご来場の際は、ぜひ安心して体験をお楽しみください!
ボビンの改良【表面粗さを低減:PA12S のテスト】
現時点で最も早く不具合が出やすいのは、トルク機構に使用している丸ゴムです。トルク機構を簡単に説明すると、Hapbeat を首から吊るした際に糸がすべて繰り出されてしまわないよう、糸の繰り出し量を保持するための機構です。

右:Duo 2 での丸ゴム破断の様子。ボビンに巻き取られる部分が破断していることから、ボビン表面の摩擦によって擦り切れていることが推察される。
多くの場合、この丸ゴムが(上図右のように)破断することで、糸が全て繰り出された状態になります。この状態でも振動自体は動作しますが、本来想定している 正転時は「繰り出し」、逆転時は「巻き取り」 という動作にならず、正転・逆転のいずれでも巻き取ってしまう挙動になります。結果として、入力された波形をそのまま振動として出力できなくなり、振動の質が低下します。加えて、糸とボビンの結合部にも余計な負荷がかかるため、最終的にボビンや糸の破断につながる可能性があります。
現在は、トルク機構のゴム部を金属ばねに置き換える改良を進めていますが、短期的な対策として、ボビンの表面粗さをできるだけ滑らかにすることで丸ゴムの損耗を抑える方針を取りました。モーターを DC で駆動させながらヤスリを当てることで、ある程度は効率的に研磨できますが、それでも一定の粗さは残ってしまいます。
そこで、より低摩擦な材料がないか探していたところ、JLCPCB で新たに PA12S という素材が提供されているのを見つけました。PA12S は従来使用してきた PA12 と近い材料ですが、PA12 より表面が滑らかで、剛性が高いとのことです。一方で靭性は低めとされており、ある程度の変形を必要とする部位には適性が低い可能性があります。
ボビンについては、一度圧入できれば靭性は(おそらく)大きな要件ではありません。むしろ低摩擦であることのメリットが大きそうなので、まずは試作として早速発注してみました。

実際にプリントしてみると、確かに表面の滑らかさに明確な違いがありました。PA12 が「ざらざら」なのに対し、PA12S は「すべすべ」と形容できるほどの差があります。これであれば、摩擦起因による丸ゴムの損耗は大幅に改善できそうです。
一方で、仕上がり寸法については予想以上に差が出ました。設計時のCAD 寸法に対して PA12 は収縮傾向なのに対し、PA12S は膨張傾向に見えます。ざっくり言うと、PA12S では
穴(凹部):CAD 寸法より -0.2 mm 程度
外形(凸部):CAD 寸法より +0.2〜0.3 mm 程度
になる印象です。なお、塗装の有無による違いは、今回の範囲では見られませんでした。参考までに計測結果を以下の表にまとめます。
これらを踏まえ、しばらくは PA12 のボビンを研磨して運用しつつ、PA12Sが、順次置き換えていこうと思います。
表:それぞれの実寸値(mm)
$$
\def\arraystretch{1.2}
\begin{array}{lrrrr}
\text{寸法部名称} & \text{CAD寸法} & \text{PA12} & \text{PA12S-灰} & \text{PA12S-黒} \cr \hline
\text{ゴム穴径} & 1.7 & 1.8 & 1.5 & 1.5 \cr
\text{糸穴径} & 0.8 & 1.0 & 0.5 & 0.6 \cr
\text{軸穴 円-平部} & 1.194 & 1.2 & 1.05 & 0.9 \cr
\text{軸穴径} & 1.325 & 1.6 & 1.35 & 1.35 \cr
\text{ゴム部内径} & 0.25 & 8.2 & 8.35 & 8.35 \cr
\text{糸部内径} & 2.925 & 2.9 & 3.1 & 3.05 \cr
\text{イモネジ下穴} & 0.7 & 0.85 & 0.6 & 0.6 \cr
\text{糸フランジ径} & 6.8 & 6.75 & 7.1 & 7.1 \cr
\text{ゴムフランジ径} & 10.25 & 10.1 & 10.4 & 10.4 \cr
\text{ボビン全長} & 11.3 & 11.35 & 11.5 & 11.5 \cr
\text{フランジ厚み} & 0.8 & 0.7 & 1.0 & 1.0 \cr
\end{array}
$$
結合部品の改良【交換可能構造への変更】
Hapbeat 本体とリボンを結合する部品について、爪部分が破損してしまう個体がいくつか確認されました。発生頻度は、前述の丸ゴム破断と比べると少ないものの、この部位が破損すると使用自体ができなくなるため、影響としては無視できない問題です。
手元での実使用では破損が発生していなかったこともあり、これまで大きな問題として認識していませんでした。しかし、アトラクション運用においては、使用頻度の高さや、現場特有の取り扱い条件などが影響している可能性があり、結果として破損が生じているものと考えています。
この点については、結合部の耐久性を高めるために設計そのものを変更するよりも、破損時に交換できる構造にする方が対応として容易だったため、まずは交換可能な構造への変更に着手しました。
Hapbeat 側のパーツについては、以下のように糸を後から通せるスリットを追加するだけで、交換対応が可能になります。


現状では、中央に設けた直線スリットのものが、交換のしやすさと、使用中に外れにくいという点の両立が見込めるため、暫定的にこの形状を採用する予定です。
ただし、万が一、自然に外れてしまう事例が確認された場合には、右側に示しているコの字型スリットへの変更も検討しています(現在開発中)。
いずれの形状が最適かについては、今後も現場の方々とコミュニケーションを取りながら、運用状況を踏まえて決定していきたいと考えています。
リボンユニット側についても同様に、下図のように交換できる構造へ修正しました。
片持ち梁のため強度面はやや不安がありましたが、リボンを通した状態で、壊すつもりで思いっきり引っ張ってみても破断には至らず、わずかにたわむ程度で収まりました。そのため、この形状で進めて問題なさそうです。PA12 は想像以上に頑丈で助かります。

上記の対応により、いずれも交換可能となり、この部分については当面、現場に過度な負担をかけずに運用できそうです。
とはいえ、短期間で破損が発生してしまう状況は望ましいものではありません。そこで、同等の機能を維持しつつ、結合部の耐久性を高めるための改善にも、早めに着手していこうと思います。
スイッチ操作のみでの ON/OFF化
現状の Hapbeat は、電源スイッチが ON であり、かつ音声入力ジャックにケーブルが接続されている状態で、本体の電源が ON になる仕様です。これは主に、使用終了時の電源切り忘れを防ぐことを目的としています。
一方で現場運用では、ケーブルがわずかに抜けた状態になった際に、意図せず「抜けた」と判定され、電源が OFF になってしまう事例が発生しています。理想としては、LR が導通しない(音声が途切れる)程度まで抜けた場合で一緒に OFF になるのが望ましいのですが、実際には LR は導通しているにもかかわらず、わずかな抜け具合で「抜けた」と判定されてしまうことがあるようです(個体差あり)。体験中に電源が OFF になると、振動だけでなく音声も止まってしまうため、運用上の影響が大きい問題になります。
幸い、回路上の2点を導通させることで、電気的に「ケーブルが常に接続されている状態」にできるため、修正自体は比較的容易です。オペレーション上、ケーブルの抜き差しが発生しない運用であれば、実質的なデメリットはほぼありません。
ケーブル接続を電源判定に含める設計については、少なくともアトラクション用途では、電源スイッチのみで ON/OFF できる形のほうが望ましいと感じています。個人向けについても、今後の回路更新のタイミングで同機能を省くことを視野に入れています(もちろん、電源の切り忘れ防止に効果があること自体は間違いありませんが)。
これら以外の改修として、以下の改修を検討しています。
丸ゴムを金属ばねに変更
損耗部全体をカートリッジ化し、交換可能に変更
1については、本記事執筆時点でおおよその目処が立っており、あと1か月ほどで実運用に投入できそうです。一方で2については、まだ具体的な見通しが立っておらず、時間がかかりそうです。
これらの改修が一通り完了すると、次のボトルネックはモーターのブラシ摩耗になる見込みです。ブラシ摩耗はこちらで抜本的に寿命を延ばす対応が難しく※、一定期間の稼働後は モーター交換(修理)、または状況によっては 本体の交換・買い替えといった形での対応が中心になると考えています。
個人利用・消費者用途では、現時点でモーター故障の事例はありませんが、常設アトラクションのような連日・長時間稼働では、どの程度の期間で影響が出るかは未知数です(一般に寿命は数千時間と言われるため、まずは1年程度は持ってくれることを期待しています)。
※ブラシレスモーターに変更する選択肢もありますが、回路を根本から見直す必要があり開発工数が大きくなります。そのため、相応の必要性が明確にならない限り、現時点では現実的ではないと判断しています。
イベント関連
【活用事例】TOKYO eスポーツフェスタでの展示

デフリンピックでのスポーツ分野のつながりをきっかけに、TOKYO eスポーツフェスタの展示ブースの一角で Hapbeat をご利用いただきました。今回は触覚コンテンツの制作もご依頼いただき、Virtual Rowing の PR 動画を編集し、ローイングマシンを漕いだ際の「ゴロゴロ」という感覚を Hapbeat で表現しています。
今回は現地に伺うことができませんでしたが、展示員の方のお話では、来場者の皆さまにも楽しんでいただけていたようでした。
使用したPR動画のイメージ(参考)
LODGE XR Talk Vol.35 出展

LODGE XR Talk Vol.35 に出展してきました。今回は CES2026 特別回ということで、主催の @ikkou さんによる報告が中心の回となっています。最近、グラス型ディスプレイがかなりコモディティ化してきたと感じていましたが、まさにその印象を裏付けるような内容でした。
個人的には、映像コンテンツに没入する使い方というよりも、Hapbeat の制作などの作業中に、映像を表示して「ながら見」できる用途に適したデバイスがあると嬉しいと感じています。
ikkou さんが現地レポートをまとめてくださっているので、ぜひご覧ください。
なお展示については良い意味で普段どおりでした。いつも運営ありがとうございます。
検証・広報・その他
XR関連コンテンツ制作会社へのミーテイング
今月は、XR関連コンテンツ制作会社の方々とデモを含めた直接打ち合わせを数件行いました。いずれの方にも強い興味を示していただきました。
実現するかはまだ分かりませんが、うまく進めば、Hapbeat が新たに活用されるケースが生まれそうです。そうした期待とともに、臨場感や没入感を演出するツールとして、Hapbeat にはXR関連コンテンツ制作会社に一定の需要がありそうだと改めて感じました。
その他 事務仕事
8期目の法人決算を終えました。2025年から給与の支払いを始めたことで、新たに必要となる手続きが増え、例年よりも対応に苦労しました。これまでは ChatGPT と freee のアシスタントを頼りに何とか進めてきましたが、今後の効率を考えると、簿記3級程度の知識は身につけておいた方が結果的に早いかもしれない、と感じています。
また、レンタルで1か月以上滞納されていた方に対して、返却を求める内容証明を初めて発行しました。実際にやってみると、Web 上で必要事項を入力するだけで手続き自体は比較的簡単で、費用は1300円ほど、書類の準備も ChatGPT を活用すれば大きな手間にはなりませんでした。
万一ご返却いただけない場合は、支払督促手続きへの移行も視野に入れていましたが、結果的に返却いただけたため、ひとまず安心しました。
2月の予定
イベントでのピッチ・展示2件
ダンスでの動作検証
メカ改良続き
Bluetooth 版開発着手
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