夏の1コマ|海を緑に塗った子と、締切を破った私
こんにちは、空波(そらなみ)です
実を言うとわたし、“テーマのない作文が小学校の時から大の苦手”、何度も白紙で提出して先生を困らせていました🙏そんな自分でも、今ではAI執事とnote執筆中です
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木漏れ日の下、青いアイスと少しだけ道を外れた夏。
「おじさんも、家出ですか?」
青いアイスを口に運びかけたまま、私は固まった。
声の主は、小学校低学年くらいの男の子だった。黄色い帽子をかぶり、画用紙の入ったバッグを抱えている。私の返事を待たず、ベンチの端に座った。
「私、そんなふうに見える?」
「平日の昼に、公園でひとりでアイス食べてるから」
反論できなかった。
その日の私は、正午締切の原稿を放り出して公園にいた。テーマは「夏の思い出」。爽やかで、懐かしくて、読後に少し元気が出る文章を、と頼まれていた。

ところが私の夏といえば、冷房の効いた部屋でパソコンを見つめるばかり。スマートウォッチが11時41分を示した瞬間、頭より先に身体が逃げた。白い長袖のままコンビニへ行き、ソーダ味のアイスを買った。
家出と呼ぶには、あまりに近場だった。
「おじさんは、何から逃げてきたの?」
「書けない文章」
「文章って逃げるの?」
「追いかけると、逃げる。こっちが焦るほど速くなる」
男の子は少し考えてから、当然のように言った。
「じゃあ、追いかけなきゃいいじゃん」
子どもは、ときどき乱暴なくらい正しい。

左手首が震えた。編集者からのメッセージだった。〈進捗いかがでしょうか〉。この一文ほど、進捗がない人間を追い詰める文章はない。私は画面を手のひらで隠した。
「見ないの?」
「今見たら、夏が終わるから」
「まだ昼だよ」
「大人の夏は、締切で終わるんだ」
男の子は気の毒そうに私を見た。そんな目で見られるとは思わなかった。
「君は、どうして家出を?」
男の子はバッグから一枚の絵を出した。画用紙いっぱいに、緑色の海が描かれている。空には紫の太陽。砂浜には、脚が七本あるタコらしき生き物。
「海を緑にしたら、違うって言われた」
「誰に?」
「お母さん。海は青でしょ、って」
男の子は頬をふくらませた。
「でも、この前見た海は緑だった。曇ってて、わかめのお味噌汁みたいな色だった」
私は笑いかけて、やめた。本人は真剣だった。
たしかに海は、いつも青いわけではない。空だって紫になるし、タコの脚が一本足りない日も、絵の中にならあるかもしれない。
「それで飛び出してきたの?」
男の子は急に目をそらした。
「……絵の具の水も、こぼした」
「どこに?」
「お母さんのパソコン」
緑の海だけが原因ではなさそうだった。

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