「もう家に帰れないかもしれない」──千葉豪雨、私は水没しかけた車の中にいた
こんにちは、空波(そらなみ)です
実を言うとわたし、“テーマのない作文が小学校の時から大の苦手”、何度も白紙で提出して先生を困らせていました🙏そんな自分でも、今ではAI執事とnote執筆中です
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※今回の千葉豪雨で被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
「危ないから、バックして!」
雨音を突き破るように、男の人の声が飛んできた。
その人の後ろでは、ついさっきまで私の前を走っていた車が、水の中で動かなくなっていた。
ほんの数十秒前まで、そこはただの道路だった。
その夜、私は初めて思った。
もう、家に帰れないかもしれない。
はじまりは、「ちょっと雨が強いな」だった
あの日、私は成田方面から東京方面へ車を走らせていた。
時刻は18時を過ぎた頃だったと思う。
最初は、いつもの大雨とそれほど変わらなかった。
「今日はずいぶん降るなぁ…」
口に出したのも、その程度の言葉だった。
自宅までの道のりは、何度も走ったことがある。ナビを見なくても、身体が勝手にハンドルを切ってくれるような道だ。
ところが、雨脚は少しずつ、しかし確実におかしくなっていった。

フロントガラスを叩く雨粒が、ぱらぱら、ではなく、ばらばらと硬い音を立てる。ワイパーを一段上げ、もう一段上げ、ついにはMAXにした。
それでも、前が見えない。
ヘッドライトの光は雨の壁に跳ね返され、道路の先が白く煙っていた。見慣れたはずの景色が、数メートル先から消えていく。
私は、何度もハンドルを握り直した。
それでも、このときはまだ思っていた。
ゆっくり走れば何とかなる。

ワイパーをMAXにしても、道路の先が見えなくなっていった。
「まだ行ける」という言葉は、ときどき、自分を落ち着かせるための言葉になる。
そして、ときどき、逃げ遅れるための言葉にもなる。
目の前の車が、道路から消えた
異変は、突然だった。
前を走っていた車が、そのまま水のたまった場所へ入っていった。
水しぶきが上がる。
次の瞬間、車の速度が落ちた。
止まった。
いや、止まったのではない。
傾いたのだ。
さっきまで見えていた後輪が水に隠れ、車体がみるみる低くなっていく。道路だと思っていた場所が、すでに車を飲み込む深さになっていた。
運転席から、男の人が慌てて出てきた。
激しい雨の中、こちらへ振り向く。そして腕を大きく振りながら叫んだ。
「危ないから、バックして!」
その声で、頭の中の何かが切り替わった。
雨が強い、ではない。
運転しづらい、でもない。
ここにいたら私の車も沈む…。

目の前の車が沈み、運転手が「危ないから、バックして!」と叫んだ。
ついさっきまで、私は「自宅までどのルートで行くか」を考えていた。
その瞬間から考えることは、たった一つになった。
どうすれば、ここから生きて出られるか。
「今夜は帰れない」が、急に現実になった
暗闇の中、バックしようとした。
けれど、後ろの状況もよく見えない。雨は弱まる気配がなく、どの道が通れて、どの道がすでに水の底なのかも分からなかった。
進めない。
簡単には戻れない。
車内には、ワイパーが往復する音だけが響いていた。
ギュッ、ギュッ。
右へ、左へ。
必死に動いているのに、視界はほとんど開けない。
「もう今夜は、家に帰れないかもしれない」
そう考えた途端、自宅という場所がひどく遠く感じられた。
玄関の明かりも、いつもの椅子も、服を脱いでほっと息をつく瞬間も、全部が別の世界にあるようだった。
もし、この車まで止まったら。
もし、水位がさらに上がったら。
果たして、このドアは開くのか?
考えたくない場面ほど、頭の中では鮮明になる。
私はブレーキペダルをぎゅっと踏みつけながら、真っ暗闇の中で目を凝らした。
次の選択は、急がなければならない。
でも、絶対に答えを間違えてはいけない。
その極限状態の真ん中に、車ごと取り残されていた。
私が選んだのは、正解ではなく「一か八か」だった
そのとき、後方にいた一台のワゴン車が急に動き出した。
冠水した道路へ、ゆっくりと入っていく。
その場にいた全員が息を止めて、その車の動向を見ていた。
止まるか。
沈むか。
それとも、抜けられるのか…。
車は水を押し分けながら、向こう側へ少しずつ前進している様に見えた。
私は、「よし…!」と、その後についていくことにした。
これは、誰かに勧められる判断ではない。水深も、車高も、流れの強さも車種によって違うから、自分の車も通れるとは限らない。
けれど、あの場にいた私は、前にも後ろにも簡単には動けず、「ここにとどまること」もまた危険だと感じていた。
ハンドルを握る手に力を込めた。
ゆっくり進む。
水がタイヤに当たる。
車体の下で、普段は聞かない音がする。
前の車のテールランプだけを見た。
赤い光が、雨と水面の中で揺れていた。
頼むから、消えないでくれ。
揺れる赤いテールランプだけが頼りだった。

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