どらえもんにAEDが出た日
子どものころ、交番といえば小さな箱のような建物である。
地図を見せてもらったり、道を聞いたり、たまに落とし物が届けられたりする場所。
つまり、わりと平和な場所だ。
そんな交番に、ある日ジャイアンが立っている。
しかも警察官の制服で。
これは何かというと、もちろん
ドラえもん
の話である。
「ジャイアンが警察官!?」
というだけで、すでに世界観が少しぐらぐらしているのだが、その回ではのび太たちが警察官を体験することになる。
ドラえもんが出したのは「おためし交番セット」。
勤務表に名前を書くと、その日だけ警察官として扱われるという、いかにもドラえもんらしい道具だ。
のび太巡査。
スネ夫巡査。
しずか巡査。
そして、ジャイアン警部。
町の治安は大丈夫なのか、と視聴者のほうが少し心配になる布陣である。
ところが、交番の中にあるものを見て、僕は別の意味で驚いた。
AEDが置いてあったのである。
アニメの小さな交番の中に、
ちゃんとAEDが描かれている。
いや、もちろん現実の交番にもAEDはある。
むしろ置いてあるほうが普通だ。
しかし、ドラえもんの世界でそれを見ると、
なぜか少し胸がざわつく。
だってドラえもんである。
四次元ポケットのほうが主役の世界だ。
タイムマシンがあり、どこでもドアがあり、タケコプターがある。
なのに、そこにあるのは未来の超道具ではなく、
現実のAEDなのである。
なんだか不思議だ。
未来の道具よりも、
今この街に本当に置いてある道具のほうが、
あの世界に静かに混ざっている。
考えてみれば、ドラえもんは昔からそういう漫画だった。
宇宙にも行くし、過去にも行く。
でも帰ってくるのは、いつも同じ町だ。
空き地があり、
土管があり、
交番があり、
そこにジャイアンがいる。
そしてその交番の中に、
AEDがある。
つまりAEDは、もう
ドラえもんの町に置いてあっても違和感のない道具になったということだ。
これは、ちょっとすごいことである。
未来の道具ではない。
奇跡の装置でもない。
ただそこにあるだけの箱。
でも、その箱が必要になる瞬間、
その場にいる誰かがヒーローになる。
もしかするとその日、
交番の前を通るのはのび太かもしれないし、
ジャイアンかもしれない。
あるいは、テレビを見ている僕たちかもしれない。
ドラえもんの世界にAEDが置いてあるのを見て、
そんなことを思った。
交番の隅にある、小さな箱。
未来の道具より、
ちょっとだけ現実に近いヒーローの道具である。
