それでも、人に産まれて良かった
初日に鬼滅の刃を鑑賞してきた。
前日からソワソワして落ち着かなかった。
最速上映に行ける訳でもないのに12:00が刻一刻と近づくにつれて心臓の鼓動が早くなった。
鬼滅の刃との出会いは高校3年生の時。
お陰で中々話したことのなかったクラスメイトと仲良くなり、卒業を間近に控えてよく話すようになった。
毎週の月曜日が来る度に必死で最新話を追いかけていた。
大学に入学してからも初めてできた友達とは鬼滅の刃のおかげで仲良くなれたと言っても過言では無い。
元々、自分から話しかけていくことが苦手な私だが好きなことの話ならいくらでも話せるらしい。
この友達とは無限列車編公開日の際も初日に鑑賞しに行ったのだ。
漠然としていた夢が鮮明にくっきりとして、憧れと羨ましさと尊敬とそんな気持ちが心の中でぐるぐると巡りいても立っても居られなかった。
そんな私は苦労の末、小さなアニメーション制作会社に就職した。
アニメ業界に対してはそれ相応の覚悟を持って入った。
仕事は楽しかった。
仕事に対して嫌だと感じたことは一切なかった。
アニメーターさんから上がってきた原画を見ると心が踊った。
小さな会社の中で平静の中で私の心は踊っていた。
少しずつ形を変えて完成に近づいて行く姿を1番傍で支える。
キャラクターたちがこの世界で生きようとしていることに段々と親心のような気持ちも湧いてきたくらいだ。
しかし、人間関係にずっと悩んでいた。
多くを語りはしないが、怒りと疲れが次第に恐怖と焦りに変化していく。
寝ている間にも頭が回っている。
朝が来ることに怖さを覚えた。
金曜日の夜すら月曜日が来てしまうことへの恐怖で喜べなかった。
体調を崩し、身体が重く、そんな状況は自身の担当していた作品が一段落して、作品に向けていた熱量と共に全て消えた。
「もう行けない」と。
今までやりたかったことがなかったことの無い人生だった。
常に目標があり、ひたむきに努力してそれを手にしていく。
初めて「本当に私がやりたかったことはなんだったのだろうか」と分からなくなってしまった。
何も上手くいかないそんな日常の中で遂に7/18を迎えた。
圧巻だった。
言葉にならなかった。
目が離せなかった。
この世界にいきるキャラクターたちの思いを受け止めきれずに私は涙を流すことしか出来なかった。
それと同時に私が勝手に胸打たれたのはこの一作を世に届けるためにここまで情熱気力技術全てを捧げたクリエーターの方々の思いだ。
途方もない時間だ。
この1分1秒1コマへの情熱は全て真剣に向き合った証だった。
一歩引いてしまう気持ちだった。
1000年も続く鬼を討伐する最終局面でありここが最前線、しかしここは今のアニメーション制作の最前線でもあった。
自分があまりにもちっぽけに見える。
自分のこの先の未来を考えて焦る。
私は何かを成し遂げて私を今まで助けてくれた人達に恩返しができるのだろうか。
私の命もだが相手の命もまた無限ではない。
だからこそ焦る。
だからこそ、この時間が尊い。
でも人で産まれたからこそ、私の有限の時間と交わって同じ時代を生きている人、もの、作品と出会えた時「奇跡」だと感じる。
人は一人では生きられない。
人は脆い。
傷ついて、人と比べて自分が何も持っていないことを突きつけられてちっぽけに感じる。
でも、人はタダでは起き上がらない。
傷ついて、尚、人は起き上がる。
人が歩む道はうねって曲がって交わって崖や谷を突きつけられてその度、何故か傷つく前より強くなっている。
今の私はちっぽけかもしれない。
でも、タダでは起き上がらない。
だから人に産まれてこられて幸せだ。
ありがとう奇跡のような155分。
