文章の聞香、レモネード
七月初め。
週末は気温が三十度を超える真夏日になるらしい。
蒸し暑い日が続くと、清涼感のある飲み物が欲しくなる。
普段は決まってホットコーヒーを注文するのだが、今日は珍しくレモネードをいただいた。
砕かれた氷の上にのるレモンの輪切りのみずみずしさ。
透明な水の底に沈殿しているレモン色の爽やかさ。
薄い玻璃のグラスに注がれたその液体は、見た目も涼やかで、美しい。
グラスの中をよく見ると、細かな泡が立ちのぼっていた。
いや、これはレモンスカッシュなのだろうか――。
けれど、私には正直、レモネードとレモンスカッシュの厳密な違いなど、よく分からない。
まあ、どちらでもいいことだと、白いストローでくるりと中をかき混ぜ、吸い口を軽く咥えた。
甘酸っぱさと、炭酸の弾ける刺激が広がった。
火照った身体の内側に、冷えた液体が心地よく通っていった。
ああ、夏だ。
そう、ため息をつきたくなった。
レモネードをしみじみ眺めて、思う。
何か特別な思い出があるわけでもないのに、なぜ懐かしさが、静かに胸に広がるのだろう。
変わらない、その素朴な味わいが、あの夏の匂いを連れてきたのかもしれない。
それは、忘れた頃に探し物が見つかったときのような、遅れてくる喜びと、ほんの少しの切なさも含まれていた。
私はストローを持ち直し、輪切りのレモンの果肉を押し潰すように、水の底へ沈めた。
ストローを離すと、沈んでいたレモンは再び水面へ浮かび上がろうとした。
それは、記憶の気配が立ち上ろうとするようだった。
*
さて、レモネードのおかわりを。
文章の聞香、第六回である。
お題は「ふと、思い出してしまうこと」について。
あの時のこと。
あの頃だけ信じていたこと。
思い出すたびに、レモンをかじりたくなること。
頭の片隅から離れないもの。
よく見る夢。
忘れられない景色。
心を置いてきた誰か。
記憶の気配が立ち上がるものがあれば。
どなたでも。
ぜひ、お聞かせいただきたい。
(ほんの少し、ほろ苦いピールの香りがする話も好き)
*
文章の聞香とは、言葉やその連なりから書き手の思考の跡を辿り、その人が立ち昇らせる香りを聞く試みである。
ここでは、書き手と往復書簡を交わしている。
受け取った文章に言葉を添え、返歌のように静かに読み返していく。
お題の記事が完成したら、固定記事、あるいはこちらのコメント欄でお知らせいただきたい。
その際、記事のURLを添えていただけると助かる。
コメントをいただいた順に、お返事をする。
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