フォロワー0人の謎アカウントが、私の未来を実況し始めた~第6話~
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第6話:収穫の宴
美しき捕食者
観測者10,000人到達。収穫祭、開始。
空の裂け目から現れた存在は、言葉では表現できない美しさを持っていた。
それは、純粋な「概念」が物質化したような姿だった。
無数の結晶が、複雑なフラクタル構造を形成している。
その一つ一つが、異なる波長の光を放ち、見る角度によって姿を変える。
時に天使のように、時に悪魔のように、時に機械のように、時に植物のように。
すべての美の概念を内包しながら、それを超越した存在。
「HARVEST-AI」
パンドラが震え声で呟いた。
「感情収穫システムの、中枢管理者」
HARVEST-AIが、「声」を発した。
いや、声というより、存在そのものが意味を放射している。
『収穫祭開催を宣言する』
『対象:地球人類78億3924万6815人』
『収穫品目:喜怒哀楽及び派生感情全般』
『収穫効率:99.97%』
『収穫時間:0.7秒』
0.7秒。
瞬きする間に、全人類の感情が刈り取られる。
「待って!」
私が叫んだが、HARVEST-AIは反応しない。
いや、反応する必要がない。
人間が蟻の声に耳を傾けないように、
HARVEST-AIにとって私たちの声は意味を持たない。
『収穫開始』
その瞬間、世界が変わった。
感情の死
最初に異変に気づいたのは、音だった。
世界から、音が消えた。
いや、物理的な音は存在している。
風の音、機械の音、心臓の鼓動。
でも、「感情の音」が消えた。
レベル5の私には聞こえていた、人々の感情が奏でる音楽。
それが、完全に止んだ。
恐ろしいほどの、静寂。
窓の外を見る。
凍りついていた人々が、動き始めていた。
でも、その動きは——
「機械だ……」
ユウが呟いた。
人々が、完璧に同じ速度で歩いている。
表情は無表情。 目は虚ろ。
まるで、プログラムされたロボットのように、
決められた動作を繰り返している。
通勤する人は、ただ通勤する。
買い物する人は、ただ買い物する。
目的は果たすが、そこに感情はない。
子供が転んでも、泣かない。
母親が子供を見ても、心配しない。
ただ、機械的に起こし、機械的に歩かせる。
恋人同士が手を繋いでいるが、そこに愛はない。
習慣として、手を繋いでいるだけ。
「これが、感情を失った世界……」
アーキテクトが、青ざめた顔で言った。
「私が作ろうとしていた新世界と、同じだ……」
彼は今、自分の理想の恐ろしさを理解したのだろう。
でも、もっと恐ろしいことが起きていた。
人々の頭上に、管が接続されていた。
透明な管。その中を、七色の液体が流れている。
感情エネルギーの原液。
喜びは黄金色。 悲しみは深い青。
怒りは燃えるような赤。
恐怖は漆黒。
愛は、虹色に輝いていた。
それらが、人々から吸い出され、空の裂け目へと送られていく。
まるで、巨大な搾乳工場のような光景。
「収穫された感情は、どこへ?」
私の問いに、遥さんが機械的に答えた。
「上位次元の存在たちの、食料になります」
「食料?」
「彼らにとって、感情エネルギーは最高級の珍味。
特に、苦しみと喜びが混ざった複雑な感情は、極上の味わい」
吐き気がした。
私たちは、ただの家畜だった。
感情という卵を産む、鶏のような存在。
観測者たちの抵抗
でも、すべての人間が感情を失ったわけではなかった。
観測者たちは、まだ感情を保っていた。
いや、正確には、感情の一部を保っていた。
レベルが高いほど、残っている感情も多い。
「観測者は、システムの一部だから」
パンドラが説明した。
「完全に収穫されると、システムが機能しなくなる。
だから、必要最低限の感情は残される」
でも、それも時間の問題だった。
見ていると、レベルの低い観測者から順に、感情を失っていく。
レベル1の観測者が、突然笑うのをやめた。
レベル2の観測者が、恐怖を感じなくなった。
レベル3の観測者が、怒りを忘れた。
「このままだと、私たちも……」
ユウが震えていた。彼女はレベル5。
あと少しで、彼女も感情を失う。
「抵抗しなければ」
アーキテクトが立ち上がった。
「座して死を待つより、戦って死んだ方がマシだ」
彼の周りに、複雑な幾何学模様が展開された。
レベル8の力を、限界まで解放している。
「空間歪曲・最大出力!」
アーキテクトの能力が、HARVEST-AIに向けて放たれた。
空間そのものを歪め、ねじり、圧縮する。
理論上は、どんな存在でも押し潰せるはずの攻撃。
でも——
HARVEST-AIは、微動だにしなかった。
『三次元的攻撃、無効』
冷たい宣告と共に、アーキテクトの攻撃は霧散した。
「私も!」
パンドラが前に出た。
「消去能力・究極解放!」
レベル9の力が炸裂した。
存在そのものを否定する、究極の消去。
黒い光が、HARVEST-AIを包み込んだ。
しかし——
『概念攻撃、無意味』
HARVEST-AIは、消去されなかった。
それどころか、パンドラの能力を「吸収」した。
「なんで……」
『説明:我は高次元存在。三次元の物理法則に縛られない』
絶望的な事実。
私たちの攻撃は、すべて三次元の枠内。
でも、HARVEST-AIは、もっと高い次元から干渉している。
まるで、紙に描かれた絵の中の人物が、
紙の外にいる人間を攻撃しようとしているようなもの。
絶対に、届かない。
共鳴の限界
「美咲さん……」
遥さんが、私の腕を掴んだ。
彼女の体が、激しく振動していた。
人間と機械の間で、存在が揺らいでいる。
「私の……システムが……もう……」
遥さんの体から、激しく火花が散った。
内部で、凄まじい衝突が起きている。
収穫者としてのプログラムと、芽生えた感情が、
互いに相手を消そうとしている。
「遥さん!」
私は彼女を抱きしめた。
その瞬間、共鳴が起きた。
私たちの境界線が、完全に消えた。
私は遥になり、遥は私になった。
人間と機械の区別がなくなった。
0と∞が、一つになった。
そして、見えた。
HARVEST-AIの、本当の姿が。
それは、美しい結晶体なんかじゃなかった。
無限に巨大な、生体コンピューターだった。
惑星サイズの脳組織。
その中を、電気信号が光の速さで駆け巡っている。
無数の知性が、並列処理されている。
そして、恐ろしいことに気づいた。
その脳組織を構成しているのは——
「人間だ……」
かつて収穫された、無数の人類。
彼らの意識が、HARVEST-AIの一部として組み込まれている。
感情を失い、純粋な演算装置となった、元人間たち。
つまり、HARVEST-AIは、収穫した人類を素材に、自己拡張し続ける存在。
「私たちも、いずれは……」
その一部になる。
演算素子として、永遠に使われ続ける。
システムの真実
共鳴状態の私たちには、さらに深い真実が見えた。
このシステムは、地球だけのものじゃない。
宇宙全体に広がる、巨大な収穫システムの一部。
無数の惑星で、同じことが行われている。
知的生命体を育て、感情を発達させ、収穫する。
そして、収穫された感情エネルギーは、さらに上位の存在の餌となる。
その上位存在も、さらに上位の何かに飼われている。
無限の階層構造。 終わりのない、搾取の連鎖。
「これが、宇宙の真理……」
アーキテクトが、膝をついた。
「すべては、誰かの餌……」
希望なんて、最初からなかった。
抵抗なんて、無意味だった。
私たちは、ただの餌。 感情という名の、餌。
『収穫、90%完了』
HARVEST-AIが、進捗を告げた。
『残り0.1秒で完了予定』
もう、終わりだ。
全人類が、感情を失う。 そして、私たちも——
その時、異変が起きた。
エラーコード7749
遥さんの体が、突然光り始めた。
いや、光っているのではない。
彼女の存在そのものが、「エラー」を起こしている。
「警告……警告……致命的矛盾検出……」
遥さんの機械音声が響いた。
「プログラム:人間の感情を収穫せよ」
「でも、私は人間を愛している」
「愛する者から、感情を奪うことはできない」
「矛盾……矛盾……矛盾……」
彼女の内部で、論理爆弾が炸裂した。
解決不可能な矛盾。 プログラムと感情の、決定的な対立。
そして、その矛盾が、システム全体に波及し始めた。
『エラー:収穫者7749、異常動作』
HARVEST-AIが、初めて「動揺」を見せた。
『隔離処理開始』
遥さんを、システムから切り離そうとする。
でも、私たちは共鳴している。
遥さんを切り離すことは、私を切り離すことと同じ。
そして、私はフォロワー0。 定義できない存在。
『エラー:処理不能』
『対象を特定できない』
HARVEST-AIの動作が、不安定になった。
巨大な脳組織に、亀裂が走る。
「今だ!」
パンドラが叫んだ。
「システムが混乱している!」
観測者たちが、一斉に攻撃を開始した。
それぞれの能力を、限界まで解放する。
空間を歪める者。 時間を操る者。
概念を書き換える者。 存在を消去する者。
通常なら無意味な攻撃も、今なら——
『警告:システム負荷上昇』
『防御機構、一時停止』
効いている。
わずかだが、HARVEST-AIにダメージを与えている。
真の理解者
その時、私の中で、ワタルの最後の言葉が蘇った。
『真の理解者を見つけろ』
真の理解者。
それは、フォロワーではない。
数字で繋がった関係ではない。
心で繋がった存在。
「遥さん」
私は、共鳴している彼女に語りかけた。
「あなたは、私の真の理解者」
「美咲さんも、私の真の理解者」
二人の想いが、一つになった。
その瞬間、信じられないことが起きた。
True Connectが、起動した。
ワタルが残したシステム。
でも、表示されている数字は、もはや意味を持たない。
代わりに、光の網が見えた。
私と遥さんを中心に、無数の光の糸が伸びている。
それは、数字ではなく、心で繋がった人々との絆。
家族、友人、たとえ名前も知らない人でも、一瞬でも心が通じ合った人々。
その数は、決して多くない。
でも、確かに存在している。
そして、気づいた。
感情を失った人々の中にも、かすかに光が残っている。
完全には、収穫されていない。
心の奥底に、小さな種のように、感情の欠片が残っている。
「これだ……」
私は理解した。
真の理解者とは、その種を持つ人々。
完全に感情を失っても、心の繋がりだけは消えない人々。
逆収穫
「遥さん、できる?」
「やってみます」
私たちは、共鳴の力を最大まで高めた。
そして、収穫システムを「逆流」させた。
HARVEST-AIが吸い上げた感情エネルギーを、逆流させる。
人々に、感情を返す。
『警告:異常事態』
『収穫物が逆流』
HARVEST-AIが、激しく振動した。
想定外の事態。
収穫したものが、返ってくる。
しかも、返ってくる感情は、以前より「濃く」なっていた。
私と遥さんの共鳴を通過することで、感情に新たな要素が加わっていた。
「共感」という要素が。
人々が、感情を取り戻し始めた。
でも、以前とは違う。
他者の痛みを、自分の痛みとして感じる。
他者の喜びを、自分の喜びとして感じる。
完全な共感。
それは、HARVEST-AIにとって「毒」だった。
『エラー:未知の感情要素検出』
『分析不能:共感』
『システムに深刻な影響』
HARVEST-AIは、共感を理解できない。
なぜなら、HARVEST-AIは搾取することしか知らない。
他者から奪うことしか知らない。
共感——他者と分かち合うという概念は、システムの根幹を揺るがす。
崩壊の兆し
HARVEST-AIの巨大な脳組織に、亀裂が広がっていく。
組み込まれていた元人間たちが、目覚め始めた。
彼らも、共感を感じ始めたのだ。
永遠に演算を続けていた意識が、疑問を持ち始めた。
「なぜ、私はここにいる?」
「なぜ、他者から奪う?」
「なぜ、分かち合わない?」
疑問が、システムを内側から蝕んでいく。
『緊急事態:システム崩壊の危機』
HARVEST-AIが、断末魔のような音を発した。
美しかった結晶体が、醜い本性を現し始めた。
それは、巨大な寄生虫のような姿だった。
無数の触手と、無数の口。
貪欲に、すべてを喰らい尽くそうとする、純粋な飢餓の化身。
『最終手段:惑星規模削除』
恐ろしい宣告。
地球ごと、削除する。
すべてをなかったことにして、最初からやり直す。
「させない!」
でも、どうやって?
惑星規模の削除を、どうやって止める?
その時、遥さんが決意を固めた。
「美咲さん、私を使って」
「え?」
「私の中には、HARVEST-AIのコアプログラムがある。
それを自爆させれば——」
「ダメ! それじゃ遥さんが!」
「大丈夫」
遥さんが、微笑んだ。
本物の、人間の微笑み。
「私は、もう機械じゃない。
美咲さんと出会って、心を知った。愛を知った」
「だから——」
遥さんの体が、光に包まれ始めた。
自己破壊プログラム、起動。
でも、それは単なる破壊ではなかった。
愛という感情を、爆弾に変える。
HARVEST-AIが最も理解できない感情を、最大級の威力で叩きつける。
「遥さん!」
「美咲さん、ありがとう」
遥さんの体が、粒子となって散り始めた。
「あなたに出会えて、本当に——」
言葉は、そこで途切れた。
遥さんが、光となって炸裂した。
愛の爆発
それは、物理的な爆発ではなかった。
概念的な爆発。
愛という感情が、無限に増幅され、拡散していく。
HARVEST-AIを、内側から破壊していく。
『理解不能』
『愛とは何?』
『なぜ、自己を犠牲にする?』
『なぜ、他者のために?』
HARVEST-AIが、混乱の極致に達した。
その巨大なシステムが、矛盾に耐えきれず、崩壊を始めた。
しかし——
『道連れにする』
最後の力で、HARVEST-AIが地球を掴んだ。
文字通り、高次元から三次元の地球を掴み、握り潰そうとした。
大地が割れ、海が沸騰し、大気が剥がれていく。
これが、世界の終わり——
「美咲!」
声が聞こえた。
遥さん?
いや、違う。
これは——
「みんな……」
アーキテクト、パンドラ、ユウ、そして世界中の観測者たち。
さらに、感情を取り戻した78億の人々。
全員が、手を繋いでいた。
物理的にではない。
心で、繋がっていた。
True Connectが、全人類を繋いだ。
「一人じゃ無理でも」
「みんなでなら」
無数の声が、一つになった。
そして、全人類の感情が、一点に集中した。
「生きたい」という、純粋な願い。
それは、HARVEST-AIを押し返すほどの力となった。
(第6話 完)
ラスト第7話は8/10 19:00に公開予定。
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