📘 心理ショートショート#32『さわってはいけない砂』ー片想い文芸部ー
風の強い午後だった。
校舎の隅の渡り廊下で、彼女はひとりで何かを撒いていた。
砂だった。
すくい上げては、さらりと落とす。
リズムよく、まるで呪文みたいに。
「……なにしてるの?」
そう声をかけると、彼女はふっと笑って言った。
「片思いって、あんまり踏み込みすぎると崩れちゃうでしょ?
だから、足元に砂を撒くの。近づいてほしいけど、届きすぎないように」
そんなの、変な理屈だ。
でも、彼女の声には妙に説得力があった。
「みんなに言われるの。男の子の前だけ態度が違うって。あざといよね」
僕は、否定もしなかったけど、頷きもしなかった。
ただ、聞いた。
「それ、本当の君なの?」
彼女は黙って、掌の砂を見つめていた。
「好きになられたくて、どうしていいか分からなくなっただけなんだ」
その声は、どこか泣きそうだった。
僕はそっと、彼女の手をとった。
砂がこぼれ落ちた。
「じゃあ、もう撒かなくていいよ。俺は、そんな君のことが好きなんだ」
彼女の目がふわりと揺れて、笑った。
それはきっと、いちばんやさしい
あざとい。
💬 神楽坂先生のひと言
心の奥で誰かを想うとき、
どうしても“演じる自分”をまとってしまうことがある。
それでも、素のままで触れられた瞬間にこそ、
恋の輪郭は、いちばん美しく立ち上がるんだ。
👩🏫 神楽坂先生について
学園で国語を教える、冷静で理知的な女性教師。
また、心理学のエキスパートでもある。
恋愛相談の名手としても知られ、的確な言葉とちょっとした毒舌で、
生徒たちの“心のモヤ”を言語化してくれる存在。
もうひとつの顔は、匿名作家 綾瀬 心葉(あやせ・ここは)。
心理学とショートショート文学を融合させた物語作家として、
読者の心を5分でほどくショート作品を連載中。
このシリーズは、そんな彼女が“もうひとつの顔”で描く、
心の機微をテーマにしたショートショート集。
曖昧な関係、言えなかったひとこと、読まれなかったメッセージ──
そんな誰にでもある“感情のほつれ”を、物語として静かにすくい取る。
物語の最後には、神楽坂先生からの“ひと言”も。
感情をことばにすることで、少しだけ心が軽くなる。
そんな時間を、あなたにも。
「感情に名前をつけると、心は少しだけ軽くなるのよ」
🔖 シリーズのご案内
この物語は、
📘 「神楽坂先生の心理ショートショート」 シリーズの一編です。
たった5分で、心が少しほどける話。
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片想い文芸部からお題をいただきました。
