映画『ロングウォーク』~フィクションと侮るなかれ~
※以下、かなりネタバレする文章内容です。
注目の俳優陣
◆デヴィッド・ジョンソン……『エイリアン:ロムルス』でアンドロイド役を演じ、アカデミー助演男優賞に選ばれていいと思う程、素晴らしかった。彼の出演が鑑賞の決め手となった。
◆クーパー・ホフマン……ホフマンと聞いてダスティン・ホフマンの息子さんかと思ったが、亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンの方のご子息だった。面影がとても似ていて納得した。
◆マーク・ハミル……『スターウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカーで知られる。最近では同じスティーブン・キング原作の『サンキュー、チャック』にも出演している。『ロングウォーク』では憎らしい少佐役を演じているが、終始サングラスを外さないから誰だかわからない。
現代社会の縮図、デスゲームとしてのロングウォーク
◆戦争で荒廃した近未来のアメリカという時代設定。スティーブン・キングの大学生時代の小説がベースだから、当然脚色されている。政府は社会の閉塞感を取り払うべく、国民参加型のイベント「ロングウォーク」を考案。全米50州から1人ずつ男の若者を募集し、「最後」に残った勝者に大金を約束し、願い事を1つ聞くと言う。女性の参加がいない理由はやがて理解できる。
◆ルールはシンプル。時速3マイル(4.8キロ)以上のペースを崩さず、ひたすら幹線道路を歩き続ける。歩きながらの飲食は許されており、希望すれば飲み物が与えられる。大小の排泄も自由だが立ち止まってはいけない。規定の速度を下回ったら警告を受け、3回警告を受ければ失格となる。警告を受けても1時間3マイル以上のペースを崩さず歩けば1回分の警告が帳消しになる。参加者は50人で、49人目が失格となるまで昼夜ぶっ通しで続く。そして、49人の脱落者・失格者は、監視役の兵士によってその場で銃殺される。
◆これ以上の理不尽はないように思うが、旧日本軍による「バターン死の行進」は実際に起きた類似例だ。物語の参加者は自ら応募した若者だが、応募せざるをえない事情があるからこそ手を挙げたわけで、今も続く世界中の戦争の中で、国によって戦うことを強いられている兵士たちのメタファーとなっている。人間がいかに理不尽で残酷か、歴史が証明しているので、ロングウォークは非現実的とは思えない。
◆そう言えば、先日、日本の国会議員が「経済的に厳しい子どもが自衛隊員に行く」と述べて批判されたが、アメリカも日本も生活や学費のために軍や自衛隊に入隊する若者は実際に多い。自発と強制の境界は曖昧だ。映画はフィクションであっても、デスゲーム=ロングウォーク参加は現実味がある。また、少佐役は拡声器を使って若者たちを煽るが、とてもトランプ氏の話し方と似せているように感じた。暗愚なトランプ政権が誕生し、世界がおかしな方向に進んでいる今、まったく絵空事とは思えない。
◆この不条理な行進の中で、若者たちは互いをライバル視して傷つけ合ってもおかしくない。だが、同じ苦役を課されて、互いの身の上話を聞く内に絆が生じる。まるで『スタンド・バイ・ミー』の4人のようになっていくところが見どころだ。誰が勝者になるのか、そもそも勝者はいるのか。残酷で悲惨な物語だが、製作の意欲と物語の結末は素晴らしかった。『サンキュー、チャック』と甲乙つけがたし。
