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ms_kohn
吉原に咲く桜
「花魁、涼白(すずしろ)花魁。桜が咲いているでございます」
目をキラキラと輝かせた禿の秋乃(あきの)が部屋に入ってきた。
桜が咲く頃になると、吉原にも桜の木が運ばれる。
まだ吉原の春を知らない秋乃にとっては、吉原の桜は初めてだったのだろう。
「昨夜いらした旦那様が言ってたでございます。“吉原で見る夜の桜は、提灯の灯りに照らされ、より美しい。まるで涼白の様だ”って」
秋乃は、客の台詞を話す時、少しだけ声を低くしてその真似をした。涼白は、そんな秋乃を見てクスリとひと笑いした後、煙管を咥え大通りに設(しつら)えられた桜の木へと目を向けた。
吉原の桜の木は、市中に咲く桜とは違った姿を見せる。
市中の桜ならば、月明かりに照らされた、淡く儚げな花明かり。
しかし、楼閣の店先に掲げられる提灯の赤い灯りに照らされた桜は、吉原らしい妖艶な姿。
そしてその役目を終えれば、あの大門から去っていく。
涼白花魁は、今しがた間夫からもらった手紙に目を見た。
「足抜けして、外で夫婦にならねえか?」
涼白は、手紙の文字を愛おしそうに撫でる。
(この手紙につられて、足抜けできたならどんなにいいか……)
涼白は、間夫との将来に思いを馳せるように、目を瞑る。
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