見出し画像

匂いに追いかけられている件

『お前ら、俺の話を聞いてくれ。釣りだって思うやつは、そう思ってくれて構わない。俺、匂いに追いかけられているんだ。』


私が、ネット掲示板のオカルト専用スレッドでそれを見た時に、一瞬で興味が湧いたのは、私自身、匂いというものに敏感だったからかもしれない。
彼は、スレッドを立ち上げたばかりだったのか、時間を掛けて少しずつ自分が置かれている状況を書いていた。


『俺のスペックを書いておく。現在の俺は22歳男。ごくごく平凡で、最近可愛い彼女ができた社会人ルーキーだ。』

“お前のスペックは分かった。惚気もいらん。匂いに追いかけられている件についてはよ。”


どこかの誰かも同じように食いついたようで、彼に早く内容を知らせるように書き込みをしていた。


『すまん。俺、読み専で実際スレッド立てるのこれが初めてで。大抵みんなスペック書いてるから、書かなきゃいけないかなって思って。ノロケは、幸せ真っ盛りな俺からのプレゼントだ(笑)
で、ここからが本題なんだけど。なんで匂いに追いかけられているのか、その匂いとの出会いから話す。少し長くなるが許してくれ。』

[おけ。ゆっくりでいいから詳しくよろ。]


私は、はやる気持ちを押さえつつ、スレ主に対してそう返信した。


『俺がその匂いに出会ったのは、大学に入った年の夏休みだった。大学から県外に出ていた俺は、夏休みに帰省して、地元の友達と遊び惚けていたんだけど、野郎が夏に集まれば、お決まりの肝試しに行ったんだ。隣の県にある有名な心スポまで、友達の車で男4人のむさくるしい小旅行。
とはいえ、高校を卒業してからそれぞれの道に進んだ俺たちは、近況報告をしながら楽しくその心霊スポットまで行った。』

オカルトスレッドでよく見かけるパターンだなと思った私は、途中で話を追う事を中断して、飲み物とお菓子を持ってパソコンの前に戻る。
その間にも話が進んでいたため、私はその間のやり取りを追った。

「なるほど。あの有名な廃病院に向かったわけか」

その病院は、元々精神疾患がある人達が入院するための病院だったが、経営が立ち行かなくなったとかで潰れた。それ以来、新たな買い手もつかず、ずっと放置されていて、肝試しするための格好の餌食となっていた。
ご多分に漏れず、スレ主も夏の夜、男4人で忍び込んだという事だった。


『で、そこに入ってしばらくしてから俺、これまで嗅いだことのない匂いがしてきて。
なんて表現していいのか難しいんだけど、肉が腐った時の、あの強烈な腐敗臭って嗅いだことある?あれに、血の気が引くほど甘ったるい、安い化粧品か香水の匂いをぶちまけた感じ?
鼻を突くような刺激臭がするんだけど、その中に、何かが決定的に間違っているような異様な甘ったるさが混ざっているんだ。ひと嗅きしただけでも、胃の内容物が込み上げてきそうになったんだけど、なんでかその匂いの出どころを確かめたくなってさ。』

“探したのか?”

どこかの誰かが、先を急いているようで先回りをして質問をした。

『探した。でもさ、こんなに強烈な匂いなのに、それを感じているのは俺だけで。他の3人には、その匂いが分からないっていうんだよ。その状況からいくと、絶対3人から離れないほうがいいのに、なんでか、それなら俺一人で探してくるわって言って、なぜか一人探しに行ったんだ。』

[それ、完全に幽霊にロックオンされているやつやん!で、見つけたのか?その正体。]


スレ主は、自分でも読み専と言っているだけあって、なかなか話が進まなかったので、私も先を促すコメントをする。


『俺もそう思うし、正体を見つけたかって言われると、なんとも言い難い。見つけたともいえるし、見つけてないともいえる。』


この主は、勿体つけて話をするのが得意なのかもしれないな。私はそんなことを想いながら、話の続きが書き込まれるのを待った。


『病院の1階に、病室なのか小さな部屋らしいものがあって、そこから匂いがしていたんだ。俺は思い切って、その部屋に入って匂いの出どころを探してみると、部屋の隅に赤黒い塊のようなものが見えて、匂いの原因は、どうやらそれから発せられているもののようだったんだ。俺は、すぐさま他の三人を呼ぶために廊下に出てみんなを呼んだあと、部屋を振り返ると、その塊はなくなっていた。』


おっ!待ってましたな展開。さて、この後どんな流れにするのかしら?
そんな事を思いながら、続きを待つ。


『で、三人と合流して家に帰ってきたんだ。』


いやいやいや。それだけじゃ弱すぎるだろ。私は書き込む。


[病院で遭遇したそれとの詳細はないの?]

『そうなんだ。あの一度きりだったし、その後病院の中を回ってみても、何も起こらなかったし、匂いも薄れていった。』

“なんじゃそりゃ!”


他の誰かが書き込んだものだが、この一言は私のいや、この板を見ている全ての人の気持ちを代弁してくれているだろう。


『まー、待て。ここからが本題なんだよ。匂いとの出会いは、それだけだったんだが、日常生活に戻ってからも、時々あの何とも言えない、腐敗臭と甘さが混ざった嫌な匂いを感じるようになったんだ。』

ここから先は

2,712字

¥ 150

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?