「話せない人」の声をつなぐアプリ——『BeFree』を見て思ったこと
私は、上記の動画を視聴して強い感動と興奮を覚えました。それは、小学5年生の上田蒼大さんが、自らが当事者である場面緘黙症の経験をもとに開発した会話補助アプリ『BeFree』についてプレゼンテーションを行っている映像でした。
上田さんは、緊張や不安のために特定の場面で声が出せなくなる「場面緘黙症」と向き合いながら、「話したいのに話せない」という苦しさをテクノロジーの力で乗り越えようとしています。
プレゼンの中で、上田さんはアプリの機能を紹介しながら、どのようにして「自由に話す」ことを支援できるのかを、丁寧に説明していました。
小学5年生とは思えないその姿勢に、私は胸を打たれました。そしてこのアプリの可能性に、大きな希望を感じずにはいられませんでした。
世の中には、「話したくても話せない」という状況に悩む人がたくさんいます。場面緘黙症のように声は出るけれど、強い緊張で言葉が出てこない、考えがうまくまとまらないなど、さまざまな理由で会話が困難になるケースは珍しくありません。
それは精神的な障害や発達特性の一部として現れることもあれば、一時的な不安やトラウマが原因になることもあるでしょう。
上田さんの『BeFree』は、単に言葉を代わりに表示するツールというだけではなく、「自分の気持ちや考えを、相手にどう伝えるか」という根本的な問題にアプローチしていると感じました。この仕組みが、他のさまざまな困難を抱えた人々にも応用できるようになったら―。
そんなふうに考え始めたとき、私の中に一つの願いが芽生えました。
たとえば、職場でのコミュニケーションに悩む人々がいます。
上司と部下の間でうまく気持ちが伝わらず、誤解が生じたり関係がぎくしゃくしてしまったり。
あるいは、精神科に通院している患者さんが、自分の状態や困りごとをうまく言葉にできず、診察が本来の効果を発揮できないまま終わってしまうこともあります。それどころか、話せないことによるストレスから身体化症状が出たりもしているかもしれません。腹痛、その他の痛み、過呼吸などのパニック症状などなど。
私自身、そういった経験をしてきたことがあり、「本当はこう言いたかったのに」と、後から自己嫌悪に陥ることも少なくありませんでした。
こうした場面に、『BeFree』のようなツールがあったなら、どれだけの人が救われるだろうと思うのです。個々の障害や困難に応じて、あらかじめ自分の考えや伝えたいことを整理し、必要なときにスムーズに伝える。
AIの力を活用して、それぞれに合った表現や選択肢を提示してくれる。そんな未来が訪れれば、「話せない苦しさ」が少しずつ和らいでいくのではないでしょうか。
もちろん、「そんなものに頼ったら、自分で努力する力が失われる」と言う人もいるかもしれません。
でも私は、そうは思いません。このようなツールは「甘え」ではなく、「補助具」です。たとえば、近視の人がメガネをかけて文字を読むように、足が不自由な人が車イスで移動するように、会話が苦手な人にとっての『BeFree』は、“心の車イス”のような存在だと私は感じています。
生きづらさを少しでも減らすために、テクノロジーの力を借りる。それは決して恥ずかしいことではありません。むしろ、自分の困りごとを認識し、工夫しながら社会とつながろうとするその姿勢こそが、誇るべきことだと思います。
上田蒼大さんの挑戦は、きっと同じように苦しんでいるたくさんの子どもや大人たちに勇気を与えてくれるでしょう。そして、研究開発に携わる方々にも、新たなヒントをもたらしてくれるはずです。どうか今後、『BeFree』がより多くの人に届き、さまざまな障害や特性に応じたバージョンが生まれていくことを願ってやみません。
「話せない人が、自由に話せるようになる」――その一歩を踏み出した小さな開発者の姿は、私たちに大切なことを教えてくれているように思います。
