「MERCY/マーシー AI裁判」現代の安楽椅子探偵
近い未来。
犯罪が激増し、裁判と刑の執行を迅速にするためにAIが導入された。
全てのデータはクラウドに接続が義務付けられ、それらを裁判官(AI)と被告人が駆使し、裁判を争うのだ。
もし全て犯罪捜査の証拠とその結果を学習データにすれば、このようなこともできないとは言えなくもない。
見込み捜査や先入観が排除されるので、実は公正なのではないかと考えたりもする。
物語の主な登場人物は2名である。
マーシー裁判所で妻殺しの殺人犯被疑者として拘束されてしまったLAPDの刑事クリス。
そして彼に相対するAI判事、マドックスだ。
クリスはAIが接続する膨大の中から証拠を集め、90分以内に無実を証明しなければ処刑されてしまう。
ミステリーには「安楽椅子探偵」というジャンルがある。
有名な「安楽椅子探偵」としてアガサ・クリスティーのミス・マープルがあげられる。
彼女はセント・メアリ・ミード村にいながら、訪れる人々の話を聞き、事件の真相に辿り着く。
本作も非常に変形されているが「安楽椅子探偵」のフォーマットになっている。
クリスが座っている椅子はどう見ても「安楽」ではないが。
彼は裁判をしている間は、マドックスが接続できる全てのデータにアクセスが可能だ。
ミス・マープルのように情報が訪れてくるのではなく、情報を取りに行く(検索する)というのが現代らしい。
実は事件を解き明かす証拠は隠されているわけではない。
証拠は目の前にある。
しかし、それは膨大な情報の海の中に紛れているのだ。
闇雲に探そうとしても、まさに砂漠の中で一粒の砂を探すようなものだ。
クリスは直感を駆使しながら、大量の情報を篩にかけ、証拠を探し出す。
検索スキル(情報を峻別していくセンス)が勝負の分かれ目となり、現代らしい「安楽椅子探偵」となっている。
またミステリーにはコンビがつきものだ。
古くはホームズとワトソン、ポアロとヘイスティングスなどがあげられるが、本作ではクリスとマドックスもそのようなコンビの一つと言えるかもしれない。
このようなコンビはそれぞれ無いところを補い合う関係になっていることが多い。
ホームズはワトソンの何気ない一言によって事件解決のヒントを得ることも多かった。
本作ではクリスは直感型、そしてマドックスが論理型(AIだから当たり前だが)で、正反対の特性を持っている。
元々予告を見ていた時は、クリスVS AIという対決型で物語が進んでいくと思っていた(「マイノリティ・リポート」のイメージ)。
しかしマドックスはAIでありながら、真理を求めるという目的を持っているため、いつしかクリスと協力しながら、事件の真相究明に協力していく。
さらには論理だけではない、クリスの人間らしい直感的なアプローチに影響を受け、学習をしていくのだ。
人間の刑事とAIの判事というコンビは非常にユニークであり、このコンビで今後もミステリーを展開していける可能性を感じた。
データ化が進む現代、あらゆるものが見える化されてきているが、かえって情報が溢れたが故に見えにくくなってきているとも言える。
溢れかえった情報から何かを見つけ出すには、やはり直感が必要なのかもしれない。
