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まちには「匂い立つ方向」がある|City Sonarを触って、大阪の街の見え方を考えた

街を歩くとき、僕はなるべく細かい道があるところに惹かれる。

大通りよりも、少し奥に入った道。
整いすぎた区画よりも、どこか入り組んだ場所。
チェーン店の看板が並ぶ方向よりも、なんとなく匂い立ちそうな方向。

そういうところにふらっと歩いていくと、大体おもしろいものがある。
まあ、飲むのが好きな人には共通した感覚だと思います。

いい店がある。
変な店がある。
昔からそこにあったような生活の痕跡がある。
誰が使っているのかよく分からないけれど、ちゃんと使われている空間がある。

もちろん毎回当たるわけではない。
でも、歩いているうちに身体が覚えていく感覚がある。

この道は何かありそう。
この角を曲がると少し空気が変わりそう。
この先は観光地ではないけれど、都市の本体に触れられそう。

そういう「なんかいいぞ」の気配を頼りに街を歩いている。

先日、「まちの計量舎」さんが公開されている「City Sonar」を触った。

City Sonarは、駅を中心に、周辺の店舗がどの方向に分布しているのかを放射状に可視化するWebアプリです。
土地勘を可視化するアプリと言ってもいいと思う。

駅を選ぶと駅の周りにある店の集まり方が方角として立ち上がってくる。
300m、600m、900mと距離を切り替えながら見ることもできる。

最初は、単純に「こっち側に店が多いんだな」と眺めていた。

でも、大阪の知っている街をいくつか見ているうちに少し違うことが気になってきた。

当然、大きな商業施設がある方向には「たくさん何かがある」。
梅田やなんばのような場所を見れば、それは分かりやすい。
駅ビル、地下街、百貨店、商業施設。
そこには大量の店舗が集まっている。

でも、City Sonarを触っていて面白かったのは、必ずしも大きな商業施設の方向だけが強いわけではないということだった。

むしろ、大きな商業施設がない方向に、もっと大きな「何か」が集合しているように見えることがある。

それは、商業施設のように一つの大きな箱として存在しているわけではない。
地図上で目立つランドマークでもない。
でも、細かい店や小さな営みが、道の中にじわじわと集まっている。

この感じは、自分が街を歩くときに惹かれているものとかなり近い。

なるべく細かい道があるところ。
匂い立ちそうなところ。
小さな空間や道が入り乱れるところ。

そういう場所には、人の営みが溜まりやすいのだと思う。

大きな商業施設は、たしかに分かりやすい。
どこに何があるかが整理されている。
目的を持って行きやすい。
迷わない。
便利で、強い。

でも、街のおもしろさは、必ずしも分かりやすさの中だけにあるわけではない。

むしろ道の細かさ、店の小ささ、看板の重なり、生活と商いの近さ、古い建物の隙間、少しだけ入りにくい路地。
そういうものが重なった場所に、都市の濃度が生まれる。

City Sonarは、その濃度を直接測っているわけではない。
あくまで店舗の分布を可視化している。

でも触っていると、そこに「都市の匂い」のようなものが浮かび上がってくる。

これは面白いと思った。

ふだん僕たちは、街を検索するとき、目的地を探している。
おいしい店。
評価の高い店。
近くのカフェ。
人気のランチ。
今空いている場所。

でも、街を歩く楽しさは、目的地を探すことだけではない。

「こっちに何かありそう」と思えること。
「この方向はちょっと濃そうだ」と感じられること。
「このあたり、なんかいいぞ」と身体が先に反応すること。

そういう感覚があるから、街は歩ける。

まちの計量舎さんがCity Sonarでやっていることに敬意を感じるのは、データを使いながら、都市を説明しすぎていないところ。

これは「この店に行け」というアプリではない。
「ここが正解です」と教えてくれるものでもない。
もっと手前にある。

駅のまわりにソナーを当てる。
すると、都市の反響が返ってくる。
それを見ながら、自分の中の土地勘と照らし合わせる。

知っている街なら、答え合わせになる。
知らない街なら、歩く前の仮説になる。

この「仮説になる」というところがいい。

僕はよく、都市の価値は人口、地価、人流、売上、効率だけでは測れないと考えています。
その場所で人が何を感じるのか。
どんな関係が生まれるのか。
どんな記憶や行動が立ち上がるのか。
そういうものから都市を見直したい。

それを感性都市論と呼んでいます。

感性は「なんとなく」で終わらせると共有しにくい。
一方で、データだけにすると、都市の手触りが消えてしまう。

だから必要なのは、データと感覚のあいだにある道具なのだと思う。

City Sonarは、その中間にある。

完全な都市評価ではない。
でも、街を歩くための感覚を起動してくれる。
グルメ検索ではない。
でも、いい店に出会う前の「いいお店勘」を育ててくれる。
地図ではある。
でも、地図より少し前にある「気配」を見せてくれる。

個人的には、この先、多くの人がこういうツールを使って「なんかいいぞ」を使いこなせるようになると楽しいと思っている。

観光地を探すのではなく、まちの匂いを探す。
人気店を探すのではなく、営みが集まる方向を探す。
目的地に最短距離で向かうのではなく、ちょっと濃そうな方向に歩いてみる。

そういう街の使い方が、もっと普通になってもいい。

大きな商業施設が都市の顔だとすれば、細かい道に集まる小さな店や営みは、都市の皮膚感覚だと思う。

見えやすいものだけが、都市の価値ではない。
見えにくいけれど、身体が反応してしまうものがある。

City Sonarを触っていて感じたのは、そういうことだった。

まちは、地図で見る前に、匂い立っている。
その匂いを、データで少しだけ見えるようにする。

都市を測ることは、都市を冷たくすることではない。
うまく測れば、むしろ都市の感性をひらくことができる。

City Sonarは、その可能性を感じさせてくれる小さくて、とても楽しい道具だった。

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