バッハ 無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード|フルート・ヴァイオリン・クラリネット・バリトンサックス・チューバ編曲楽譜
フルート・ヴァイオリン・クラリネット・バリトンサックス・チューバのための楽譜、J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV 1007」よりプレリュードを公開しました。ソロの演奏会やレッスン、発表会、SNSへの投稿にどうぞ。楽譜はnoteのメンバーシップで公開しています。
みなさんこんにちは!音楽企画ハーモニーオンは、音楽を通じて人と人がつながる場所。挑戦する人が、安心して学び、発表できる環境を社会に広げていきたいと考えています。
この「楽譜つかい放題プラン」では、オリジナルの楽譜や編曲楽譜と、その曲を深く味わう解説を、毎回ひとつずつお届けしています。楽譜はアンサンブルの練習から発表会、演奏会まで自由にお使いいただけます。
今回お届けするのは——チェロ一本で和声と旋律を同時に鳴らす、あの有名なプレリュードを、5つの楽器それぞれのために移調して編曲した楽譜です。
この曲について
「無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV 1007」より プレリュードは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685–1750)が作曲し、音楽企画ハーモニーオンが5つの独奏楽器のために編曲した楽譜です。
編成:フルート/ヴァイオリン/クラリネット(B♭)/バリトンサックス(E♭)/チューバ 各1本(無伴奏・独奏)
調:楽器ごとに異なります(下記)
構成:全42小節/4分の4拍子
テンポ:♩=72
演奏時間:約2分30秒
楽器調(実音)音域(実音)
フルートイ長調 D4–A6
ヴァイオリンニ長調 G3–D6
クラリネット(B♭)変ロ長調 E♭3–B♭5
バリトンサックス(E♭)変イ長調 D♭2–A♭4
チューバハ長調 F1–C4
原曲はチェロ独奏のためのト長調の作品ですが、今回は楽器ごとに移調先を変えています。フルートは長2度上、ヴァイオリンは完全5度上、クラリネットは短3度上、バリトンサックスは短2度上、チューバは完全5度下——調はばらばらですが、原曲が持つ音域の幅(最低音から最高音まで完全19度)は5種すべてで一音も動かしていません。
この曲の背景
バッハが無伴奏チェロ組曲の6曲を書いたのは、1717年から1723年にかけて、ケーテンの宮廷楽長を務めていた時期だと考えられています。アンナ・マクダレーナ・バッハの手による筆写譜の表紙には、こう記されていました——Suites à Violoncello Solo senza Basso。バス声部を伴わない、チェロ独奏のための組曲。この「senza Basso」の一語が、曲集のすべてを決めています。当時の器楽曲は通奏低音が下から支えるのが当たり前でした。その支えを外すということは、旋律を弾く一本の楽器が、自分で自分の和声を鳴らさなければならないということです。
もうひとつ、この曲集には変わったところがあります。バッハ自身の自筆譜が、どこにも見つかっていないのです。ヴァイオリンのための無伴奏作品には自筆譜が残っているのに、チェロ組曲には残らなかった。私たちが読んでいるのは、複数の筆写譜から復元された姿です。そしてその筆写譜には、強弱記号もボウイングも書かれていません。スラーの位置さえ、資料ごとに食い違う。つまりこの曲は、300年のあいだずっと、奏者が自分で決めながら演奏されてきた曲なのです。
では、チェロ以外の楽器で演奏することはどうなのか。これについては、バッハ本人が答えを残しています。1727年の春から1731年の冬にかけて、バッハは自作のチェロ組曲第5番をリュートのために書き直しました(BWV 995)。しかもハ短調だった原曲を、ト短調へ移調しています。楽器を替え、調を替える——それを作曲者自身がやっている。そしてこの編曲版のほうは、バッハ自身の筆跡で残っているのです。今回の5つの楽譜は、その延長線上にあります。フルートはイ長調、ヴァイオリンはニ長調、クラリネットは変ロ長調、バリトンサックスは変イ長調、チューバはハ長調。ばらばらに見える5つの調は、原曲が持つ音域の幅をひとつも縮めずに、その幅がそのまま収まる場所を楽器ごとに探した結果です。ヴァイオリン版の最低音が開放G弦にぴたりと乗り、バリトンサックス版が楽器の音域を端から端まで使い切るのは、そのためです。
プレリュードは42小節、4分の4拍子。最初の音から最後の和音まで、16分音符が一度も途切れません。休符はひとつもない。けれどこの一本の線を聴いていると、低い音、真ん中の音、高い音が、それぞれ別の声部として耳のなかで結ばれていきます。一度に一音しか出せない楽器に、バッハは和声と旋律を同時に鳴らさせている。曲は主和音を分散した響きから始まり、16小節からの主音のペダルで最初の大きな上昇を迎え、22小節でひとつの頂点に立ちます。そこから先は長い属和音の持続——解決を引き延ばしながら張りつめ、42小節でようやく主和音へ帰る。1889年、カザルスがバルセロナの古書店でこの曲集の楽譜を見つけたとき、それは指の練習曲として扱われていました。12年間ひとりで弾き込み、1936年から録音を始めた彼が世に示したのは、この一本の線が持っていた奥行きでした。
では、その一本の線が5つの楽器の上でどう鳴るのか。ここからは楽譜に沿って、実際の音の動きをご案内します。
各楽器のご案内
5種の楽譜は、音を足しも引きもしていない厳密な移調です。同じ42小節、同じ652個の16分音符が、それぞれの楽器のいちばん据わりのよい高さに置き直されています。調が違えば、同じ音形でもまったく違う色に響きます。
フルート(イ長調/D4–A6)
原曲を長2度上げたイ長調。冒頭の分散和音はA4から始まり、低音域のやわらかい響きで曲が立ち上がります。最低音のD4は楽器のいちばん下のすぐ上。42小節を通じて、フルートがもっともよく歌う帯域を上下に往復していきます。
ヴァイオリン(ニ長調/G3–D6)
完全5度上のニ長調。最低音のG3は開放G弦そのもので、楽器の底に足がついた状態です。原曲がチェロの開放弦を土台にしていたのと同じ関係が、そのままヴァイオリンの上で再現されます。ニ長調は開放弦のD・A・Eが和声の骨格に重なる調でもあり、分散和音が弦の共鳴を引き出します。
クラリネット(B♭)(記譜ハ長調/実音 変ロ長調)
記譜はハ長調、実音は変ロ長調。記譜上の最低音F3は楽器の最低音のすぐ上で、シャリュモー音域の深い響きから曲が始まります。上はC6まで。低音から高音まで音色の表情がはっきり変わるクラリネットでは、42小節のあいだに音域が移っていくこと自体が、そのまま音色の変化として聞こえます。
バリトンサックス(E♭)(記譜ヘ長調/実音 変イ長調)
記譜はヘ長調、実音は変イ長調。記譜上の音域はB♭3からF6——楽器の標準音域を、下の端から上の端まで丸ごと使い切ります。原曲の完全19度がぴたりと収まる場所が、たまたまここだったということです。低音の分散和音は、チェロの原曲にいちばん近い重心を持ちます。
チューバ(ハ長調/F1–C4)
5種のなかで唯一、原曲より低く置かれた版です。完全5度下のハ長調。最低音F1から最高音C4まで、低音楽器が旋律を歌う音域を広く使います。原曲がチェロの最低弦から立ち上がったように、この版も楽器の低いところから始まり、そこから2オクターヴ半を昇っていきます。
吹きどころ・弾きどころ
一本の線に、三つの声部が隠れている
この曲の核心です。16分音符は一列に並んでいますが、そのなかで低い音は低い音どうし、高い音は高い音どうしがつながって聞こえます。冒頭の分散和音でいえば、根音・5度・10度がそれぞれ別の役を持っている。低い音をわずかに長めに、あるいはわずかに重く置くだけで、聴き手の耳のなかに底の声部が残ります。単旋律の楽器で和声を鳴らす——バッハがチェロに求めたことを、そのまま引き受ける場所です。
42小節の呼吸の設計
休符がひとつもないので、息継ぎや弓の返しの場所は奏者が決めることになります。手がかりは和声にあります。16小節から18小節は主音が踏み続けられ、そこから最初の大きな上昇が始まります。22小節が最初の頂点。そして37小節から41小節までの5小節間、属音が鳴り続けたまま解決を待ちます。この3か所の前後で流れの向きが変わるので、そこを目印に大きな息を設計すると、42小節がひとつの弧になります。
書かれていない表情が、そのまま余白になっている
楽譜には強弱記号もアーティキュレーションもありません。これは原典の姿を写したものです。300年間、この曲を弾いてきた人たちは全員、自分でそれを決めてきました。同じ42小節が、奏者の数だけ違う曲になる。5つの楽器それぞれで、どこを立てるか、どこを引くかを試してみてください。
最後の和音は、下から順に
42小節目、初めて和音が現れます。単旋律の楽器のために、楽譜には「下の音から順番に演奏する」と添えてあります。ここまで一本の線で保ってきた和声が、最後にひとつの和音として姿を現す瞬間です。急がず、下の音から順に積み上げてください。
楽譜のダウンロード
この楽譜について
「無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV 1007」より プレリュードは、J.S.バッハの原曲を音楽企画ハーモニーオンが5つの独奏楽器のために編曲したオリジナル編曲楽譜です。
メンバーシップにご参加の方は、次の範囲で自由にお使いいただけます。
個人練習・アンサンブルの練習
発表会・演奏会・コンクールでの演奏
演奏動画のSNS・YouTubeへの投稿
音楽教室・レッスンなどでの配布
演奏・印刷して、どうぞ楽しんでください。
SNSや動画でご紹介いただく際は、概要欄などで「音楽企画ハーモニーオンの楽譜」と一言そえていただけると嬉しいです。
なお、楽譜そのものの販売・転売や、ファイルの再配布はご遠慮ください。
ここから先は
🎵 演奏活動を応援したい、広げたい── そんな思いでこの紹介を続けています。 よければチップでご支援いただけると嬉しいです!
