【掌編小説】告白【ショートショート】
先生。先生は憶えていますか。
近所のレンタルビデオ店の、借りた覚えのないDVDが家で見つかった時、先生はとても驚いたことだろうと思います。
その日のうちに、先生は返却しに行きましたね。お店が閉まっていたから、中身を改めて確認したあとに返却ボックスへと。
けれど、なぜか翌日にはまったく同じビデオがまったく同じ場所にあり、またしても驚いたはずです。それがヒーロー映画だとか国民的人気アニメであれば先生も驚かなかったかもしれませんが、ホラー映画の詰め合わせですから。たぶん、驚きよりも恐怖のほうが強かったかもしれません。
ここまで書けばもうお分かりかと思いますが、あれをやったのは僕です。
先生が慌てふためき家から出てくるのを、僕はずっと見ていました。教室での先生の姿は、トラブルがあっても動じることのない、冷静な姿が印象的でしたのでとても面白かったです。
あと、先生の家の前にエロ本を山積みにしたのも僕です。河原で適当に拾ってきて置いておきました。
ほかにも、先生が来る前にわざとドアノブをこすって静電気を起こしやすくしていたのも、カレンダーをわざと去年のやつに変えたのも、目覚まし時計のアラームを三時にしてわざとそんな時間に起こしたのも、水筒の中身を強炭酸水にしたのも、先生が授業で使う映像データを録画したバラエティ番組にすり替えたのも僕です。
先生。先生は知っていましたか。
僕はいつも優等生と言われていました。でも、僕はそんな優等生じゃないんです。そう振舞っていただけ。いや、そう演じていただけ。
だから、今までにやってきたイタズラも犯人は僕じゃない、と見られてきました。先生はあえて犯人を探さないと仰いましたが、まさか僕だとは思いもしなかったと思います。
教室でのクラスメイトたちの反応は、それはそれはとても滑稽で楽しかった。誰かが疑われているのを見て、ああ、あいつはそういう目で普段から見られてるんだなと内心笑っていました。
それも最初だけだった。
そういう目で見られないというのはたしかにいいことなんでしょう。けれど、つまらなかった。退屈だった。刺激もなにもなかった。
先生。先生の家って広いですね。奥さんと娘さん、とてもいい人でした。
季節の花――あれ、なんていう名前の花なんでしょう。とてもきれいな黄色い花が、テーブルに飾られている花瓶に挿してありました。一輪もらえますかと訊いたら、「いいわよ」と快くいただけました。本当に優しいです。
トイレにある芳香剤もとてもいいにおいがしました。あれなら、嫌なにおいも、消せそうな気がします。
先生。先生は憶えていますか。
学校でいつか、僕は先生の住所を訊ねましたね。あれを僕はずっと覚えていました。先生の家に訪れることができたのはそのためです。
先生、早く帰ってきてあげてください。
奥さんと娘さんが、待ってますよ。
