砂の思い出【毎週ショートショートnote:お題「思い出相続税」】
田原さん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
真っ白な空間で私は目を覚ました。目の前には、巨大な机に向かい、古びた羽ペンを握る黒衣の男が座っていた。
「ようこそ、魂の世界へ。私は記録者。天に召された人々の歩みを一冊の本にまとめている」
彼は分厚い羊皮紙の束を撫でた。表紙には私の名前が刻まれている。その名前の役割が終わった時、その時間に置き去りにしてきた存在が、羊皮紙に刻まれた名よりも私にはずっと大切になっていた。
「私自身の記録はどうでもいい。残された妻は、あれから幸せな人生を送れたのだろうか。彼女の記録を読ませてはくれないか」
私は身を乗り出すようにして、記録者にそう請うた。記録者は羽ペンをインク瓶に置き、静かに私を見据える。
「あなたの大切な人、その歩みを知りたいのか? ならば払ってもらわねば」
冷ややかな声が響く。
「払う……?何を?」
私が戸惑いながら尋ねると、記録者は口元に微かな笑みを浮かべて答えた。
「彼女との一番美しい記憶を一つ頂こう」
やけにはっきり響く声に消され、大切な人の顔が消えていく。朧気になっていく笑顔が、私の名を呼んだ気がした。
--- Fin ----
450字
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