枯れた心に水を注げ:毎週ショートショートnote・お題【蘇生試験】
たらはさん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
若い男が一人、ぼんやりと空を見上げていた。待ち人がいるわけではない。何かを待つわけでもない。世界はほどほどに幸せで、天候もそれなりに張れていて、男がぼんやりと見上げる空も青に覆われていた。
彼は手持ち無沙汰の身を持て余しながら、草繁る小高い丘に腰を下ろす。当てもなく視線を泳がせると、少し離れた場所に一人の女性が立っているのが目に映った。
つぅっと僅かに音がするような気がした。女の横顔がキラリと光る。ひと雫の涙が、その頬を濡らしていた。
「あの……良かったら、これ……」
男は女に差し出していた。鞄の底にしまい忘れていた日傘を。日傘をどうしようというのか、こういう時はハンカチを出すのが普通だろう。自分に呆れながら、男は日傘を女の元へ差し出していた。
「……ありがとうございます」
女は静かに傘の中に入ってきた。そして二人は青空の下、しばし無言のまま、二人で日傘に入っていた。
「相合い傘、ですね。何だか嬉しくなってきました」
女が微笑む。それを見た男の脳裡に、音なき声が響いてくる。
“どうやら合格したようだな。女もお前も、これで生き返ることだろう”
人生に翻弄され道を見失った男女、その蘇生試験はこうして終わりを告げた。そして、微かな恋の芽生えも。
(517字)
よろしくお願い申し上げます。
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