あなたと手をつなぐために。
実験的詩編を綴ってみました。
極力、概念的表現・熟語・漢字を用いずに、何某かが表せるのか。
ともすれば堅苦しさが先に立つ私の殻を破る為の拙い試みです。
よろしければご一読下さいませ。
さようならをしそこねた10年前の冬
さようならと手を振れなくて
てのひらをにぎりこぶしの形にして
ひとりで夜明けを待っていた
朝になって手をひらいたら
にぎりこぶしの形をつくっていた5本の指の
4本がてのひらにくいこんでいて
三日月が四つ てのひらにならんでいた
さようならをしなかった朝の
おひさまは赤くなくて
さようならと手を振れなかった
てのひらだけが赤かった
さようならができなかった私のかわりに
さようならを告げにいってくれた人と
さようならができなかった次の年に会った
さようならをしなくていい人だったから
またね と小さく手を振った
さようならができなかった年の
その次の年に
さようならをしないままで
時間だけがながれていって
いつ さようならをしたらいいのか
わからなくなってしまうほどの
長い時間がすぎていた
さようならを忘れてしまって
さようならを思いだせずにいたら
こんにちは と私に告げる人がいた
さようならをしなかったから
5本の指をにぎらずに
ちいさく片手を振ってみた
手を振った先にいる人も
こんにちは と私に手を振った
さようならができなかった日から
10年がたった年
さようならと言えなかった冬が明け
春が訪れようとする ある日のことだった
いつかはさようならと言わなくてはいけない
生きているのだから しなくてはいけない
そんなことは 知りすぎているけれど
知りすぎてしまったから
もう さようならは 言わずにいようと思う
―あなたと手をつなぐために。
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拙稿をお心のどこかに置いて頂ければ、これ以上の喜びはありません。ありがとうございます。