人なるか、ならざるものか 【毎週ショートショートnote:お題「夜桜系男子」】
田原さん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
夜桜を見にいくぞ。そう誘われた。「行かないか」ではなく、断定で告げるのが、いかにもその人らしい言い方だった。
彼は言う。昼間の桜は好きじゃない、と。見物人が多くてわずらわしい、立てる物音や話し声のせいで、折角の花見、気が散って叶わないと。
誘われるままに、誘った人の横を歩く。気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。桜は満開から散り始め、盛りを迎えようとする濃桜色の花は八重桜だった。
街路灯の白い灯りに照らされて、八重桜は青味を帯びて見えている。青白く光る花の下にいる人、その肌は陶器のように見えていた。
「夜は花が近くていい。邪魔も入らないし、じっくりと味わうことができる」
その人はそういって薄い笑いをこぼした。
春はもはや終わろうとしていて、日中は汗ばむこともある、そんな季節だ。なのに、つと背中に冷たいものが走る。それは怖れか、それとも「予感」なのか。
桜の精を喰らう鬼が、昔はいたのだという。それは平安の都が色鮮やかな頃のお伽噺。
その末裔が今もいるのだという噂話を、その人に確かめようとして、思い留まる。私たちの横を、蒼い風が吹きすぎていった。
— 完 —
470字
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