久し振りにモカソフトを【シロクマ文芸部:お題「コーヒーに」】
小牧さん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
(761字)
コーヒーにミルクを入れる。ただそれだけのために、こんな遠出をすることになるなんて。待ち望んだ休み、待ち構えるように仰せつかった任務に、そっと溜息を付いた。
🎶あなたは忘れたのかしら~🎶
どこかで聴いたことのあるメロディ、それを鼻歌で歌う君。少々わざとらしいんだが、そう声を掛けようとした俺の気持ちを見透かして、君は歌う唇を語る形に変えた。
「前に言ったじゃない。はじめてのデートを忘れたのか?って」
「分かっているよ、忘れるわけないじゃないか。この車がどこへ向かっているか、分かっているだろう?」
俺の言葉に君が嬉しそうに頷いたとき、カーナビが【目的地まであと3キロ】の表示を示す文字列を映し出した。
「これは食っとかないとな、やっぱり」
この牧場は、避暑で有名な高原にある。名物のひとつはモカソフト。甘い香りのコーヒー豆から抽出したコーヒー液に、フレッシュミルクを混ぜ、絞り出されるソフトクリームは、猛暑が過ぎ秋になっても、途切れることのない行列が続くほどの人気だ。
「コーヒーに入れるミルクを買うだけだって言ってたのは、どこのどなただったかしら?」
言い訳のようにつぶやきながら、モカソフトをばくつく俺を見て、君はそう言って笑った。
牛乳瓶は見た目よりも重い。俺が持つからと何度声をかけても「今日は私が持ちたいの」と言ってきかない君。その顔が少し赤らんでいるけれど、本当に大丈夫なのか。
「いいのよ。だって、これは幸せの重みなんだから」
そう言って笑う顔が本当に綺麗で幸せそうだったから、まあいいかと思って、俺も笑う。
久し振りで相変わらずで。
掛け替えのないコーヒーのお供。
それが、高原牛乳だ。俺たち二人にとっては。
「今日は私がカフェオレを淹れるわ。あなたはカップの用意をお願いね」
笑顔と一緒に、次の指令が飛んでくる。昼下がりの日差しのように。
— Fin —
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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©2023-2025 Harunaga Mutsuki


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