摺師の願い「毎週ショートショートnote:お題【骨折祈願】」
たらはさん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
江戸の町に、一人の摺師がいた。浮世絵師ならば後世に名を残しただろうが、腕前が評判を呼んでいた彼であっても、職人の名は今では時の流れに流されて、誰もそれを知らない。
摺師が所属した工房の名は記録されている。数多くある版画の中でもその工房が手掛けたものは色が1段と美しく、並び立つ美の中でひときわ輝くものが、彼が刷り上げた絵だった。
「こちとら商売でやってんだ。お前さんのこだわりも分からんじゃねぇが、ちょいと少し早く仕上げて貰えんかねぇ」
地本問屋の主が、一人の摺師に苦笑いしながら納期の催促をすると、彼は決まってこう答えた。
「てやんでぃ、べらぼうめ!半端な摺りなんぞするぐれぇなら、俺ぁこの腕を折るぜ」と。
21世紀、青が映える浮世絵の、その色をジャパンブルーと呼ぶことがある。有名な絵師や愛好家を魅了したその色は、萌葱色、草色、木賊色などと呼ばれる。
それを刷り上げた男の名は「骨」だったと記した和装本が、袋小路のそのまた奥でひっそりと店を開く古書店の棚に眠っている。骨が摺りに込めた情熱と願い、祈りが記されているという。
記された文字、その真偽のほどは誰も知らない。
(499字)
よろしくお願い申し上げます。
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