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アイスクリームは、ふたり分。

わが子から受ける影響って、ものすごく大きい。幼少期から大人になるまでのあいだに、少しずつ作られてきた頑固な価値観ですら、一瞬で溶かしてしまう。


親だからって、我慢ばかりしなくていいんだよ。
もっと毎日を楽しんでいいんだよ。


今では10歳になる娘が、まだ小さかったときに教えてくれたのは、「人生の味わい方」だった。

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物心ついた頃から、自分の母親に何度も聞かされてきたエピソードがある。それは、私の祖母と母の話だった。

まだ子どもだった母とその兄弟が、自販機を見つけてオレンジジュースをせがんだとき、祖母は笑顔で買ってくれたそうだ。けれども節約のためか、祖母は自分の分は買わなかったらしい。そのエピソードを話し終えると、母はいつも決まって言う。

「親になったら、子どものために自分を犠牲にするのが当たり前なの。それが親ってものなのよ」と。


このオレンジジュースのエピソードは、大人になってからも私の心にベタベタと、まとわりついていた。子どものために親は我慢するもの――やがてそれは、いつの間にか私のなかで、「親になったら自分の楽しみは諦めなければならない」という、極端な考えに変換されていった。


あれはまだ、娘が2歳か3歳くらいの頃だったと思う。ふたりでショッピングモールにでかけたときのことだ。ベビーカーや抱っこ紐を使わずにひとりで歩けるようになったとはいえ、まだイヤイヤ期は終わっていない。いつ機嫌が悪くなるか予想できない娘と買い物をするのは、なかなかハードだった。

100均や子ども用品店を何軒もまわり歩き疲れたため、フードコートに入っている「サーティワン」のアイスクリームを食べて休憩することに。ピカピカに磨かれたガラスのショーケースの中には、色とりどりのアイスクリームが、絵の具のパレットのように並んでいた。見ているだけで何だか楽しい。

私は迷うことなく、娘が選んだストロベリーのアイスだけ注文し、ふたりで席に着いた。母から繰り返し聞いたオレンジジュースのエピソードの教訓に加え、自身の離婚も決まっており、節約のために自分は我慢するのが当たり前だったのだ。とはいえ、私だってたくさん歩いてヘトヘトだ。正直に言うと、自分もアイスクリームを食べたい。けれども、そんな気持ちより「親として子どものために我慢できた」という誇らしさのほうが圧倒的に勝っていた。

私の横で、ストロベリーアイスを食べはじめる娘。お気に入りのフレーバーのはずなのに、何だか元気がないように見えるのは気のせいだろうか。心配になって「どうしたの?」とたずねる。すると、「ママと一緒にアイス食べたかった……」とつぶやいた。

その言葉を聞いた瞬間、はっとした。子どもだった頃の自分を思い出したのだ。いつも私のために小さな我慢を重ねる母を見て、「私のせいでお母さんは楽しめていないのかもしれない」と、苦しい気持ちを感じていたことを。

自分が親になってから「子どもが残すかもしれない」という理由で、ジュースやソフトクリームを、わが子の分だけ買う機会が増えた。娘が食べる姿を眺めているときの私は、きっと眉間にしわを寄せているに違いない。そして、ひとり分しか買わないときに限って娘は完食し、こっちには回ってこないものだ。

そうか。親が「子どものために」と我慢したところで、本人はうれしくないのかもしれない。それなら最初から、一緒にアイスクリームを選んで、ひとくち交換して、感想を言い合って。同じ瞬間に楽しみを共有するほうが断然おいしいし、しあわせなはずだよね。

🍦🍦🍦


娘のおかげで、幼い頃の自分とわが子の気持ちに気付けた。「やっぱりママもアイス食べちゃおう」と声に出して、娘と手をつなぐ。スキップまではいかないけれど、明らかに先ほどよりも軽やかな足どりで、再びカラフルなショーケースに向かった。2段あるアイスクリームとフレーバーの説明書きを、端から順に目で追っていく。大好きなチョコ系もいいけれど、期間限定も捨てがたい……。頭の中で、気になったフレーバーを絞り込んでいると、「ママはどれにするの?あとでひとくち、ちょうだいね」と、隣から弾んだ声が聞こえてきた。


再び席に戻り、それぞれ自分で選んだアイスクリームを口に運ぶ。「こうやってママと一緒にアイス食べるの久しぶりだね」と言う娘。いつの間にか笑顔が戻っていた。やっぱり、アイスクリームも笑顔も、ふたり分あったほうがうれしい。


人生において大切なことを、小さなわが子から教えてもらった。




※こちらのエッセイは、新刊ZINE『「おいしい」の向こうがわ』にも収録しています。

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春野なほ|エッセイスト|ライター|兵庫県 この記事を読んで、少しでも心が動いたら、ぜひ応援お願いします🙏いただいたチップは、より厚み・深みのある文章を書くために本の購入に使わせていただきます📚️