地獄の沙汰はあなた次第 第五話
あちらこちらで罪人が罰を受け、悲鳴が幾度となく聞こえてくる。罪の重さによって罰の内容も変わるらしいけれど、これだと受ける責め苦の種類が違うだけで、辛さや苦しさ自体はどこも大差がないように感じる。
いくら罪人とはいえ、自分と同じ人間が殺される様は精神衛生上よろしくなく、努めて気にしないようにしているけれど、どうしても視界の中に入ってしまう。
彼ら彼女らは、いったいどんな罪を犯したのだろうか。窃盗か、姦淫か、暴力か、……あるいは殺生か。中には見た目だけだと到底そんなことはしそうにない人だっている。
その中に……何人か見知った人物を発見してしまった。髪を短く切りそろえた男性だ。
「ねえ、あの人ってなんでここにいるの?」
「たしか彼は罪のない人からお金をだまし取ったのですよ。その額は一千万にも及びます」
「そんな……。じゃあ、あの時のって」
男性と出会ったのは、五年前の春。買い物に行く途中に声をかけられた。遠くから友人を訪ねてやってきたけれど、不在だったと。それで泊めてもらうはずで、それもできずに途方に暮れていたと。だから、帰りの電車賃を貸してくれとお願いされ、素直に二千円を渡したのだ。困っているなら助けないと、そう思って。けど、それも詐欺だったのだろう。
それだけならまだよかったのかもしれない。騙されて悲しいで終わったのかもしれない。
「……じゃあ、あの人は?」
次いで指さしたのは、七十歳くらいの老婆だ。
「彼女は犯した罪がひどかったのでよく覚えてます。殺人犯です。病院で看護師を一人殺したんですよ」
頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。四年前の登校中にうずくまっている彼女と遭遇して、病院まで背負って行ったのを覚えている。お礼を言われてうれしくなったことも。偶然の一致にしてはできすぎている。もしや、彼女はあの時の病院で人を殺したのではないだろうか……。
それから、一度会ったことのある人間を見つけては、魔美になぜ地獄に落ちたのかを尋ねた。詐欺、窃盗、暴行、殺人。
「それがどうかしたのですか?」
「私、生きてた頃にあの人たちを助けたことがある。けど、その人たちは犯罪を犯してて……」
足元にあったものが崩れて、奈落の底に落ちていくような感覚を覚えた。全身が冷たくなって、ナイフのような鋭い罪悪感が心に突き刺さる。他人を助けていたはずなのに、実際は真逆だ。
――他人を不幸にしている。
知らなかったのだからしょうがない、では済まされない。自分は何のために人助けをしていたのだろう? 誰かの笑顔のため? 誰かを幸せにするため? 立派な人間になるため? 両親との誓いを果たすため?
何もできていないじゃないか。人助けをして、その結果別の誰かが不幸になるのなら何の意味もない。他人に善意を向けて、別の誰かに悪意が降りかかるなら何の意味もない。
人を助けて、自分が満足して、その先を考えたことがなかった。とにかく人を助ければそれでいいと思っていた。でも、それは間違いだ。
両親との誓いを、ずっと守ってきたその誓いを、否定されたような気がして、胸の奥を痛切な悲しみが満たす。
「ばかみたい。何にも疑わないで、何にも考えないで、困ってるからって手当たり次第に人を助けて、それで、人を不幸にして……」
「それはあなたのせいじゃ」
「ごめん、私のことは気にしないで。それより早くいこ」
気づかわし気な表情で弁護してくれようとしていた魔美の言葉をさえぎって、心菜はいつの間にかこぼれていた涙を拭って、無理に笑顔を作る。取れかけたアセビのヘアピンが、風に揺れていた。
